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『魔王を討伐するハズの勇者(オレ)が婿入りして次期魔王筆頭候補になってしまった訳で』   作者: 御音人 真理
第1章

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第1章 その8 風雲、魔王城・4

 ローはかなり時間が掛かりますよと言い置いた上で、冒険者一行が軟禁された部屋を後にした。

 兵舎近くの城の外郭に有る部屋から、ローに与えられた執務室の有る城の外宮の端までは、堀と跳ね橋をいったん越える必要がある。

 堅牢無比。何度かの外敵と内乱をくぐり抜けてきた魔王城は事実、不落のはずだ。


 しかし、何の噂や報告もなく突然捕らえられたという冒険者一行のことは何処か不気味に感じた。

 あまつさえ、軍政や諜報を司る将軍・セリムの直命で尋問官を仰せつかるとは何か裏が有るのではと勘繰りたくなる。

 ローは目立たない、記憶力がいいだけの文官として知られている。会議などでは発声での意思疎通が困難なギーという速記者を取らせ、正式な書類は別の者に口述筆記させる、他人の手を煩わせる低能だと思われていた。

 だが、ローには決して他人には知られてならない秘密の職務が課せられていた。それは魔王軍の内部に潜む不満分子をあぶり出す諜報員としての役目だ。

 種族的特徴として例外的に夜目が利く上に、優れた聴覚を持つ。ローの場合は特に耳が良く、話す相手の心音の変化を捉えて相手の嘘をある程度見抜けた。

 それは読心術の様な高度なものではないが、話す内容と本心が乖離していないかどうかを見分ける事はできた。

 その数は多くは無かったが、そうやって「不審人物」として報告された者は降格処分を受けたり、ある者はいつの間にか地位を追われて魔王城から消えていった。

 結果の如何に関わらず、不審な人物がいれば報告する。

 それがローの仕事だった。


 通常、魔王軍に捕らえられた敵対者は、専門の『尋問官』が取調べを行う。

 暴力を使う者、特殊な精神攻撃を使う者、あるいは金品などの誘惑で心を操る者など様々だが、彼らはある意味『拷問吏』と同義の立場であった。


 だが今回は彼らではなく、別の能力を持つローが尋問官に選ばれた。

 表向きの理由は「相手を怯えさせない容姿の者で、丁寧な言葉づかいが出来る文官」という基準で選ばれたとされている。

 腕っぷしが尊ばれる気風の強い魔王軍では、軟弱者にお似合いな仕事だと笑うものが大半だろう。

 だが、命を下したセリム将軍やさらに上の魔王様の思惑は、冒険者たちにそれと気付かれる事無く聞き出した情報に嘘が無いかを調べさせることこそが真意で有るに違いない。

 冒険者達を実際に尋問してそれを確信したローは自身の執務室に急ぎ戻ると早速仕事に取り掛かった。人払いをした上でフクロウの翼を拙い魔法でペンが握れる腕の形に変化させ、正式な公文書としての報告書を一通と、私的な所感を含む秘密文章の一通を書き上げて、直接セリム将軍にそれらを届けた。



 セリムは配下から届けられた書類を、余人を排した後に一読して吹き出した。

 書類に添えられた人別帖には、セリムの知る人物に酷似した者が複数含まていた。まさかこれはと報告書を読み進めた上で秘密文章を検めたことで疑義は確信に変わった。


 「これをお読みになれば魔王様もさぞお喜びになるだろう」


 謹厳実直で知られるセリムはひとしきり笑うと、改めてその仮面の表情を面に貼り付けた。

 これから起こるちょっとした喜劇は、決して魔王軍全体に知られる訳には行かない。少なくとも、魔王様が事実を公表されるまでは。

 もたらされた書類を携えつつ、浮き立ちそうになる気分を抑え込んで普段と変わらぬ歩調で魔王様の執務室へと向かった。

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