第1章 その7 風雲、魔王城・3
パーティーの六人と、入口を封鎖する魔王軍の警備兵が二人。これだけの人数が入れば些か以上に狭い部屋に押し込められておよそ半時。蛙を擬人化した様な部下を連れたフクロウの頭を持つ魔物の文官が尋問官として現れた。
「手はこの様なので、書き物には向いておりません。故に、記録は書記に書かせております」
示されたそれは、小さなトゲのような爪が生えたフクロウのそれであった。
「どうぞお席にと申し上げたいが、テーブル一つに椅子が四つ。ですので、そちらの代表と事情を伺う方には入れ替わりで席について頂く。それで構わないですかな?」
「こちは構わない」
存外に丁寧な扱いに、レオンは毒気を抜かれつつも頷いてみせた。
「申し遅れましたが、私はヴァ・ロー。ローとお呼び下さい。連れはギー。人語の発声は不得手ですが、速記の達人ですのでお気になさらず」
「ゲェー」
カエルの魔族は一言発すると軽く会釈をしてみせた。
「それでは、先ずは代表者の方はテーブルの方へ」
ローは片方の翼を広げて粗末な応接セットを指し示した。
ローは冒険者パーティーの各個人の名前を聞き取って、部下の書記に一通り人別帖の様な物を作成させた。
「それではいくつか質問をさせていただきましょう。実のところ、私は魔王領にあなた達が侵入していう情報に接していない。機密事項として伏せられているのか、それともこちらの監視網で捉えることが出来なかったのかは知る由もありませんがね」
ローは、よく動く首を使って竦めてみせた。
「話せる範囲で構いませんので、説明頂ける方はお席へどうぞ」
「私が話すわ」
動き出そうとしたバランを制して、マリーがローの前に座った。
「古い文献には『嘆きの谷』を通過した冒険者の記録が散見されているわ。それを調べ上げて、谷を突破した。ここまではいいかしら」
「確かに、我々側の記録でも『嘆きの谷』を越えてきたであろう冒険者パーティーの記録は残されていたはず。それらの者は、谷と魔王城の間に幾つか有る警戒線で発見されたと記憶している」
「そして私は『魔王城の城内につながる転移門の秘密を偶然』知っていたの。だから魔王軍の警戒線に引っかかる前に、その転移門の一つを見つけ出して作動させてみたわ」
「にわかには信じ難いですが、確かにあなた方は城内にある転移門に現れた。その様に報告書に記しておきます」
ローは、人間だったらネジ切れるのではないかという角度で首を左右に振った。
「では次の質問です。何故あなた方は魔王領を目指したのですか?失礼ですが、あなた方ではとてもとても魔王様には敵わないとお見受けしますが」
「あぁー、それなのですが」
レオンは少し気恥ずかしそうに頬を掻いてみせた。
「魔王どころか、魔王軍の小部隊とでも正面から戦う気はなかったのですよ」
「なんとっ!」
ローは眼を限界まで見開いた。
「少なくとも、俺はそういう方針で行動いていた」
「信じられませんっ!!」
全身の羽を逆立てたローの体は、それまでの倍は膨らんでいた。
「今回の魔王領行きの目的は、その発案者から直接聞いてほしい」
ファーレン、リッテル、ナーガはそうだと言うように頭を縦に振り、バランは仕方がないと首を横に振る。
「私は、魔王に会って話をする必要があった。だから皆んなには本心を隠して此処まで付いてきてもらったの。そういう訳だから私だけでも魔王の前まで連れて行ってもらえるかな?」
「・・・その様な判断は、私の分を越えています」
ローは速記された羊皮紙に記載漏れが無いことを確認し、おそらくは憮然とした表情でマリーを睨みつけた。




