第1章 その3 魔族の村・3
「さっきの人、随分と頭がいいわよ」
先頭を切って進むマリーがおもむろに説明を始めた。
「外から誰かがやって来て、自分たちが知らない間に消えていた。こういう状況なら、何処の誰からも村人が罰せられる事が無いでしょうからね」
「あっ」
若干一名、状況を把握仕切れていなかった人物が思わず声を上げた。それが誰であるかは言わずもながである。
「あの人、自分の名前も立場も結局言わなかったでしょ?つまり、私たちの口からも余計な情報が何処にも伝わらないように予防線を張っていたの。実際問題、あなたたちは村の名前すら知らないわけだし」
「だが少なくともお前さんは、この村の存在は知っていたわけだ」
脳筋な人物の事は横に置いておき、ファーレンが確認するように聞いてみる。
「えぇ知っていたわ。なぜ知っているのかは、女の子の秘密という事で今は勘弁して」
ファーレンとリッテルが思わず視線を交わしたのは、『コイツが女の子って玉なのか』と言いたかったからに違いない。
「さっき聞いた『祀っていない祠』にしても、どうやら彼らの普段の生活圏の外にあるみたいだな」
まだ見えない目的地について、レオンは周辺を見回して確認した。監視付きのパーティー一行は、丘の外周の四分の一も歩ききっていない。
「そうみたいね。流石に祠の位置までは私も知らなかったから、ああやって村人に接触を取るしか無かったの。実際問題、私たちだけで祠を探そうとしたら無駄な時間を費やした上に、何かの拍子で村人に見つかって魔王軍に通報されていたかも知れない」
だから、少しみんなには怖い思いをさせてしまったわと、しおらしくみんなに謝ってみせた。
「最小の危機で最大の効果か。お前さんも少しはレオンの思考様式に染まった訳だな」
ファーレンは少しばかりの苦笑を浮かべた。
「それよりも私は、今の状況に居心地が悪いですね」
五感の鋭いリッテルは、つかず離れずの距離を保って後ろを付いてくる牛頭の魔族の二人が気になって仕方ないようだ。
「あなただって、自分たちの生活圏や大事な場所を他所様に土足で踏み荒らされたくは無いはずよ。今の私たちは平穏を乱す無粋な部外者なのだから、これぐらいの対応はまだ穏便な方だと思って頂戴」
苦虫を噛み潰したようの年長者を、最年少であるマリーが嗜めてみせた。
もっとも、今の状況は私のわがままから始まったことだからとマリーは重ねて謝ってみせるのだった。
村を出て、おおよそ四半刻ほど掛かって件の祠が見つかった。
おおよその方向だけを教えられただけだからこれだけの時間が掛かったのだが、手がかりがない状態で闇雲に探していたら見つけ出すのも出来なかったのでは無いかという小ささだった。
「ここからは私の仕事ですね」
バランは見つかった祠を前にしてパーティーメンバーを見回した。
「まずは祠の構造を調べてトラップの類が無いかの確認を取ります。それが終わったら、秘密の出入り口としての機能が生きているかを調べます。そこまで確認が取れたら実際に移動を始めると言う事でよろしいですね」
「お願いするわ」
マリーが頭を振って了承してみせた。
「では」
祠の入口に、その巨躯をすぼめながらバランは入っていった。
中からは何かを見つける度に、「なるほど」「すばらしい」などと独り言とは思えない大きさで声が漏れてくる。
「なんだか楽しそうだな。おい」
「実際に楽しいのでしょう。こういった物を調べるのは彼にとっても初めてのことでしょうから」
ファーレンとマリーが駄弁っている間に、バランがひょっこりと祠の入口から頭を出してきた。
「祠の奥に、隠し扉と小部屋を見つけました。広さは私たち全員が入っても少し余裕がある程度です」
頭に付いた蜘蛛の巣を払いながら報告をしてきた。
「小部屋については、これから調べますのでもう少し時間を下さい」
それだけ言うと、バランはそそくさと祠の奥に引っ込んだ。
「有望そうだな」
「そう願いたいわ」
「いい加減、おれは飽きてきたぞ〜」
レオンとマリーの会話に、ナーガが茶々を入れる。
「この人は本当に緊張感が足りませんね」
気苦労の多いリッテルは、ため息をついてみせた。




