第1章 その1 魔族の村・1
「村だ」
「村だよな」
「どう見ても村ですよね」
レオン、ファーレン、リッテルの、三者三様の反応がこれである。
あれから十日と三日、『嘆きの谷』を抜けてから丸十五日目に辿り着いたのが小さな寒村だ。
荒野から草原へ、そしてまばらな林を抜けた先にそれはあった。
その間に出くわしたのは単独の中級魔物に小集団の下級魔物のみ。倒せない敵ではないが、残した死体が別の魔物を引き寄せる可能性が有ったのであえて戦闘は避けてきた。
「ここが目的地かい?」
皆を代表して、ファーレンがマリーへと問う。
「いいえ。この村は目的地へ至るための、いくつか有る近道への入口がある場所の一つでしかないわ」
マリーは軽く首を横に振った。
「見ての通り、ここは魔族の村。だけれども勘違いしないで。私たちはここを武力で切り抜ける必要は無いのよ」
「どういう事だ」
いざとなれば、弓を射掛ける気満々だったリッテルが訝しげに問いを発した。
「言ったでしょう。近道への入口があるって」
マリーはなだめるように説明する。
「先ずは村人に会って、近道への入口に行く許可を取るの。その後は入口が使えるかを調べなければならない。使えたらそのまま目的地へ、使えなければ別の入口があるところまで移動することになるわ」
「何だか面倒だな」
普段は回りの物事に我関せずのナーガが口を挟んでくる。
「入口は、反対側から無効化されている可能性も捨てきれないのよ。後、村人たちも秘密の出入り口があることは知っていても、その先に何があるのかは知らないだろうし、使い方も知らないはず。だから、村を襲って無理やり入口を使うなんて出来ないのよ」
「ずいぶんと詳しいんだな」
「それに関しては、私の調査能力を信じて下さい」
ファーレンの問いを、バランが遮った。
「それともう一つ。ここはとっくに魔王軍の支配圏にはいっているということ。騒動を起こして、地の果てまで魔王軍に追いかけ回されたい人がこの中にいるのかしら?」
マリーは疑問形を使って反論をピシャリと封じ込めた。
「そういう訳だから、私が行って村人を説得してくるわ。バラン、手伝って下さい」
「人使いが荒いですなー」
まるでちょっと散歩に行ってくるという様な気軽さで二人は踵を返そうとする。
「あー、マリーにバラン」
意見をのべる間もなく事の推移を見せたれていたレオンがようやく口を挟んだ。
「十分に気をつけて」
「わかっているわ」
「ご心配、痛み入ります」
レオンは、完全に状況に流されてしまっていた。
マリーとバランが村に入ると、ジリジリとヒリつく様な時間が流れ始めた。
「心配しても始まらん。息をひそめて待つしかあるまい」
自慢の戦鎚を軽く一振りした後、近くの倒木にどっかと腰をおろしたファーレン独りごちる。
「この場所からだと、私の弓でも村の入口が正確に狙えるギリギリの距離です。かといって、ここから先は村人に見つかる可能性があります。」
リッテルも、一度弓の調子をみた後は待ちの姿勢に徹した。
「騒ぎにならない限り、自慢の槍も出番が無い」
後は知らんとでも言うかのように、手近な木に槍を立て掛けたナーガは仰向けに寝転んでしまう。
「お前達、その態度は酷くはないか」
『知らん!』
気を揉んでいるレオンの言葉は、同じセリフで切って捨てられた。
「そこまで心配なら、ついて行けばよかろうに」
「ここまで優柔不断とは、全く持って信じられません」
「騒ぎというのは起こるときには起こる。もっとドッシリと構えられないもんかね」
三者三様、ここぞとばかりにレオンを扱き下ろす。
女性が側にいる手前、慎重に慎重を重ねて最善策を模索するレオンに対して言いたいことを言えなかった三人が、憂さを晴らすように責め立てる。
「慎重さはお前さんの長所であり欠点だ。いい加減それを自覚しろ」
「大胆な手腕で騒動を収める技量。これは私の認識が間違っていたようです」
「剣・弓・槍。どれも並以上に使えるが、突き抜けた技量じゃない。何か一つでも極めようという気概ってものは無いのかねぇ」
レオンにとっての苦行の時間は、魔族の村の入口にバランが戻ってくるまでのおよそ四半刻ほど続いた。




