第16話 ヒエヒエ・スペクター、溶けるか散るか
雪がちらつく氷の谷――
勇者は、パンを焼きながら進んでいた。
その前に現れたのは、
全身から霧のような冷気を漂わせる青白い影。
「……パンの匂いがするな……」
「私はヒエヒエ・スペクター。氷の谷の主にして、死者の囁きを聞く者……」
勇者は手を止めず、オーブンの温度を上げた。
「……冷たい相手には、焼きたてが要る。」
「……やかましい。」
ヒエヒエが手をかざすと、辺り一帯に白霧が広がる。
その霧は体を通り抜け、熱を奪い取っていく。
兵士A:「あ、あいつの霧……触れただけで体温が……!」
兵士B:「勇者様でも、これはマズいのでは……?」
兵士C:「……パンも凍ってない!?」
凍てつく空気が、勇者の携帯オーブンの熱源すら封じていく。
「これが私の“死の吐息”。お前の焼き技は、もう使えまい。」
「……なるほど。なら、これだ。」
勇者は背中の覆面布をめくり、
**巨大な“コロネ型バズーカ”**をゆっくりと構えた。
「これは……? パン……なのか?」
「《コロネバズーカ》。甘くて熱い、全てを溶かすパン兵器。」
ヒエヒエ:「ふん、そんなお菓子まがいの――」
\ドゴォォォォォン!!!!!/
圧縮された熱チョコ弾が炸裂。甘く灼熱な爆風が氷霧を切り裂き、ヒエヒエの本体を直撃する!
「ぐああああああ!? 熱ッ!? 甘ッ!? 甘熱ぅぅぅぅ!!!」
霧は完全に晴れ、谷にチョコの香りが立ち込める。
兵士:「……パンというか、デザート兵器じゃない?」
「いやそれでもパンで勝ってるから、もういいや……!」
勇者はバズーカをゆっくり背中に戻した。
「……パンは焼くだけじゃない。撃ってもいい。」
「パンの可能性広がりすぎィ!!
こうして――
氷の亡霊、ヒエヒエ・スペクターは、チョコと爆熱のパン理論で粉砕された。