第12話 パン嫌いの魔族領主
湿った沼地の奥にそびえる小さな城。
そこに住むのは、魔王軍の傘下にあるパン嫌いの魔族領主だった。
「パン勇者がこちらに向かっているだと? くだらん……あんな穀物の塊、見るのも嫌だ。」
部下が進言する。
「領主様、油断は禁物かと……」
「黙れ! パンなど戦いに何の意味もない!」
勇者が城門の前に立つ。
携帯オーブンを背負い、淡々と扉を叩く。
「パンを届けに来た。」
「戦いに来たんじゃないのか!?」
領主が憤怒の表情で現れる。
「貴様がパン勇者か……! くだらんパンごときで魔王軍に刃向かうとはな!」
勇者はオーブンを開け、焼きたてのベーグルを取り出す。
「ベーグルが一番合いそうな地域だ。」
「合うって何!? ここ沼地だぞ!!」
領主は杖を振り上げ、瘴気の魔法を放つ。
ゴオオオオオッ!!
黒い靄が勇者を包み込む――が。
勇者は一歩も動かず、焼きたてベーグルで靄をかき消した。
「……なんだと?」
「焼きたては瘴気に勝る。」
「そんなパン理論あるか!!」
勇者はベーグルを握り直し、領主に突進。
ドゴォォォォォン!!!
ベーグルの一撃で、領主の体が床にめり込む。
部下:「り、領主様が……パンで……!」
勇者は倒れた領主を見下ろし、一言。
「……焼き直したら少しは食えるか。」
「食おうとすんな!!」
戦いの後、勇者はオーブンを開き、特製の大型食パンを取り出した。
兵士:「……おい、それ何する気だ?」
「浄化だ。」
勇者は巨大な食パンを沼地に沈める。
ジュウウウウウ……!
パンが瘴気を吸収し、沼が澄んだ水へと変わっていく。
部下:「……え? 沼が……きれいになった?」
勇者:「パンは全てを吸う。」
「万能みたいに言うな!!」
こうして――
パン嫌いの魔族領主は、ベーグルの一撃で沈黙した。
沼地の町には、パンの香りだけが漂っていた。