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出会い、そしてきっかけ

4月某日。


今日から高校2年生となるが、そのような実感は全くと言っていいほどない。

散った桜で埋め尽くされたいつもの道を踏みつけながら学校へ向かう。


あくびが止まらない。

昨日は21時からずっと小説を読んでいた。

そろそろ寝ようと思い、次のキリの良いところで読むのをやめようとしたが、全くキリの良いところがなく、いつのまにか時計の針は1時を回っていた。


人類はそろそろこの現象に名前をつけるべきだと思う。

本屋に行った時、トイレに行きたくなる現象にすら名前があるのだから。


ふとスマホで時刻を確認する。

このペースで歩いていくと、ギリギリ間に合うか、遅刻かぐらいであるにも関わらず、僕は大して急ぐことはしない。


周りにも同じような人が数人いる。

だから安心できる。


僕は生粋の日本人のようだ。


桜でできた桃色の道は学校まで続いていた。


自分のクラスの教室に入ると同時にチャイムが鳴った。

なんとか遅刻は免れた。

僕は自分の席を確認し、その席に座る。

右隣の人はまだ来ていなく、空席であった。


新たな担任となる教師が入ってきた。


小野と名乗った後によろしくと淡々と挨拶したその教師は、左手をドアの方に向けた。


「早速だか、転校生を紹介する。」


そう告げられ、入ってきたのは、一目でわかるほど綺麗な黒く、長い髪をしながらその大和撫子の要素をぶち壊すほどの明るく活発な印象を与える笑顔を浮かべる少女であった。


「桜井 花です。よろしくお願いします。」


そんな春に産まれたと一瞬で理解できる名を名乗った彼女は、恐らく前の学校で超がつくほどの人気者であっただろう。


「それじゃ桜井の席はそこだな。」


そう言いながら、小野先生が指を差した場所は僕の隣ではなかった。


五十音順で並んでいる今の状態では、僕と彼女には、そこそこの間がある。


彼女は周りの生徒の視線を集めながら、席に着く。


「可愛くね?」 


僕の唯一の知り合いである川崎がそう話しかけてきた。


容姿端麗であると思う。

だが、彼女と僕の性格はまるで正反対のようだ。

バンドであったら即刻解散するであろう。


「じゃあ、次は全員の自己紹介の時間だ。

出席番号一番の、荒井から頼む。」


こういうとき、僕の苗字が石川であることを恨む。

いや、1番からやるという風潮を恨むべきなのだろうか。


僕は荒井くんの自己紹介を全く聞かずに、何をいうかを必死に考えた。


***


全員の自己紹介が終わり、委員会決めが始まった。

図書委員会を決めるときに、手を挙げたのは僕だけであった。

もう1人は女子でなければならない。

だが、誰も手をあげない。


心が痛くなった。

普段1人でいるのは苦ではないが、こういうときは何故か心に重いものが、のしかかる感覚に見舞われる。


小野先生が何か言おうとした瞬間、活発そうな声が響いた。


「私がやります!」


その声の主は桜井であった。


彼女は気遣いもできるらしい。


川崎が羨ましそうな目でこちらを見る。


しかし、恐らく僕は苦い顔をしていたのだろう。


川崎は信じられないというような表情に変わった。


「じゃあ、図書委員会は石川 広人と桜井 花の2人で。」


小野先生がそう言うと、彼女は僕の方に顔を向け、会釈をした。


それに倣って、僕は無表情を意識しながら会釈を返した。


***


2年生になってから、1ヶ月が過ぎた。

僕と桜井は、委員会に関することしか話すことはない。


「たいして仲良くなれないのがお前らしいわ」


そう笑いながら、川崎は部活へ行く準備をしている。


明るい性格と優れた容姿で、クラスの中心人物への階段を猛ダッシュで駆け上がった彼女と、1

段目で限界を感じている僕が、仲良くなれるはずがない。


「そういうお前も僕と変わらないだろ」


僕のこの言葉で、川崎は深いダメージを負ったらしい。


僕と一緒がそんなに嫌か。


そう心で思いながら、教室を出る。


桃色からアスファルトの黒色へと変わった道を歩き、家へと向かう。


もうあと半分くらいで家に着きそうな時、桜井が立ち入り禁止の場所へ足を踏み入れているのが見えた。


僕の心に好奇心が芽生えた。

彼女が何をするのかが気になり、彼女の後をつけた。


だが、意外と尾行というのは難しいらしい。

あっけなく彼女に見つかった。


好奇心が枯れ、羞恥心が顔を出す。


しかし、彼女は怒気どころか、不快感すら抱いていないような声で、


「ついてきて!」


と言い、笑顔を見せた。


彼女についていくと、そこには広大な緑の芝の公園があった。


こんな場所があったのかと僕が驚いていると、彼女は突然、芝に横たわり空を眺めた。


「綺麗な夕焼けだねー。このグラデーションはやっぱりどんな絵よりも綺麗だなー。

ほら、石川くんも一緒に見ようよ。」


瞬きをせずに言ったその言葉に従って良いのか逡巡したが、寝転ぶ彼女の気持ちよさそうな顔は僕が横になるのには十分に魅力的だった。


僕は夕焼けを眺める。


子供の時はこの夕焼けによく目を奪われていた。しかし、もう16年も生きているのだ。

もう感動もしないし、心が安らいだりすることもない。


だが、どうやら彼女はまだ少女の心を忘れてはいないようだ。


彼女が空へと手を伸ばす。

そして、急に自分語りを始める。


「私小さい頃ここら辺に住んでたの。この場所は当時、よくお母さんと遊びに来てた所なんだ。」


「親子揃って立入禁止区域に入ってたの?」


思ったことが、口から出てしまった。

その疑問に彼女は慌てて、答えた。


「昔は普通に入れたの!私が引っ越した後に立ち入り禁止になったんだね。」


その言葉の後、僕らの間に会話はなくなった。


少しの気まずさを感じた。


そろそろ帰ろうかと、僕が立ち上がった時、彼女は僕に一瞥もせず、オレンジの夕焼けを見つめながら言った。


「私、晴れた日には学校帰りにここで、空を眺めるの。石川くんもたまにでいいからまた来てよ。」


僕は返事に困った。

正直に言って、この空に感動する要素があるとは思えない。

しかし、このお誘いを断り、気まずい雰囲気になるのは今後の委員会活動にも影響するため、避けたかった。


「たまにね。」


そう言って、彼女を残し、再び帰路についた。



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