シルヴィアの仲裁
リューナからの返事が、こちらの予感を裏付けるようなものであり、頭が痛くなるのを感じる。
いや待って。まだ、このクローゼットを埋め尽くしている服たちがラウルのものであると明言された訳ではないのだ。
もしかしたら私には想像も及ばないような理由でこれらはここにあるのかもしれない……いや、どんな理由だそれは……
我ながら無茶な理由付けをしようとしているのは自覚しているが、そうでもしないとラウルがこれに袖を通しているかもしれないという想像が浮かんできてしまうので、無理矢理自分を納得させようとする。
考えただけで怖気が走るが、何かの勘違いかもしれない。そう言い聞かせようとしていると、
「あれ? まだ着替えてる感じか?」
「……様子を見ようと部屋に侵入するつもりでしたら、警邏隊に突き出します」
「流石にそこまではしねぇっての」
部屋の外からラウルの声が聞こえてきて、思わず身体を強張らせてしまう。
「お嬢様、一度ご本人にも確認してみては?」
「そ、そうね、私の早とちりという可能性もある訳だし」
過去の経験上、思い込みで暴走しまったことで痛い目にあったことは数知れずーーその反省を活かし、決めつけるのは良くないと自制心を働かせていると、
「う〜ん、俺のチョイスが気に入らねぇのかね?」
などと聞こえてきて、シルヴィアが額に手を当てて唸り、こちらは血の気が引く感覚に襲われる。
やはり――
「――女装癖の変態!!」
「うぉ!? もしかしなくてもそれ俺のこと言ってる!?」
扉越しの罵声にラウルが驚いているようだったが、動揺という点ではこちらの方が大きいだろう。
変わり者だが、仕事に対しては真面目に取り組むのだろうと思っていたのに、依頼のためという名目で自分が来たことのある女物の服を着させようだなんて!
「待て待て待て! 何を勘違いしてるか知らねぇが、俺が女装癖? 気持ち悪い想像しないでくれますぅ?」
という抗議の声が上がり、彼が女装という性癖を持ち合わせていないという供述がなされた訳だが、
「じゃあ、この服は誰のものなのよ?」
「あー、そいつはちょいと秘密というか……けど、安心してくれ」
こちらの追求に歯切れが悪くなるが、こちらの誤解を解くためにかラウルが落ち着いた声音で話し掛けてくる。
「そこにある服を俺が着たことは一切ないし、なんなら女性しか着てないって保証する」
「そう、なのね……」
真剣な声が、それが真実だと思わせくれる。つまり、彼の言葉をその通りに受け取るなら、
「――盗品ってことなのね!?」
「あれぇ!? なんでそうなんの!?」
だってそうだろう。
彼の言葉通り、これらが女性しか着たことがないと言うのであれば、サイズや先のリューナの言と照らし合わせると、盗んだものという結論に辿り着くはずだ。
なのに、この男はこちらの誤解だと言い募ってくる。
――今からでも依頼をキャンセルしようかしら!
行き詰まっていたところに、力になってくれることが嬉しく感じていたが、流石にこのような変態にお願いするのは願い下げーー
「お嬢様、落ち着いてください」
「でも――」
今まで静観していたシルヴィアが、やれやれと言った様子で声を掛けてくる。
その様子だけで、自分が暴走しているのだと突きつけられたように感じられ、そのことで更に反発しそうになるが、
「お嬢様」
こちらを宥め落ち着かせようとする静かな呼び掛けに、思わず言葉を飲み込む。
数年前からとはいえ、日頃からお世話になっている彼女からの言葉というのは、中々抗いようがない。
ラウルに向けて吐き捨てそうになった言葉の数々をどうにか抑え込んでいると、その様子を見たシルヴィアが一歩扉へと近付き、
「色々と疑わしいところがありますが、こちらの衣類は女装のために収集されたり、盗んだりしたものではない、ということで間違いないですか――リューナ嬢」
「このバカを庇う気はないですが……そこは安心していただけたらと」
「あのぉ、何で本人に聞かねぇの?」
「容疑者――それ以外に理由が必要?」
部屋の外で兄妹――主にラウルがだが、やいのやいのと騒いでいるのが聞こえてくる。
その様子に苦笑をこぼしていたシルヴィアが徐にこちらへと振り返り、
「とりあえず、そういうことらしいですね」
「……仕方ないわね」
釈然としないものがあるが、仲裁に入ってくれたシルヴィアの顔を立てる意味でも、リューナの証言を信じることにする。
思わぬことに時間を掛けてしまったので、手早く着替えを選ぶことにする。
種類が豊富で、普段着ることがないようなものばかりだったので、目移りしてしまいそうになるが何着目かで手にした亜麻色を基調としたチェニックワンピースと呼ばれるものに目が留まる。
庶民が着るものの良し悪しは分からないので、目に付いたこれに決めてしまおう。




