もう一つの依頼
「それじゃギド爺は職人連中から情報収集頼むわ。それで、リューの方はーーいつも通りでよろしくな」
依頼を受けると決まるや否や、ラウルがギドラスとリューナへと次々指示を出していく。
「俺の方は、っと……そろそろ解いてくれね?」
「……仕方ないですね」
リューナが至極面倒臭そうに立ち上がると壁際の棚からナイフを取り出し、それを無造作に振るう。すると、ラウルを宙に留めていた張力が失われ、彼の身が成す術もなく床へと衝突する。
「あふんっ! ……なぁ、もうちょっと優しくして欲しいんですけどぉ?」
「十分優しくしてますが?」
すげなく切り捨てられたラウルが文句を垂れ流している間も、リューナが手際良く縄を引き裂いていき、ようやくラウルが自由な身になったところで、
「うっし! じゃあ、改めて依頼内容について詰めていきたいんだが」
「ーーっ!」
軽い身のこなしで立ち上がったラウルが私とシルヴィアへと向き直ってくるが、こちらとしては直視することは出来ず、顔ごと視線を明後日の方向へと逸らす。
「うん?」
「……いい加減服を着たらどうですか」
間の抜けた声を漏らしたラウルに対して、目を逸らした私に代わり、シルヴィアが嘆息混じりに指摘してくれる。
ラウルの格好は先程の騒ぎから変わらず、局所を覆う下着のみの姿だったのだ。
◆
「いやぁ、悪い悪い」
リューナに部屋の外へと蹴り飛ばされたラウルが身嗜みを整えて戻ってくると、軽い調子で謝ってきたので、シルヴィアがやれやれといった様子で呆れている。
しかし、それを気にするような素振りを見せずにこちらの対面へと座り直す。端に追いやられたリューナが僅かに眉間に皺を寄せて睨んでいるが、
「改めて、今回の依頼について確認させてもらうぜ」
と、マイペースに話を進めてくる。
だが、こちらとしてはまだ伝えきれていないことがあったので、それを伝えるために一度待ってもらうように手で制する。
「悪いけど、もう一つお願いしたいことがあるのだけど――」
「追加依頼? それはさっきの分に関わることか?」
「それは……えぇ、まぁ……」
訊ねられるが、つい言葉を濁してしまう。
「お嬢様、そちらの件については、もう少しよくお考えになられては……」
背後からシルヴィアが心配そうに耳打ちしてくるが、父の売り言葉に対して啖呵を切った手前、ここで引く訳にはいかない。
正直なところ、出会い方が最悪だったし、その後の様子を見ても二つ目の依頼を伝えて良いものかと決めあぐねている。
冷静さを欠いて、良くない選択をしようとしてはいないだろうか。
……そうかもしれない。しかし、父の『寝言は寝て言え』だけならまだしも『オーガでも紹介する気か?』といった、およそ実の娘に向けて良いものではないセリフが脳内で反芻され、落ち着いたと思っていた怒りが再燃してくる。
いくら私が他家の令嬢よりやんちゃな気質であったとしても、言って良いことと悪いことがある。
「言い難いことなら、また後ででも構わねぇよ?」
こちらがまごついているのを見て、ラウルが気を遣って助け船を出してくれるが、こういったことは勢いが大事だと腹を決めて口を開く。
「今回の縁談についてお父様と意見が衝突して――その拍子に、既に私には心に決めた相手がいるから縁談を断って欲しいと嘘をついてしまったの」
「なるなる――すると、嘘を真にするために、相応しい相手を探して欲しいって感じか?」
レグニウス公爵家が権力を振り翳して、何かことを為そうとーーそれも嫡男の横恋慕を成就させようとするならば、他の貴族だけでなく、数年前に即位され今ある貴族制度を改革しようとしているらしい若き王からの印象は悪くなるだろう。
ラウルも同様に考えてか、推論を口にしてくるが、厳密にはこちらの考えとは異なる。
「このまま行けば二週間後、満月の夜に結婚式が執り行われることになるから、今から探すとなると流石に時間が足りないんじゃなくて?」
「そりゃ確かに無茶な話じゃな」
「では、どのような依頼をお考えで?」
ギドラスとリューナの反応を受けて、改めてこちらの考えを伝えようと深い呼吸を繰り返す。
意を決して、目の前の彼――ラウルを見据える。
「おいおい……」
こちらの視線から意図を察したのか、ラウルがまさかといった様子で呟いている。リューナやギドラスは目を見開いてラウルを注視し、背後のシルヴィアはきっと渋い顔になっているだろう。
だからといって、ここまで来たのなら、後は己の意思を言葉に乗せて伝えるだけだ。
「――どうか、恋人役としてお父様に会ってはいただけないかしら?」




