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よろず屋の面々

「うちのバカが申し訳ございませんでした」

「まったくよ! 初対面であんなことして――どういう神経してるのよ!」


 案内された応接間で、テーブルを挟んで座る少女が深々と頭を下げてくる。彼女には何の非もないのだが、先程の出来事が思い返されてしまい、恥ずかしさのあまり声を荒げてしまう。

 それでも目の前に少女――私よりも小柄であどけなく感じることから、恐らく年下なのだろう――が嫌な顔一つせず、こちらに謝罪の言葉を重ねてくるので、彼女に怒りをぶつけるのは大人げないと感じたので、咳払いをして居住まいを正す。


 改めて、目の前に座る少女を観察してみると、その容姿はまるで精巧な人形のような美しさを湛えており、無意識のうちに視線が吸い込まれるような感覚に陥る。

 王都では珍しい艶のある黒髪を腰まで伸ばしており、それが動作に併せて静かに揺れて、紫紺の瞳が真っ直ぐこちらを見据えてきている。感情の起伏が少ない表情がより一層彼女の美しさを際立たせているように感じられた。


「申し遅れました。よろず屋テンペスターのメンバー、リューナです」

「……エリーゼ・フォン・アストラーゼよ。こっちは――」


 腰掛けさせてもらっているこちらの背後、直立で控えているシルヴィアに視線を送ると、


「エリーゼ様の従者、シルヴィアです。以後お見知り置きを……とは言え」

 

 そこで言葉を止めたシルヴィアが、リューナの背後へと視線を移していく。


「そちらの変た……奇怪な方には色々物申したいところですが」

「んーー!! ぅむーーーー!!」


 敵意を剥き出しにしているシルヴィアを向けられて、男が身を捩らせて何かしらの言葉を告げようとしているようだが、それが果たされることはなかった。

 シルヴィアが憐れむような目を向け、私は私で男を蔑むように睨み付けるが、いつまでもこのままでは話に集中出来ないと思ったので、リューナにお願いすることにした。


「まだまだ文句が言い足りないけど、このままじゃ気が散るわ――そろそろ解いて追い払ってもらいたいのだけど」


 リューナの背後――布を噛まされ、簀巻きで天井から吊された男性へと視線を向ける。

 それを受けてリューナがやれやれといった様子で溜め息をついて、男性に近付き猿轡を外して、


「とりあえず口だけを自由にしますね」

「……外に放り出して欲しいんだけど?」

「そうしたいのは山々なのですが、このバカが一応店主ということになりますので、依頼のお話ということであればコレと話していただくことになります」


 薄々そうではないかと思っていたが、実際に彼がこのよろず屋の長であると聞かされ、頭が痛くなったくる。


 ――何も依頼せずに帰ってしまおうか……


 なんて考えが頭を過ぎるが、折角シルヴィアが私を思って教えてくれたこともあるので、ここで回れ右というのも気が引ける。

 そんなことで頭を悩ませていると、吊されたままであることにリューナへと物悲しそうな表情を向けていた男が、取り合ってもらえないためにこちらへと意識を向けてきた。


「っと、さっきは悪かったな。つい衝動の赴くままに――って、視線が怖いっての」


 男性の軽薄な態度につい睨み付けてしまうが、それは私だけに限ったことではない。この場にいる女性陣から冷ややかな視線を送られていたが、男は特に気にするような素振りは見せなかった。


「兄さん」


 話が進まないので、リューナが咳払いで男を促してくれる。

 それは助かるのだが、少し待って欲しい。今、リューナは彼のことを兄さんと言ったことに、目を見開く。

 稀代の芸術家が生み出したかのような美しさをもつリューナに対して、吊るされた男性はーーまぁ、顔立ちは整っている方だとは思うが、本当に血の繋がった兄妹なのかと疑いが残るばかりだ。


「へいへい……リューってば、最近兄ちゃんに対して冷たく、あ、はい、すいません」


 驚きに思考が脱線している間に、軽口を弄する男性をリューナが一瞥し、彼が怯えた様子になる。次いで、身動ぎして姿勢を正し――いや、正そうするような状態ではないのだろうが――改まった様子で挨拶してくる。


「よろず屋テンペスターの店主、ラウル・テンペスターだ。それと――そっちの隅っこで置物みたいになってるのがギド爺」


 吊された彼、ラウルが器用に振り返った先では、部屋の隅で一言も発することもなく正座させられていた男がいた。

 部屋に連れてこられた際にリューナから、先程の騒ぎの発端でその反省をさせているから気にしないでください、と言われていたのでその言葉に従って意識から除外していたが、どうやら彼についても紹介してくれるようだった。


「マギア技術者のギドラスじゃ……」

「もう少し愛想良く」

「ヒッ! よ、よろしくなぁ、お嬢さんがた」


 リューナが睨み付けると、小柄でありながらも屈強な四肢を持つドワーフ族のギドが縮こまり、引き攣った笑みを向けてくる。

 先程からよろず屋に置ける力関係が垣間見えているように感じたが、あまり踏み込むべきではないと感じたので愛想笑いを浮かべておくに留める。


「一通り自己紹介も済みましたし、本題に入りましょうか」

「そ、そうね……」


 リューナに底知れない何かを感じて、思わず頬が引きつるの感じる。

 幸い、彼女は気にした様子もなかったので、ここに来た本来の目的を果たすために、一度深呼吸をして、話を切り出す。


「貴方達に依頼したいことがあります」

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