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光を求めて  作者: kotupon


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99/444

着々と

昼食の席で話し合いが進む中、リーガム街に迫る違法奴隷商隊への対応が本格的に決まりつつあった。


「問答無用で捕縛するのでしょうか?」

領軍団長マニー・シモンズが確認する。


マリウスは一切の迷いを見せずに答えた。

「勿論だ。一人残らず捕える。」


その言葉に、マニー・シモンズは力強く頷く。

「ハッ!了解しました。……シマが言ったことが本当であれば、相手はたかだか30人足らず。武装した兵士100名で囲めば、何もできないはずです。」


「…わかった。その辺は君たちに任せるよ。くれぐれも油断しないように…抵抗するようであれば、切り捨てて構わない。」

マリウスの眼差しは鋭く、領軍団長マニー・シモンズ、領軍副団長ギーヴ・コーエンや領憲兵司令官クリヤー・シャハリもその覚悟を感じ取る。


「ハッ!了解しました…」

マニー・シモンズは深く頷いた。

彼は続けて何かを言いかけたが、言葉を飲み込む。

幼少期からマリウスを知る者として、「頼もしくなった」と言いたかったが、場の空気を考え控えたのだった。


マリウスは次に、捕えた商隊の処遇について語る。

「捕らえたら、すぐに公開裁判を実施する。」


その言葉に、シマとエイラは顔を見合わせた。

どうやら言いづらいことがあるらしい。シマが気まずそうに口を開く。

「……あ~その、大広場にあるステージを華やかに飾り付けしちゃったんだけど……。」


一瞬の沈黙の後、マリウスは堪えきれず吹き出した。

「…プッ……さすがにそこでやるのは無理だね。それなら西門広場に新しく作ろう。」


すぐにギーヴ・コーエンへと指示が飛ぶ。

「ギーヴ、簡素でいい。頼む。」


「ハッ!」


ここで、マリウスの側近の一人、ハインツが懸念を口にする。

「……マリウス様、ブランゲル侯に報告もなしに処罰を下してもよろしいのでしょうか?」


この問いに、マリウスは毅然とした態度で答えた。

「内にも外にも――これ以上、好き勝手なことはさせない!」


強い決意が込められたその言葉に、ハインツは即座に頭を下げた。

「ハッ!了解しました!」


この瞬間、マリウスの意志がはっきりと示され、作戦は本格的に動き出す。


マリウスは次々と指示を出していく。

「クリヤー、街の混乱を避けるため、住民に不安を与えないように動いてくれ。」


「承知しました。」

領憲兵司令官クリヤー・シャハリは即座に応じる。


「アンソニー、君は役所の仕事を通常通り進めろ。余計な騒ぎを起こすな。」


「かしこまりました。」

役所代表のアンソニーも静かに頷く。


「マニー、西門広場には流れ者の傭兵団や商人たちもいる。領軍で抑えてくれ。」


「ハッ!お任せください。」

マニー・シモンズは力強く応じ、即座に兵士たちへの指示をまとめ始める。


ここで、マリウスはシマに視線を向けた。

「シマ、商隊を率いている男は誰だかわかるかい?」


「……一人だけ豪奢な服を着ている男がいる。名は……トウアクだ。」


「ふむ……。」

マリウスはしばし考え込み、やがて皆の顔を見回しながら言った。

「その男は殺さないようにしよう。…ブランゲル侯に任せた方がいいか?」


この問いに、側近のポプキンスが即座に答える。

「それでよろしいかと存じます。」


「よし、移送の準備と人員配置は君に任せる。」


「ハッ!」

ポプキンスは深く頭を下げ、手際よく準備に取りかかった。


マリウスは再びテーブルの地図に視線を落とし、戦略を確認する。

「……奴らが到着する前に、包囲陣を敷く…トウアクだけは確保しろ。」


「了解しました。」


マニー・シモンズ、ギーヴ・コーエン、クリヤー・シャハリらは力強く頷き、各自の役割を全うするべく行動を開始する。


こうして、違法奴隷商隊を迎え撃つための準備が整った。

マリウスの指揮のもと、リーガム街は確実に動き始めていた。


会議が終わり、領主館の会議室に残ったのはマリウスと彼の側近たち――ハインツ、ビリャフ、執事長クレメンス、そして数名の使用人とメイドたち、それにカレマル、アンソニー、シマ、エイラ。


マリウスは椅子から立ち上がり、大きく伸びをしながら口を開く。

「さて、やることはさっさと終わらせて、明日に備えよう。」


そう言って、彼は役所に向かおうとした。

その流れに合わせてシマとエイラも足を動かしかけたが、そこに静かに声がかかる。


「シマ様、お待ちください。」

執事長クレメンスだった。

彼の声音には、いつになく深い敬意と感謝が滲んでいた。


シマが振り向くと、クレメンスは一歩前に進み、深く頭を下げた。

その動きに呼応するように、使用人やメイドたちも一斉に頭を下げる。


「改めてお礼を申し上げます。デシャン様(マリウスの父)の命を救っていただき、誠にありがとうございました。」

静寂が部屋を包んだ。


シマは少しだけ眉を上げ、面倒そうに手を振る。

「……ああ、気にするな。対価はきちんと貰った。」

シマらしい、素っ気ない言葉。


「それでも、感謝の気持ちは伝えさせてください。」


「……勝手にしろ。」

そう言ってシマは踵を返し、再び役所へ向かうべく歩き出す。

その背中を見送りながら、クレメンスは静かに微笑んだ。



リーガム街の役所内、公証窓口。

ここでは正式な契約を取り交わすための手続きが行われていた。

カウンターの奥では、公証人が書類を整え、重要な証書を封入する準備を進めている。

その前には四人の人物が並んでいた。


次期領主 マリウス・ホルダー

役所代表 アンソニー・ギデンズ

商人組合代表 カレマル・イガナ


シャイン傭兵団団長 シマ


それぞれが一通の公正証書を手にし、内容を確認する。

契約は「富くじ」に関するものだった。

公平性の確保、収益の分配、ルールの徹底。

街に不正が入り込まないよう、しっかりとした枠組みが設けられた。


一通り書類に目を通し、全員が署名を終えると、公証人が印を押して証書の効力が正式に認められる。


「では、これで契約成立となります。」

公証人が厳かに告げると、四人は互いに視線を交わし、握手を交わした。


契約が終わり、役所を出るとマリウスがシマに向き直る。

「明日のことだけど、シマたちは前に出ないでほしい。」


シマはその言葉の裏にある意図を察した。

要するに、俺たちばかりに活躍されると領軍や憲兵隊の面目が立たないということだろう。

「……立つ瀬がない、面目が立たないってことか。」


マリウスは少しだけ気まずそうに目をそらす。

「…まあ、そんなところだよ。」


シマは軽く肩をすくめて笑った。

「わかった。俺たちは動かないようにする。遠くから見ていよう。」


「そうしてくれると助かるよ。」

マリウスも微笑み、短く別れの言葉を告げる。

「……それじゃ、明日。」


シマとエイラは宿へ向かって歩く。


ふと、シマが笑いながら呟く。

「今日も宴だな。」


エイラも微笑みを浮かべ、シマの言葉に応える。

「ふふ、そうね。」


今日も楽しい夜になりそうだ。

トーコヨ宿の一階、賑やかな酒場。

シマたちの帰還を待っていた家族たちが、食事をしながら談笑していた。


シマは懐から一枚の書類を取り出し、皆に向かって掲げる。

「またまたエイラさんがやっちゃってくれました!ハイ、拍手!」


ぱちぱちぱち!


家族たちから一斉に称賛の声と拍手が湧き起こる。


「いや~さすがねエイラ!」

「毎回すごいわね!」

「やっぱり頼りになるな!」


エイラは少し頬を染め、照れくさそうに肩をすくめる。


「どんな感じだったの?」

メグが興味津々に尋ねた。


「俺は全く役に立たなかったな。」

シマが苦笑いしながら答える。


「え?シマが?!」

ロイドが驚きの声を上げる。


「ああ、マジでヤバかったぜ。交渉の席では素人が余計なこと言っちゃいけないってことを学んだよ。」


「へ~、シマにそこまで言わせるとは……余程、難儀な交渉だったのね。」

ノエルが感心したように呟く。


シマは少し肩をすくめて笑い、続ける。

「ああ、だがそんな場でもエイラは楽しんでやがった。」


「え~?!」

家族たちは一斉に驚きの声を上げる。


「ちょ、ちょっと大げさよ!……もう、その話はいいでしょう!」

エイラは顔を真っ赤にして、シマの腕を軽く叩く。


「ワハハ!エイラの奴、顔が真っ赤じゃねえか!」

ザックが豪快に笑い、それにつられて皆も笑い始めた。


シマはさらに懐から別の物を取り出し、「じゃじゃーん!」と声を上げる。


「ジャじゃん?」

ミーナが首を傾げる。


「いつものことよ、気にしないで。」

サーシャが苦笑する。


シマは慎重に一枚ずつ配りながら言った。

「これが身分証だ。」


受け取ったケイトがじっと手元を見つめる。

「これが……。」


ミーナも感慨深げに呟く。

「これで私たちも身元がはっきりしたってことなのね。」


サーシャ、メグ、ジトー、クリフも、それぞれ自分の名が刻まれた証明書をじっと見つめる。


生まれて初めて手にする身分証。

それは、彼らがただのスラムの子供ではなくなった証でもあった。


シマはザックに渡す際、特に念を押す。

「いいか、絶対に無くすなよ。」


ザックはむっとした表情を作り、胸を叩く。

「俺が失くすわけねえじゃねえか!」


……だが、家族たちは皆、「絶対に失くすな」と思っていた。

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