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光を求めて  作者: kotupon


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98/448

準備

交渉が終わり、一息つく間もなく、シマが口を開いた。

「疲れているところ悪いが、報告がある」


マリウス、アンソニー、カレマルがシマに視線を向ける。


「明日くらいには、例の奴らがリーガム街にやってくるだろう」

シマの声には、冷たい怒りが滲んでいた。


「イグアス・フォン・アンヘル第二王子、スニアス侯爵家の親書を携えた商隊だ。……中身は奴隷だ」


一瞬、空気が張り詰める。


「鉄格子の中に入れられていた。およそ20~25人、5台の馬車に分けられてな。」


沈黙が落ちた。


「……どこでその情報を?」

アンソニーが慎重に問いかける。


シマは短く答えた。

「実際に確認した」


アンソニーは目を見開き、カレマルも椅子の背にもたれながら驚嘆の息を漏らす。


「……本当に君たちには驚かされてばっかりだよ」

マリウスが苦笑しながらも、シマの言葉を疑う様子はなかった。

「シマがそういうのなら間違いないね」


マリウスはすぐに次の行動を決めた。

「領軍団長マニー・シモンズ、副団長ギーヴ・コーエン、リーガム領憲兵司令官・クリヤー・シャハリにも伝えた方がいいね」


彼は側近の三人を見て、指示を出す。

「呼んできてくれ。せっかくだから昼食がてら話をしよう」

側近たちは頷き、すぐに部屋を出ていった。


マリウスは疲れた顔をしながらも、すぐに思考を切り替え、シマに問いかける。


「馬車の中にいた奴隷たち……年齢層は?」


「子供が中心だった。10歳以下が半数近く。男女混ざっていた」


「……最悪だな」

マリウスが顔をしかめた。


カレマルが腕を組みながら唸る。

「第二王子の名を使っているということは、王都の貴族絡みか?……面倒な話になりそうですなぁ」


「スニアス侯爵の名前も出ている以上、ただの商隊ではないでしょう。王都や他領との繋がりを警戒すべきだろう」

アンソニーが渋い顔をする。

「……違法業者か、それとも抜け道を使っているのか…親書を携えているというのが厄介ですな」


「それを調べるのが憲兵と軍の役目だ…だけど心配いらないよ」

マリウスは静かに言った。

「そのことは昼食を取りながらしっかり話し合おう。その後、役所に行って富くじに関する正式な書類を作成し、締結する」


領主館の会議室に静かな緊張感が漂う中、マリウスは執事長クレメンスに目を向けた。


「例の物を」


クレメンスは深く一礼し、すでに用意されていた品を持ってくる。

彼がテーブルの上に置いたのは二つ。

ホルダー男爵家の家紋付きの身分証明書と100金貨。


マリウスはそれを軽く押しやり、シマの方を見た。

「約束したものだ」


シマは無言のままテーブルの上に視線を落とし、手を伸ばす。

エイラが素早く金貨を数え、シマは身分証を手に取る。


一枚ずつ確認しながら、名前を読み上げる。

「シマ、ジトー、ザック、クリフ、サーシャ、ケイト、ミーナ、メグ、エイラ、ノエル、リズ、ロイド、トーマス、フレッド、オスカー」


一通り確認した後、ふと眉をひそめた。

「……出身地がアンヘル王国リーガム領になっている」


シマは思わずマリウスを見た。

「どういうことだ?」


この世界では、身分証明書は発行された場所が記載されるということだった。


「……そうか」

シマはマリウスを見つめ、静かに言った。

「ありがとう」


「約束だからね」

マリウスは笑い、シマの手を握った。


そして、その時。

扉の向こうで、足音が響いた。

領軍団長マニー・シモンズ、副団長ギーヴ・コーエン、リーガム領憲兵司令官クリヤー・シャハリ。


マリウスは軽く手を振り、リラックスした様子で言った。

「形式ばった挨拶はいらないよ。席についてくれ。」


「ハッ!では失礼して。」

領軍団長マニー・シモンズを筆頭に、副団長ギーヴ・コーエン、リーガム領憲兵司令官クリヤー・シャハリが席につく。

彼らの動きは軍人らしく、無駄がない。


「まだ昼食は食べていないだろう? 今、用意させているから。」


「助かります、マリウス様。ちょうど腹が減っておりました。」

マニーが腕を組みながら言う。


そのやり取りを見ていたギーヴ・コーエンが、ふとアンソニー・ギデンズとカレマル・イガナに目を向けた。

「……お二人とも、お疲れのようですね…マリウス様もお疲れの様子だ。」


その言葉に、マリウスは苦笑しながら肩をすくめた。

「彼らと交渉が終わったところでね。」


「手強い相手でしたよ。」


アンソニーがため息混じりに言うと、カレマルが深く頷いた。


「毎回この様な交渉をしていたら、寿命が縮まりますな。」


会議室にはくつろいだ笑いが広がる。

昼食が運ばれるまで、しばし雑談が続いた。


その中で、シマがマリウスに話しかけた。

「大広場にあるステージのことは聞いているか?」


「ああ、その件なら問題ないよ。」

マリウスは微笑み、続けた。

「いっそのこと、そのまま残そうかと協議している。」


「そうか、それはいい考えかもしれないな。」

シマは軽く頷いた。


イベントのたびに設営する手間を考えれば、常設しておくのも悪くないだろう。


ちょうどそのころ、料理が次々と運ばれてきた。

焼き立てのパン、香ばしいロースト肉、新鮮な野菜のサラダ、スープ、そして果物の盛り合わせ。

マリウスの側近であるポプキンス、ハインツ、ビリャフも席につき、賑やかさが増していく。


エイラがふと躊躇いながらも言った。

「……ワインを頼んでもいいかしら?」


マリウスは少し驚き、興味深そうにエイラを見た。

「おや?晩餐会の時は飲まなかったのに。」


「ええ、ちょっと興味があって、酒場で飲んでみまして。そうしたら……結構いけたんです。」

エイラは少し照れくさそうに笑う。


「なるほど、それは良いことだ。では、皆で一杯やるとしよう。」

マリウスが笑顔で合図を送り、ワインが注がれる。


昼食を囲みながら、彼らの会話はますます弾んでいく。

昼食が進み、場がほどよく和んできた頃合いを見計らい、マリウスが重い話題を切り出した。


「さて――」

彼はナイフを皿に置き、場の空気を一瞬で引き締める。

「リーガム街に、違法な奴隷売買を行っている商隊がやって来る。」


この一言で、食卓にいた全員の表情が引き締まる。


「しかも、ご丁寧にイグアス・フォン・アンヘル第二王子とスニアス侯爵家の親書を持っているそうだ。」

マリウスはそこで一旦言葉を切り、ワインを一口含んだ。


「中身は確か……『馬車の中を検めるな、詮索するな』だったかな?」

そう言って、執事長クレメンスに視線を向ける。


クレメンスは無言で恭しく書簡を差し出した。


「今朝届いたものだ。ブランゲル侯爵家からね。」

マリウスは封を解き、書簡を広げると、ゆっくりと読み上げた。


「……『徹底的に検めろ。ケツは拭いてやる』」


その言葉に、領軍団長マニー・シモンズと副団長ギーヴ・コーエンは互いに目を見合わせ、苦笑いした。


「あの方らしいな……」


「実に分かりやすいお言葉だ。」


彼らは何度かブランゲル侯爵と関わっているらしく、その豪胆な性格をよく知っているのだろう。


そこへ、リーガム領憲兵司令官のクリヤー・シャハリが口を開いた。

「……で、いつ頃こっちに来るのでしょうか?」


マリウスは軽く頷き、静かに答える。

「明日には来るみたいだよ。」


「規模はどれほどのものですか?」

ギーヴ・コーエンが尋ねると、マリウスはシマを見る。


シマはナイフを皿に置き、落ち着いた口調で説明した。

「馬車10台。御者や護衛を含めて、およそ30人。」


「……?少なすぎないか?」

カレマルが眉をひそめる。


「ふむ……よほどの腕を持つ護衛たちなのだろう。」

マニー・シモンズが腕を組み、冷静に分析する。


しかし、シマは首を振った。

「違う。連中は、野盗と言っても過言ではない連中だ。」


「……ほう?」

マニー・シモンズとギーヴ・コーエンが興味深そうにシマを見つめる。


「戦い慣れしているかもしれないが、規律もなければ、傭兵団としてのまとまりもない。」


「つまり、統率は取れていないということか?」


ギーヴ・コーエンが確認するように尋ねると、シマは頷く。


「ああ。…この街で新たに護衛を集めるつもりらしい。」


その言葉に、場が再び静まり返る。


「……傭兵団の名前は分かるか?」

ギーヴ・コーエンが鋭く尋ねた。


「そこまでは分からない。」


シマの言葉に、マニー・シモンズは顎に手を当て、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。

「……ならば、こちらも迎え撃つ準備を整えなければな。」


「奴らがリーガム街に入る前に、捕まえたいな。」


マリウスが言うと、クリヤー・シャハリが頷く。


「憲兵隊に指示を出し、門前は封鎖しましょう。」


「それがいい。私のほうでも、護衛募集の情報を密かに探らせよう。」


カレマルが提案すると、ギーヴ・コーエンも同意する。


「領軍側でも、街の警戒態勢を強化しておく。」


「いいね。では、皆で役割分担をしていこう。」


マリウスは席を立ち、テーブルに地図を広げた。

「……さて、どう料理してやるか。」

彼の言葉に、誰もが真剣な表情になった。

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