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光を求めて  作者: kotupon


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怪しい

「トーコヨ」の酒場で豪勢な夕食を楽しんでいた。

酒を酌み交わし、笑い声が絶えない。

皆がくつろぐ中、ふと明日の予定についての話が持ち上がった。


「明日はどうする?」


そんな声に、ロイドが杯を置きながら口を開いた。

「大広場にある簡素な木製のステージを使わせてもらいたいんだけど、誰に頼めばいいんだろう?」


「設置したのは領軍だから、軍か?」

ジトーが考え込む。


シマは肩をすくめながら答えた。

「マリウスに頼めばいいんじゃね?」


「何で…ああ、リズに使わせたいのか?」とクリフが察した。


ロイドは満面の笑みを浮かべ、勢いよく頷く。

「そうさ!リズの歌や踊りを披露して、街の人たちに笑顔を届けてあげるのさ!」


「いいわね!それならもう少し華やかに飾り付けをしましょう!」

ミーナが賛同する。


「今のままじゃ殺風景だものね」

メグも続けた。


しかし、そんな空気をぶち壊すかのように、ザックがぼそっと言った。

「どうせそのうち撤去されるんだろ?やるだけ無駄じゃね?」


一瞬、場の空気が凍る。


そしてロイドが静かに、しかし確実に怒りを滲ませながら言った。

「……今の言葉は聞き捨てならないね」

表情こそ柔らかいが、目は笑っていない。

「すこ~し、お話ししようか?」


その瞬間、女性陣がため息をこぼした。

「…ハァ~、ザックはわかってないわね~」


「今のはお前が悪い」

シマもザックに向けて言い放つ。


「え?…え、何で?」

ザックは本気で分からない様子だった。


しかし、当のリズが微笑みながら口を開く。

「でも、ザックの言うこともわかるわ」


その一言にロイドが大きく首を振る。

「そんなことはない!君の素晴らしさを知らしめるためには、どんなに華やかなステージでも足りないくらいだ!」


力説するロイドに、リズはくすっと笑う。

「…ふふ、ありがとう」


そんなやり取りを見ながら、シマはふと思い出したように言った。

「マリウスも忙しいだろうから、門番の警備兵にでも伝えとけば大丈夫か?」


「多分それで問題ないと思うわ」とエイラが頷く。


「じゃあ決まりね!明日はステージを華やかにしましょう!」

サーシャがまとめた。


「どんな感じにしようかしら、楽しみだわ」

ケイトもワクワクした様子だ。


すると、女性陣とロイドの会話はどんどん盛り上がっていく。

「衣装も作りましょう!」

「見栄えをもっとよくしましょう!」

「あくまでも主役はリズだから!」


シマはその様子を横目に見ながら、トーマスに声をかけた。

「明日、買い物に付き合え」


「何を買うんだ?」


「鍬、スコップ…斧も必要か?それから……」

シマは考え込む。


「食材、酒も持って行った方がいいんじゃねえか?」

ジトーが提案する。


「それはリュカ村に行く当日でいいんじゃね?」

クリフが冷静に指摘する。


「それもそうだな」

ジトーも納得した。


「トーマス、食器類とかは足りてたの?」

オスカーが尋ねる。


「布や裁縫道具なんかも買って行った方がよくねえか?」

フレッドも言う。


トーマスは、少し俯いた。

「……お前ら……」

言いたいことはあった。しかし、それを口にすることはできなかった。

家族であれば当然のこと、感謝の言葉は飲み込んだ。

(お前ら、本当にありがとう)

声には出さなかったが、その表情だけで、家族たちには十分伝わった。


酒が進み、話もひと段落ついた頃、誰からともなく「そろそろ部屋に戻るか」という空気が流れ始める。


しかし、そんな雰囲気の中、ザックとフレッドが目を合わせ、互いに頷いた。

「ちょっと俺たちは場所を変えて飲みに行く」

ザックが言い出す。


「別にここでもよくねえか?」

クリフが怪訝そうに聞き返した。


「ちょっとした気分転換だ」

フレッドが肩をすくめる。


「まあ、いいんじゃねえか」

トーマスが気にせずに応じると、ロイドが少し笑いながら言った。


「飲みすぎないようにね」


「問題は起こさないでね」

オスカーも釘を刺す。


しかし、そんなやり取りを見ていたサーシャが目を細め、疑いの目を向けた。

「…なんか怪しいわね」


女性陣たちも「うんうん」と頷く。


だが、そんな視線を気にも留めず、ザックとフレッドは椅子から立ち上がると、軽く手を振りながら言った。

「じゃ、ちょっと行ってくるぜ」


二人が歩き出そうとした、その瞬間——


「待て」

シマの低い声が響いた。


「……な、何だよ?」


「お前ら、金は持ってるのか?」


ザックは「それなら心配——」と言いかけたが、その言葉を遮るようにフレッドが言った。


「そういやあ、金は持ってなかったぜ」


一瞬、ザックが「おい!」という顔をしたが、すぐにシマが懐から布袋を取り出し、二人に近づく。


「あえて理由は聞かねえが、ほどほどにな」

そう言いながら、5銀貨を手渡す。

声は低く、二人だけに聞こえるような小さな声だった。


「お、おう…」

二人はそそくさと宿を出ていく。


「ウッフン」へ向かう道中、街の灯りが夜風に揺れていた。

宿を出たザックとフレッドは、やや足早に歩き始める。


「おパイが俺を待ってる……うへへ」

フレッドがニヤニヤしながら呟く。


「待ってろよ、ナンシーちゃん……うひひ」

ザックも同じく笑みを浮かべる。


リーガムの歓楽街は、それなりに賑わっており、酒場や劇場がひしめいている。

その中でも「ウッフン」は、男たちの欲望を満たす店として有名だった。


「まさかシマが小遣いくれるとはな」

ザックが言う。


「あいつ、分かってんだよ。聞かずに金を出してくれるあたり、粋なもんだぜ」

フレッドも感心したように言う。


「よし、行くか!」

歓楽街の灯りが、二人の影を妖しく照らしていた——。


二日後。

シマとクリフはリーガム街から西に伸びる街道の野営地に身を潜めていた。

この場所は、リーガム街とダシント街の中間地点にあたり、商隊が休憩を取ることが多い場所だった。

シマたちの身体能力なら半日で到達できる距離だが、一般の商隊なら丸二日はかかる。


今回の目的は明確だ。

スニアス侯爵領の商隊がリーガム街へやって来る。

その商隊が人身売買や違法な奴隷取引をしている確かな証拠を掴むこと。


「……あれ、怪しくねえか?」

クリフが低く呟きながら、目くばせで一点を指す。


シマも視線を向けると、街道の向こうから10台の馬車が連なってやってくるのが見えた。

先頭の馬車には、御者の隣に豪奢な服を着た男が座っている。

それに付き従う護衛の数は15人。


「……少ねえな」

シマが静かに呟く。


この規模の商隊なら、最低でも50人以上の護衛を雇うのが普通だ。

それが全体で御者も含めて30人程度しかいないというのは、よほど腕の立つ護衛を揃えているか、何か別の事情があるかのどちらかだった。


「……あいつら、あれで護衛してるつもりか?」

クリフが眉をひそめる。


シマもじっと護衛たちを観察し、即座に結論を出した。

「話にならない」


護衛たちの出で立ち、雰囲気、周囲への警戒、足の運び……

どれを取っても、まともな商隊の護衛とは思えなかった。

むしろ、野盗か? と思うほどの荒々しさと統制の取れていない動きが目立つ。


これが本当に正規の商隊なのか——

シマとクリフは、静かに様子をうかがいながら、確信に近い疑念を抱いた。


夜の帳が降り、辺りは静寂に包まれていた。

シマとクリフは身をひそめ、風下へと回る。

闇に紛れながら慎重に距離を詰め、聞き耳を立てた。

風に乗って、商隊の護衛たちの話し声が聞こえてくる——


「しっかし今回は楽な仕事だぜ」


「まったくだ。どこの街でも村でも素通り、中に入れるんだからな」


「……でもよ、野盗どもに襲われたらどうすんだ?」


「馬ッ鹿、オメー。そんときゃ伝家の宝刀を出せば一目散に逃げるだろ」


「そうそう! なんたってこっちには——スニアス侯爵家、そして!」


「イグアス・フォン・アンヘル第二王子様の親書があるんだからよ!」


「ですよねートウアク様!」


「ぐふふ……そうだ。よほどの馬鹿でない限り、手は出せんだろう」


この言葉に、シマとクリフの目が細くなる。

王家の親書……? しかも、イグアス王子の名が出た。

この商隊は正規の取引ではなく、権力を利用した何かを運んでいる可能性が高い。

——それが奴隷であることは、疑う余地もなかった。


「それに、安心するがいい」

トウアクと呼ばれた男が、自信満々に言い放つ。

「リーガム街に着けば、新たに護衛を増やす。」


親書を持つことの意味を考えれば、もし手を出した者がいれば——王家、スニアス侯爵家の威信をかけて、王軍、領軍が徹底的に捜索し、一人残らず処刑するだろう……野盗であれば。


王家、領軍の力を利用し、違法な奴隷売買を堂々と行うつもりか——。

シマとクリフの拳が、無意識のうちに握りしめられる。


「さて……そろそろ餌の時間だ」

護衛の一人が馬車の幌を乱暴にめくる。


そこにいたのは——鉄格子の中に閉じ込められた人々。


——五人ほどだろうか。

彼らは痩せ細り、衣服はボロボロ。

目は虚ろで、まるで道端に転がる石ころのような扱いを受けていた。


護衛の男が、鉄格子の隙間から何かを放り投げる。

それは、硬く乾燥した黒パンだった。

まるで犬に餌を与えるかのように、乱暴に投げつける。


「ほれ、飯だ」

その言葉には、人としての敬意など一切感じられない。

——その行為が、五台分の馬車で繰り返された。


残りの馬車には食材、水、酒が積まれていのだろう。

しかし、奴隷たちに渡されるのは、最低限の命をつなぐだけの粗末な食事。



マリウスが言っていた。——「奴隷にも最低限の人権がある」


だが、目の前の現実はどうだ?

彼らは人として扱われていない。

家畜以下の扱いを受けている。

怒りがこみ上げ、シマは奥歯を噛みしめる。

横を見ると、クリフも同じように拳を握りしめ、怒りに震えていた。


こいつらは、人を売ることに何の躊躇もないのか。

こいつらにとって、人間はただの"商品"なのか。

ならば、こちらも遠慮する必要はない。

シマとクリフの目が、暗闇の中で鋭く光った。 

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