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光を求めて  作者: kotupon


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富くじ

マリウスとエイラの交渉が決着し、報奨金100金貨が確定したことで、ようやく会議室の雰囲気が和らいだ。


会議室の端でのんびりとくつろぐシマたちに、自然とマリウスたちも集まってくる。


「エイラ、お疲れ~」

サーシャが軽やかに声をかける。


「さすがだな」

シマもエイラを労いながら、感心したように頷く。


「宿に帰ったら祝杯でも挙げるか」

ジトーがニヤリと笑う。


エイラもくすっと笑いながら「それもいいかもね」と軽く肩をすくめた。


マリウスは深いため息を漏らしながら、席に座る。

そして、近くにいたメイドに向かって「ワインを持ってきてくれ」と指示を出した。


彼の背後にはポプキンス、ハインツ、ビリャフが立っていたが、マリウスは彼らに向かって「君たちも座れ」と促す。


三人は一瞬躊躇したが、マリウスの強い視線に押される形で席につく。


「…まったくお手上げだよ。…財源を確保する何か起死回生の手はないものか」


疲れた様子で呟くマリウスに、シマがこともなげに言う。


「あるぞ」


「……そんなに甘く……えっ?」

マリウスが驚き、周囲の者たちもキョトンとする。

周囲にいたポプキンスやハインツ、ビリャフ、そしてメイドや使用人たちまでもが一斉にシマを見つめる。

部屋の空気が一瞬で変わった。


ワインを飲みかけたままシマを見つめるマリウスは、喉を鳴らして問いかけた。

「…それはいったいどういう手で?」


「タダで教えると思うか?」

シマの表情と態度からして、適当なことを言っているわけではないことは明らかだった。

しかし、簡単に情報を提供するつもりもなさそうだ。


シマのにやりとした笑みに、マリウスはぐっと言葉を飲み込む。

「……グッ……話の内容によっては、更に報奨金を出そう」

マリウスは覚悟を決めて返答する。


「……そうだな。ちょっとエイラと相談させてくれ」


シマはそう言って席を立ち、エイラとともに部屋を出た。

サーシャも後を追う。


エイラの顔には満面の笑みがあった。

彼女は交渉事になる予感に胸を躍らせていた。

エイラはシマ、サーシャとともに会議室を後にする。

扉を閉めた瞬間「また、面白いことになりそうね」と言う。


シマも口元にうっすらと笑みを浮かべ、「交渉が楽しめそうだろ?」と返した。

こうして、シマとエイラ、サーシャは新たな交渉の準備を始めたのだった。

会議室を出たシマとエイラは、廊下の隅で小声で話し合いを始めた。

サーシャは周囲を警戒しながら二人を見守る。


「……で、どんな策があるの?」

エイラが身を乗り出す。


シマは小さく笑いながら口を開いた。

「富くじ、宝くじって聞いたことはあるか?」


エイラは眉をひそめる。

「……聞いたことはないわ」


シマは満足そうに頷き、説明を始めた。

「簡単に言えば、人々から少額の金を集め、その中から何人かに大金を渡す仕組みだ。参加者全員が少しずつ金を出し、当選者が大金を手に入れる。一方で、主催者である領主側には、金が集まるというわけだ」


エイラはすぐに理解したようだった。

「なるほど……賭博に近い仕組みね。でも、それなら普通の賭け事と何が違うの?」


「大きく違う点は二つある」

シマは指を二本立てる。


「第一に、公明正大であること。つまり、インチキや不正がないようにする。抽選は誰の目にも公平に行われるようにしなきゃならない」


エイラは頷く。

「……不正があったら、信頼が崩れるものね」


「そういうこと。第二に、収益の一部を街の発展に使うことを明確にする。たとえば、富くじの売上の一部を道路の修繕や市場の拡張に充てると公表するんだ」


エイラの目が輝く。

「それなら、市民も『ただの賭け事』とは思わず、街のためになるから進んで参加するわね!」


シマは微笑んだ。

「そういうことさ」

その後も細かい打ち合わせをする。


シマとエイラ、サーシャが会議室に戻ると、マリウスが興味津々といった表情で待ち構えていた。

「さて、どんな策を持ってきたんだい?」


シマは軽く笑い、エイラと視線を交わした。


「『富くじ』を導入しよう」


マリウスが眉をひそめる。

「……何だそれは?」


シマは堂々と説明を始めた。

エイラが補足しながら、税負担を増やさずに財源を確保する方法としての富くじの魅力を強調する。

リーガム街の財政難を打開するため、シマが提案したのは「富くじ」の導入だった。

これは、市民から少額の金を集め、その中から当選者に大金を渡す仕組みであり、一方で領主には安定した財源が確保できるという画期的な策であった。

公平性と信頼性を確保することで、市民が安心して参加できるような仕組みを整え、持続可能な制度として運営することが目標となる。


富くじの仕組み

① 発行と販売

販売価格:一枚 5鉄貨(日本円で約500円相当)


購入制限:一人最大 40枚まで 購入可能(身を崩す者を防ぐため)


購入資格:奴隷を含む全ての者 が購入可能


券の仕様:


裏面には男爵家の紋章 を刻印し、偽造を防止


販売員の名前が記載 されることで、販売時の不正を抑制


② 不正防止策

購入者の記録


簡単な購入記録を取り、過剰購入や不正取引を防ぐ


券の偽造防止


男爵家の紋章入りの専用券を発行


不正行為への厳罰化


富くじの不正に関わった者は重罪とし、終身刑(強制労働) を科す

抽選時の不正が発覚した場合、関係者は財産没収および追放


② 当選金の分配

売上の 50% を賞金として分配し、残り 50% を領主の財源として運用する。


賞金の配分(売上の50%)

等級配分率当選本数賞金の特徴

1等5%2本大金を得られるが、慎重な運用が求められる

2等3%4本まとまった資金が手に入る

3等2%5本生活を大きく変えられる額

4等以下(小当たり)18%多数広範囲の市民に分配し、参加意欲を高める

※ 大金を手にした者への注意喚起


急激な豪遊や目立つ行動を避けるよう推奨

場合によっては、当選者の名前を公表しない選択肢も検討

当選金の一部を資産管理人に預け、運用できるような制度の導入


領主の財源(売上の50%)

用途割合具体的な使用例

街の発展20%道路整備、市場の拡張、庁舎、門、外壁の建設など

行政資金20%財政再建、税の補填、役人や兵士の給与

経費・備蓄10%富くじの運営費、災害や飢饉への備え


③ 抽選方法

富くじの最大の魅力は、公明正大な抽選 である。

これにより、市民の信頼を獲得し、持続的な制度として定着させる。


実施回数:年2回(半年ごと)

公開抽選:街の広場にて、誰でも見られる形で実施


抽選方式:「弓射式ルーレット」

巨大な丸い板(5台)に数字を記入し、回転させる


5台のうち2台に紙または布を張り付け、数字をわからせないようにする。

弓で射る方式を採用し、矢が刺さった番号を当選とする


この方法は、以下の利点を持つ:

誰にでもわかりやすく、興奮を煽る

操作の余地が少なく、不正を防げる

見物人の楽しみも増え、街の祭りとしての価値も生まれる


④ 宣伝・信頼性の確保

「富くじ」は、ただの賭け事ではなく、街の発展に貢献する制度 であると広めることが重要である。


広報戦略

「収益の一部は街の発展に使われる」と明確に告知


売上の20%を公共事業に充てることをポスターや告知で宣伝

抽選の様子を公開し、公正であることを市民に示す

抽選を祭りの一部として、盛大に演出

領主、有力商人、市民代表の立ち会い

信頼の置ける人物が関与し、不正がないことを保証


富くじの導入による期待される効果

市民側のメリット

少額で大金を得るチャンス(夢を買う楽しみ)

街の発展に貢献できる(自分たちの生活向上に直結)

公平な制度のもとで楽しめる娯楽(不正のないクリーンな環境)


領主側のメリット

税収以外の安定した収入源を確保(長期的な財政改善)

市民の支持を得る(税ではなく、娯楽の形で財源を得る)

地域経済の活性化(当選者の消費拡大による商業の発展)


導入後の課題と対応策

① 当選者の安全確保


大金を得た者が狙われる可能性があるため、匿名受け取りを可能にする

一部資産を管理人に預けるなど、使いすぎを防ぐ措置を検討


② 不正防止の徹底


富くじ券の偽造防止策(男爵家の紋章入り)

販売記録を管理し、不審な取引を監視


③ 継続的な信頼維持


初回で不正があれば制度が崩壊するため、最初の抽選は特に慎重に行う

街の発展に実際に使われていることを、可視化する(公示板の設置など)


「富くじ」は、市民に夢と娯楽を与えながら、街の発展と財政再建を両立させる画期的な仕組みである。公平性を保ち、信頼性を確保することで、持続的に運用することが可能となる。


マリウスがこの案を聞いたとき、しばし沈黙した後、低く笑った。

「……君というやつは、本当に面白い策を出すね」

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