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光を求めて  作者: kotupon


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倉庫11

 酒場を出た二人を、先ほどの男が慌てて追いかけてきた。

「話の内容だけども、聞いてくれよ! いい金になるんだ!」


「……何ぃ……!」

 ザックとフレッドが睨みつけると、男は気圧されたように小さく悲鳴を上げる。

「それを早く言えよ。」

「いくらくれるんだ?」


 男は苦笑しながら「お二人合わせて……へへ、4金貨でどうだい?」

 と言うと、ザックとフレッドは満足そうに頷いた。

「お前、結構いいやつだな。」

「それを先に言えよ、馬鹿野郎!」

 二人は意気揚々と男の後についていった。


 目的地は西門前の大広場だった。

ここでは宿に泊まる金がない傭兵たちが簡易なキャンプを設営し、焚き火を囲んでいた。

粗末なテントが立ち並び、酒瓶や食い残しの骨があちこちに散乱している。


「ここだ、入ってくれ」


 男に案内され、ある一角のテントへと入る。

中には髭モジャの男が座っていた。

手には酒瓶を握りしめ、獣の皮を敷いた椅子に腰掛けている。

彼はザックとフレッドを見て、驚いたように目を見開いた。

「随分とガタイのいい兄ちゃんたちだな……!」

 そしてすぐに確認するように言った。

「ここに来たってことは、手伝ってくれるってことでいいんだな?」


「それよか、早く金をくれ」

 ザックはそう言い放つ。


男は困惑しながら、

「仕事を手伝ったらという話だろう?」と返す。


フレッドが不満そうに言い放つ。

「そんなの関係ねぇ」


「いや、関係あるだろう」

 男と髭モジャの傭兵は思わずツッコむ。

「兄ちゃんたち、話が通じねえってことはねえよな?」


男が改めて仕事の内容を説明しようとするも、ザックとフレッドは全く聞く気がなかった。

「だからよ、先払いで金を寄越せって言ってんだよ」


 これには髭モジャも呆れた。

「おい、コラ! 兄ちゃんたち、ちっとばかし調子に乗りすぎじゃねぇか?」


 髭モジャは低い声ですごんでみせたが、ザックとフレッドには全く通じなかった。


「生意気なこと言ってんじゃねえぞ。その髭、むしり取っちまうぞ」

  フレッドがニヤリと笑いながら言う。


その言葉に髭モジャは顔を真っ赤にして叫んだ。

「こんのクソガキがぁ!!」


 怒りに任せて剣を抜こうとする。だが、その瞬間―― 

 ザックの剛腕が振るわれた。


 鈍い音が響き、髭モジャの顔が歪む。彼の体が吹き飛ばされ、倒れる髭モジャ。

周囲の傭兵たちが騒ぎを聞きつけ、次々とテントに集まってきた。


「お、おい……! 団長が……!」

 動揺した傭兵の一人が声を上げる。

状況を察した仲間たちは、武器を構え、ザックとフレッドに襲い掛かる。


 しかし――

 二人の前では無力だった。


 ザックの拳が、フレッドの蹴りが、次々と傭兵たちを地面へと沈めていく。

怒号と悲鳴が飛び交い、まるで戦場のような光景の中で、二人だけが悠々と立っていた。


男たちは次々と地面に沈み、辺りは静まり返った。

遠巻きに様子を見る他の傭兵団。


「いい運動になったな」

 ザックは満足そうに腕を回しながら言う。


「おう、それに金も拾ったしな」

ザックとフレッドは落ちている金貨、銀貨、銅貨、鉄貨を拾い集め、満面の笑みを浮かべた。

 こうして、ザックとフレッドは金をせしめて宿へと戻っていった。



深夜、時計の針が午前二時を指す頃、倉庫11には緊迫した空気が漂っていた。

灯されたランプの明かりが揺れ、人々の顔に影を落とす。


この場に集まっているのは、領主の嫡子マリウス・ホルダーをはじめ、王家特別監察官のジャン・クレベル、ワーレン・クリンスマン、モーガン・エステベス、キャシー・ネイサン。

そしてエイラ、トーマス、ジトーの姿もあった。

彼らはそれぞれの情報を持ち寄り、状況を共有しようとしていた。


マリウスは悔しげに口を開いた。

「ドノバンにしてやられたよ……。父上が体調を崩し、執務が難しくなったのをいいことに、勝手に許可や決済を出していた。あれほど慎重な父上の目を欺いて、ここまで巧妙にやるとはな」

マリウスは拳を握りしめながら、苦々しい表情を浮かべた。


「帳簿や書類は確認し、ドノバンに追及したのですか?」

エイラが冷静に問いかける。


その眼差しは鋭く、決して感情に流されることなく、核心を突く。


「もちろんしたさ。しかし、あいつはのらりくらりとかわし、言葉巧みに責任を回避し続けた。確かな証拠がない限り、奴を追い詰めることはできない……」


マリウスの言葉に、ワーレンが静かに頷いた。


「ドノバンは抜け目がない。証拠を残さぬように徹底しているだろう。だが、金や物資の流れを追えば、どこかに綻びがあるはずだ」


「彼を罷免、または辞職させることはできないのですか?」


エイラの問いに、マリウスは唇を噛んで首を振る。


「僕にはその権限がない……。それに、奴はいつの間にか『領主代行』の肩書まで手に入れていた。しかも、それは正式なもので、王家の印璽が押されている」


「なんですって……?」

キャシーが驚きの声を上げる。


王家の印璽が押されているとなれば、単なる偽造ではなく、誰かが意図的に彼を後押ししていることになる。


「領主代行とは正式な役職ではあるが、通常は領主が不在、もしくは執務不能になった際に、一時的な措置として認められるものだ。誰が彼を任命したのでしょうか?」

ジャンが眉をひそめる。


「それが問題なんだ……。父上に確認したところ、ドノバンを領主代行に任命した覚えはないと言っていた。本当に驚いていたよ」

マリウスの言葉に、場が静まり返る。


誰もが考えていることは同じだった。


「つまり、王家の中にドノバンを支援する何者かがいる可能性が高い、ということですね」

エイラが結論を述べる。


「…その可能性は十分にあるな。」

ワーレンが静かに言葉を続けた。


「マリウス様、領主代行の権限を取り戻すために、何か手を打ちましたか?」

エイラがマリウスに問う。


「もちろんだ。気づいてすぐに王家へ書簡を送り、正式に領主代行の任を僕へ変更するよう要請した。だが、出したのはつい先日だ」

マリウスの声には苛立ちが滲んでいた。


 「では、王家の判断待ちというわけですね……」

エイラは静かに言った。


言いずらそうに言葉を発するジャン・クレベル

「…近々、ケリガン・デル・スニアス侯爵領から商隊がここリーガム街へと向かう。」

皆が耳を傾ける中、彼は続けた。

「その商隊はスニアス侯爵家、そしてイグアス・フォン・アンヘル第二王子の親書を携えている。その親書には、商隊の馬車を検めるな、詮索するなと書かれているそうです。」


 その言葉に、マリウスが眉をひそめた。

「それは確かなのか?」


「上役からの書簡で知らされた情報です。」

ジャンが頷く。

「さらに、その書簡には俺たち王家特別監察官班に対する帰還命令も書かれていました。」


「帰還命令?」

ワーレンが鋭く聞き返す。


「ああ。つまり、この街での監視業務を打ち切れということだ。」


 倉庫内に重苦しい沈黙が落ちる。

王家が直接商隊の安全を保証するだけでなく、監察官たちを撤退させるというのは異例の対応だった。


「商隊の荷が何なのか、確かめる術はないのか?」

ジトーが問いかける。


「公式にはない。しかし、密かに探ることは可能かもしれん。」

ジャンが答える。

「だが、王家の名が絡む以上、下手に動けば処罰される恐れもある。」


 トーマスが腕を組み、考え込む。

「この商隊とドノバンの関係は?」


「現時点では分からない。」

ジャンが首を振る。

「だが、ドノバンの影響力が急激に増している以上、無関係とは思えない。」


その時、エイラたちが新たに収集した情報を伝える。

「ドノバンがドロコソ商会と繋がっている可能性があります」


「ドロコソ商会……」


「それだけではありません。教会が何かを隠しています。そして、私腹を肥やしていることも明らかになりました」


「教会が?」とマリウスが驚いた様子で問い返した。


「ええ。さらに、神父と助祭たちは救済孤児たちを人として見ていません。まるで道具のように扱っている……」


すると、王家特別監察官のジャン・クレベルが静かに口を開いた。

「あそこには、何らかの形で訓練を受けた手練れの助祭がいたはずだ」


「手練れの助祭?」


「そうだ。奴には気を付けろ」

ジャンは鋭い目つきで警告する。


倉庫内の空気が一層張り詰めた。

これらの情報を突き合わせた結果、マリウスは結論を出した。

「イグアス・フォン・アンヘル第二王子、ケリガン・デル・スニアス侯爵、家宰ドノバン・マルチネス、教会の神父ガスバル・ヴィレラ、助祭、ルダミック商会、ドロコソ商会、リュカ村の村長、リュカ村の商店……全てが繋がっている可能性があるね。」


「それだけじゃないわ。」とエイラが口を開く。

「教会の背後にはエスヴェリア神聖王国がいる。さらに、あなたたちの上役も関与している可能性があるわ。」


「……だとしたら、俺たちの動きも全部筒抜けだったってことか。」

モーガンが険しい表情で呟く。


エイラは静かに続けた。

「そうね。あなたたちがここに来て2年だったかしら? それだけの時間があっても証拠を掴めていない。それはつまり、上層部もグルだという可能性が高いってことよ。」


場に沈黙が訪れる。事態は想像以上に根深いものだった。単なる汚職ではなく、王家、貴族、教会、商会が絡む巨大な陰謀が動いている可能性があったのだ。

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