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光を求めて  作者: kotupon


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エイラとトーマスは、午前中からリーガム街の市場へと向かった。

主な目的は、情報収集、調査、余っていた狼の毛皮を売ることだ。


「さて、できるだけ高値で売るわよ」

エイラがにこりと笑い、商談が始まる。


トーマスは横で腕を組みながら、静かにそのやり取りを見守った。

交渉の結果、5枚の毛皮は5金貨で売却。

「おお……そんなに高く売れるもんか」


「私にかかれば、当然よ」

エイラは自信満々に胸を張った。

彼女の話術と交渉術が功を奏し、なかなかの高値で売ることができた。


毛皮を売った後、二人は市場を見て回ることにした。


「ん?」

エイラの視線が、露店の値札に向けられる。

「……なんか、ちょっと高くない?」


彼女は小麦を売る露店の前で立ち止まり、袋を指差す。


「中身を確認させてください」


「へい、どうぞ」

店主は袋の口を開ける。


エイラは手を突っ込み、さらさらと小麦を指先でこすった。


「うん、質は悪くない……でも少々高いわね」


「それが、場所代が高くなったもんで……」


「場所代?」


「ええ、つい今朝からなんですがね……」


トーマスとエイラが視線を交わす。

「(つい今朝から……?)」


何かがおかしい。


二日目、三日目と調査を進めていくうちに、明らかな異変が浮かび上がってきた。


・乳製品の価格が突然上昇

・穀物が高騰する一方、別の商会が安価で売り出す

・布や鉄材が暴落し、一部の商会だけが安値で買い占める


市場のバランスが崩れていた。


「……意図的に操作されてるわね」

エイラが腕を組んで言う。


「市場を混乱させ、特定の商会が利益を独占する……?」

トーマスも眉をひそめた。


そして調査の過程で、ある商会の名前が頻繁に出てくることに気づいた。


「ドロコソ商会……」


リーガム街ではそこそこの規模を誇る商会だが評判があまりよろしくない。

しかし、その裏には「ルダミック商会」が市場の操作を行っている疑惑が濃厚だった。


市場の混乱を確かめるため、エイラとトーマスは役所へ赴いた。

役人に対応を求めると、一人の職員が出てきた。


「露店市や屋台の場所代が上がっているようですが、この件は領主は知っているのですか?」

エイラの鋭い問いに、役人は少し驚いた様子を見せた。


「ええと……確かに、値上げが実施されました」


「それは誰の権限で?」


「商人組合が場所代の適正価格を決め、それを領主に提出します。そして、領主が承認すれば決定されます」


「では、今回の値上げは領主の決定?」


「いえ、家宰のドノバン・マルチネス様が許可を出しました」


「……なるほど」

エイラは小さく息を吐く。

「ドノバンね……やっぱり繋がってるわ」


「ってことは、領主は知らない可能性もあるのか?」

トーマスが尋ねる。


「ありえるわね。少なくとも、これはもう少し掘り下げる必要があるわ」


ドノバンとドロコソ商会、ルダミック商会――三つの名前が再び繋がる。

エイラとトーマスは、さらなる調査を決意するのだった。



領主館の家宰を務めるドノバン・マルチネスには、何かしらの秘密がある。

ジトー、クリフ、オスカーの三人が監視を始めた。


ジトーとクリフが領主館に張り付き、夜になると日付が変わる頃にオスカーが合流。

そのタイミングでジトーが抜け、翌朝9時には再び交代し、クリフが休息を取る。

これを繰り返し、24時間体制で領主館を見張ることにした。


領主館の出入り業者の監視と、家宰ドノバンの部屋の動向を注視する。


一日目・二日目

監視初日と二日目、特に目立った異常はなかった。

出入りする業者はどこにでもいるような商人たちで、怪しい動きもなし。

家宰ドノバンの部屋も、夜になれば灯りが消え、何の変化も見られなかった。


「何か起こる気配はねぇな」

「まぁ、まだ二日目だ。そう簡単に尻尾は出さねぇよ、それじゃ俺は帰るぜ」


クリフがつぶやき、ジトーが腕を組んで答え去っていく。

オスカーも目を細めながら領主館を見つめた。


「とはいえ、動きがないと気が緩むね……」


そんな話をしながらも、彼らは交代しながら粘り強く監視を続けた。


三日目――雨の夜

日付が変わる頃、オスカーが監視に合流した。


ジトーが抜ける前に、念のため周囲を確認する。

「……ドノバンの部屋の灯りがついてるな」


二階の窓から、薄黄色い灯りが漏れていた。


「この時間まで起きてるのか」

クリフがつぶやくと、ジトーも眉をひそめる。


これまでの二日間、ドノバンの部屋の灯りは遅くとも深夜には消えていた。


――その時だった。

雨の降る暗闇の中、一人の男が領主館の裏手に回っていくのが見えた。


「……!」

すぐにジトーとクリフが視線を向ける。

「オスカー、お前はここを見てろ。俺たちは裏に回る」


「了解。」


オスカーが頷くと、ジトーとクリフは雨の中、音を立てずに男の後を追った。


領主館の裏手に忍び寄った男は、あたりを警戒しながらじっと待っていた。


やがて、二階の窓が開く――

ドノバンの姿が浮かび上がった。

そして、大きく振りかぶると、何かを外へ向かって投げる。


「……!」


ジトーとクリフが息を潜めて見守る中、男はそれを拾うと、足早に立ち去った。

「怪しいな」

「追うぞ」

ジトーとクリフは身を隠しながら、男の後をつける。


雨の中、男は足早にリーガム街を進んでいく。


「どこに向かってる?」

「……この辺は商会が建ち並ぶところだな」


男はやがて、とある建物の前で立ち止まった。

『ドロコソ商会』――。


ジトーとクリフは暗がりからそれを確認する。

「ドロコソ、ねぇ……聞いたことあるか?」


「…評判がよくない商会じゃなかったか?」


男は辺りを気にする素振りを見せるが、すぐに扉を開けて中へと入っていった。


その姿を確認し、ジトーはクリフに言った。

「……俺は宿に戻ってみんなに報告する。お前はこのまま見張ってくれ」


「了解」


ジトーはすぐさま踵を返し、雨の中を宿へと急いだ。


ジトーが宿に戻ると、サーシャたちは起きて待っていた。

「……今日はどうだった?」


「動きがあった。深夜、ドノバンが何かを外に投げ、それを拾った男が『ドロコソ商会』へ入った」


ケイトが腕を組み、表情を引き締める。

「ドロコソか……確か、この街であまり評判が良くない商会よね?」


「クリフが今も見張ってる」と言うジトー。




リーガム街の夜が更け、歓楽街の灯りが揺れる中、ザックとフレッドは某酒場の片隅に座っていた。


「イテテ……!」

ザックが顔をさすりながら、エールのジョッキを口に運ぶ。


「アタタ……!」

一方、フレッドは股間を押さえて呻いていた。


前夜、報告会議(という名の鉄拳制裁)が行われ、二人は家族たちから容赦ない殴打の洗礼を受けたのだった。


「オスカーの奴まで俺の顔を踏んづけやがって……!」

ザックは恨めしげにジョッキを傾ける。


「お前はまだマシだろ……俺なんて大事なキャン玉を蹴られたんだぜ……」

フレッドは股間をさすりながら呻く。

「使いもんにならなくなったらどうするんだよ……」


「ハハ、そん時はそん時だろ」

ザックは軽く肩をすくめた。


フレッドは真剣な顔で睨みつけた。

「笑いごとじゃねえ! 俺の未来がかかってんだぞ!」


「未来って、そんな大層なもんあったか?」


「うるせえ! とにかく、しばらくは慎重に生きる……」


「慎重に生きるなら、まず飲み過ぎるなよ」


「……まあ、それはそれとして」

フレッドはジョッキをぐいっと空けた。


二人はエールを飲みながら愚痴をこぼし合い、「しゃあねぇ、少しはまじめにやるか……」としぶしぶ情報収集に取り掛かった。


「イマイチ気が乗らねぇけどな……」


「1銀貨しか持ってねえしな……」


「……これ飲んだら行くか」


そんな調子で始まった二日目の調査は、当然ながら芳しくない結果に終わった。


「これ、もう情報収集っていうか、ただの酒場巡りじゃねえか?」


「うるせえ、俺たちがいる場所が調査対象なんだよ!」


そんな謎理論を振りかざしながら、二人は二日目を終えた。



三日目、朝から雨が降りしきるリーガム街。

二人はビロードのマントを羽織り、しぶしぶ歓楽街へと向かった。


「雨の日は気が乗らねえな……」


「昨日も言ってたぞ、それ」


「で、今日もエイラから1銀貨を貰って……っと」



某酒場にて――

「よし、飲むか!」


「飲むぞ!」


二人は勢いよくジョッキを合わせ、今日も酒場の扉を開けた。


酒場でエールを煽る二人。


「……もうこれで最後か」

ザックは銀貨を見つめ、哀愁を漂わせる。


「……あっという間だな」

フレッドもため息混じりに言った。


実際、彼らの金遣いの荒さは目を見張るものがあった。

飲める時に飲む、食える時に食う――それが彼らのポリシーだ。



そこへ、一人の男が近づいてきた。

「なんだなんだ、若えもんがしけたツラしやがって」

男は酒の匂いを漂わせながら、笑みを浮かべて言う。


ザックとフレッドは軽く睨みながら、ジョッキを空けた。


「この酒を飲み干したら出ていかなきゃならねえ」

フレッドが言う。


「金がねえんだよ」

ザックは少し怒った口調で付け加えた。


男はにやりと笑い、「なんだ、そんなことか」と言った。


「それなら俺が奢ってやるよ。その代わりに――」


「お前、いいやつだな!」


「奢りか! 最高だな!」


男が何か言いかけたところで、ザックとフレッドは即座に給仕を呼び、次から次へと注文し始めた。食うわ飲むわ。


「奢りで食う飯はなんでこんなにウメエんだろうな!」


「酒もだ!」


驚くほどの勢いで料理を平らげ、ジョッキを何度も空にする二人。


一方で、男の顔には冷や汗が浮かび始めていた。


「……お二人さんよ、それでちょっと聞いてほしいことがあるんだけどよ」


ザックとフレッドは満腹で満足げに腹をさすりながら、男を見た。

「なんでも言ってみろ」


「おう、聞いてやんよ」


男はゴクリと唾を飲み込み、真剣な表情で口を開く。

「少し、仕事を手伝ってくれねえか?」


ザックとフレッドは即座に顔を見合わせ、頷く。


そして、異口同音にこう言い放った。

「断る!」


「話は聞いてやったぞ!」


男は呆然としながら、二人を見つめる。

「お、おい……! まだ内容を言ってねえだろ!」


「関係ねえ! 仕事は嫌だ!」


「俺たちは酒を飲みに来たんだ! 仕事の話なら、まず酒を奢ってからにしろ!」


「いや、もう奢ってるだろ!」


「そういやそうだったな」


「じゃあ、これで解散だな!」


「おう、またな!」

ザックとフレッドは満腹で満足げに酒場を後にし、男を置いて店を出ていく。

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