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光を求めて  作者: kotupon


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 薄暗い倉庫の一角で、緊張感の漂う空気の中、マリウスが静かに問いかけた。

「協力してくれるってことでいいのかな?」


 シマは腕を組みながら答える。

「俺たちにも事情があるんでな」


 その返答に、マリウスは満足そうに頷きながらも、どこか探るような目で続ける。

「そうか、それは助かるよ。でもそんなに簡単に僕たちのことを信用してもいいのかい?」


 シマは少し笑ってから、肩をすくめた。

「これでも人を見る目はある方だ」


 その言葉に、王家特別監察官の面々と、シマたちの仲間のうち、フレッド、クリフ、ケイトを除く全員がクスクスと笑い始める。


 シマが首を傾げながら「何がおかしいんだ?」と首をひねる。、


笑いを収め、マリウスが口を開いた。

「ところでシマ、君たちリュカ村で早速やらかしたみたいだね……村長をボコボコにしたんだって?」


 シマは表情を変えずに短く答える。

「……まあな」


 その言葉に、モーガン・エステベスが渋い表情を浮かべながら続けた。

「村長の息子がカシウム都市に向かった。訴え出るだろう」


 シマはため息をつきながら問いかける。

「受理された場合は?」


 今度はジャンが答えた。

「身柄を拘束するために動くだろうな。軍か憲兵かは知らないが」


 しばらく沈黙が流れる。


 やがて、マリウスが慎重に言葉を選びながら言う。

「領主館に帰ったら、ブランゲル侯爵家に手紙を出すよ。無下にはされないと思うけど……それでも、こっちにも拘束命令や出頭命令が要請されるかもしれない。その時は大人しく従ってくれるといいんだけど?」


 シマは静かに目を細め、マリウスの言葉を噛み締めるように一瞬の間を置いた。

「この件が片付いたら考えるさ」


 その言葉を聞いたマリウスは小さく笑い、深く頷いた。

「なるほど。まあ、無駄に事を荒立てるつもりはないし、僕もできる限りの手を打つよ」


 しかし、彼の表情には警戒の色が見え隠れしていた。

シマたちが今後どのように動くのか、彼もまた慎重に見極めようとしているのだ。


 シマはそんなマリウスの視線を受け止めながら、小さく息をつく。

(俺たちの動きが、少しずつ大きな流れに組み込まれつつある……?)



シマたちとマリウス、王家特別監察官の情報交換は、三日に一度、午前二時にこの場で行われることが決定された。

何か緊急事態が発生した場合は、シマたちが宿泊している宿『トーコヨ』に連絡を入れればすぐに対応できるよう、宿の主人にも話を通しておくこととなった。


その話を最後に、シマたちは迷いなくその場を後にした。

彼らの姿が完全に見えなくなるまで見送った後、マリウスと王家特別監察官たちは、まるで緊張の糸が切れたかのように大きく息をついた。


「ふうぅ~……」

モーガン・エステベスが大きく息を吐きながら肩を回す。

「班長……あいつら一体何者なんです? まるで勝てる気がしねえ……」


「だろ?」

ワーレンがニヤリと笑いながら肩をすくめる。

「だから言ったじゃないか、俺は嘘はついてないって」


「君たち四人が一斉にかかれば、一人くらいは殺せるんじゃない?」


マリウスが軽く冗談めかして言うが、その言葉に即座に反応したのはジャンだった。


「……掠り傷ひとつ負わせれば上出来でしょうね」


「無理無理! 絶対無理です!」

キャシー・ネイサンが叫ぶように否定した。

「抜刀した瞬間に私たちが死んでます!」


マリウスは驚いたように目を瞬かせた。

王家特別監察官といえば、国内でもトップクラスの精鋭たちだ。

彼らの実力をもってしても、まったく歯が立たないと断言するほどの相手。

それがシマたちなのか。


「……あの時、剣を抜かなくて良かった」

思わずマリウスは胸を押さえ、安堵のため息をついた。

もしあの場で誤って剣を抜いていたら、間違いなく自分は死んでいただろう。


「それにしても、あの少年……シマって言ったか?」

ワーレンが腕を組みながら呟いた。

「彼が一番恐ろしい気がする。さっきの一睨みでキャシーが腰を抜かしていたけど、俺も正直、背筋が凍ったよ」


「うぅ……思い出したくないです……!」

キャシーが顔を覆うようにして震える。

今まで数々の死線を潜り抜けてきた王家特別監察官の一人である彼女が、ここまで怯えるのは尋常ではない。


「確かに」

ジャンが顎に手を当てながら思案する。

「あの年齢であれだけの威圧感を放てるのは異常だ。おそらく彼は……いや、考えすぎか?」


「いや、考えすぎではないさ」

マリウスが真剣な表情で言葉を続ける。

「彼らの強さは、常識の範疇を超えている。僕たちは気を引き締めないと、あっという間に飲み込まれるぞ」


「……賛成だ」

モーガンが神妙に頷く。

「今後、彼らと関わる時は慎重にした方がいいですね。あまり深入りしすぎると、俺たちの命が危ない」


場に重苦しい空気が流れた。


「まあ、そう警戒するなよ」

ワーレンが軽く笑いながら肩をすくめる。

「少なくとも今は、俺たちと敵対するつもりはなさそうだ。むしろ、共通の敵を持っているんだ。うまく協力すれば、俺たちにとっても悪い話じゃないさ」


「……それはそうだけど」

キャシーが不安げに呟く。

「でも、もし彼らが敵に回ったら?」


「その時は……」

マリウスは少しだけ考え込み、苦笑いを浮かべた。

「その時は……僕たちは全力で逃げるしかないね」


誰もその言葉を否定する者はいなかった。

それほどまでに、シマたちが放つ威圧感と実力は圧倒的だったのだ。

そうして、王家特別監察官とマリウスは静かにその場を後にした。



宿へと戻る道中、サーシャはエイラに優しく語りかけた。

「エイラ、復讐したい気持ちは分かるけど、絶対に一人では動いちゃダメよ。」


ノエルも続く。

「そうよ、私たち家族が何のためにいるのか考えて。」


「私たちをちゃんと頼りなさいよ。」

ケイトがエイラの肩を軽く叩く。


メグも真剣な表情で言う。

「一人で何とかしようと思ったら、絶対に許さないからね。」


エイラは少し驚いたように家族たちを見つめたが、すぐに優しく微笑んだ。

「……フフッ、わかってるわ。」


 


宿へ戻った一行は、ひと眠りをしてから1階の酒場で話し始めた。

時間的に午前十時頃。遅めの朝食をとりながら、今後の行動について話し合う。


「さて、どう動くかだな。」

シマが口火を切る。


「まず、リュカ村に行くのは俺とロイドだな。昼間は活動せず、夜に村長宅と商店を探る。村の住民との接触は避けるようにする。」


「教会と神父の動向を調べるのは?」


ロイドが確認すると、サーシャが名乗りを上げる。


「それは私たちがやるわ。ケイト、ミーナ、メグ、ノエル、リズと一緒に。炊き出しやミサの手伝いをしながら、可能ならば教会の内部に潜入するわ。」


「領主館の方は?」


クリフが尋ねると、ジトーが答える。


「俺、クリフ、オスカーの三人で調べる。特に家宰のドノバン・マルチネスと、領主館への出入り業者に注目する。何か不審な点があればすぐに報告する。」


「エイラとトーマスはどうする?」

ミーナが聞く。


「私たちは街での情報収集、それと馬車に積んである余った毛皮なんかを売って、少しでも資金を確保するわ。」


「それから……」シマが続ける。「歓楽街の調査だ。」


これには特に女性陣から強い反対の声が上がった。


「そんなところに行かせるわけにはいかないわ!」

「遊び歩くに決まってるわ!」

「お金をドブに捨てるようなものだわ!」


しかし、ザックとフレッドが強く主張する。

「俺たちに任せろ!」

「適任は俺たち以外にいねえ!」


女性陣とのすったもんだの議論の末、結局ザックとフレッドが歓楽街の調査を担当することに決まった。


「やることは情報収集と、怪しい奴がいたら尾行だ。いいな?」

シマが念を押す。


「分かってるって!」

ザックが胸を叩く。


そして、エイラからザックとフレッドに一銀貨が渡される。

「これで足りるわよね。」


「少なすぎる!」

猛反発する二人。


だが、ジトーがすかさず口を挟む。

「なら俺が代わりに行くか?」


「いや、それはダメだ!」

「この任務は俺たち以外には務まらねえ!」

ザックとフレッドが力強く宣言する。


「なら決まりだな。」


 

その後、シマとロイドがリュカ村へ向かう際、ザックとフレッドは「活動資金だ」と言ってシマから一金貨をせしめる。

「お前ら、絶対に真面目に使えよ。」


「もちろん!」

「誓って!」


しかし、その場にいた全員が、彼らが適切に使うとは到底思えなかった……。

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