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光を求めて  作者: kotupon


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シュリ村での再会

 ノーレム街を出発して三日目の朝、空は高く澄み渡り、柔らかな風が草原を撫でていた。


 馬車を駆るロイドの横で、リズがそっと微笑む。

「いいところね」

 景色を見渡しながら、彼女は優しく言った。


「……何もない、ただの村だよ」

 ロイドは少し照れくさそうに答えたが、その声にはどこか安堵の響きが混じっていた。


 彼の視線の先には、ちらほらと畑仕事をする農夫たちの姿があった。

彼らは簡素な布の衣服をまとい、鍬を振るいながら小麦畑を整えている。

風にそよぐ麦の葉はまだ青く、夏の訪れを待つように揺れていた。


「…今年は大丈夫そうだな」

 ロイドは小さく呟いた。


農作物の出来は村の命運を握る。この分なら、大きな不作にはならないだろう。


門?のようなところに自警団?村人らしき男二人が立っいた。

村に入るには一人1銅貨だと言う。

シマは2銀貨を渡して残りは一杯ひっかけてくれと言う。

馬車は村の入り口を抜け、徐々に中心部へと進んでいく。


 道端で遊んでいた子供たちが、大きな馬車の列を見て足を止めた。

興味津々にこちらを見つめ、年長の少年が小さな弟の手を引いて後ろへ下がる。

畑仕事をしていた老人たちも手を休め、遠目に一行を眺めた。


 ロイドの実家は、村の家々の中では比較的大きな造りだった。


「家に着いたら、君を父さんと母さんたちに紹介したいんだけど……ついてきてくれるかい?」

 ロイドは、隣のリズに小さく尋ねる。


 リズは驚いたように彼を見たが、すぐに優しく微笑んだ。

「ええ、喜んで」


 ロイドは少し緊張していたようでホッと息を吐いた。



「ちょっと待っててくれ」

 シマたちは頷き、馬車を止めて彼の帰郷を見守ることにした。


 ロイドはリズの手を引き、家の前に立つ。

少しの躊躇の後、拳を握り、扉を叩いた。


 数秒の沈黙の後、中から足音が近づいてくる。

 扉が開いた。


 現れたのは、三十代半ばの優しげな女性だった。

栗色の髪を後ろで束ねた彼女の顔には、どこかロイドと似た面影がある。


 彼女はロイドの姿を認めた瞬間、目を大きく見開いた。

 そして、涙が溢れ出すのと同時に、崩れ落ちるように膝をつき、ロイドの腰にしがみついた。


「ロイド……? ロイドなの……?」

 嗚咽混じりの声が、震えながら彼の名を呼ぶ。


「……母さん、ただいま」

 ロイドは優しく母の肩を抱き寄せた。


 母親はそのまま、子供のように泣きじゃくる。

「生きてたのね……! ずっと……ずっと……!」

 彼女の指がロイドの服を強く握りしめる。


「ごめん、心配かけた……」

 ロイドの声も震えていた。


 リズは少し離れたところで、静かに二人の再会を見守っていた。

その瞳には、暖かい感情が揺れている。


 しばらくして、家の奥からもう一つの足音が聞こえた。

 中から出てきたのは、四十代ほどのがっしりとした男性だった。

 ロイドの父親だった。

 彼は泣き崩れる妻と、それを抱きしめる息子の姿を見つめ、無言で立ち尽くした。

 目を細め、拳を握りしめる。その唇は微かに震えていた。


「……父さん」

 ロイドがそう声をかけた瞬間、男は数歩の距離を一気に詰めた。


 そして、迷うことなくロイドの肩を掴み、そのまま力強く抱きしめた。

「よく……よく生きて帰ってきた……!」

 声がかすれ、しかし震えるほどに強い想いが込められていた。


 ロイドは驚いたように一瞬動きを止めたが、すぐに父の背に腕を回した。

 その背中は、大きく、温かかった。


 ようやく、ロイドは本当に帰ってきたのだと実感した。


 リズはそっと微笑み、静かにその場に立っていた。


 ロイドの家族の再会に、言葉はもう必要なかった。


涙と安堵の再会を果たしたロイドと家族は、ようやく落ち着きを取り戻し、家の中へと通された。


 家の中は温かみのある木造りで、使い込まれた家具が整然と並んでいる。

テーブルの上には、焼きたてのパンとミルクの入ったカップが置かれ、まるで帰りを待っていたかのようだった。


「さあ、奥へお入りなさい」


 母親が優しく促すと、リズとロイドは静かに頷き、席についた。


 その時、奥の部屋からバタバタと小さな足音が響いた。


 現れたのは、十二歳の少年と十歳の少女だった。


 少年の方は目を輝かせると、勢いよくロイドに駆け寄った。

「…兄さん!」

 ロイドの四つ下の弟、ハイドだった。


 彼は兄の前で立ち止まると、信じられないような表情を浮かべた後、力強く抱きついた。


「兄さん、本当に兄さんだよな!? 生きてたんだな……!」


 その腕には、幼い頃の憧れがそのまま詰まっているようだった。


「ハイド……ずいぶん大きくなったな」

 ロイドは微笑みながら、弟の背を優しく叩いた。


 一方、もう一人の少女――ロイドの六つ下の妹、ミシェルは、じっと兄を見つめていた。


 彼女の顔には、どこか困惑の色が浮かんでいる。

「……誰?」


 幼い頃に兄を失ったミシェルにとって、ロイドの記憶はほとんど残っていなかった。

 無理もない。

ロイドが奴隷商人に連れて行かれたとき、彼女はまだ四歳だったのだから。


 ロイドは苦笑しながらしゃがみ込み、そっと妹の目線に合わせた。


「ミシェル、大きくなったな……」


 しかし、彼女は戸惑いながらも、兄の顔をじっと見つめ続けた。


 そんな時、父親がロイドに目を向け、初めて問いかけた。

「……ロイド、そちらのお嬢さんは?」


 ロイドは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに胸を張り、堂々と言った。

「僕の家族さ」


 その言葉に、母親の目がぱっと輝いた。

「まあまあまあ、こんなきれいなお嬢さんが、あなたのお嫁さんなのね!」

 先ほどまで泣きじゃくっていたとは思えないほど、母親は喜色満面だった。


 リズは微笑みながら、見事なカーテシーを披露した。

「初めまして、リズと申します。こうしてお会いできて光栄です」


 その優雅な振る舞いに、ロイドの父は感嘆の声を上げた。

「ロイド、やるな! さすが俺の息子だ!」


 ハイドも驚いたように目を丸くし、ミシェルはまだ少し困惑していたが、リズの優しい笑顔を見て、どこか安心したようだった。


 温かな空気の中、全員が席に着く。

 ロイドは、あえて深淵の森での過酷な生活には触れず、穏やかに語り始めた。


「父さん、僕にはやらなければいけないことがある。だから……跡を継ぐことはできない」


 その言葉に、父親は少し驚いたようだった。

「やらなければいけないこと……とは?」


 ロイドは静かに息をつき、しっかりとした口調で答えた。

「家族たちの夢や目標を手助けすること、そして……リズの夢を叶え、支えること」


 その言葉に、リズはそっと微笑むと、彼の手を優しく握り返した。


 父親はしばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。

「……そうか」


 彼はロイドの言葉をじっくりと噛みしめるように、静かに受け止めていた。


 その場の空気が落ち着いたころ、ロイドは立ち上がり、言った。

「そうだ、まだ僕たちの家族を紹介していなかったね」


 そう言って、彼は家族を外へと連れ出した。


 家を出ると、父親はハッと息をのんだ。


 ロイドの姿を、改めてしっかりと見つめる。


「……ロイド、お前……」


 父の視線の先には、かつての幼い息子の姿ではなく、堂々たる青年の姿があった。


 ロイドの身長は、いつの間にか父親よりも高くなっていた。


 体格も以前とは比べものにならないほど大きく、逞しくなっていた。


 彼はもう、守られる存在ではなく、自らの意志で道を切り拓く存在になっていた。


 父親は、言葉を失ったまま、しばらくロイドを見つめ続けていた。


 その横で、リズが静かに微笑みながら、そっとロイドの手を握りしめた。


 ロイドは、家族の前で誓った言葉を胸に、新たな道を進む覚悟を決めていた。
















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