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光を求めて  作者: kotupon


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挑戦

深淵の森の近くにある街道。


馬車の轍が刻まれたその道を進みながら、シマたちは周囲の気配を慎重に探った。


「誰もいないな。行こう。」

シマの小さな声に、仲間たちは静かに頷いた。

そして、一行は森の奥へと足を踏み入れた。


深淵の森は、外界とは異なる空気を纏っている。

濃密な木々が頭上を覆い、日中でも薄暗い。その静けさと湿った空気は、まるで別世界に足を踏み入れたような錯覚を覚えさせた。


道なき道を進みながら、シマたちは深く入り込んでいく。

険しい道のりだったが、彼らにとっては慣れたものだった。

二日間かけて進み、ついに自分たちの深淵の森の中の家へと辿り着く。


「……帰ってきたな。」

家の前に立ち、シマは安堵の息を吐いた。

ザックやサーシャ、ジトーたちも、それぞれ感慨深げに木造の建物を見つめる。


「ようやくいつもの日常に戻れるな。」


彼らにとって、この森こそが"家"だった。



一方、「大嵐」傭兵団は、ノーレム街を経由してゼルヴァリア軍閥国へと向かうことになった。

彼らとは野営地で別れることになる。


出発の朝、サーシャやミーナたち女性陣は女団長と親しげに話していた。

お喋りの最中、女でありながら戦いに身を置く者同士の中で絆が生まれたのだろう。


「またどこかで会えるといいな。」

女団長の言葉に、サーシャたちは頷いた。


そして、オズワルドがシマたちを見つめ、しみじみと言った。

「お前たち……本当に十二、三歳なのか?」


シマが小さく頷くと、オズワルドは大きくため息をつく。

「驚いたな。身体つきも大きいし、戦闘力も普通じゃない。最初に出会ったとき、闇の中から現れたお前たちを見て肝を冷やしたぞ。まさか、これほどの力を持っているとはな……。」


彼の言葉に、シマたちは苦笑するしかなかった。



「冬を迎える前に、しっかり準備しないとな。」

シマの言葉に、仲間たちは頷いた。


ここ数年、彼らはこの森で生き抜いてきた。

その経験を生かし、冬に備えるため、積極的に狩猟、漁、採取に出かけることにした。


森の奥で狩をして、川で魚を捕る。シカやイノシシ、鳥を狩り、その肉を干し肉にして保存する。

さらに、薬草類の研究と試験栽培、裁縫、矢の制作も並行して進めた。

冬場に備え、食糧だけでなく念のため薬の備蓄も欠かせない。


そして、夕方には鍛錬に励んだ。剣、槍を振るい、格闘技術を磨く。

これまでの戦いを振り返り、それぞれが反省点を洗い出す。


そんな日々の中で、仲間たちのマントにはそれぞれの象徴が縫い付けられていった。


「……ケイト、不器用すぎるぞ。」


「う、うるさいわね!これでも頑張ってるの!」

ケイトがクリフのマントに慣れない手つきで薔薇のタペストリーを縫い付けていた。


「トーマスのマントには、盾のタペストリーを縫っておいたわ。」

ノエルが誇らしげに言う。

彼女の縫い目はきっちりとしていて、美しい。


「オスカーのマントには獅子のタペストリーを縫ったよ!」

メグが笑顔で見せる。

少し歪んでいるが、力強さを感じさせる縫い目だった。


「俺のマントは?」


ザックがサーシャを見ると、彼女は渋々と言った。

「仕方なく槍のタペストリーを縫い付けておいたわよ。」


「仕方なくって……。」


「文句言わない!」


そんなやり取りに、仲間たちは笑い合った。


シマは手元の材料を見つめながら、どうにかして衣類や靴を水濡れから守る方法を考えた。

手元にあるのは蝋燭。

シマは前世の記憶を頼りに、蝋を布に塗り込んで防水性を持たせる手法を試すことにした。


「よし、やってみるか」


まずは小さな布の切れ端を用意し、蝋燭をこすりつけてみた。

すると、蝋の白っぽい跡が布に残った。

だが、指で擦るとポロポロと剥がれ、布地にしっかりと馴染んでいないことが分かった。


「これじゃあ駄目だな……どうにかして、蝋を布に染み込ませないと」


次に試したのは、蝋を火で溶かして塗る方法だった。

シマはナイフで蝋燭を細かく削り、金属皿の上で溶かした。

それを筆代わりの布切れでマントに塗りつけてみる。


「お、さっきよりは馴染んでるな……でもまだ不十分だな」


布に塗り広げた後、触ってみるとまだ固まりが残っており、ムラができていた。

水をかけて試すと、一部は水を弾いたが、別の部分はすぐに濡れてしまった。


「均等に染み込ませないとダメか……」


シマは次に、溶かした蝋を塗った後、火の遠い場所でじっくり温める方法を試した。

焚火のそばに布を広げ、熱が蝋を溶かしながら染み込んでいくように調整する。


しばらくして布を取り出し、指で触れると、表面が滑らかになり、蝋がしっかり布地に浸透しているのが分かった。今度は、水を垂らしてみる。


「……よし、弾いてる!」


完璧とはいかないが、ある程度の防水性が確保された。


この方法を応用し、マント、防寒着、ブーツにも順番に施していった。

特に靴は地面の湿気を吸いやすいため、底の部分にもしっかりと蝋を染み込ませた。


作業を終えたシマは、外へ出て試すことにした。

川に向かい、靴を浅く浸してみる。

しばらく待ってから引き上げると、靴の表面には水が染み込んでおらず、滴が転がり落ちていった。


「これなら十分使えそうだな」


完全防水とはいかないが、雨や雪が直接染み込むのを防ぐ程度の加工には成功した。

シマは満足げに頷きながら、マントを軽く振ってみる。

水滴が細かく散り、布地の奥まで浸透していないことを確認した。


「これで少しは雨が降っても凌ぎやすくなるはずだ」


こうして、シマたちの冬支度の一環として、防水加工の技術が確立されたのだった。


ある日の夕方、深淵の森の家にシマの奮闘が響いた。


「今日は肉を使って、新しい料理を試してみようと思う」


家族たちが興味深そうにシマを見つめる。

用意した材料は塩、胡椒、油、肉、パン粉。前世の記憶から「ハンバーグ」に近いものが作れるはずだと考えた。

だが、調味料も限られ、卵や牛乳もない。果たしてどこまで近づけるか……。


まずは肉を刻み、できるだけ細かくする。

ひき肉がないので、包丁で叩くようにして粘りを出した。

そこに塩と胡椒を加え、最後にパン粉を混ぜる。


「よし、これでなんとか形になるはず」


手で丸めようとした瞬間、ボロボロと崩れた。

パン粉がつなぎにならず、まとまりが悪い。シマは首をかしげた。


「何かが足りない……。水分が必要か?」


次に、ほんの少し水を加えてこねてみる。

多少まとまりやすくなったが、まだ柔らかくない。

さらに時間をかけてしっかり捏ねると、手の熱で肉の脂が溶け、やっと粘りが出てきた。


「今度は大丈夫そうだ」


フライパン代わりの鉄板を温め、油を敷いて肉の塊を置く。

ジュワッといい音が響き、家族たちが「いい匂いがするな」と集まってきた。

しかし、ひっくり返そうとした瞬間、バラバラに崩れた。


「えっ!? なんで……」


どうやらつなぎが足りず、熱で肉が縮み、分離してしまったらしい。

仕方なく、細かくなった肉を炒め直して食べることにした。

味は悪くないが、ハンバーグとはほど遠い。


「シマ、これはこれで美味いぞ!」

「うん!十分美味しいわ」

「いや、でもこれは俺の求めているものとは程遠いな」


失敗を踏まえ、シマはもう一度考えた。

前回はつなぎが足りなかった。

そこで、パン粉を水でふやかしてから混ぜることにした。

さらに、肉を刻む段階でできるだけ細かくすることを意識した。


再び捏ねてみると、前回よりも明らかにまとまりやすい。

手の温もりで脂がなじみ、弾力が出てきた。

今度は焼くときに気をつけ、最初は強火で表面を焼き固めてから、弱火にしてじっくり火を通した。


「今度こそ……」


慎重にひっくり返すと、形が崩れず、しっかりした焼き色がついている!

シマはほっと息をつき、じっくりと中まで火を通した。

仕上げにもう一度軽く塩を振り、ついに完成。


「これが、俺の作ったハンバーグもどきだ」


「ハンバーグ?」

「聞いたことがないわね」

「こいつが変なことを言い出すのはいつものことだろう」

「そうそう気にしちゃ駄目よ」


皆が一口食べると、すぐに笑顔になった。

「うまい!」

「肉の旨みがしっかりしてるな!」


特にメグは夢中で頬張り、目を輝かせながら言った。

「お兄ちゃん!また作って!」


シマは満足げに頷きながら、ようやく自分の試行錯誤が報われたことを実感したのだった。
























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