表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光を求めて  作者: kotupon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/444

仲間割れ?

 夜闇に包まれた野営地。その静寂を切り裂くように、怒号が響いた。


「……案の定ってところだな。」

 焚火の光をぼんやりと受けながら、フレッドが呆れたように呟く。

「どうやら、始まったみてぇだぜ。」


 シマはすぐに立ち上がり、ザックに目配せする。

「行ってみるか。」


「おう。」

 二人は迷いなく歩き出した。


 ジトーたちは、シマの指示で焚火から30メートルほど後方の位置に展開し、半円状に待機する。


 一方、シマとザックは暗闇の中を静かに進んでいく。

 野営地の奥へと歩く彼らの目に映るのは、漆黒の闇に浮かび上がる焚火の灯。

 その明かりがぼんやりと周囲を照らし、暴動が起こっていることをはっきりと伝えていた。


 混乱の渦

「……さて、女団長はどこにいる?」


 シマは周囲を見渡し、焚火の明かりの向こうに、何人もの男たちに囲まれる人影を見つけた。

 劣勢だ。


「……助けるか?」

 ザックが囁く。


「仕方なくな。」


 二人は闇に身を潜めながら、ポケットに忍ばせていた小石を取り出す。

 慎重に狙いを定め――投擲。


 並外れた身体能力を誇る二人が投げる小石は、ただの石ころではない。

 当たり所が悪ければ、命すら奪いかねない一撃必殺の暗器と化す。


 ガスッ!


 暗闇の中、男の一人が突然崩れ落ちた。


 ガンッ!


 別の男が呻き声を上げ、そのまま前のめりに倒れる。


「な、なんだ!?」


 敵側の団員たちが混乱し、周囲を見回す。


 しかし、シマとザックはすでに別の位置に移動し、次の投擲を放つ準備を整えていた。

 投げては潜み、投げては潜む――それを繰り返す。


 次第に戦況が変わっていく。


 敵側の団員たちは、恐怖に駆られて動揺し始めた。

 その隙を逃さず、女団長側の団員たちが反撃を開始する。

 シマとザックは投擲を止め見守る。 


 三人、四人と敵が切り倒され、囲んでいた者たちが全て倒される。


 その瞬間を見計らい、シマとザックは姿を現した。


 二人の突然の出現に、女団長の側近たちと思われる団員たちが反応する。

 数名が即座に剣を構え、警戒しながら刃を向けてきた。


 シマは肩をすくめる。

「……命の恩人に対する行動じゃねえな。」


 その言葉に、背後から女団長の声が響く。

「やめろ!」


 団員たちは動きを止めた。


 女団長は乱れた息を整えながら、シマたちに目を向ける。

「……お前は……そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。」


「シマだ。こっちはザック。」


 彼女はシマを見つめると、少し納得したように頷いた。

「……先ほど、突然倒れた団員たち。お前たちの仕業か?」


「そうだ。」

 シマは迷いなく答えた。

「それより、状況を教えてくれ。」


 女団長は少し眉を寄せる。

「……愚か者どもが、お前たちを襲おうとしたんでな。見せしめのために斬った。」


「……斬ったはいいが、その後の収拾がつかなくなったと?」


 女団長は深いため息をつく。

「……そういうことだ。」


 シマは周囲を見渡しながら問う。

「敵味方の判別は?」


「腕に赤い布を巻いている者たちは味方。それ以外は敵だと思ってくれていい。」


 戦場は混沌としていた。


 女団長側の団員は、およそ三十名ほど。動ける者は二十人。


 対する敵側の団員は、おそらく七十から八十人。動ける者五十人。


 敵側の団員たちは統率が取れておらず、戦いに迷いが生じている。

 恐怖によって士気が落ちた者もいれば、今も女団長を狙っている者もいる。

 また、サーシャたちを襲おうとする者もいた。


 ――焚火の炎がゆらめく。


 夜闇の中、ふと獣のような声が響いた。

「おい!あそこに焚火の灯りが見えるぞ!」


 荒々しい足音が地面を踏みしめながら、焚火のほうへと向かってくる。

 先頭を走る男が、獲物を見つけたとばかりに叫ぶ。


「女ァー!女を寄越せェー!」


 それに続いて、下品な笑い声が響いた。


「ハハハッ!犯しまくってやるぜえ!」


「俺が最初だァ!邪魔すんなよ!」


 ならず者の団員たちが、血走った目で焚火を目指し、駆け寄る。

 彼らの数は十九名。


 彼らにとって、焚火の灯りは希望の象徴ではなく、暴虐の標的だった。

 この世にはびこる蛮行の数々。

 弱き者たちの悲鳴、嗤いながら蹂躙される命。


 ――だが、今夜は違う。


 その焚火は、ただの灯りではない。

 死の灯火だった。


 ならず者たちは、そのことを知らない。

 いや、知ることさえ許されない。


飛んで火に入る夏の虫

 先頭の男が息を切らしながら、焚火の光の中へと飛び込んだ。


「ハア…ハア…――いねぇ!」


 そこにサーシャたちの姿はない。


 ドッ!


 鈍い音が響いた。


「ぐっ…!?」


 ――その瞬間、矢がならず者たちの身体を貫いた。


「ガッ!」


「ビャッ!」


「ヒギッ!?」


 次々と絶命していく。


 ならず者たちは、今の今まで獲物を追う狩人であったはずだった。

 だが、気づけば逆だった。

 ――狩られる側になっていたのだ。


 それは、容赦のない狙撃 だった。


 弓を放ったのはサーシャ、ケイト、ミーナ、メグ、エイラ、ノエル、リズ、そしてオスカー。

 焚火の灯りから少し離れたところで、彼女たちは息を潜め、正確無比な狙撃を続けた。


 彼女たちが扱う弓は、ただの弓ではない。


 強弓きょうきゅう――

 一般の弓とは一線を画す、桁違いの威力を持つ弓 だった。

 オスカーも家族たちも普通の弓だと思っていたが。


 さらに、使う矢も規格外だった。


 通常の矢の三倍もの太さを持ち、

 鏃には返しがついておらず、貫通力が極めて高い。

 矢羽根欠と呼ばれる形に近い。

 この矢を受けた者は、たとえ急所を外れても、骨を砕かれ、内臓を貫かれる。

 そして、深い致命傷を負う。


 そもそも、この特殊な矢を意図して作ったわけではなかった。

 サーシャたちの要望に応えて試作として作ったものが、結果的に最強の矢となっただけのこと。


 だが、それを使いこなすには尋常ならざる膂力が必要だった。

 シマたちの仲間には、それがあった。


 サーシャも、ケイトも、ミーナも、他の仲間も――

 シマたちの家族同様、全員が並外れた身体能力を持っていた。


 その結果、彼女たちが放つ矢は、まるで槍のように敵を貫いた。


「ぐあああああッ!」


 ならず者の一人が喉を押さえ、もがく。

 だが、その苦悶も長くは続かない。


 ――次の矢が、その頭を撃ち抜いた。


 戦場にあるのは、一方的な殺戮。

 ならず者たちは何が起きているのかすら理解できぬまま、地面に倒れ伏していく。


 そして――


 最後の一人が沈黙した。


静寂の中で

 焚火の周囲には、十九の死体が転がっていた。

 血だまりが広がり、地面に新たな赤を刻む。


 オスカーが矢を番えたまま周囲を確認し、小さく息をついた。

「……終わったかな。」


 それを聞いて、ミーナが弓を下ろす。

「ええ。生き残りはいないわね。」


 ケイトが手に持った矢をしまいながら、満足げに頷く。

「思ったよりも簡単だったね。」


「まあ、戦略勝ちよ。」

 ノエルが微笑みながら矢を片付ける。


 ジトーがその様子を見ながら、呆れたように呟いた。

「……俺たちの出番が全くなかったな。」


 その言葉に、トーマスが苦笑する。

「まあ、一応備えてたけどな……」


「まさか、こうも一瞬で終わるとはな。」

 クリフは倒れたならず者の死体を見下ろしながら、肩をすくめた。


 シマの仲間たちは、ただの子供ではない。

 戦場において、狩人と化す戦士たちなのだ。


 それを知らずに突っ込んできたならず者たちは――

 哀れにも、一矢のもとに狩られた。


 












 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ