表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光を求めて  作者: kotupon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/444

休息

ジャンク宿。

部屋の扉が静かに開き、ジトー、ザック、オスカーの三人が戻ってきた。


「……終わったぜ」


ジトーがそう告げると、部屋にいたエイラ、ミーナ、メグが一斉に彼らへと視線を向けた。


「怪我は?」

ミーナが最初に確認する。


ジトーは肩をすくめ、ザックとオスカーも軽く首を振った。


「大丈夫だ。誰も騒がれないように、静かにやった」

ザックがニヤリと笑った。

「悲鳴一つ上げさせずに、な」


「トーマス、フレッドとクリフもちゃんとやったぜ。」


ザックの言葉にエイラが小さく息をつく。


「そう……よかったわ」


「それで、そっちは?」

ジトーがエイラに話を振る。


「鑑定士にブラウンクラウンを見せたわ。買い取り商人や商会に卸せば2~3金貨、競売にかければ5金貨以上になるらしいわ」


「思ったより高ぇな」

ザックが目を丸くする。


「ダミアンって人の買い取り額よりは高いけど、彼はノルダランから来てる商人だからね。持ち帰る途中で傷んでしまったら、全部無駄になるでしょ?」


エイラの説明に、ジトー、ザック、オスカーが「ああ、そういうこと」と納得する。


「それに、希少価値のあるものを簡単に売りさばく商人は三流以下よ」


「なるほどな……商人の世界もいろいろあるんだな」

ジトーが感心したように頷いた。


ひと段落ついたな。

空気が緩み、一同の表情に安堵の色が浮かぶ。

長い夜だったが、やるべきことはやった。そして――


「せっかくだから、少し街を楽しもうぜ」

ザックの提案に、誰も異論はなかった。


二日間、彼らは慎重に行動しながらも、ノーレムの街を満喫した。


スカーフで口元を覆い、目立たないようにしつつ、市場を巡る。

露店には珍しい果物や野菜が並び、初めて見る品々にメグは目を輝かせていた。


「これ、甘いのかな?」


「試してみれば?」


そんな会話をしながら、彼らは少しずつ食材を買い、ジャンク宿へと持ち帰った。


「宿の厨房、使ってもいい?」


「2銅貨払えば、自由に使っていいぞ」


宿の主人に許可を得ると、エイラたちは持ち帰った食材で料理を作った。

スパイスの効いたスープ、焼いた肉に甘いソースをかけたもの、香ばしく焼き上げたパン。


「うまい!」

ザックが口いっぱいに頬張る。


「こういうの、久しぶりだね……」

オスカーも感慨深そうに呟く。


ほんのわずかな贅沢。

それだけで、疲れが癒えていく気がした。


市場だけでなく、広場でも賑やかな光景が広がっていた。

楽師たちが演奏し、歌を歌い、踊る人々がいた。


激しい動きではないフォークダンスやチークダンスに近い動きだろうか。

だが、そこにいる人々は皆、楽しそうだった。


「……踊りたくなるわね」

ミーナが微笑む。


「目立つ行動は避けろよ」

ジトーが軽く釘を刺す。


「わかってるって。でも、見てるだけでも楽しいでしょ?」


そう言われると、確かに楽しい気分になる。


ふと横を見ると、ザックが歓楽街のほうをちらちらと見ていた。


「ザック、何か気になるの?」


エイラが声をかけると、ザックは慌てて視線を戻す。


「いや、ちょっとな……」


その様子を見て、ジトーがニヤリと笑った。

「興味あるなら行ってこいよ?」


「ばっ……!行くわけねぇだろ!」

ザックが赤くなって叫ぶ。


「ふふっ、ザックってば」

メグが笑いながらからかう。


露店を巡る中で、それぞれ気になるものを見つけていた。


メグは獅子の絵が織り込まれたタペストリーを手に取った。

「オスカーに似合いそう!」


迷うことなく購入する。


一方、ミーナは青く輝くペアのイヤリングを見つけた。

「ジトーとおそろい……いいかも」


安物ではあったが、彼女にとっては特別なものだった。


エイラは紫色の小さな花が付いた首飾りを見つけると、それをじっと見つめた。

「……シマとおそろい」

自然と手が伸びる。


ついでに、槍の模様が織り込まれたタペストリーも購入する。


「ザックにあげよう」


買い物が終わる頃には、皆、自然と笑顔になっていた。


「さて、そろそろ宿に戻ろうか」

ジトーの一言で、一同はジャンク宿へと歩き出す。


彼らは、この街に長く滞在することはできない。

だが、この二日間は間違いなく、かけがえのない時間だった。


それでも―このひとときの安らぎが、彼らの心に確かな力を与えていた。


モノクローム宿。


部屋の扉が重々しく開く。

トーマス、クリフ、フレッドの三人が疲れた様子で戻ってきた。


「おかえりなさい!」

真っ先にノエルが駆け寄る。

その後ろにはサーシャ、ケイト、リズも控えていた。


「どうだった?」

「怪我は?」

「誰かに見られた?」

「うまくいったの?」


矢継ぎ早に質問を浴びせる彼女たちに、トーマスたちは少し苦笑する。

「そんなに焦んなって、全部問題なしだ」

トーマスが肩をすくめると、サーシャたちはホッとしたように息をついた。


「……そう、よかったわ」

「……悲しむ人が少しでも減ればいいわね」

「よかった……」


安堵の表情を浮かべる彼女たちに、フレッドは小さく鼻を鳴らした。

「心配しすぎだろ。俺たちはそんなヤワじゃねぇ」


「でも、無事なのは大事なことよ」


サーシャが微笑むと、フレッドはそっぽを向いた。


そして、彼らは束の間の休息を楽しむことにした。


翌日、女性陣の強い希望で、古着屋巡りが始まった。


「これ、可愛い!」

「こっちもいいわね」

「うーん……でも、どうかしら」


サーシャ、ケイト、ノエル、リズが次々と服を手に取り、あーでもない、こーでもないと悩む。


「お前ら、いつになったら決めるんだよ……」


フレッドがげんなりした顔でぼやくが、彼女たちはまったく気にしない。


「トーマス、こっちはどう思う?」

ノエルがトーマスに聞く。


「えっ……えーっと、どっちも似合ってるんじゃねぇかな……」

無難な答えを返すトーマス。


「それ、どっちもって答えになってないじゃない!」

ケイトが頬を膨らませる。


「もう……男の人ってそうよねぇ」

リズが溜息をつく。


結局、彼女たちは試着を繰り返すだけ繰り返し、何も買わずに店を出た。


「いいのかよ……あんだけ試着して……」


「探してる時間が楽しいのよ!」


女性陣の理屈に、トーマスたちは何も言えなかった。


古着屋を後にした一行は、露店巡りへと移動する。


「おっ、これ美味そう!」

クリフが串焼きを買い、満足そうにかぶりつく。


「こっちの果物、珍しいわね」

ケイトが鮮やかな赤色の果実を手に取る。


そんな中、サーシャは小さな桜の花がついたイヤリングを見つけた。


「……ふふっ」

手に取って眺めると、自然と笑みがこぼれる。

シマにつけさせたら、お揃いみたいになるわね。

そう思うと、すぐに購入していた。


サーシャはついでにミサンガを手に取る。

何気なく選んだそれは、赤と黒の糸で編み込まれたものだった。

「フレッドにぴったりじゃない?」


ケイトは薔薇の刺繍が織り込まれたタペストリーを2枚購入。

「クリフの分も買っておこうっと」


ノエルは盾が織り込まれたタペストリーを手に取り、リズは白い花の首飾りを大事そうに握りしめる。


「……ロイド、喜んでくれるかしら」

小さく呟くリズ。


宿に戻ると、一同は1階の酒場で夕食をとることにした。


「今日は食うぞ!」

フレッドが元気よく宣言し、皆も賛同する。


食事が運ばれ、楽しい宴が始まった。


「シマ、喜んでくれるかしら」

サーシャがイヤリングを見つめながら呟く。


「きっと似合うわよ」

ケイトが微笑む。


そのケイトは、クリフに向かって言う。

「私たち、またお揃いが増えたわね」


「お、おう……そうだな」

クリフはぎこちない笑みを浮かべる。


一方、ノエルは盾のタペストリーを広げてトーマスに尋ねた。

「このタペストリーを服かマントに縫い付けてあげるわ。どっちがいいかしら?」


「どっちでもいいぜ……へへへ」

少し顔を赤らめながらだらしない笑みを浮かべるトーマス。


「ケッ!顔にでも縫い付けてやれ」

フレッドがやさぐれた調子で言う。


「あなたにもミサンガを買ってきてあげたじゃない」

サーシャが笑いながら言うと、フレッドは仰々しく溜息をつく。


「心のこもってないプレゼントをありがとう!」


皆が大笑いした。


食事も終わり、皆が談笑する中、フレッドは突然エールを注文した。


「おいおい、飲むのかよ?」

トーマスが目を丸くする。


「今日はいいだろ……」

フレッドはエールをぐいっと煽る。


一杯、二杯、三杯……


「おい、やめとけって……」


そう言う間に、フレッドは案の定へべれけになった。


「おーい、立てるか?」

トーマスが肩を揺らすが、フレッドはもはやまともに返事もできない。

「ったく……しょうがねぇな」


呆れながらも、トーマスはフレッドを背負い、部屋へと運ぶ。


「……フレッドって意外と甘えん坊なのかもね」

サーシャがクスクス笑う。


「はは……確かにな」

クリフも苦笑する。


こうして、ノーレム街の夜は更けていった。

彼らにとっては、束の間の休息。





















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ