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光を求めて  作者: kotupon


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ひと段落

夜の帳が降りる中、ジトーたちはモノクローム宿へと向かっていた。


走ると目立つ。だが、時間を無駄にはできない。

速足で移動しながら、ジトーは小声で手短に説明を始める。


「三人組の男たちは歓楽街のオアシスって店で飲んでる」

「酔っ払い同士の喧嘩は日常茶飯事だ」

「腕一本、足一本折れたくらいじゃ誰も騒がない」

「だが、殺すのはマズイ」


耳を傾けながら歩調を合わせる仲間たちの表情は真剣だ。

誰一人として冗談を言うものはいない。


「俺たちがやることは単純だ」

「奴らの足を折る」

「叫び声をあげさせない」

「昼間組んだペアで襲う」


ジトーは周囲を見渡しながら、適切な場所を探る。

表通りには、オレンジ色のランタンが吊るされ、ぼんやりとした光を落としている。

だが、その灯りも所々で途切れ、一本裏通りに入れば闇が支配する。

ちょうどいい。


「モノクローム宿に着いたら、クリフとフレッドを呼んで来てくれ」


ジトーがそう指示すると、トーマスが無言で頷き、先行する。


――数分後、トーマスがクリフとフレッドを連れて戻ってきた。


「話は手短にな」


ジトーは先ほど説明したことを要点だけかいつまんで伝える。

クリフとフレッドもすぐに状況を理解し、頷いた。


ペアの再確認

ジトーとオスカー

ザックとフレッド

トーマスとクリフ


「広場を抜けた先、歓楽街との中間地点で襲う」


歓楽街の賑わいから離れ、宿へと戻る男たちは必ず広場を通る。

その道の途中、街灯もなく、店も民家もない暗闇の空間がある。

そこが最適な狩場だった。


ジトーたちはオアシスが見える位置に身を潜め、獲物が現れるのを待った。


酔客が店から何人か出てくるが、目的の男たちはいない。

待つこと自体は苦ではなかった。

深淵の森では、獲物を待つために何時間も潜み続けることはザラだったのだから。

やがて、二時間ほど経った頃だった。


出てきた。


三人組の男たちは陽気に笑いながら店を後にした。

酔っているのか、足取りはおぼつかない。


彼らはジトーたちが仕掛けた罠へと、まるで自ら進んでいくかのように広場へと向かっていった。

ジトーたちは音もなくその後を追う。


中間地点に来た時、一人の男がフラフラと仲間から離れた。

「…ちょっと待ってろ」

ぼそっと呟くと、木に向かう。用を足すつもりなのだろう。


ジトーたちはすでに、手を伸ばせば触れる距離まで接近していた。


――ザックがローキックに近い蹴りを放つ。

「ベキィッ!」

鋭い音とともに、男の足が異様な角度に折れた。


同時にフレッドが拳を突き出し、男の喉元を強打する。

「グッ!」

くぐもった声をあげたかと思うと、男は白目を剥いて倒れた。


――トーマスは膝の横から押しつぶすように横蹴りを放つ。

クリフは同時にレバーブローに近い拳を腹に叩き込む。

「ゴフッ……!」

男は悶絶し、そのまま泡を吹いて意識を失った。


――最後の一人。

用を足し終え、戻ろうとしていた男にジトーは素早く接近。

「バキィッ!」

蹴りで膝を破壊する。足が異様な方向へと折れ曲がった。


悲鳴をあげさせない。

間髪入れず、オスカーが掌底を男の顎に叩き込んだ。

「ガッ……!」

白目を剥き、ぐらりと体が揺れ、そのまま崩れ落ちた。


ジトーたちはすぐに男たちの体を茂みに運び込んだ。

こうすれば、しばらくは誰にも見つからないはずだ。


静かに、何事もなかったように。

ジトーたちは暗闇に紛れ、速やかにその場を後にした。


ジトーたちは無言のまま、ジャンク宿、モノクローム宿へと戻る。


「これで……少しは被害が減るかもね」

オスカーがぽつりと呟く。


ジトーは頷いた。


奴隷商人の手足となる人間がいなければ、すぐに次の動きを取ることはできない。


「行くぞ。騒ぎになる前に宿に戻る」

ジトーは静かに言い、仲間たちは黙ってそれに従った。


夜の闇に溶け込みながら、彼らは何事もなかったかのようにそれぞれの宿へと戻っていった。



ジャンク宿。

その一室には、エイラ、ミーナ、メグ、そして情報屋兼鑑定士の男がいた。


男は遠慮なく椅子に腰を下ろすと、腕を組みながらエイラを見た。

「さて、何を鑑定すればいいんだ?」


髪をかき上げながら、エイラはテーブルの上に置かれた布袋を引き寄せた。

「今から見せる物の価値を知りたいの。それと、鑑定料は?」


「5銅貨でいいぞ」

男は軽く肩をすくめ、当然のように答えた。


エイラは布袋の中から1銀貨を取り出し、男に渡す。


「お釣り、5銅貨な」


男は銀貨を受け取り、懐から小さな袋を取り出すと、5銅貨をエイラに手渡した。


エイラは受け取った銅貨をさっと確認すると、引き寄せた袋の口を再び開き、ゆっくりと中の品を取り出した。

まるでじらすようにゆっくり慎重な手つきで、それを男の前に差し出す。


ブラウンクラウン。


希少なキノコで、強力な薬効を持つことで知られている。

しかし、その分競売や闇市場では高値で取引される代物だった。


情報屋の男はそれを見るなり、思わず「ほう……」と声を漏らした。

だが、言葉を続けようとした瞬間——ゾクッ……背中に悪寒が走る。


本能的にバッと後ろを振り返ると、そこにはミーナとメグがいた。


――いつの間に?


男の背中が冷たくなる。

部屋の扉の前に立ち、まるで出口を塞ぐように立つ少女たち。


(油断したつもりはねえ…このお嬢ちゃんたちの見かけに騙されるつもりもなかった…)


しかし、実際に何の気配もなく背後に回り込まれた事実に、男は自分の感覚を疑った。


(大男の兄ちゃんといい、このお嬢ちゃんたちといい……とんでもねえガキ共だな)

男は肩を竦め、フーッと小さく息を吐く。

警戒心を振り払い、改めて鑑定の仕事に集中することにした。



男は再びブラウンクラウンを手に取り、じっくりと観察する。


「ほう……ほう……間違いなくブラウンクラウンだな」


指先で傘の部分をそっと押し、わずかに弾力のある感触を確かめる。


「状態もいい。ここ、傘の部分を見てくれ。張りがあるだろ?」


エイラが頷く。


「これの価値だが、買い取り商人や商会に卸せば2金貨から3金貨ってところだな」


「競売にかければ5金貨以上で売れることは間違いねえぜ」

男はブラウンクラウンをエイラに返しながら言った。


エイラは一度それを受け取ると、小さく頷いた。

「そう……わかったわ。ありがとう」


短く礼を言い、エイラは再びブラウンクラウンを袋の中にしまった。


情報屋の男は軽く頷くと、椅子から立ち上がった。

「じゃあ、俺は行くぜ」


彼は扉を開け、部屋を後にする。

(…恐ろしいガキどもだな)

男は心の中で呟いた。


扉が閉まった後、メグが不思議そうにエイラを見上げた。


「ねえ、エイラ、お兄ちゃん騙されてるってこと?」


エイラは軽く首を振る。

「そんなことはないわ。ダミアンって商人は、ちゃんと適正価格で買い取ってくれてるわよ」


だが、ミーナが眉をひそめる。

「でも、さっきの人、これ2~3金貨で売れるって言ってたじゃない?」


「そうね。でも、売り先にアテがあるかどうかで、買い取る値段は変わるの」

エイラは椅子の背もたれに軽く寄りかかりながら続けた。

「それに、ダミアンって人はノルダランから来てるのよ」


その言葉に、ミーナがハッと気づいたように手を叩く。

「あっ! 帰ってる途中でダメになる可能性があるってことね?」


「そういうこと」

エイラは微笑む。


ノルダランから来た商人がこの街で品物を買い付けるのは、当然売るためだ。

だが、希少価値の高いものほど、運搬や保管に細心の注意を払わなければならない。


「途中で売っちゃえば?」

メグが首をかしげながら言った。


「それができるならね」

エイラは肩をすくめる。

「でも、希少価値のあるものをポンポンと売るような商人は三流以下よ」


価値のあるものは、正しい価格で売らなければいけない。


「なるほどねぇ~」

ミーナとメグは納得したように頷いた。


夜の静寂

エイラは袋をしっかりと閉じると、ふぅっと小さく息を吐いた。

ブラウンクラウンは貴重な品だ。

だが、それをどう扱うかによって価値は変わる。


ダミアンは適正価格で買い取ってくれる商人だ。

安く買い叩かれるわけではない。

商売に対しては誠実な人なのかしら、少し興味が湧いてきたエイラ。


オスカーたちは大丈夫かなと口にするメグ。


心配することはないわジトーたちがついてるんだから。

気楽に待ってましょうと敢えて笑うミーナ。


メグは窓の外を見つめる。暗闇の向こうに、オスカーたちの姿は見えない。

ジャンク宿の一室で、エイラたちは静かに待っていた。















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