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光を求めて  作者: kotupon


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情報屋

ノーレム街のジャンク宿。


その大部屋で、ジトーたちは朝を迎えた。


「さて、今日も忙しくなりそうだな。」

ジトーは伸びをしながら呟いた。


薄暗い大部屋には十数人の宿泊客が寝泊まりしており、雑多な匂いが漂っている。


「まずは部屋の予約だな。」


彼はザック、オスカー、エイラ、ミーナ、メグと共に宿の受付へ向かった。

朝食を求める他の宿泊客たちの間を抜け、カウンターにいる宿のオヤジに声をかける。


「3人部屋を2つ借りたいんだが、空いてるか?」


「あるぞ。一部屋6銅貨だ。二部屋なら1銀貨と2銅貨だな。」


「それで頼む。」


ジトーは代金を支払い、オヤジは帳簿に何かを書き込んだ。


「昼過ぎには入れるぞ。」


ジトーは頷き、仲間たちと共に宿を出る。

外はすでに賑やかで、市場へ向かう人々が行き交っていた。


市場へ向かう途中、女性陣――エイラ、ミーナ、メグはスカーフで口を覆っていた。

人混みの中、慎重に行動することを心得ていた。


「朝から活気があるわね。」

ミーナが周囲を見回しながら言う。


果物や野菜が積まれた店が並び、威勢のいい声が飛び交っていた。


「新鮮な野菜が揃ってるな。」


ジトーは周囲を警戒しながら進み、エイラが野菜を売る店の前で足を止めた。


「ブラウンクラウンはないかしら?」

エイラが何気ない口調で尋ねる。


しかし、店主は何も答えない。ただ黙ってエイラを見つめている。


(何か買えってことか……)


エイラは無言でミントの葉、甘草、ネギを手に取り、ジトーに視線を送る。


「店主、これを買う。いくらだ?」


「毎度!2銅貨と5鉄貨だ。」


ジトーは黙って支払い、商品を受け取る。その間に店主が小声で呟いた。


「ブラウンクラウンなぁ……数年前までは当たり前のように並んでたんだが、今じゃさっぱり見かけんよ。」


「理由は?」


「なんでも、あのスープを飲むと身体が丈夫になるって噂がある。本当か嘘かは知らんがね。」


ジトーは一瞬だけ考え込み、静かに礼を言って市場を後にした。


市場を一通り見て回った後、一行は屋台が並ぶ通りへ向かった。


「せっかくだし、何か食べようぜ。」


ザックがそう言うと、ミーナとメグも興味津々な様子で頷いた。


「いいわね。串焼きとか食べたいな。」


屋台には焼きたてのパン、香ばしい肉串、甘い果物の菓子などが並んでいる。

一行は適当に買い食いを楽しみながら、さらに露店が並ぶ通りへと足を進めた。


「すごい……見たことないものばっかり。」


スラム育ちのザック、ミーナ、メグや数年ぶりに街に出てきたエイラやオスカーも、色とりどりの装飾品や手工芸品を見てはしゃいでいた。

煌びやかな布地や細工の施された革製品、見たこともない香辛料が並んでいる。


しかし、その賑わいの中で、ジトーたちは異変に気付いていた。


「……誰かに見られてるな。」


ジトーは感じた違和感を、表情には出さず、冷静に観察した。

横目でさりげなく周囲を確認すると、遠巻きにこちらを見ている人物がいる。


(……あれは情報屋か…?)


以前も尾行されたことがあった。

その時は察知されて観念したのか、姿を現して二言三言、言葉を交わした程度だった。


ジトーはハンドサインと目くばせで仲間に知らせる。


(素知らぬふりで行動しろ。)


仲間たちは動揺を見せず、自然な流れで雑貨屋、道具屋、古着屋を覗き、さらには商会が建ち並ぶ通りをゆっくりと進んだ。


情報屋の視線を感じながらも、一行は決して警戒していることを悟られないよう、いつも通りの態度を保ち足早に宿へ戻った。


ジャンク宿に戻ると、まだ昼過ぎだった。


「部屋の準備はできてるかな?」


ジトーが受付のオヤジに尋ねると、オヤジは無愛想に頷いた。


「部屋は20番と21番だ。勝手に使え。」

鍵を受け取る。


「さっきの情報屋?また尾けてくるかな?」

オスカーが小声で尋ねる。


「可能性はあるな。でも、焦ることはない。」

ジトーは慎重に答えた。


ノーレム街の一日が、ゆっくりと進んでいった。


ノーレム街のジャンク宿、部屋の中に六人が集まり、机を囲むようにして座った。

エイラが皆の視線を集め、口を開く。


「ブラウンクラウンの価値を知るために、当初考えていたことを話すわ。」


 市場での価格調査や取引実績の聞き込みを行うつもりだったが、市場での聞き込みの結果、ここ最近はまったく見かけないという情報が得られたため、この案は却下せざるを得なかった。


「となると、残る方法は競りやオークションに参加することね。それから買取商人や鑑定士への相談、高級品を扱う商会に売り込みをかけることも考えたわ。」


 エイラが淡々と説明する中、ザックが眉をひそめた。


「オークションなんてどこでやってるんだ?」


「市場の裏に大きな建物があったでしょう? たぶん、そこで開かれるはずよ。」


「ああ、そういえばそんな建物があったな。」


 一同は思い出しながら頷く。


ミーナが興味深そうに尋ねた。

「買取商人や鑑定士への相談って具体的にはどうするの?」


「基本的には、あくまでも相談よ。契約書にはダミアンっていう人以外には売らないって書かれていたはず。買取商人はいまいち信用できないし……鑑定士には守秘義務があるから大丈夫だと思うけど。」


「鑑定士ってどこにいるの?」メグが素朴な疑問を口にした。


「わからないわ。でも、街には必ず一人はいるはず。宿屋の主人に聞けば教えてくれるかもしれないわ。」


 エイラの言葉に、オスカーが腕を組んで考え込む。


「やっぱり、鑑定士に見せるのが一番いいのかな……?」


 それに対し、ザックが疑問を呈する。


「でも、契約書のことを考えたらオークションには出せないんじゃないか? 行っても無駄だろう。」


「そんなことはないわ。他の誰かがブラウンクラウンを出品する可能性だってあるもの。」


「ああ、なるほどね。」


 一同は納得した様子だったが、ジトーが少し渋い顔をして口を開いた。


「とはいえ、出回っていないものが急に競売に出されるとは思えないな。」


「確かに、それもあるわね。」


 エイラは軽く息をついて、もう一つの案を口にした。


「これはあまり使いたくないやり方だけど……情報屋を利用する手もあるわ。」


「でも、それも信用できるかどうかが問題だな。」

ジトーが慎重に言う。


「そうね……情報屋が何を考えているかわからないし、高額な情報料を要求されるかもしれない。最悪の場合、私たちの動向が筒抜けになる可能性もあるわ。」


 場が静まり返る。しばらく沈黙が流れた後、エイラが意を決して言った。


「焦る必要はないわ。今、変に動いて目をつけられるのは避けたほうがいい。まずはシマたちと合流してから考えましょう。」


「そうだな、まずはあいつらとの合流が優先だ。」

ジトーが頷いた。


 皆が同意し、この件は一旦保留となった。


ザックがふと疑問を口にした。

「そうなると、情報屋?が俺たちを尾けてきた理由は何だ?」


「さあ? 思い当たる節はないな」とジトー。


「なんだか気持ち悪いわね……」とエイラが眉をひそめる。


「……ちょっと誘ってみるか」


「どうやって?」


「街をぶらぶらしてりゃあ、勝手に尾けてくるだろう」


「お前は立ってるだけで目立つからなあ」とザックが笑う。


「お前だって、もう少ししたら大男の仲間入りだぞ」


「確かに」と一同も笑う。


ミーナが少し心配そうに言った。

「ジトー、無理はしないでね」


「もちろんだ。それと……飯でも食って待っててくれ」と言いながら、ジトーはエイラにお金の入った布袋を渡した。


「じゃ、ちょっと行ってくるぜ」


ジトーは街をぶらぶらと散策しながら、周囲の気配を探った。

数分もしないうちに、何やら視線を感じた。


(……食いついたか?)


まだこの時点では確証はない。

しかし、暫く歩き続けていると、その情報屋の腕前にジトーは感心していた。


(つかず離れず、気配を消して尾行する……だが、視線を外していないな…砂の上を歩くときに微かにジャリッという音がするな)


ジトーは、オークション会場と思われる大きな建物の前で立ち止まった。

今日は開催されていないのか、周囲には人気がなかった。


「……出て来いよ」

静寂を破るようにジトーが低く言った。


すると、肩をすくめた男が影から姿を現した。

「やっぱり気づ――ガッ!」


情報屋が言い終わる前に、ジトーはその巨体からは信じられないほどの速さで間合いを詰め、首根っこを掴み引き倒した。


「何が目的だ」


「ぐ、ぐるじ……」


ジトーは少しだけ力を緩めた。


「お、お前らにゴホッ……敵意はない。ゴホゴホッ……手を……放してくれ……」


ジトーは油断せずに手を放した。

数分後、ようやく情報屋がまともに話し始めた。


「以前、お前らを尾行したときに気づかれたのが、まぐれだったのかどうか確かめたかったんだ。それに……俺はこの街で一番の情報屋だと自負してる。だからこそ、お前らに興味が湧いてきたんだよ……」


「…一つだけ言っておく。俺の家族に危害を加えようとする者がいたら……殺す」


ジトーの低い声と鋭い眼光に、情報屋はゴクリと息を飲み、慌ててうなずいた。

「あ、ああ、分かった」


ジトーは立ち去ろうとするが。

「あ!もしかしたら、お前に依頼を頼むことがあるかもしれねえ。どうすれば連絡がつく?」


「お前らの泊まってる宿屋の主人に、『部屋番号26は空いているか』と聞いてくれ」


「依頼料は高いのか?」


「内容によるが……格安で受けてやるよ」


「そうか……もう付きまとうなよ」と言い残し、ジトーは立ち去った。





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