初狩猟!
狩猟の準備を進める中、武器の試作も行われた。
作り上げた弓の試射を試すことになり、仲間たちが次々と矢を放つ。
すると、サーシャ、ケイト、ノエルが特に弓の才能がありそうだとわかった。
男たちはまるでダメだった。
「オスカー、弦をもう少し強く張ってもいいかも」
サーシャがオスカーに要望すると、オスカーは衣服から糸を解き、一本一本をねじり込んでいった。
しかし、彼の力では弦を張るのは難しく、そこはザックが手伝う。
改良した弓で再び試射をするサーシャ。
すると驚くことに、ほぼ狙い通りに矢を放った。
「サーシャ、お前弓を扱うのは初めてだよな?」
シマが驚いた顔で問いかけると、サーシャは当然のように答えた。
「当たり前じゃない。今まで一緒に生活していたんだから、わかるでしょ?」
ケイトやノエルも、弓の感触を確かめながら要望を伝えていく。
彼女たちもサーシャほどではないが、徐々に精度が上がっていった。
すると、その様子を見ていたメグがオスカーに駆け寄り、袖を引っ張った。
「わたしのも作って!」
メグの頼みに、オスカーは少し考えた後、微笑みながら頷いた。
彼はすぐに小さめの弓を作り上げ、メグに手渡す。
矢の勢いはそれほどでもないが、狙ったところにはしっかりと放てるようだった。
「やった!」
メグは満面の笑みを浮かべ、小さな手で弓を握りしめた。
翌日はいよいよ初めての狩猟となる。仲間たちは火の灯る家の中で話し合いを重ねていた。
狩猟に出るメンバーは、シマ、ザック、サーシャ、ジトー、クリフ、ケイト、ノエル、フレッド、そしてメグ。メグはどうしても行きたいと駄々をこね、結局シマが折れる形で了承することになった。
妹には甘いシマの性格が、ここでも顔をのぞかせた。
ロイドとリズは川で魚を獲る役割を担当し、トーマスは狩猟に使えそうな槍や弓の材料を集めるのと並行して、薪として使える木材を探すことになった。エイラとミーナはトーマスからはあまり離れず森で木の実を集める係となった。
オスカーは弓と矢の制作に集中する。
狩猟の狙いは鳥や兎、蛇などの小動物。仲間たちは注意点を確認し合った。
「風上には立たないこと。一人で行動しないこと。余計なおしゃべりはしないこと」
シマの言葉に、みんなが真剣な顔で頷く。
狩猟が初めての者ばかりのため、慎重に行動する必要があった。
そんな中、クリフが疑問を投げかけた。
「もし獲れたとして、どうやって処理するんだ?」
「要は魚と一緒だろ?」
気楽な様子で言うフレッドだったが、シマは首を横に振る。
「違う。血抜きが大事なんだ。これをしっかりやらないと、全然味が違うらしい」
クリフが驚いたように問いかける。
「…へぇ、シマ、お前いつの間にそんな知識を覚えたんだ?」
ザック、ジトー、サーシャ、ケイトも同調し、それぞれ口々に言う。
「スラムでもそれなりに頼りになっていたけど、今ほどじゃなかったよな」
「前は、ただのがむしゃらなガキって感じだったけど」
「確かに、最近のシマは何か違う気がする」
話を聞いていたフレッドやノエルも、そうなのかと興味深そうに顔を向ける。
シマは少し考えた後、曖昧な笑みを浮かべながら言った。
「何、俺もいろいろと思うことがあってな」
それ以上詳しくは語らず、話題を狩猟の準備に戻す。
翌朝、狩猟隊はまだ薄暗い森の中を進み始めた。
空には朝もやがかかり、ひんやりとした空気が肌を刺す。
足音を抑えながら、慎重に歩を進める。
「まずは兎を狙おう」
シマが小声で指示を出し、仲間たちはそれぞれ弓を手にする。
サーシャ、ケイト、ノエルは特に弓の扱いが上手く、静かに矢をつがえる。
フレッドとジトーは槍を握りしめ、万が一獲物が近づいた時に仕留める準備をしていた。
初めての狩猟は、想像以上に難しいものだった。
シマたちは森の中に入り、それぞれ慎重に歩を進めたが、慣れない動きにより枝を踏み鳴らし、小さな鳥やウサギはすぐに逃げてしまう。
弓を構えたサーシャやケイトも、標的をとらえる前に動きを読まれ、矢は空しく木々の間を抜けていった。
「くそっ……全然ダメだ」
ザックが舌打ちする。シマも冷静に分析するが、思ったよりも獲物に近づくことすら難しい。
やっとのことでクリフが槍を構えたが、タイミングがずれて獲物のウサギに逃げられる。
シマも投石を試みたが、岩に当たって大きな音を立てただけだった。
「全然獲れないな……」
焦りと苛立ちが募るが、シマは深呼吸して言った。
「まずは静かに動くことからだ。慌てるな、やり方を見直そう」
こうして、彼らの狩猟の試行錯誤が始まった。
何度も失敗しては話し合いを繰り返して。
しばらく進むと、茂みの奥で小さな動きがあった。
シマが手を挙げ、全員がその場で静止する。息を潜め、じっと目を凝らすと、一匹の兎が草を食んでいるのが見えた。
「サーシャ、いけるか?」
シマが問いかけると、サーシャは無言で頷き、ゆっくりと弓を引いた。
狙いを定め、矢を放つ。
シュッ。
矢はまっすぐ兎へと飛んでいき、見事に命中した。
兎は短く跳ねた後、地面に崩れ落ちる。仲間たちが静かに歓声をあげる。
「やったな!」
サーシャは小さく笑みを浮かべた
だが、これが終わりではない。シマは手を挙げ、次の指示を出す。
「次は鳥を狙う。木の上を見てみろ」
ケイトが鳥を見つけ、矢をつがえた。静かに弦を引き、呼吸を整える。
狙いを定め、放った矢は見事に木の上の鳥へと命中した。
「やった……!」
興奮気味に声を上げるケイト。
しかし、シマはすぐに注意を促した。
「まだ他にも獲物がいるかもしれない」
仲間たちは気を引き締め、狩猟を続けた。
その後も蛇や他の小動物を捕らえ、十分な成果を上げた。
森を抜けたころには、みんなの表情には達成感が浮かんでいた。
こうして彼らの初めての狩猟は大成功を収めたのだった。
狩りの後、仲間たちは家へと戻り、捕まえた獲物の処理を始める。
拙いながらもシマが手本を見せながら、血抜きや皮の剥ぎ方を教えた。
最初は戸惑いながらも、皆が一生懸命に作業をする。
リズが調理を担当し、焼き上がる肉の香ばしい匂いが家の中に広がる。
焚き火を囲んで食事をする仲間たちは、今日一日を振り返りながら笑い合った。
「また狩りに行きたいな」
サーシャがつぶやく。
狩猟の成功に満足した表情を浮かべながら、焚火の炎を見つめる。
シマが答える。
「しばらく続けるぞ。冬を越すためにな。肉は余れば燻製にするし、毛皮はあればあるほどいい」
その言葉に、サーシャだけでなく、ケイト、ノエル、メグも目を輝かせる。
狩りの楽しさと生きるための手段が結びつき、彼女たちは次の狩猟を心待ちにしているようだった。
シマは狩猟に参加していない仲間たちにも声をかける。
「ロイド、リズ、何か問題があったか?」
ロイドは笑顔で首を横に振る。
「何も問題はないよ。むしろ、今の僕たちは自分の力で生きているんだっていう実感がある。すごく充実してる。肉も美味しいしね。」
「肉もうめえけど、ロイドたちが獲ってきた魚もうめえよ!」
フレッドが声を上げると、ザックも同意する。
「だよな!」
ケイトも微笑みながら言う。
「私たち、結構贅沢な食事をしてるわね。少し前じゃ考えられないくらいだわ」
「明日はもっといっぱい獲って来てあげるわ!」
リズが意気込むと、周囲から歓声が上がる。
次に、シマはトーマスに話しかける。
「問題はないか?」
「問題はない。ただなぁ……」
トーマスは少し考え込んだ後、ため息をつく。
「斧があれば、もっといっぱい木を切り倒せるんだけどなあ」
「ないものねだりだぜ」
ザックが肩をすくめると、トーマスも苦笑する。
「まあな。こればかりは仕方がない」
「エイラとミーナの方にもできるだけ気を配ってくれ」
シマはそう言いながら、エイラとミーナにも目を向ける。
「エイラ、ミーナ、何かあればすぐにトーマスを頼れ」
「うん、わかったわ!」
ミーナが元気よく答える。
エイラも優しく微笑んだ。
「その時が来たら頼りにするわ、トーマス」
「おう、任せろ!」
トーマスは胸を張って答え、一同に笑いが生まれた。
最後に、シマはオスカーに声をかける。
「オスカー、家の中に一人にさせてすまんな。寂しくないか?」
オスカーは手を振りながら笑う。
「全然寂しくなんかないよ。お昼頃にはロイド、リズ、トーマス、エイラ、ミーナも帰ってくるし、色々作っていると時間があっという間なんだ」
「無理だけはするなよ。」
「眠くなったらいつでも寝ていい。」
「そうそう。」
「仲間たちを頼れ」
みんなの言葉に、オスカーは嬉しそうに頷いた。
「うん、ありがとう。大丈夫、僕も頑張るよ」
こうして、それぞれの役割を再確認し、仲間たちは新たな一日へと向かっていくのだった。
翌朝、シマたちはいつものように作業を分担しながら、それぞれの役割に取り組んでいた。
狩猟班は準備を整え、次の狩りへと向かう計画を立てる。
「今日の目標はどうする?」
ザックがシマに尋ねる。
「まずは小動物を中心に狩る。鳥や兎、それに蛇も狙っていこう」
「風上には立たないこと、一人で行動しない、余計なおしゃべりをしない……」
ケイトが復唱するように言う。
「そうだ、基本を守れば獲物は逃げにくい」
シマは頷いた。
一方で、ロイドやリズたち漁を担当する組も計画を練っていた。
「昨日は結構獲れたけど、今日はもう少し工夫してみようと思うんだ」
ロイドが提案する。
「例えば?」
リズが興味深そうに聞き返す。
「川の流れを利用して、網代わりになるものを作る。何か布や木の枝を組み合わせて魚を追い込める仕組みがあれば、もっと楽に獲れるかもしれない」
「なるほどね。それなら、私も手伝うわ」
リズがうなずく。
エイラとミーナは木の実集めの計画を練っていた。
「昨日よりも奥の方を探してみようと思うの」
ミーナが言う。
「うん、それなら今まで見つけられなかった木の実があるかもしれない」
エイラが同意する。
トーマスは薪を集めながら、時折みんなの様子を気にしていた。
「みんな、それぞれの役割を楽しんでるな」
シマが仲間たちの様子を見渡しながら、ふと微笑む。
こうして、彼らの生活は次第に安定し、少しずつだが確実に未来への道を築いていくのだった。