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光を求めて  作者: kotupon
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幹部会議13

チョウコ町の集会所。

長机を囲んで幹部たちが腰を下ろす。

会議の空気はまだ緊張を孕みながらも、ところどころに笑いが混じり、仲間内らしい温度感を保っていた。


シマが前の議題を一段落させ、視線を上げて問いかける。

「……リーガム街では特に問題はなかったか?」


その問いに、帳面を閉じていたミーナが顔を上げる。

落ち着いた声で答えた。

「そうね……特に大きな問題はなかったわ。せいぜいホルダー家の人たちと模擬戦をやったくらいかしら」


すると、壁際に座っていたユキヒョウが微笑みを浮かべて口を開いた。

「彼……マリウス君はいいね。まだまだ伸びる余地がある。もっとも、鍛錬する時間さえあればだけど」


「確か……あいつ、王都騎士学校を次席で卒業したんだっけ?」

シマが思い出したように言う。


「そう言ってたわね」とサーシャが頷く。


その直後、ザックが鼻で笑った。

「俺から見れば鼻糞だけどな!」


幹部たちが一斉に「また始まった」と言わんばかりの顔をする。


ユキヒョウが軽く肩を竦めながら言葉を返した。

「君らと比べたら酷だよ。剣筋は素直すぎるけど、磨けば面白い剣士になるよ」


「へぇ……ユキヒョウにそこまで言わせるとは、あいつもなかなかだな」

シマが感心したように呟く。


その時、デシンスが椅子から身を乗り出して胸を張った。

「俺は元王都特別監察官のモーガンとキャシーを相手にしたけど、楽勝だったぜ!」


「油断して、少し危ない場面もあったけどね」

ユキヒョウがすかさず補足する。


「……それは言わないでって言ったじゃないですか!」

デシンスが慌てて否定するが、もう遅い。


シマの目が鋭く光る。

「お前なぁ……戦いの中で油断するとは……俺たちはそんなことを教えた覚えはねえぞ」


「わかってる! わかってるってば!」

デシンスは手を振って必死に弁解する。


そんなやりとりを見ていたフレッドが口を挟む。

「俺たちが軽く鍛えなおしといたぜ」


シマは顎に手を当てて考え込み、やがて決断を下すように口を開いた。

「……そうか。後日、ベガ隊とワーレン隊も鍛えなおしてくれ」


その瞬間、ザックが身を乗り出して大喜びする。

「おっ、いいのか?! 今から腕が鳴るぜ!」


「待て待て! 俺たちが何をしたってんだよ!」

ベガが慌てて抗議する。


「シマ、マジで勘弁してくれよォ……」

ベルンハルトが情けない声を上げる。


「思い当たる節がねえぞ!」

ワーレンも抗議の声を上げるが、コルネリウスは眉をひそめて首をかしげる。

「……何かやったか? 俺たち?」


そこでシマが静かに告げた。

「カイセイ族との模擬戦で……お前たち、軽口叩いてたな……!」


その瞬間、ベガ、ベルンハルト、ワーレン、コルネリウスが一斉に顔を青ざめさせた。

「……ッ!」「グッ……」「ムッ!」「……しまった……!」

言葉にならない呻きが漏れる。


クリフが腕を組んでニヤリと笑った。

「どうやら思い当たる節があるじゃねえか」


マルクが補足するように冷静に言う。

「確定だな」


さらに、キリングスが静かに呟いた。

「……ご愁傷様」


場の空気は笑いと哀れみで入り混じり、グーリスが溜息交じりに肩を竦める。

「バカだなぁ……あいつら、シマは戦いに関しては厳しいって知ってんだろうに」


この時点で、ベガ隊とワーレン隊の運命はすでに決まっていた。

後日の苛烈な鍛錬からは逃れられない。


ロイドが手を叩き、場を仕切り直した。

「ベガ隊とワーレン隊は後日鍛えなおすということで決まりだね。それじゃあ次の議題に移ろう」


こうして、緊張と笑いが交錯する会議は次なる段階へ進んでいった。


「トーマス、リュカ村での木の伐採作業はどうだった?」


名を呼ばれたトーマスはし、快活な笑みを浮かべて答える。

「木材置き場を作るのに一日、それから伐採作業を二日で終わらせたぜ。みんな手際よく動いてくれたおかげで、予定より早く片付いた。その後は二日ほどのんびり滞在して、村人とも交流できたな。」


横にいたケイトが補足するように口を開いた。

「ガディの指示出しが良かったわ。作業全体がすごくスムーズだったの。」


突然褒められたガディは、途端に肩をすくめ、照れ臭そうに俯いた。

「い、いや……みんなのサポートがあったからです。自分一人の力じゃありません。」


その様子にシマが微笑みを浮かべる。

「助かったぞ、ガディ。お前がいてくれて本当に良かった。」


「いえ、そんな……」

顔を赤らめるガディ。


団員たちはその反応に温かい笑みをこぼし、場の雰囲気は柔らかくなる。


ノエルが続けて報告する。

「ポプキンス村長にも話は通してあるわ。ものすごく喜んでくれていたの。」


サーシャが楽しげに頷いた。

「シャイン式計算や牛糞燃料のことも話したんだけど、マリウス様経由ですでに耳にしていたみたい。『この村が発展する未来しか見えん』なんて言って、感無量って顔をしていたわ。」


その場面を思い返したフレッドが大きな声で笑う。

「今にも泣きそうな面をしてたよな! あれは忘れられねえ!」


一同もつられて笑い声をあげ、緊張がほぐれる。


シマは笑いが収まった頃を見計らい、再び問いかける。

「そうだな……マリア隊、ダルソン隊、キリングス隊、リットウ隊。それと子供たち、ジーグ、ザシャ、ヴィムもリュカ村に行ったんだったな。どんな様子だった?」


マリアが最初に口を開いた。

「改めて、あんたたちが規格外だって知ったわよ。でもね、私たちにとっても本当にいい経験になった。普段の戦闘とはまた違った意味で学ぶことが多かったわ。」


ダルソンが肩を回しながら大げさにため息をつく。

「たかが五キロ、されど五キロ……あの距離を延々と往復するのは意外ときつかったな。荷馬車や伐採した木を運ぶ作業の大変さを身をもって知ったぜ。」


キリングスは楽しげに顎をさすりながら付け加える。

「馬の扱いに慣れたリットウ隊が大活躍だったな。おかげで作業が格段に早く進んだ。俺たちも助かったよ。」


名を挙げられたリットウは真っ直ぐな眼差しで頷く。

「自分たちがこのような形で力になれたことが、何よりも嬉しかったです。戦い以外で人を支えることの大切さを学びました。」


その言葉にクリフが笑みを浮かべながら言う。

「ザシャとヴィムも、馬の扱いがうまいなって感心したぞ。年齢の割に手際が良くて驚いた。」


すかさずスタインウェイが鼻を鳴らし、自慢げに胸を張る。

「フン! 当たり前じゃ。ワシの義息子じゃからな!」


その大仰な言い方に場がどっと笑いに包まれる。


フレッドは隣で腕を組みながら思い出すように言った。

「ジーグもよく頑張ってたな。ただ、あいつを制止させるのに苦労したぜ。元気が有り余ってて、目を離すとすぐ動き出すんだからよ。」


言葉の端々に苦笑をにじませるフレッドの顔に、当時の光景が鮮やかに蘇るようだった。

シャイン傭兵団に混じり、汗をかき、笑い合いながら作業に没頭する子供たち。

その姿はまるで未来の団員の姿を先取りしたかのようで、誰もが温かい眼差しを向けていた。


報告を聞き終えたシマは、静かに頷きながら皆の顔を見渡した。

「それぞれが役割を果たし、力を合わせて成し遂げたことがよくわかった。村人も喜び、未来へつながる仕事になった。……本当にご苦労だった。」


その言葉に、各隊の面々はどこか誇らしげに背筋を伸ばす。

子供たちの頑張りも称えられ、場の空気は達成感に包まれていた。


ガディは未だに頬を赤らめたままだったが、心の奥底では確かな自信が芽生えつつあった。

マリアやリットウたちも、戦場とは違う充実感を噛みしめ、次なる任務への意欲を胸に秘めていた。


ふとシマの視線がロイドに留まった。

無言のまま、互いの目が合う。


その一瞬に含まれるものを感じ取ったのか、ロイドは軽くうなずき、穏やかな口調で報告を始めた。

「父さんたちやシュリ村のみんなにはちゃんと知らせてきたよ。『急いで人材を決めなくてはならない』って言っていたよ。」


その言葉にシマは深くうなずき、短く「そうか」とだけ応えた。

まるでその一言に、彼らの思いや状況をすべて理解したかのようである。


少し間を置いて、シマは続けて尋ねた。

「キョク村には寄ったのか?」


問いに答えたのは、メグだった。

「ううん、素通りしてきたわ。迷ったんだけどね……伐採作業に早く加わりたかったから。」


ロイドが補足するように肩を竦める。

「二日で戻ってきたんだ。ゆっくりしてくれば良かったのに、とケイトには言われたけど…ハハッ…。」


ケイトは苦笑を浮かべながらメグに向き直る。

「本当にそうよ。説明してお土産を渡して、とんぼ返りなんて……もう少し休んでくれば良かったのに。」


メグは控えめに笑い、首を横に振った。

「大した距離じゃないから、それほどでもないわ。」


そのやりとりに、ヤコブが長い髭を撫でながら愉快そうに相槌を打った。

「ロイドらしいのう……メグ嬢もお疲れじゃったな。」


しかしそこで、ライアンが真面目な声音で口を挟む。

「…そんなことを言えるのはお前たちだけだからな。自覚を持てよ。」


彼の言葉には、過酷な道程を軽んじるべきではないという現実的な戒めが含まれていた。

その真剣さに、場にいたシャイン隊以外の者たちが一斉にうなずく。


シマは今度はトーマスに目を向ける。

「そういえば……お土産といえば、トーマス。お前はどうだった?」


トーマスは溜息をこぼしつつも言う。

「ハァ~…忘れるわけがねえだろう……わかるだろ?」


シマも同じく口元を緩めて応じた。

「だよなぁ……」


その含みを察した周囲がざわめくと、クリフがすかさず声を上げた。

「強烈な個性を持った義姉たち……今回も強烈だったなあ!」


その言葉に続けて、フレッドが両手を広げて大げさに叫ぶ。

「一夜屋敷に内風呂を造ってくれって、しつこいくらい言われてよぉ!参ったぜ、ほんとに!」


ノエルが苦笑混じりに肩をすくめる。

「流石にそれはねぇ……説得するのに骨が折れたわ。」


マリアが、やれやれといった表情で口を開く。

「物凄くわがままに見えて、でも実際にはちゃんと計算してるのよねえ。あの人たち。」


彼女の言葉に周囲も頷き、あの独特な存在感を思い出して思わずため息をつく。


だがそこでケイトが明るく話題を転じた。

「でも、ほら!子供たちは可愛かったじゃない!」


その一言で場の雰囲気が一気に和らぎ、皆が思い思いに子供たちの笑顔を思い出して頬を緩める。


キリングスも渋い声で同意を示す。

「……それがせめてもの救いだな。」


その言葉が妙に可笑しく響き、場の空気が一瞬にして弾ける。

皆が堪えきれず笑い出し、集会所には明るい笑い声がこだました。


幹部会議の空気がひと段落した頃、シマがふと表情を曇らせ、口を開いた。

「ラドウの街での買い出し……そういえば、ハイドも行ったんだよな?……まさかとは思うけど……」


その声音には、明らかに不安と疑念が入り混じっていた。


誰よりも先に返事をしたのは、マルクである。

彼は苦笑を浮かべながらも即答した。

「安心してくれ。娼館には行かせてねえからな。俺たちと行動を共にしたよ。」


すかさずザックが大声で割り込む。

「おいおい!俺だって流石にハイドを娼館には連れて行かねえよ!」


場にクスクスと笑いが広がったが、すぐにエッカルトが怪訝そうに呟いた。

「……にしても、何でかハイドの奴、ザックとフレッドになついてるよな?」


その問いに、ザックは待ってましたとばかりに胸を張り、大声で答える。

「そりゃあ決まってんだろ!俺たちの人徳ってやつだ!」


「それな!」

即座にフレッドが乗っかり、二人は誇らしげに腕を組んだ。


しかし次の瞬間、場がざわつく。

「……娼館には連れて行かなかったけど、賭場には連れて行ったわよ。」

そう言い放ったのはシャロンであった。


ベガが慌てて問いただす。

「ちょ、ちょっと待て!ザックに金を持たせたのか?!」


するとティアが気まずそうに答える。

「必要経費と割り切って少し渡しました……まさかハイドを連れていくとは思わなかったので……」


ザックは悪びれるどころか笑顔で続けた。

「で、結果はだな――すっからかんだ!」

豪快に叫び、場が一瞬ざわつく。


ジトーが冷静に補足する。

「何でもダイスを使った奇数か偶数を当てる賭け事で、7回連続で当てたらしいぞ?しかも全額ベットしたらしい。」


ロイドが肩を竦めながら付け加える。

「で、8回目にして外れたみたいだけどね。」


ザックは豪快に笑い飛ばす。

「男の賭け事をハイドに見せてやったぜ!うははは!」


その声に、シマは深く息を吐き出して呟く。

「……楽しんできたんなら、何よりだ。」


その言葉を聞いた瞬間、場の空気がピシリと凍りつく。


最初に声を張り上げたのはエイラだった。

「『楽しんできたんなら何よりだ』…じゃないでしょう!!シマ!」


彼女の激しい口調に、シマが思わず背筋を伸ばす。


続いてリズが鋭く言い放つ。

「シマ!本当にザックに甘いわよ!ハイドを賭場に連れ出すこと自体が間違ってるでしょ!!」


さらにサーシャも容赦ない。

「シマ!甘いのにも限度があるわよ!」


畳みかけるようにメグまでもが声を上げる。

「お兄ちゃん!二人にはもっと厳しくするべきよ!」


まるで集中砲火を浴びるかのように、シマはたじろぎ、言い訳もできずに口を閉ざした。


その様子を少し離れた席から眺めていたフレッドが、堪えきれず吹き出す。

「おい見ろよザック、あいつ、ま〜た怒られてやんの……ククッ!」


ザックも口角を釣り上げ、指差しながら笑う。

「ざまあねえな!いい気味だ……ぷぷぷ!」


だが彼らの笑い声を聞きながら、幹部たちは皆、心の中で同じことを思っていた。

(シマが怒られているのは、お前たちが原因だぞ……)


誰一人として声には出さなかったが、その場の空気は完全に一致していた。

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