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光を求めて  作者: kotupon


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36/447

それぞれの宿屋で

ジャンク宿の1階にある酒場は、旅人や労働者、そして地元の住人たちが集まる賑やかな場所だった。

粗末な木製のテーブルと椅子が雑然と並び、燭台の明かりが壁に揺らめく影を映し出している。

酒と食事の匂いが充満し、陽気な笑い声や酔客の喧騒が響いていた。


その酒場の片隅に陣取り、壁を背にして座るのはエイラ、ミーナ、メグ、そしてオスカー。


向かいには大男のジトーと、がっしりした体格を持つザックが腰を下ろしている。

ジトーはその大柄な体躯と筋肉質な腕を持て余すように座り、ザックもまた鍛え抜かれた体を包む粗末な衣服を整えながら、周囲の様子を窺っていた。

(ジトー、トーマスには及ばないものの、ザックもまた高身長で筋肉質な体格を誇る。)


一同は夕飯を取ることにした。

旅の途中では乾燥肉や味の薄いスープ、ボソボソのパンが主な食事だったこともあり、久しぶりのまともな料理に期待を膨らませていた。

給仕が運んできたのは、大皿に盛られた肉の煮込み、香草を散らしたスープ、焼きたてのパン、そして根菜の炒め物だった。

香ばしい湯気が立ち昇り、食欲をそそる。


ジトーとザックは大食漢だ。

二人は豪快に肉を頬張り、スープを豪快に飲み干す。


育ち盛りのオスカー、エイラ、ミーナ、メグもまた、その量こそ違えど食欲旺盛だった。

ただし、彼らは行儀よく食べることを忘れてはいない。

スプーンを使い、パンを割きながら黙々と食事を進めていく。


「ここの料理、意外と美味しいね」とオスカーが言った。


「ああ、香草の使い方が上手い。肉も柔らかいし、スープもいい出汁が出てる」

ザックも頷く。


「旅の途中の食事と比べると天国のようだな」

ジトーが笑いながら肉を骨ごとかじった。


周囲の客はほとんどが酒を楽しんでいるらしく、大きなジョッキを掲げて酔いを深めていた。

そのため、彼らがこれほどの量を食べていることに気を止める者はいなかった。


食事を終え、一同は一息つく。


「明日は朝一で宿の予約を入れましょう。大部屋では大事な話ができないわ」

エイラが提案した。


「そうだな。個室の方が気兼ねなく話せる」

ジトーも同意する。


ザックが「ところで、明日はどうするんだ?」と皆に問いかける。


「市場を見て回りたいわ。あと商店や雑貨屋も覗いておきたいわね。」

エイラが答えた。


「少しくらい何か買っても大丈夫かな?」

メグがエイラを見上げて尋ねる。


エイラは少し考えた後、小声でジトーに聞く。

「今、持ち金は…」


ジトーは指を五本立てた。


「それなら高い物を買わなければ大丈夫ね」とエイラが頷く。


「とりあえず、明日は市場の探索と、必要なものの調査って感じだな」

ザックがまとめる。


「それと、情報も集めないと。今後のルート、どこにどんな人がいるかとか」

ミーナが補足する。


「それは朝、計画を立てて決めましょう。今はゆっくり休むことを考えましょう。」

エイラが締めくくった。


こうして、一同は宿の部屋へと戻り、明日の行動に備えて体を休めることにした。



モノクローム宿の一階にある酒場は、夜ともなれば多くの人々で賑わう。

そこでは飲み慣れた客たちが酔いに任せて大声で笑い、時には口論になり、またある時はくだらない話を延々と繰り返していた。

そんな喧騒の中、トーマスたちは夕飯を食べ終え、二階の大部屋へ戻ろうとしていた。


その時だった。

ふと、サーシャの背後に怪しい手の動きがあった。

一人の酔客が、彼女のお尻へ手を伸ばそうとしていたのだ。


「汚い手で触ろうとしないでくれる?」


瞬間、サーシャは素早く反応し、その手を払いのけるだけでなく、さらにビンタを一撃食らわせた。

軽いビンタではなかった。

酔客は衝撃で吹っ飛び、そのまま床に転がると微動だにしなくなった。


「ひぃ!」

周囲の客が驚きに息を呑む。

しかし、問題はそれで終わらなかった。

倒れた男の仲間らしき三人の男たちが立ち上がり、サーシャを睨みつける。


「このアマァ! 少し可愛い顔してるからっていい気になりやがって!」

彼らは怒りを露わにしながら詰め寄ろうとした。

しかし、その瞬間、彼らの背筋に冷たい感触が走った。


「……あ゛?」

トーマス、クリフ、ケイト、フレッド、ノエル、リズ――彼らが放つ鋭い視線が、まるで刃のように三人の男たちに突き刺さる。

その空気に圧倒され、男たちは体をこわばらせた。


「……ヒィ!」


「ァ、ァ……」

ガタガタと歯を鳴らしながら後ずさる男たち。


そんな様子を見て、フレッドが笑いながら言った。

「女にはたかれて気絶するなんて、情けねえったらありゃしねえ」


「ワハハ! 確かに兄ちゃんの言う通りだぜ!」


「ホントだな!」

周囲の客たちもこれには大笑いした。

酒場の雰囲気が一気に軽くなり、酔客たちが声を上げる。


「おう、別嬪のねーちゃん、そのイケメンの兄ちゃんに一発かましたれ!」


そんな声を聞き、サーシャはフレッドに向かって少しムッとした顔で言った。

「あなたも、はたいてあげましょうか?」


「すんません!!」

即座に頭を下げるフレッド。


酒場はさらに爆笑の渦に包まれた。

その間に、先ほどの三人の男たちは気絶した仲間を引きずるようにして、そそくさと酒場を後にした。


二階の大部屋に戻った後、サーシャは少し申し訳なさそうに言った。

「みんな、ごめんね……」


「いや、あの場にシマがいなくてよかったぜ」

クリフがそう言うと、仲間たちは深く頷く。

「うんうん」


「今頃死んでただろうなあ」

フレッドが冗談めかして言うと、リズが冷静な顔で答えた。

「流石にそこまでは……なくはないわね」


「あり得るわね」

ノエルも同意する。


サーシャだけは少しもじもじしながら、

「そうかなあ~……」

と呟いた。そんな彼女を見て、トーマスが話を変える。


「まあ、今後はあまり目立つ行動は避けようぜ。さて、明日はどうする?」


「情報収集するといっても、何をすればいいか分からないしな」


「エイラたちと合流するのもまずいし……」


サーシャが少し考え込んでから言った。

「市場を見て、いろいろなお店を回ってみましょう。少しくらい買い物をするのもいいわね」


「そうよね。少しくらい買い物をして、勉強の成果を試してみるのもいいかも」

ノエルが続ける。


「私も露店を回って買い食いしてみたいわ」


「雑貨屋をのぞいてみたいわ」

ケイトとリズも、それぞれの興味を口にする。


そんな彼女たちを見て、トーマス、クリフ、フレッドは思った。

(こいつらも結構はしゃいでるじゃねえか……)


少し呆れつつも、その無邪気な様子に微笑ましさを感じる彼らだった。


翌朝、彼らは宿に予約を入れ市場へと向かうことになる。

その先にどんな出会いと出来事が待っているのか、誰にも分からなかった。


市場に到着した一行は、通りの賑わいに目を輝かせた。

新鮮な果物、焼き立てのパン、香辛料の香りが漂う。


サーシャは革細工の店に目を引かれ、ノエルは小物を扱う露店で足を止めた。

ケイトとリズは屋台の串焼きを手に取り、その味を楽しんでいた。

トーマスとクリフ、フレッドは市場の活気に目を細めながら、どこか警戒心を緩めずにいた。





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