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光を求めて  作者: kotupon


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330/457

ギャラガたち一行

ミャント村、午前11時頃――

シンセの街とラドウの街を結ぶ街道の中間、なだらかな丘の裾に広がる小さな村、ミャント。

わずか四十軒ほどの家屋がひっそりと点在し、中央の土の広場を囲むようにして建っている。


村の中心部には、質素な造りの商店が二つ。


片方は雑貨と食料を扱う商店で、木製の看板には手書きで「ヴァロの店」とある。

もう一方は農具と布地、古物などを置く「ミルハウス屋」。


街道沿いに土埃を舞わせてやってきたのは、シャイン傭兵団。

二頭引きの馬車10台に、騎乗用の馬が4頭。


団員は43名。そのうち炊事班が3名。

責任者ギャラガを筆頭に、団員たちは荷の確認や馬の水やりなど、手早く休憩体勢に入っていく。


ギャラガは馬車から悠然と降り、オズワルドと視線を交わす。

「休憩ついでに、ちょいと商いでもするか」


二人が向かったのは「ヴァロの店」。

年季の入ったカウンターに、毛布で包まれた木箱を静かに置く。


ギャラガが説明する。

「リバーシと言ってな。遊び方は説明書に書いてある。初回製造、番号は000001から000005。興味はあるか?1セット3銅貨だ」


オズワルドが蓋を開けると、中には艶のある黒と白の石、そして精巧な折りたたみ盤。

「旅の退屈しのぎにどうだ。村の子どもにもいいぞ」と笑う。


店主は驚きつつも頷き、銀貨1と5銅貨を払い取引は成立した。


そのころ、別行動を取っていたマルクとルーカスは、「ミルハウス屋」の軒先で老人と談笑していた。

背負い袋に入れたリバーシのセット10個を差し出し、番号は000051~000060。


「ほぅ、これは立派な……」

「お代は1セット3銅貨。よければ購入しませんか、面白いですよ」とマルクが笑う。

ルーカスは無言ながら周囲をよく観察しており、棚に積まれた塩と果実酒に目を止める。


試しに1局、打ってみる。老人は10セットを購入した。


一方、村外の草地では、他の団員たちが簡易休憩に入っていた。

木陰にシートを広げ、干しパン、塩漬け肉、固いチーズを取り出す。

炊事班の3名が火を起こし、湯を沸かして麦茶と干し野菜のスープを準備している。


「この村、静かだな……」

「なにせ地図にもろくに載ってねえ」

「でも水はきれいだ、ありがたいな」


水桶に馬をつないでいる若い団員が、汗を拭いながら言う。

別の団員が、焼けた鉄鍋のなかを覗き込む。「あ、もう煮えてるぞ」


子どもたちが遠巻きに馬車を見ている。

一人の団員が片手を振ると、恥ずかしそうに逃げていく。

昼の陽射しのなか、ただそれだけの、平和なひととき。


ギャラガたちが戻ってきたのは、昼飯を食べ終える直前だった。

「さ、荷の確認を。次はラドウだ」とギャラガが号令をかける。


食器を手早く洗い、灰をかけて火を消す。

馬の手綱を締め直し、馬車の車輪を点検する団員たち。

全体が無駄なく動くのは、日頃の訓練と信頼があってこそだ。


オズワルドが最後尾に乗り込み、村の出口で振り返ると、遠くで店主たちが手を振っていた。

乾いた風が草を揺らし、再び旅路へと馬車が動き出す。



傾き始めた陽が、ラドウの街を金色に染めていた。

土と石が混ざる街道を進む馬車列の前方に、堅牢な石造りの門が現れる。


ラドウは中規模の交易都市であり、街路には商人、旅人、異国風の衣服をまとった流浪者の姿も目立つ。


門番との簡単な応対を済ませ、入場税を払い、傭兵団は広場の一角に野営の許可を得る。

もともと商隊用に設けられた空地で、井戸と簡易のかまども備わっていた。


「馬車、半円陣で並べろ! 馬は順繰りに水をやれ!」

ギャラガの声が響くまでもなく、各隊が迅速に動く。

テントを張り、焚き火の位置を定め、寝具と炊事道具が次々と並べられていく。


炊事班は残っていた豆と乾パンを用いて、軽い夕食を用意。

街の喧騒を遠巻きに聞きながら、団員たちは各々の装備を点検し、疲れた体を休めた。


ラドウの街は魅力的だ――

賑やかな通り、匂い立つ肉と香辛料の香り、酒精。路地裏から響く音楽と笑い声。


しかし、ギャラガは明言していた。

「今夜は街に出るな。明日には動く」


翌朝、朝露の残る空の下

馬車の一部は荷を整え、ギャラガ隊とルーカス隊がそれぞれ街の商会へ向かう。


コイタチモ商会は、ラドウでも屈指の中堅商社。

木製の看板と、屋根には異国風の獣の像があしらわれている。

奥では帳簿を広げた商人が商談を進めていた。


ギャラガが持参したのはリバーシ20セット。

「一つ3銅貨。全てで6銀貨だ」


「悪くない。試しに何セットか展示してみよう」

取引はスムーズに進み、その代金で保存用の乾燥野菜、燻製肉、瓶詰の清水、干し果物などを購入。


ルーカス隊はトウフン商会に訪れる。


ルーカス隊が持参したのはリバーシ30セット。

トウフン商会の番頭はそれらを手に取り、石の質感や細工をじっくりと確かめる。


「これは……中々見ぬ意匠。旅人の土産にも好まれそうだ」

最終的に、全30セットを買い取られ、代金は9銀貨。

ルーカス隊はその代金で、香辛料入りの保存食、炙り魚、甘茶、携帯水袋などを手に入れた。


トウフン商会の女性店員は、「次の入荷はいつ?」と興味深そうに聞く。


ルーカスは笑って肩をすくめた。

「シャイン商会に…チョウコ町で手に入るぞ」


広場へ戻った両隊は荷を馬車に積み込み、再び街道へ向けて準備を整える。

団員たちは、色とりどりの品が並ぶ市場や、路地裏の音楽に未練がましい視線を送った。


「……こういう街、ゆっくり歩けたらな」

「次の機会があるさ。生きてりゃな」


荷を締め直したギャラガが短く言う。「出るぞ」

街門を抜け、朝の太陽が旅路を照らす。


まだ見ぬ城塞都市へ、背後には、まだ賑わうラドウの街。

しかし彼らの目は、任務の先にある城塞都市を見据えていた。


風は穏やかで、道は遠くとも確かに続いている。

だが今はただ、前へ進むのみ。



石畳の道が陽に照らされ、赤銅色に染まっていた。

ランザンの街門、その先の広場には行き交う人々の活気が漂い、旅人、商人、職人たちがそれぞれの営みを急いでいた。


そんなとき――彼らが来た。


北の街道から現れたのは、整然とした隊列を組んだ十台の馬車と四頭の騎馬。

馬車の幌には簡易の帆布、その一台一台には規則正しく荷が積まれている。


馬たちはよく鍛えられ、引き手も無駄な動きがない。

日焼けした顔、引き締まった視線、武装は簡素だが機能的。

ただの旅商人ではない――それは一目でわかる。


その列の先頭に掲げられたのは、『力強い獅子』をあしらった団旗――「シャイン傭兵団」の旗印だった。


街門近くで野菜を売っていた初老の商人が、旗を見て目を細めた。

「……あれ、まさか……」

隣にいた若い荷運びが顔をしかめて呟く。

「シャイン傭兵団? あの?」


「金の斧傭兵団を壊滅させたって……6人でだろ? 嘘だろ……?」


「しかもついこの前、たった10日前だぞ」

「エイト商会と繋がってるって話、やっぱ本当か……」


「ヴァンの戦いでもなんかやったって……いや、それはさすがに作り話だろ」


──噂は噂を呼び、街の空気がざわつき始める。

通りすがりの商人が耳打ちし、子どもたちが駆け回り、広場の小店の客が皆、目をこらして馬車の列を見つめた。


しばらくして、その馬車列のすぐ脇まで駆け寄った中年男が、勇気を出して声をかける。

「な、何て名前の傭兵団で……?」


それに対して、馬車脇を歩いていたギャラガが、顎を上げて一言、静かに応じる。

「――シャイン傭兵団だ」


その言葉は刃のように明瞭に、空気を断ち切った。


驚愕の波が広場を走る。

「やっぱり……本物だ!」「あれがギャラガか……!」

「今の、団長じゃないのか?」「いや違うらしい」

誰もが名前だけは知っていた。


この5日間、ギャラガたちは幾つもの村や小さな町に立ち寄り、リバーシ盤を150セット売却してきた。

盤石な補給と静かな交渉、慎重な泊まりと野営。

無理な行軍も無駄な摩擦もなかった。


各地で「シャイン傭兵団」の名を出すと、驚きとともに道が開けた。

あるいは恐れ、あるいは尊敬。

時に笑いと好奇に包まれながらも、彼らの行く先には、確実に「名前の力」が届いていた。


しかもこの街――ランザンには、最大商会「エイト商会」との協力関係があり

ハドラマウト自治区にあるかつて放棄された村を、彼らの手で再建・発展させているという評判も、すでにここに届いていた。


興奮と憶測とで街は軽い騒乱のような状態になり始めていた。


そのとき、街の一角から大声が響いた。


「――ようっ!! やっと来たかよ、ギャラガ!!」

デリーだった。


二ヶ月限定の本部勤めでランザン駐在を任されている隊長の一人。

隣には、マックスが、腕を組んで立っていた。


ギャラガが顔を上げると、デリーは大きく手を振って駆け寄ってくる。

「オズワルド、マルク、ルーカス!ここまでは問題なかったか?」


「……ああ、順調だったよ」

マルクが答え、ルーカスは黙って頷き、オズワルドは軽く肩をすくめる。

「よし。じゃあ、4人は俺と一緒にエイト商会に向かうぞ」


マックスが静かに口を開いた。

「団員たちは俺が本部まで連れていく。」


ギャラガは短く頷く。

「頼んだ」


ランザンでも指折りの大店――エイト商会本店。

二階建ての堅牢な石造り、木製の格子窓には白い布が揺れ、正面玄関には上品な装飾が施されていた。


その店先には、シャイン傭兵団の常駐警備の団員5名が立っていた。

槍を立て、軽装ながら隙のない立ち姿で門前を守っている。


「よう、戻ったか!」

「補給はどうだった?」

「お土産話あるか?」


軽口を交わしながら、ギャラガたちはそれぞれ頷き合い、商店内へと通されていく。


商談室。

楕円形の重厚な木製テーブル、壁には地図と取引記録が掛けられ、窓から柔らかな西日が差し込んでいた。


ここに待っていたのは、エイト商会の代表者たち――


ダミアン(会頭)、アレン(副会頭)、ディープ(幹部)、トウ(幹部)。


ギャラガたちが部屋に入ると、アレンが立ち上がり迎える。

「――よく来てくれた。エイト商会会頭のダミアンだ」


ギャラガは軽く一礼しながら進み出る。

「今回の商隊の責任者は俺だ。……それと、シマから文を預かっている」

腰の鞄から文を取り出し、丁寧にダミアンへと差し出す。


ダミアンは慎重に文を開き、数行を読んでから笑みを深めた。

「……まあ、まずは座ってくれ」


全員がテーブルに着席する。

シンプルだが上質な椅子に腰を下ろすと、ディープが筆を持ち、記録の準備を整える。


「帰りに食料と飲料、それと商標権の利益分を渡す。立ち寄ったら馬車は裏庭にまわしてくれ」


「了解だ」とギャラガ。

隣のオズワルド、マルクとルーカスは小さく頷き、オズワルドは控えめにメモを取る。


ダミアンが手元の書類をアレンに示すと、その一部を引き抜いて差し出した。

「――シャイン傭兵団に護衛の依頼だ。ここから城塞都市までの往復、エイト商会から馬車が5台出る。こちらの責任者はディープだ。任務期間中は彼の判断を最優先で頼む」


ディープが静かに目を上げ、ギャラガと視線を交わす。

短く、力強い頷き。


「そしてこれは……」

トウが持ってきたのは、以前シャイン傭兵団と交わした契約書の原本。

「読んで確認してほしい。必要なら追記や条件変更にも応じる」


ギャラガが契約書を手に取り、黙って目を通す。

記された条項は明快で、護衛対象・期間・報酬・責任分担が厳密に明文化されている。


隣のオズワルド、マルク、ルーカスも順に目を通し、各自軽く頷く。

任務の重さはあるが、信頼に足る内容だ。


「……確認した。内容に問題はない…引き受けよう」

ギャラガが静かに言うと、ダミアンは満足げに頷く。

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