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光を求めて  作者: kotupon


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313/460

シマ、見誤る?!

空がまだ藍に染まり、夜と朝の境がぼんやりと交差する早朝――

山と森を縫う街道を、六つの影が地を這うように疾走していた。


夜露で濡れた草を巻き上げ、起伏のある未舗装の路面も苦にせず、鍛え抜かれた脚が淡々と一定のリズムを刻む。


――風を裂く音だけが、彼らの存在を告げている。


前列を走るのは、フレッド。

その横を並ぶのは、ぶ厚い肩で重心を抑えながら走るジトー。

背後からはクリフとザックが、無駄のないフォームで地を蹴る。

さらにその後ろ、軽快なリズムでついてくるのはトーマス。

そして、その隊の中心にして先頭でもない最後尾でもない場所を走るのが、団長シマだった。


彼らは黙して走る。

まだ鳥すら鳴かない、夜明け前の静寂を、ただ己の足音だけで貫いていく。


彼らはすでに四時間、足を止めていない。


その間に、すれ違った者の数は十数組――すべての者が、後に遅れて驚愕する。


「……今の、何だ?」

荷車を引いていた若い行商人が言った。


「狼? いや違う、人……か……?」

馬を操っていた商隊の男が手綱を引きつつ答える。


数人の隊商が一斉に振り返るも、そこにあるのは風に揺れる草と舞い上がった土埃だけだった。


「……人間が、あんな速さで……?」

誰もが目を疑う。馬車が平均時速で移動している道を、それを追い抜いていく六人の影。


しかも彼らは、驚くことにまったく乱れていなかった。

呼吸も、歩調も、視線もまっすぐに定まっていた。


六人は街道の左を淡々と走る。

道の中央や右を通る隊商に対し、無言の配慮がそこにある。


地平線の向こう、ようやく空が薄桃色に染まりはじめた。


「……ここまで、四時間と十分。そろそろ小休止だ」

シマが静かに告げた。


六人は言葉を返さず、一斉に道脇の草地に足を向ける。

腰を下ろさず、軽く足首と膝を伸ばす。

ザックが肩を回し、トーマスが水筒をジトーに回す。

息遣いは静かだ。彼らにとってこれしきの道のりは、もはや通過点にすぎない。


遠く、先ほどすれ違った商隊の一団が見える。

まだ向こうは状況が飲み込めず、ぽかんと口を開けてこちらを見ていた。


クリフが小さくつぶやいた。

「……あいつら、今でも俺たちを馬か何かと勘違いしてるぜ」


それにザックが笑いを堪えながら、「いや、馬より速い」と返す。


フレッドが軽く足を叩きながら言った。

「……で、サッサとランザン行くんだろ? あと半分もねえじゃねえか。とっとと終わらせようぜ」


皆が軽くうなずく中、シマが周囲の様子を一瞥し、また前を向いた。


街道沿いの緩やかな起伏を越え、開けた丘陵地帯に差しかかる頃。

日差しが肌にじんわりと刺さり始めていた。

だが、六人の呼吸は乱れておらず、足取りにも疲労の色はない。

むしろ、どこか清々しい余裕すら漂っている。


その静かな空気を破ったのは、先頭を走るシマの呟きだった。

「……昼前には着きそうだな」


顔は汗に濡れているが、息はまるで上がっていない。

彼は額の汗を拭いながら、ぽつりと続ける。

「マジで化け物だな、俺たち……!」


その言葉に、後ろを走っていたジトーがふっと笑い

「道が平坦で走りやすいってのもあるけどよ……やっぱり俺ら、規格外なんだろうなぁ」

半ば呆れたように肩をすくめた。


「全力で走ってるわけでもねぇのにな」

クリフがぼそりと呟く。


確かに、今のペースは“全力”とは言えない。だが“速い”ことに違いはない。

地を蹴るたびに、土煙が小さく舞い、影は風のように流れていた。


「でも、汗はかいてるぜ」

トーマスが水筒を傾けながら言う。

「体力は全然余裕だけどな。水分だけはちゃんと摂らねぇとな」


フレッドが口元をゆがめながら

「これで汗の一つもかいてねぇと人間じゃねぇだろう」と軽口を叩いた。


すると、その後ろからザックが勢いよく叫んだ。

「もしかして、俺たちって……世界最強なんじゃねえか!?」


その発言に、全員が一瞬だけ無言になり、次いでどっと笑いが起きる。


「おいおい」

クリフが笑いながら応じた。

「だからって油断は――……するわけねえな、俺たちが」と自ら締めくくった。


笑いながらも、彼らの瞳に油断の色はなかった。

この家族たちは、戦いの中で数えきれない死地を越えてきた。

その“感覚”だけは、いかなる余裕の中でも研ぎ澄まされている。


やがて、ジトーがふと空を見上げて言った。

「……二日で着く予定だったのが、まさか昼前には着くことになるとはな……」


「お前がここまで見誤るなんて、珍しくね?」

フレッドが前からシマに声を投げた。


シマは少し眉を上げ、言葉を選ぶように口を開く。

「……これだけの距離を走ったことはねぇからな。もう少しバテると思ってたが……」


「想定外、というやつだな」

ザックが得意げに言い放った。


その言葉に、トーマスがふと目を向ける。

「ザック、お前……ホントに勉強してんのか?」

少し疑うような声音で尋ねると


「爺さんに話を聞くぐれぇだけどな」

ザックは苦笑しながら答えた。


「俺も爺さんとはよく話をするぜ。交渉術には知識が必要だからな!」

とフレッドが続けた。


ジトーがやや感慨深げに言葉を継ぐ。

「……何だかんだ、身体だけじゃなく頭の方も成長してるってことだな」


すると、クリフがニヤリと笑って言った。

「性格は変わらねぇけどな」


その一言にまた笑いが広がり、六人の足取りは軽やかに続く。

風が頬をかすめ、陽光はまぶしく、草原を駆け抜けるその姿は――

まさしく、常人の域を超えた“規格外の傭兵たち”そのものだった。



ランザンの街の空は高く晴れ渡り、陽光が街並みを柔らかく照らしていた。

昼前の通りは穏やかで、石畳の街道を行き交う人々もどこかのんびりとしている。

商隊の掛け声や、軒先から漂うパンの香ばしい匂いが、ランザンの平和な空気を際立たせていた。


そんな中、その街並みに突如として現れた六つの影は、まるで異質だった。

長距離を走破したとは思えぬ速度と気配の鋭さを保ち、分岐点の小広場で自然と二手に分かれる。


「俺たちはエイト商会に行く。ジトー、クリフ、トーマスは本部だ」

シマが短く言えば


「ああ、任せとけ」

ジトーがうなずき、力強く頷くクリフとトーマスとともに歩き出す。


二手に分かれ、ジトーたちが進む道は、街の中央部を少し外れた閑静な住宅街。

石造りの塀に囲まれた小綺麗な家が並び、木陰にはベンチが置かれ、小鳥のさえずりさえ聞こえてくるような落ち着いた雰囲気が漂っていた。


その一角。

本部とされる建物の前――鉄の門扉の前には、二人の若い団員が警戒を怠らず立っていた。

どこか緊張感のある表情で門の内外を見渡している。


そのうちの一人がふと視線を遠方に向け――


「……っ!? お、おい……あれ……ジトーと……トーマス……クリフじゃねぇか!?」

思わず声が裏返る。

もう一人も、慌ててその指差す方向を見ると、確かに見覚えのある巨体が陽光を受けて迫ってくる。


「――あの巨体は……間違いねぇ、ジトーたちだ!」


ただ歩いてくるだけだというのに、その存在感は圧倒的だった。

ジトーの鍛え抜かれた身体は、服の上からでも肉厚な筋肉を感じさせ、歩くたびに地面が鳴るような錯覚さえ覚える。

その隣には、目つきの鋭いクリフが気配を絶やさずに周囲を見ており、最後尾のトーマスは少し気怠げな表情を見せながらも、身のこなしには油断がない。


「ド、ドナルドたちに知らせてくる!」

片方の団員は走り出した。

その顔には、驚きと安堵、そしてどこか誇らしげな色が混ざっていた。


一方、門前に残った団員は、姿勢を正し、胸を張って三人を迎える準備を整える。


ジトーたちはまっすぐに門へと向かって歩き続ける――

その歩調は一定で、無駄がなく、止まる気配すら見せない。


やがて三人の影が門前に達したとき――

風が一度、強く吹き抜け、門扉の金属がかすかに軋んだ。


「……よう、ご苦労さんだな」

ジトーの低い声が、重々しく、だがどこか嬉しげに響いた。


ジトー、クリフ、トーマスが本部の門をくぐって数分後――

建物の中庭から、ざわめきと足音が次第に高まっていった。


「ジトーたちが来たって!?」

「マジで!?」「ほんとかよ!」

「クリフにトーマスも一緒に!?」


興奮と歓喜が入り混じった声が、建物の奥から噴き出すように響いた。


ドナルドが団員たちを先導しながら建物の中から飛び出してくる。


落ち着いた様子のジトーたちの姿を見つけるや、先頭を駆けるドナルドの口元に安堵と笑みが浮かぶ。

それに続く団員たちも、次々と歓声をあげながら三人に駆け寄った。


「ジトー!」「クリフ!」「トーマス、何でここにいるんだ?!」

「まさか、本当にいるとはな…!」


トーマスは、やや苦笑いしながら両手を挙げて答える。

「よっ、とりあえず説明は後だ……井戸場はどこだ?」


「汗でシャツがびしょびしょだぜ、背中が貼りついて気持ち悪ぃ」

クリフが顔をしかめれば


「悪いが、ついでに飯の用意も頼むわ。腹が減ってかなわねえ」

トーマスが遠慮なしに言い放つ。


「了解だ!」

と返すドナルドに、すぐさま団員たちが駆け足で動き始める。

一部は食堂と台所へ走っていき、手際よく昼食の準備が整えられていく。


衣服を洗い場に預け、持ってきた服に着替え、三人は簡単に汗を拭い、食堂に通された。

高い天井、無垢材の梁、明るい日差しが差し込む広々とした室内には、すでに長テーブルが用意され、湯気の立つ料理が並び始めていた。


そこへ、マックスが椅子を引いて腰を下ろした。

「で、お前ら、いつチョウコ村を出立したんだ?」


食器を手に取ったジトーが、さらりと答える。

「今朝、夜明け前だ。それと、村じゃなくなったぞ――"チョウコ町"に変わった」


一瞬、沈黙。


フォークの動きが止まり、座していた団員たちが顔を見合わせる。

「……マジかよ?」と誰かがぽつりと呟き、


「ホント、お前らにはあきれるぜ……町、か。まあ、そう言っていい規模だしな……」

ドナルドがしみじみとつぶやいた。


だがクリフは、ふと席を見回して眉をひそめる。

「……デリーがいねぇな?」


「エイト商会の警備に回ってる。デリーと団員4名がな」とマックスが答える。


「ってことは、噂は聞いてるんだな?」

トーマスが顔を上げる。


マックスは一瞬黙り、うなずいた。

「……バシイ商会が何か企んでるとか、エイト商会との関係がギクシャクしてるって話は聞いてる」


その目は鋭く、警戒の色を滲ませている。

「念のため、デリーたちを常時警備に当たらせてるって状況だ……でも、お前らがここに来たってことは……」


ドナルドが言いかけると――ジトーが深くうなずき、短く言った。

「……ダミアンが何か掴んだようだ。エイト商会にシマとザック、それとフレッドが向かった」


食べていたパンを咀嚼しながらマックスの動きが止まる。目が見開かれ、声が素っ頓狂に跳ねた。

「……!シマたちも来てんのかよ?!」


するとクリフが肩をすくめ、涼しい顔で言った。

「サッサと終わらせるためにな。あいつのことだ、面倒を後回しにしねえ」


ジトーは頷きながら、パンの欠片をつまむ。

「俺たちの今後の予定も、あいつから詳しく聞いてたわけじゃねえけど……まあ、シマが動いたってことは、すぐに何か始まるってこった」


それを聞いたトーマスが、苦笑しつつ湯をすすりながら言う。

「間違いねえな……数時間後には動き出すな。」


ドナルドは深くうなずき、真面目な声で返す。

「で、ジトー、これからの動きは?」


ジトーは食べかけの皿を押しやり、背筋を伸ばして言う。

「飯を食ったらエイト商会に行くぞ。お前たちには、そっちの警備と警護を頼む。向こうの従業員が買い出しに出ることもあるだろ?」


「ああ、そうだな」

ドナルドが腕を組み、真剣な表情で頷いた。

「商会周辺は人通りも多いし、抜け道もある。連中がどこから仕掛けてくるか分かったもんじゃねえ……こっちも全力で当たる」


マックスはテーブルに肘をついて顔をしかめ、低く呟いた。

「……バシイ商会、それと金の斧傭兵団……あいつらも、これでお終いだな。エイト商会とは最初から仲良くしてればよかったのによ」


その言葉に、クリフが笑みを浮かべて答える。

「そもそも、エイト商会とシャイン傭兵団がつるんでるなんて、思ってなかったんだろうよ。それに、俺たちはまだそんなに有名ってわけでもねえしな」


シャイン傭兵団が、戦うべき敵に立ち向かう時が来た。

それも、圧力や陰謀ではなく、正面から、真正面から――。


「……さて、腹も満たしたし、着替えも済んでる。行くか」

ジトーが椅子を引いて立ち上がると、クリフとトーマスも無言でそれに続いた。


その背中に、マックスとドナルドが立ち上がり、敬意と覚悟を込めて言った。


「了解、任せてくれ」

「後方は、俺たちが確実に守る」


その瞬間、食堂にいた団員たちは全員が一斉に立ち上がり、手を胸に置いた。

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