表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光を求めて  作者: kotupon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/443

不安を取り除こう

 ふと、川の岸辺に立つリズが目に入る。


彼女はそっと目を閉じ、透き通るような声で歌い始めた。

優しく穏やかな旋律が、水の流れに溶け込んでいく。

風が葉を揺らし、その歌声を優しく運んだ。


ロイドが手を差し出し、リズを誘う。

 「踊ろう」


 リズは微笑みながらその手を取る。

二人はゆっくりと回り始める。

洗練された動きとは言い難いが、自然と溶け合うような、穏やかな舞。

彼らを見ていたサーシャとエイラが、シマの手を引いた。


 「さあ、シマも!」

 「踊りましょう!」


 シマは少し戸惑いながらも、彼女たちの手に引かれるまま輪の中に加わる。

手を繋ぎ、くるくると回る。足元の水が飛び跳ね、冷たい感触が心地よかった。

流れるような動きではない。ぎこちなく、不器用な足取り。

しかし、その場にいる誰もが笑顔だった。


 ジトーとミーナ、クリフとケイト、トーマスとノエル、オスカーとメグ。

それぞれが互いの手を取り、まるで子供のように、ただただ楽しそうに回る。


 「お前ら、うらやましいぞー!」「コノヤロー!」

 ザックが叫び、フレッドが大きく水をすくい、二人そろって輪の中に水を浴びせる。

 

 再び水の掛け合いが始まり、輪の中も外も関係なく、水飛沫が乱れ飛ぶ。


 太陽の光を受けた水滴が宙に舞い、きらきらと輝いていた。

その中でサーシャとエイラが笑いながらくるくると回る。

水飛沫を浴びて濡れた髪が陽の光を反射し、光の粒が降り注いでいるかのようだった。


 ——綺麗だ。

 シマは素直にそう思った。


何の飾り気もない笑顔。ただ楽しさに身を任せ、笑い合う姿が眩しかった。


 彼らは今、生きている。喧騒の中で、確かに、力強く。


 この時間が永遠に続けばいい——ふと、そんなことを思う。


 だが、陽は沈む。水の冷たさが、次第に肌へと染みていく。


 「そろそろ戻らなきゃね」

 誰かがそう呟いた。


 けれど、彼らはまだその場を離れたくなかった。

 この温もりを、できるだけ長く抱きしめていたかった。



 夕闇が降り始める頃、家の中の焚き火の明かりが揺らめき、香ばしい肉の焼ける匂いが辺りに広がっていた。

空腹を満たす準備が整い、仲間たちは賑やかに夕食の席についた。


 焼きたてのパン、ほくほくのふかし芋、香り高いスープ、そして香ばしく焼かれた肉。

どれもこれも、昼間の狩りと解体作業の成果だ。

手間をかけて血抜きをしたおかげで、肉の臭みもなく、噛むほどに旨味が広がる。


 シマはまずスープを一口すする。

ブラウンクラウンと呼ばれるキノコをふんだんに使ったこのスープは、まろやかでありながら滋味深い味わいが特徴だった。

少しとろみのあるその液体が喉を通るたび、体の隅々にまで染み渡るような感覚が広がる。

まるで狩りで疲れた身体を癒やすかのように、じんわりと温かさが沁み込んでいく。


「……うまいな」


 シマの呟きを聞いたサーシャが、隣でにっこりと笑う。

「でしょ? しっかり煮込んだからね」


 その頃、ザックとフレッドはものすごい勢いで肉を頬張っていた。

「食わなきゃやってられねえぜ!」

「全くだ!」


 二人の間には確かな友情があるのだろう。

言葉少なに見つめ合いながら、どんどん肉を口へ運ぶ。

その勢いに、周囲の仲間たちは苦笑する。


「……とは言ってもなあ」

 ロイドが肩をすくめる。


だが、その表情には微笑みが浮かんでいる。

みな同じ釜の飯を食べる仲間であり、絶望の淵から手を取り合い生き抜いてきた家族なのだ。


 シマはふと、焼きたてのパンを手に取る。

こんがりと焼かれたその表面は香ばしく、ちぎると湯気が立ち昇った。

彼はふと閃き、スライスした肉をパンにはさみ、薬草を軽く散らして食べてみる。

森ミントの爽やかな香りが、肉の濃厚な旨味を引き立て、得も言われぬ美味さを生み出した。


「……う~~ん、こりゃあうまいな!」

 思わず感嘆の声を漏らす。


すると、それを聞いた仲間たちが興味津々とばかりに集まってきた。


「なになに? どんな食べ方?」

「お前、そんな方法どこで思いついたんだ?」


 シマが見せると、皆も次々に真似をし始める。


「……美味しい~!」

「めちゃくちゃうめえじゃねえか!」

「こんな食べ方があったなんて……」


 感激した様子のケイトやノエルが目を輝かせる。

トーマスやオスカーも、夢中になってパンに肉を挟んでいる。


「お前、天才じゃねえ?」

 フレッドが満面の笑みでシマの肩を叩いた。


 そんな賑やかな夕飯の時間が流れる中、メグがふかし芋を手に取る。

少量の塩をかけ、一口齧ると、ほっくりとした甘みが口の中に広がった。


「おいしい……!」

 感動したように目を丸くするメグ。


オスカーがそれを見て、真似をする。

「……うん。塩をかけるだけでこんなに美味しくなるなんて」


 シマはそんな光景を眺めながら、温かな気持ちになった。

 満たされた空腹、仲間と過ごすひととき、美味しい食事。

 この一瞬が、何よりも幸せだった。



「食った食った!」

「もう一歩も動けねえ……」


 ザックとフレッドが腹をさすりながらごろんと横になる。

二人とも満腹で動く気力もないらしい。

そんな彼らを見て、仲間たちはくすくすと笑いながら、それぞれの飲み物を手に取る。


 チャノキの香ばしいお茶、甘草の優しい甘みのあるお茶、爽やかなミントティー、そしてリラックス効果のあるカモミールティー。

湯気の立つ器を手にしながら、食後の余韻に浸る時間は何よりも贅沢だった。

夕食の締めくくりとして、それぞれが好みの味を楽しんでいた。


「次回の取引の時はみんなで行くのか?」

 トーマスがシマに問いかける。


シマは少し考えた後、ゆっくりとうなずいた。

「連れて行くと約束したからな」


 シマの言葉に女性陣たちは歓声を上げた。

目を輝かせ、嬉しそうに頷く。


しかし、その場の空気が一瞬にして変わる。

エイラだけが複雑な表情をしていたのだ。


 彼女の表情を見て、はしゃいでいた女性陣たちもハッとして口をつぐむ。

しんと静まり返った場で、誰もが同じことを考えていた。


 エイラは、かつてそこそこ大きな商会の娘だった。

しかし、何かしらの理由で奴隷として売られる運命をたどった。

彼女が奴隷になったことを知る者は大勢いる。

そんな彼女が街へ行けば、大騒ぎになる可能性が高い。

最悪、また捕まって売られてしまうかもしれない。


 仲間たちはその事情を知っていた。

エイラ自身の口から語られた過去。その傷が、まだ彼女の中に残っているのだ。


「ごめん、はしゃぎすぎたわ……」


「私も……」


 女性陣たちは申し訳なさそうに俯く。


だが、エイラは優しく微笑んだ。

「気にしなくていいのよ」

 そう言ったものの、どこか寂しげな笑みだった。


「でもよ、もう三年以上前のことだろ?」

 クリフが疑問を口にする。

「覚えてるか?」


「確かに……背も伸びたし、髪も伸びたし、顔は……どうなんだろうな?」


 仲間たちは顔を見合わせる。

長い時間を共に過ごしているため、エイラがどれだけ変わったのか、改めて考える機会がなかった。


「お前ひとりだけを残して街へ行くことなんてできねえ」

シマがはっきりと言う。


 サーシャも断言する。

「エイラが行きたくないというなら、私も残るわ」


「私も」


「私もよ!」


 次々と同意する女性陣たち。

結局のところ、エイラが残れば、みんなが残ることになる。


「馬鹿ね、あなたたち……楽しんでくればいいのに……」

 エイラの声は小さかった。

その瞳には、ほんのわずかに涙が浮かんでいるように見えた。


「エイラ、お前は行きたくないのか? それとも……行きたいのか?」

 シマが真っ直ぐにエイラを見つめて問いかける。


エイラは一瞬躊躇した後、小さく息を吸い込んで、ゆっくりと答えた。

「……行きたいわ」


「よし! 決まりだな!」

 シマは力強く頷いた。

「お前の不安をひとつずつ取り除いていこうぜ!」


 その言葉に、仲間たちは頷き合う。

そして、どうすればエイラを安全に街へ連れて行けるか、具体的な話し合いが始まった。


 まず、エイラの姿を変える方法について考えた。

髪型を変えたり、目立たない服装にしたり、別人のように見せる工夫をするべきだろう。

サーシャは布を取り出し、エイラに似合いそうな頭巾を選ぶ。


「これなら、少し印象が変わるわよ」


「なるほど、確かにいいかもな」


 他の仲間たちもアイデアを出し合いながら、エイラが安心して街を歩ける方法を考え続けた。

少しずつではあるが、彼女の不安は薄れていくように見えた。


 夜は更けていく。しかし、仲間たちの話し合いは尽きることなく続いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ