表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光を求めて  作者: kotupon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/448

連携

2日後の早朝。


薄暗い森の中で、一行は静かに準備を整えていた。

今回は新たに改良した装備を試す絶好の機会だった。

ブーツにはナイフが装着され、矢筒には仕切りが入り、矢の種類を分けて収納できるようになっている。

オスカーを除いた男性陣はリュックを背負い、荷物の分担がしやすくなった。


隊列を組み、慎重に歩を進める。先頭には盾を構えたジトーが立ち、その隣にシマが並ぶ。後ろには女性陣が一列に続き、その両側をロイド、ザック、クリフ、オスカーが固める。最後尾にはトーマスが盾を持って控え、その前にフレッドが立つ。

こうして縦長の隊列で進み、慎重に森の中を進んでいく。


道中、兎や鹿の姿を見かけることもあったが、行きの道中では狩らない。

獲物は帰り道で仕留めるのが鉄則だった。

森の隙間から陽が昇り始め、ところどころに光が差し込む。

今日は今まで訪れたことのないエリアに向かう予定だ。


深淵の森の家から歩くこと約二時間。


一行は目的の狩場に到着した。

シマがハンドサインを使い、狩りの開始を示す。

微風が右側から吹いている。

風上に立たないよう、右側へ移動することが決まった。


静かに隊列を変える。

最後尾にいたトーマスが先頭にまわり、同時にザックも前へ出る。

盾を持つジトー、トーマス、ザックが前衛となり、中衛にシマとロイドが位置取る。

女性陣とオスカーが横に広がり、一番右端にクリフ、一番左端にフレッドが配置された。


ジトーがハンドサインを送る。

前進開始の合図だ。全員が身を低くし、静かに進む。

足音を殺しながら、森の奥へと進軍していった。


進むこと十五分。

目の前に鹿の群れが現れた。三頭の鹿が木々の間で草を食んでいる。


シマはハンドサインを出す。

クリフとフレッドに向けて、鹿の風上へ回り込むよう指示を送った。

二人は音も立てずに森の奥へと迂回し、慎重に位置を取る。

彼らが鹿を追い込む役目を果たす間に、シマとサーシャはやや右前方に、ロイドとリズはやや左前方に移動した。

獲物がまっすぐジトーたちのほうへ向かうとは限らない。

横に逸れる可能性も考え、それぞれの持ち場で待機する。


息を潜め、鹿の動きを見守る。


三分後──。


鹿の耳がピクッと動いた。鼻がひくひくと震えている。

人間の匂いを嗅ぎ取ったのか、それとも野生の本能が危険を察知したのか。

一頭の鹿が突然、ジトーたちのほうへ猛然と駆け出した。

それに続き、もう一頭が飛び出し、やや遅れて最後の一頭も駆け出す。


ジトーたちのもとへ向かう鹿との距離が縮まる。


五十メートル──。


四十メートル──。


三十メートル──この距離なら、エイラたちが矢を外すことはない。



エイラ、ノエル、メグが放った太い矢が、先頭を駆ける鹿の首と胴体を貫いた。

鹿は悲鳴を上げる間もなく倒れ込む。

続けて、ケイト、ミーナ、オスカーの矢が、二頭目の鹿の胴体を貫く。

二頭目の鹿も足をもつれさせ、その場に崩れ落ちる。


最後の一頭が方向を変えるシマとサーシャがいる方向へ。


サーシャはすでに太い矢を番えていた。


「シュンッ!」

風を切る音とともに、サーシャの放った矢が鹿の首を貫いた。

鹿は苦しげに体をよろめかせる。


さらに──。

エイラ、ノエル、メグ、ケイト、ミーナ、オスカーの矢が一斉に放たれ、鹿の胴体を貫いた。

狩りは成功した。


三頭の鹿が地面に倒れている。

しばしの静寂のあと、一行は息をつき、互いに顔を見合わせた。


「見事な連携だったな」

ジトーが満足げに言う。


「矢筒の改良も役に立ったわね。すぐに二の矢を番えたし」

エイラが矢筒を撫でながら微笑む。


「よし、直ぐに処理するぞ。解体して持ち帰ろう」

シマの言葉に皆が頷く。


狩りの成功を喜ぶ間もなく、次の作業へと移る。


処理と解体作業を担当するのは、シマ、ロイド、ザック、クリフ、フレッド、ノエルの六人。

残りの仲間たちは周囲の警戒にあたる。

ここは森の奥深く、油断はできない。


シマたちは素早く手を動かし、太い蔓を使って鹿の足を括り、適当な木の枝に吊るした。

ロイドがしっかりと蔓を固定し、フレッドが鋭利なナイフで頸動脈を突き、血抜きを始める。

赤黒い血が流れ落ち、地面を濡らしていく。

慎重に血抜きを終えた後、内臓を取り出し、皮を剥いでいく。

この作業には手間がかかるが、3年半の間に培われた技術がある。

皆、黙々と作業を進めた。


警戒役の仲間たちも気を抜かない。

ジトーは森の奥へと鋭い視線を送りながら、槍を手にしていた。

ケイトは樹上に登り、高所から周囲の様子を窺っている。

エイラやミーナたちも弓を構え、何かあればすぐに応戦できる体勢だ。


ようやく作業が終了し、解体された肉をブロックごとに切り分ける。

剥ぎ取った皮は二枚重ねした大きな袋に詰め込み、持参した革袋の水で体についた血を洗い流した。

獲物の内臓はスコップで穴を掘って埋め、匂いが周囲に残らないよう土を厚くかぶせる。

全ての作業を終えた一行は、速足でその場を離れ、帰路に就いた。


昼過ぎごろ、ようやく家に到着。

しかし、家には入らず、そのまま川へ向かう。

長時間の作業で疲労が溜まっており、汗と血の臭いが体に染みついていた。

川辺に出ると、強い日差しが降り注ぎ、光が水面で揺れている。

鬱蒼とした森の中では暑さをそれほど感じなかったが、こうして開けた場所に出ると夏の陽射しの強さが際立った。


「ようやく一息つけるね」

ロイドが肩を回しながら言う。


「今回の狩りも大成功ね! お肉が大量だわ!」

エイラが満足そうに笑う。


「連携もうまくいったんじゃない?」

ノエルが弓を片付けながら言うと、ミーナもうなずいた。


「そうね。狙い通りに仕留められたし、分担も完璧だったわ」


ここに帰ってくるまで、狩りの最中はほとんど会話らしい会話がなかったせいだろうか。

女性陣たちはお喋りを始める。


シマはそれを聞きながら、日向に立つと暑さを感じ、思わず額の汗を拭った。


「ヒャッホーウ!!」

突然、歓声が上がる。


フレッドが服を脱ぎ捨てると、そのまま川に飛び込んだ。

「冷てえ! けど気持ちいいぜ!」


それを見ていた仲間たちが次々と川に飛び込む。


楽しそうに水しぶきを上げる彼らを見ながら、シマは少し呆れたようにため息をついた。


「おいおい、まだ皮のなめしが終わってないだろう……」


彼らにとって、皮の処理は重要な作業だった。

これをおろそかにすると、付着したマダニや獣脂が悪臭を放ち、使い物にならなくなってしまうのだ。


「やれやれ……」


そう思っていると──。


「えいっ!」


突然、冷たい水がシマの頬に飛んできた。


「ちょ、おま……!」


驚いて振り向くと、サーシャが楽しそうに笑っていた。


「アハハ! シマ、早く血を洗い流さないと臭いもね!」


「お前な……!」


サーシャがさらに水をかけてくる。

シマは慌てて避けようとするが、間に合わず、びしょ濡れになった。


「コイツ……やる気か!」

シマも川に飛び込み、仕返しに水をかける。


すると、それを見た仲間たちも一斉に水をかけ始めた。


「キャーキャー!」


「やったなー!」


「おりゃ~!」


「アハハハ!」


水の掛け合いは一気に白熱し、誰もが童心に返ったようにはしゃいだ。

狩りの疲れも忘れ、森の静けさの中、仲間たちの笑い声が響いた。


こうして、厳しい狩りを終えた彼らは、束の間の休息を楽しんだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ