結束!
新しい家の中、焚き火を囲みながら子供たちは団らんのひと時を過ごしていた。
温かい火が照らす家の中は、彼らにとって初めて感じる安らぎの場となっていた。
そんな中、シマが口を開いた。
「これから寒い季節に備えて、食料、葉、薪をもっと集めないといけない。それと、武器も必要だ。弓や槍とか……」
スラムで生き抜いてきたシマたちにとって、寒い季節はまさに死と隣り合わせの時期だった。
十分な食料がなければ餓死し、寒さに耐える手段がなければ凍えてしまう。
だからこそ、彼らは今のうちに準備を整える必要があった。
「武器ならこれがあるぜ」
フレッドが、奴隷商人たちから奪った剣やナイフを並べた。
数を数えると、剣が10本、ナイフが12本あった。
しかし、剣は木を伐採するのに使っていたため刃こぼれがひどく、もはや武器としては頼りなかった。
さらに、ジトーやトーマスのような体格の大きな子供はともかく、大半の子供にとっては剣は重すぎた。
「槍を作ろう。短槍と、それより少し長い槍、あとは弓も作る。小動物を狩るためにな」
シマはそう提案すると、翌日から子供たちはすぐに動き出した。
槍の穂先はナイフで削って鋭くし、鏃も同様に加工した。
木の枝をまっすぐに整え、蔓で補強することで簡易的な槍を作り上げた。
ジトーやトーマスは力があるため、太く頑丈な槍を好んで作った。
弓の制作にも取り掛かったが、適した木を見つけるのに時間がかかりそうだった。
「なあ、剣がボロボロなら研げばいいんじゃないか?」
トーマスがふと口にした。
「村にいた頃、何度か研いでいるのを見たことがある。砥石が何なのかはよくわからないが、それっぽい石を探してやってみてはどうだ? 捨てるのはもったいないしな」
「なるほど、それはいい考えだな」
シマはうなずき、すぐに子供たちに指示を出した。
「川辺や森の中で、研げそうな石を探そう。あと、試しにやってみて使えるかどうか確認するんだ」
こうして、彼らはそれぞれの役割を持ち、冬を生き抜くための準備を進めていった。
ジトー、トーマス、クリフは武器作りに励み、ロイドやザックは狩猟のための道具を準備し、ミーナやエイラたちは木の実の確保に奔走した。
薪を集める者、槍を作る者、弓の素材を探す者、それぞれが懸命に働くことで、彼らの間にはさらなる結束が生まれていった。
しかし、弓の制作は簡単ではなかった。
適した木を探してきても、なかなかしなりが良いものができず、試行錯誤の連続だった。
だが、ここでオスカーが意外な才能を発揮する。
彼は手先が器用で、木のしなり具合や弦の張り方を工夫しながら、少しずつ弓を形にしていった。
「お前に任せていいか?」
シマがそう尋ねると、オスカーは満面の笑みを浮かべて力強く頷いた。
今まであまり役に立てなかった彼にとって、自分がみんなのために働けるというのは大きな喜びだった。
自信を得たオスカーは、さらに改良を重ね、より使いやすい弓を作るために努力を続けた。
一方で、シマは防御の強化も考えていた。
「フェンスをもっと強固にしよう」
現在のフェンスは簡単なものだったが、野生動物の襲撃や、万が一の敵の接近を防ぐには十分とは言えなかった。
そこで、ジトーやトーマスたちに手伝わせ、より太い木を使ってしっかりとした柵を作ることにした。
木の枝を編み込み、泥で補強しながら隙間を埋めていく。
こうすることで、簡単には突破できない防御壁を作ることができる。
子供たちはそれぞれの役割を持ち、少しずつではあるが確実に生存のための環境を整えていった。
オスカーは弓作りに没頭し、トーマスは使えなくなった剣を研ぎ直す作業に取り組み、シマは全体を見ながら指示を出し続けた。
彼らは今、確実に前へ進んでいた。
数日が過ぎたある日、シマは家の中で仲間たちに提案した。
「みんなで一緒に魚を獲りに行こう」
これまではそれぞれの役割に従事しながら過ごしていたが、時にはみんなで一緒に作業をするのもいいだろうと考えたのだ。
突然の提案に驚きながらも、仲間たちは話し合いを始めた。
「滝つぼには近づかないようにしよう。流れが速すぎるし、深いところは危険だ」
「川の浅瀬なら安全ね。そこなら追い込み漁ができるんじゃない?」
「二手に分かれて横一列に並んで、衣服を広げながら少しずつ範囲を狭めていけば魚を捕まえられるかもしれない」
話し合いの中で、効率的な方法を考えながら準備を進めていく。
そんな中、フレッドが疑問を投げかけた。
「獲りすぎたらどうするんだ?」
シマは少し考えたあと、答えた。
「開いて天日干しにするんだ。冬の食料に回せるし、無駄にはならない」
「楽しそうだわ。一度やってみたかったのよね!」
リズがはしゃぐように声を上げると、仲間たちの顔にも自然と笑みが浮かんだ。
シマは、オスカーとメグはまだ小さいこともあり、みんなで注意して見守るように呼びかけた。
翌日、川の浅瀬にやってきた一行は、さっそく漁を開始する。
最初は上手くいかなかったが、何度か試しているうちに次第に連携が取れるようになり、大量の魚を獲ることに成功した。
「やった!すごい、大漁だ!」
「こんなに獲れるなんて思わなかった!」
子供たちは目を輝かせながら、次々と魚を捕まえていく。
これまでの辛い人生を思えば、このように笑い合いながら過ごせる時間はとても貴重なものだった。
彼らの人生は決して長くはないが、それでも各々が抱えている暗い過去をこの時ばかりは忘れることができた。
リズは突然、みんなの前で歌いながら踊り始めた。
その姿に仲間たちは思わず拍手を送り、次第に肩を組んで一緒に歌い出す者も現れた。
「リズ、歌が上手いね!」
「踊りもすごいよ、まるで本物の踊り子みたい!」
リズは照れたように笑いながらも、さらに踊り続ける。
音楽はなくても、彼女の動きや表情が自然とリズムを生み出し、仲間たちの心を和ませていった。
歌というよりも、好き勝手に言葉を並べているようにも見えたが、それはそれで良かった。
誰もが心から楽しんでいたのだ。
滝の音と川のせせらぎが響く中、笑い声と歌声が混ざり合い、まるで彼らが家族であるかのような温かな空気が流れていた。
「こんな日が、いつまでも続けばいいのに……」
誰もがそう願いながら、その瞬間を噛み締めていた。
夜になり、彼らは焚き火を囲んで夕食を取ることにした。
昼間に獲った魚を焼き、木の実を添えて簡単な食事を作る。
飢えに苦しんでいたスラム時代とは違い、今は皆で協力しながら食べる喜びがあった。
「この魚、おいしい!」
「うん、ちょっと焦げたけど、それもまたいい味だ」
焚き火の温もりが心を落ち着かせ、夜の闇の中でも安心感を与えてくれる。
シマはふと、仲間たちの顔を見回した。
この数週間で、みんなの表情が変わった。
スラムで生きるために必死だった頃とは違い、今は少しだけ未来への希望を持てるようになっている。小さなことかもしれないが、それがとても大切なことのように思えた。
「みんな、これからも力を合わせて生きていこう」
シマの言葉に、仲間たちはうなずいた。
彼らはまだ幼く、力も経験も足りないかもしれない。
それでも、共に生きることで困難を乗り越えられると信じていた。
夜空には星が瞬き、焚き火の炎がゆらゆらと揺れる。その中で、彼らの絆はさらに深まっていった。