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光を求めて  作者: kotupon


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幹部会議4

大広間。

ジトーがふと声を落としながら口を開いた。

「……それと、だ。エリカが……チョウコ村に行きたいって言ってな。ブランゲルたちと相当揉めたらしい。」

眉間にシワを寄せるジトーの言い方は、明らかに「当然のこと」と言いたげだった。


それに応えるように、当の本人――エリカが両手を広げて、まるで自分は無罪だと言わんばかりに訴え始める。

「だって! あのリンスが使えて、毎日お風呂に入れるって聞いたら、そりゃあ行きたくなるでしょう?!」


周囲が少しざわつく中、彼女は勢いをそのままにまくしたてる。

「プリンだって食べられるし……! それにね? 冷えたお酒が飲めるって言うじゃない。お風呂上がりに飲むお酒って、最高に美味しいのよね!……って、ケイトが言うんだもの!」


突如として責任を転嫁されたケイトが、隣の椅子で目を丸くした。

「えっ……? 私が悪いの……?」

小声で呟くケイトに、リズが肩をすくめて小さく笑う。


話はそのまま、クリフがまとめる。

「結局はな……ブランゲルたちが納得した――のかは知らねえが。侍女5人がお付きっていう条件で、まとまったらしい。」


その報告を、エリカは満足げな顔で受け止めている。

「エヘッ……来て大正解だったわ!侍女たちも、もう帰りたくないって言ってるくらいよ!」


満面の笑みでそう言うエリカに、周囲から微妙な苦笑が漏れる。

彼女のマイペースさは、場を和ませる不思議な力があった。


すると、場の流れを見ていたシマが軽く手を挙げる。

「――そんなわけで、今ここにいる。…じゃあ、次の話に移るか。サーシャ、頼む。」


呼ばれたサーシャが静かに立ち上がり、帳簿と簡易の地図を手に前に出た。

「今回の旅は、ハン・スレイニ族長に会うこと、交易、元ホルン族の地までの往復でした。」


彼女はさらりと前置きし、淡々と事実を述べ始める。

「行きは3日、3泊。帰りは5日。運良く、着いた初日にハンさんにも会えたわ。そして何より、突然の訪問にも関わらず、とても快く迎えてくれたの。」


そこで彼女は少し目を細めて、微笑む。

「贈答品も、大層喜んでくれて。何より、オスカーが作った弓には、感動していたわ。」


オスカーは少し頬を赤らめ、照れたように目をそらす。

だが、仲間たちは口々に「よくやった」と讃えるような視線を彼に送っていた。


サーシャは話題を実務へと切り替える。

「次に、商品販売の件。“濡れない・浸みこまないシリーズ”ね。テント以外は好評で、かなりの数を売ったわ。」


背後にある帳簿をめくりながら、さらに続ける。

「あと、『ゲル』――あれに防水加工して欲しいって依頼が来たの。サンプルを持ち帰って加工して送ったところ……今では、ひっきりなしに依頼が舞い込んでる状態よ。」


ここで一同から感嘆の声が上がる。


「帰るにあたって、チョウコ村にスタインウェイ夫妻と養子たち8人を招待。これはダグさんの強い希望によるものだったわ」


そして最後に、彼女は購入してきた品々をすらすらと読み上げた。

「購入品は、牛、鶏、民族衣装、布生地、敷物、穀物、お酒……大体こんなところかしら。」


彼女が言い終えると同時に、場からは自然と拍手が湧き上がる。

その報告は、細やかでありながら的確で、全体の成果がくっきりと伝わるものだった。

サーシャは控えめに会釈し、席へと戻った。


すっと、手を上げたのはリズ。

場の空気を読みながら、しかしはっきりとした声で口を開く。

「帰りに五日かかったのは、牛や鶏がいたせいもあるだろうけど……民族衣装や布生地を選んでたせいでもあるんでしょ?」


周囲にくすくすと笑いが漏れる中、メグが待ってましたと言わんばかりに言葉を挟んだ。

「だってさ、仕方ないじゃない?もうね、華やかなものから落ち着いた感じのものまであってさ……!

もっといろいろ見て回りたかったくらいなんだから」

メグの目はきらきらと輝き、旅先での光景がよみがえるようだった。


その隣で、オスカーが穏やかに補足する。

「……でも、その分、現地の人たちと交流できたし、悪くなかったと思うよ。」

オスカーの言葉に、場の空気がやわらかくなる。


すると、エイラが腕を組みながら静かにうなずいた。

「布生地はスレイニ族の方が明らかに上ね。……正直、私も時間があればもっといたかったわ。」

目を細めながら話すエイラの声には、本物の興味と感動がこもっていた。


リズはそれらを聞きながら、柔らかく微笑む。

「別に責めてるわけじゃないのよ?楽しんできたのなら何よりだわ。」


その言葉に、メグとエイラが照れくさそうに目を合わせたとき――

後方で、何かを思いついたようにそわそわと手を上げかける者がいた。


「……そ、それなら俺たちも……」

そう言いかけたのは、デシンス。


言葉の尻を引き取る前に、ビシィッとティアの声が飛んだ。

「黙れ、愚兄!」


鋭い口調に、その場の空気が一瞬固まり――

そして、ドッと笑いが起きる。


「馬鹿だなあ、あいつ。」

「面目丸つぶれだな……」


冷ややかな目が一斉にデシンスへと向けられる中、彼は肩をすくめて苦笑するしかなかった。


笑いの余韻が残る中、ユキヒョウが腕を上げて発言。

「ハン・スレイニは護衛を出してくれたのかい?」


サーシャがうなずいて答える。

「ええ、三十人をつけてくれたわ。スタインウェイさん一行は一週間ほどこちらに滞在したの。」


すると、エイラがやや感慨深そうに口を挟む。

「ハンナさん(ダグの義母)も、泣いて喜んでいたわ。“招待してくれたことが人生で一番嬉しかった”って言ってた。」


ユキヒョウはわずかに目を細め、ダグへと視線を向ける。

「少しは親孝行ができたんじゃないかい、ダグ?」


その言葉に、ダグが顔を伏せ、手で頭をかきながら口ごもる。

「よ、よせよ……その話はもういいだろ。」


場の空気がまた一段と和らぎ、笑い声が再び広がる。


そして、少し場が落ち着いたころ――

フレッドがふと思い出したように声を上げた。

「で、旅の道中、ジーグはどうだったんだ?」


答えたのは、ギャラガ。

「いい経験になったのは間違いねえ。最初のうちは緊張してたが、ダグ隊がよく面倒を見てくれた。」


ギャラガの言葉に、静かに頷いたのはドナルド。

「旅を終えた後は、少し雰囲気が変わった感じがするな。」


さらに、ヤコブが口を開いた。

「うむ。勉学も一層頑張っておるし、時折訓練にも参加しては、熱心に励んでおると聞いておるぞ。」


話を聞きながら、フレッドがニヤリと笑う。

「……なあ、ギャラガ、本当にお前の息子か?似ても似つかねえな。」


すると、ギャラガが憤慨した様子で立ち上がる。

「正真正銘、俺の息子だよ!」


その言葉に、また場がどっと沸いた。

笑い声の中、どこか誇らしげなギャラガの顔が、誰よりも晴れやかだった。


ノエルが静かに手を挙げた。

その仕草は控えめながらもはっきりしており、周囲の目が彼女に向けられる。


「交易は成功ということね。」

そこまで確認したうえで、核心に迫る問いを口にする。

「サーシャたちから見たハン・スレイニさんの印象は?」


サーシャが一瞬言葉を選ぶように目を伏せたが、先に口を開いたのはエイラだった。

「……ちょっと、交渉の席では厳しく行き過ぎたかも。」

視線を横に流しつつ、唇に軽く指を添える。


「でも、最後はまとまったわ…私から見たハンさんは自己主張が薄い……けど、あの柔らかな物腰、人を惹きつける魅力は油断できないわね。」

エイラの声には確かな観察と、ほんのわずかな警戒がにじむ。


「交渉の席では最終的には彼が判断するんだけど、サポートする人材が豊富だと感じたわ。人柄は信用できるって、そこはつけ加えておくわ。」


続いて、サーシャがそっと肩をすくめながら続けた。

「私がハンさんに感じたのは……シマとは真逆。頼りないし、強いリーダーシップは感じられない。」


やや辛口の評価かと思いきや、彼女の表情はどこか柔らかい。


「ただ、話していると不思議と安心するわ。それと……信用できる。決して裏切るようなことはないって、そう思わせてくれる。」


その言葉に、何人かがうなずく中、メグが前のめりで発言する。

「私、初めてハンさんを見たとき“お兄ちゃんに似てる!”って思ったの。背格好なんて全然違うのにね……」


笑って肩をすくめながら、懐かしむような目で続けた。

「今思えば、目が似てるんだと思ったわ。遠くを……先を……未来を見てるってでも言えばいいのかなあって。」


言葉の余韻が残る中、オスカーが静かに言葉を重ねる。

「僕は、ハンさんはロイドに似てるなあって思ったよ。」


すると、周囲から「確かにそれはあるわね」といくつかの同意の声が漏れる。


オスカーは頷きつつ、少しだけ言葉を選ぶように続けた。

「話しやすいし、人を引きつける魅力はもちろんあるんだけど……なんというのかな、器?人間的な大きさ?それは……シマの方が上のような気がする。……身内びいきもあるかもしれないけど。」


そこに、声の質量ごと重みを加えたのはギャラガ。

「前に誰かが言ったな。『ハン・スレイニには手を貸してあげたくなるような……不思議とそう思えるような雰囲気がある』って。」


ギャラガの口調はやや砕けているが、そこに籠められた意味は深い。

「顔を合わせたとき、“なるほど”って思ったぜ。あいつに誘われたら、思わず頷いちまうだろうな。……以前の俺ならばだ。シマと……シャイン傭兵団に出会った今では考えもしねえがな。」


そして、やや照れ隠しのように笑いながら拳を軽く握る。

「そして、人間的な大きさは……シマの方が上に一票だ。」


それを受けて、ダグが腕を組みながら自分の視点を語る。

「俺はそうだなあ……確かにハン・スレイニは大した奴だとは思ってるが、それよりも周りの連中だな。

専門職とでも言えばいいのか、役割がはっきりしてるように見えた。」


ダグの目が細くなり、遠くを振り返るようになる。

「それも、一筋縄ではいかねえ連中だ。抜かりなく、そして深い。表向きの穏やかさに騙されねえ方がいい。」


最後に静かに言葉を結んだのは、ドナルド。

「俺は……あいつは、シマとは違う“恐ろしさ”を感じたな。あれだけの広大な領土を、上手く“治めている”――そう言った方が正確か。」


彼の口調は冷静だが、内にある警戒心を隠さなかった。

「あの気性の荒い連中をまとめてることに、俺は脅威を感じた。柔らかさの裏にある統率力……なめちゃいけねえよ、あれは。」


言葉が終わった瞬間、場に小さな沈黙が生まれる。

“ハン・スレイニ”という人物が持つ、二面性とその底知れなさ。


しかしそれでも、誰もが思っていた。

――それでも、シマには敵わない。


その確信だけは、どこかに共通していた。


やがてケイトが軽やかな調子で話し出した。

椅子に寄りかかりながら、毛を指で遊びつつ、にっこりと笑みを浮かべる。

「いずれは同盟するんでしょ? 心強いじゃない。」


その一言は明るく、楽観的で、だがどこかに確信めいた響きを持っていた。


しかし、すかさずミーナが、やや意地悪げな微笑みを浮かべながら首をかしげた。

「あら? 向こうは“大国”。こっちは“たかだか村一つ”。……対等な関係を持てるかしら?」


わざと「たかだか」と言ったその語気は、誰に向けられたわけでもなく、現実的な立場を皮肉交じりに突きつける。


「戦闘力では私たちの方が上よ。」

ケイトはさらりと返し、視線を逸らさず挑むように言った。


その自信に、ミーナはくすっと笑って頷く。

「フフッ……そうね。」


その“そうね”には確かな信頼と、どこか姉のような肯定が込められていた。


すると、グーリスが膝に手を置き、前かがみに乗り出しながら口を開く。

「人材だって負けちゃあいねえだろう。」


短く、重く放たれたその言葉に、皆がわずかに反応を示す。

目の奥に燃えるような光を宿しながら、ユキヒョウがすかさず続ける。

「僕たちが負ける要素は何一つないね。」


さらりと言ってのけるその口調は飄々としていたが、そこに込められた自信は誇張ではなかった。


だが、その言葉に眉をひそめたのがベガだった。

彼は腕を組み、額にしわを寄せながら低く呟く。

「……それはちょっと言いすぎじゃねえか?確かにシャイン傭兵団の活躍は聞いてるし、お前らが普通じゃねえのは……よく知ってるがよ。」


ベガの現実的な反論にも関わらず、ユキヒョウは目を細めて落ち着いた声で応じる。

「ベガ。地下闘技場の後、君には言ったよね。まだまだ――フレッドの力はこんなものじゃないって。」


少し声を張り、ぐるりと見回すように言葉を繋ぐ。

「シャイン隊が何より力を発揮するのは“集団戦”だよ。」


その真っすぐな断言に、空気が少し変わる。


そして、そこにオズワルドの朗らかな声が乗った。

「相手が一国だろうが、大国だろうが――こいつらなら、何とかしちまう力があるのさ。」


笑って言ったそれは冗談のようでいて、誰よりも実感のこもったものだった。

仲間とともに旅をしてきた者の、揺るぎない信頼がそこにあった。


そして、マリアが肩をすくめて小さく笑った。

「一緒に生活してれば……いやでもそのうち分かるわよ。」


その言葉に、キョウカが慌てたように身を乗り出して叫ぶ。

「ちょ、ちょっと……本当なのノエル?!」


突然振られたノエルは、驚いたように瞬きをし、それから柔らかく微笑んだ。

「本当よ。それに――シマは負ける戦いはしないわ。」


言い切るその声には、理屈を超えた信頼と、長年の積み重ねがにじんでいた。


その隣で、リズがくすりと笑いながら、軽口を叩く。

「ヤバくなったら逃げるしね。」


それを聞いて、フレッドが勢いよく手を上げて笑った。

「それな!」


場が一気に明るくなり、爆笑が起こる。

大広間には、仲間を信じる心と、戦ってきた者たちの絆が確かに宿っていた。

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