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光を求めて  作者: kotupon


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幹部会議3

大広間のざわめきが静まり、空気が次第に張り詰めていく。


シマがゆっくりと腰を上げ、全体を見渡すように視線を巡らせてから口を開いた。

「じゃあ……次はジトーたち、その次にサーシャたちだ。それから今の村の現状を話していく」


その言葉に、場がまた緊張の空気をまとい始める。


シマは言葉を選ぶように、少し間を置いて続けた。

「…まあ、正直言えば、今から話すことの大半はもう知ってるやつらの方が多い。だがな――ロイドたちは知らねぇ。そして、情報を共有するってのは、ただの手間じゃなく、大事なことだ。」


一部の面々が軽くうなずき、サーシャが静かにロイドたちの方を振り返る。

ロイド自身は神妙な顔でうなずいていた。


「『また同じ話かよ』って思う奴もいるかもしれねえ。だがそこは容赦してくれ。聞き流してるつもりでも、何かが頭に残る。そういうもんだ」


それだけ言い終えると、シマは片手をあげ、隣に控えていたジトーに向かって声をかけた。

「……ジトー、頼む」


ジトーは無言で立ち上がり、腰に手を当てながら一歩前に出る。

その体躯の大きさが改めて強調されるように、椅子が軽くきしむ音を立てた。


少し目を細め、軽く咳払いしてからジトーは語り出す。

「――俺たちの任務は、ざっくり言えばこんな感じだった」


ジトーは順を追って語り始めた。

「第一に、鉄の掟本部への挨拶。といっても、あっちも忙しい。こちらも挨拶がてら顔を見せただけだ」


静かにうなずく何人かの団員たち。

ジトーは間を置かず続ける。

「次にエイト商会。こっちも同様だ。顔を出して帰りにまた立ち寄る手はずにした。その際、商標権の売上げを正式に受け取る段取りを整えておいた」


ちらりとティアがメモを取っているのが見える。


ジトーは小さくうなずき、次の内容へ。

「それから城塞都市カシウム。ここではブランゲル侯爵家と顔合わせだ。我々からの贈答品――それから例の“濡れない・浸みこまない”テント、マント、ブーツ、背負い袋を持参して、プレゼンを実施。その場で試供品も渡した」


サーシャが真剣な顔でその話を聞いている。

ノエルも頷きながらメモを取る。


「プレゼンの後、帰り道で再びカシウムに立ち寄って本格的な交渉を進めることで一旦話がまとまった」


ジトーは一度口を湿らせるように唇をなめ、さらに続ける。

「次にリーガム街。ここではマリウスに接触。同じく“濡れない・浸みこまない”シリーズを売り込んだ。

だが――ここで富くじの運上金の話になった。この件に関してはブランゲル侯爵家も関わっているため、請求先は侯爵家へという扱いになった」


「ふむ」と頷くヤコブ、フレッドはやや複雑そうな顔をしている。


「そして再び城塞都市カシウムへ。ここではついに――“濡れない・浸みこまないシリーズ”の2年間の独占契約が締結された。同時に、富くじの運上金も侯爵家から支払われ、エリカと合流」


ジトーは淡々と、しかし確実に話を進める。

「その後はエイト商会に立ち寄って、商標権の売上金を正式に受領。それを済ませてから鉄の掟本部に一泊し――チョウコ村に帰還。」


すべてを語り終えたジトーは、一歩後ろに下がって静かに言う。

「大体……こんなところだ」


重厚な沈黙が場を包む。

だがそれは、報告がもたらした確かな成果と、その重みを皆が受け止めているからこその沈黙だった。


しばしの間の後、小さな拍手があちこちから起こり、それが徐々に全体へと広がっていった。

ジトーは照れくさそうに一瞬だけ肩をすくめ、また静かに自席へと戻っていく。


ジトーの報告が終わったあと、短い沈黙を破って手を挙げたのは、ロイドだった。

彼の顔には冷静な表情が浮かんでおり、静かだがはっきりとした口調で問いを発する。

「一つ質問してもいいかい?」


ジトーが軽く頷き、シマが手のひらを上に向けるようにして促す。


ロイドは姿勢を正し、視線をジトーからミーナへと向けながら話し始めた。

「富くじの運上金についてなんだけど……誓約書には、たしか“他領への拡散は禁止”、今後10年間は他の領地に富くじの仕組みを広めないって、そういう条文があったはずだよね?今回の件って、それに違反することにはならないのかい?」


その場に、やや緊張の空気が走る。


数人が周囲を見回し、答えを待つようにミーナへと視線が集まる。

だがミーナは落ち着いた様子で椅子に腰をかけたまま頷き、答え始めた。

「……私も、その点は当然ながら主張したわ。契約違反になる恐れがあるって、はっきり伝えたの。でも――マリウス様側の言い分はこうだったの。“それはあくまで、私たちシャイン商会側に課された制約であり、他者には適用されない”って。」


少し驚いたように目を見開くロイド。


ミーナは続ける。

「それでも納得できない部分があったから、マリウス様としっかり話し合ったの。もしブランゲル侯爵家側がごねて、運上金の支払いを渋るようなことがあれば――ホルダー男爵家が、年間売上の2%を立て替えるという内容の証文をきちんといただいたわ。加えて、富くじに関する運営資料も全部。それで最終的に話はまとまって、結果としてブランゲル侯爵家は、すんなり支払ってくれたのよ」


ロイドはふっと息をつき、微笑んでから深く頷いた。

「成程……ありがとうミーナ。よくわかったよ」


続いて手を挙げたのはノエルだった。

彼女は少し首を傾げ、前のめりになりながら話しかける。

「もうひとつ聞きたいのだけれど……交渉は難航したって聞いたわ。どれくらいの時間がかかったの?」


その問いに応えたのはケイトだった。

彼女はやれやれといった様子で、肩をすくめながら言う。

「……10日よ。しかも“今ある分は、すぐに引き渡してくれ”って仰って――こっちは大忙しだったわ」


「フフッ、そうなのね。ご苦労様」

ノエルは優しく笑いながら言い、ケイトが照れたように「どうも」と答える。


その時、今度はフレッドが腕を組んだまま低く聞いた。

「……何か、問題はなかったのか?」


この問いには、クリフがやや苦笑を浮かべながら答える。

「あったぞ。ザックたちが……やらかしてくれた」


その一言に、場の空気がピリッとする。


すぐさま、リズが鋭く問い返す。

「たち?……ザック“だけ”じゃないってこと?」


「……ああ」

答えたのはジトーだった。渋い顔をして、腕を組んでいる。

「例の地下闘技場で、ザックが相当儲けたらしい。そこまではいい。問題はそのあとだ」


ケイトが口を挟むように話を引き取る。

「地下闘技場を終えた1日目は、まだよかったのよ。ちゃんと帰ってきたし……でもその日の夜から4日間も、帰ってこなかったの」


「4日!?」

ユキヒョウが思わず声を上げる。


ケイトが身を乗り出して、少し怒気を含んだ口調で続けた。

「しかも――デシンスさん、キーファーさん、大半の団員たちも!いくらザックの驕りだとしても、誰も止めなかったのよ!?」


ミーナもあきれたように肩をすくめ、呆れ顔で続ける。

「娼館に4日間……信じられないでしょ!?」


その言葉に、一拍置いて――爆笑が起こったのは、ベガとワーレンだった。

「ぶはっ……!」「4日も!? くっ……腹痛ぇ!」

ベガは肩を震わせて笑い、ワーレンは横っ腹を押さえて身をよじる。


一方、ユキヒョウが妙に冷静な表情で問う。

「……本当に4日間、娼館にいたってことかい?しかもその間、誰一人宿に戻らなかったのかい?」


ミーナがため息まじりに頷く。

「そうよ……デシンスさんとキーファーさんが、ついていながらね……」


今度は何人かの女性陣が「やれやれ」と首を振る。

ティアは兄をジト目で見つめデシンスは背を小さくする。


今度はマリアが静かに手を上げた。

彼女の口調は穏やかだったが、目元には一筋の鋭さが光っていた。

「その件について……何か罰は与えたのかしら?」


一瞬、場が静まる。

誰かが小さく咳払いし、視線が一斉にザックとデシンス、キーファーの方向へ流れる。


マリアは淡々と続ける。

「ザックには何を言っても無駄だと、もう分かってはいるけれど……でも、他の団員たちに示しがつかないわ。」


緊張が走るなか、責任者として名が挙がっていたジトーが、眉間を押さえつつゆっくり口を開いた。

「……その時の責任者は俺でな……一応、注意はした」

ジトーの声はいつになく低く、気まずさがにじんでいた。


「……注意だけ?」

マリアがすかさず問い返す。

視線はすでにシマへと向いていた。

「それってどうなのよ?……シマ、あなたは団長として、どう思うの?!」


突然の指名に、シマは「えっ?」と驚いたような顔をした。

「え?……俺? そ、そうだなぁ~……」


彼の視線がうろうろと泳ぎはじめる。

「ザックとフレッドなら、十分あり得ることだし……」


その瞬間、女性陣たちの視線が一斉に突き刺さる。……みんなが眉をつり上げた目でシマを睨んだ。


「……い、今のナシ! ナシッ!」

シマは手を振って必死に否定し、背筋をピンと伸ばす。

「…でも、男としてはわからんこともないし……」


その言葉にマリアが即座に顔をしかめ、ひとこと。

「……ダメだこりゃ。」


場がどっと笑いに包まれる中、エイラが苦笑しながら肩をすくめる。

「私たちも言ったんだけどねぇ……」


その隣でメグが呆れ顔でうなずく。

「お兄ちゃん、昔からそういうところ甘いのよね」


すると、別の方向からドスの効いた声が飛ぶ。

「その代わりと言っちゃあなんだが、俺たちがしっかり“ヤキ”――いや、“鍛えて”やったからよ」

そう言ったのは、ギャラガだった。彼は腕を組み、得意げに鼻を鳴らす。


「……ザックは無理だったけどな」

隣のグーリスが小さく呟く。


ライアンも苦笑しながら加わる。

「逆に俺たちがコテンパンにやられたってのが正しいかな……」


すると今度は、羨望の眼差しを向ける声がひとつ。

フレッドが肘をついてザックに向き直る。

「……4日間か……羨ましいじゃねえか。ザック、お前いくら儲けたんだ?」


ザックは得意げに胸を張り、顎を上げてふんぞり返る。

「え~と、たしか……90金貨くらいじゃねえか?全部使い切ってやったぜ!」


その言葉にフレッドは目を丸くしてから、豪快に笑った。

「やるなぁ!」


「だろ? 最高だったぜ!」

ザックも満面の笑みで答える。


その会話を聞いていたキョウカが、若干引き気味に言葉を漏らす。

「……す、すごいわね……いろんな意味で……ねぇ、リズ?」


振られたリズは、じと目でフレッドとザックを交互に見てから、静かに言った。

「……あの二人を基準に考えないでくださいね……?」


その一言が決定打となり、広間は笑いとため息と、あきれた空気に包まれていった。

シャイン傭兵団の、そして彼らを取り巻く仲間たちの関係性をよく表す、ある意味で“微笑ましい”一幕となった。

それでも室内には、笑いと苦笑が入り混じるような和やかさが残っていた。

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