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光を求めて  作者: kotupon


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騒がしい日常が戻ってくる

午後の陽が柔らかく差し込む中、村の中央広場にて、ロイドがベガとワーレンを伴ってシマの元へと歩み寄った。

周囲はまだ帰還組と村の面々で賑やかな喧騒が広がっている。


「シマ、ベガさんとワーレンさん。シャイン傭兵団に入りたいそうだよ」

ロイドが声をかけると、シマは驚いたように二人を見やる。


「…情報屋と王都特別監察官じゃねえか」と呟くシマ。


「覚えててくれたか」とベガが肩を竦めて笑い

「元な。家族共々、世話になるつもりだ」

ワーレンが真っ直ぐな目で応じた。


シマは小さく頷きながらロイドを見る。

「ロイドたちがここまで連れてきたってことは信用できるってことだな…歓迎するぜ。詳しい話は後で聞こう。ロイド、風呂に案内してやってくれ」


「了解!……あれ?でもこの人数だと入りきらないよね?」

ロイドがふと立ち止まる。


「湯船、新しく増やしたから大丈夫だ」とシマが頼もしく返す。


だがワーレンが手を上げて制する。

「風呂はありがたいが、その前に……ウチの家族を紹介させてくれないか」


手招きで家族を呼び寄せるワーレン。

ゆっくりと歩み寄ってきたのは中年の男女、年配の夫婦、そして少年の姿。

「俺の親父とお袋、それと嫁さんの両親、義弟だ……嫁と姉貴、義妹はまだ向こうで騒いでるから後で紹介する」


シマが一歩前に出る。

「シャイン傭兵団、団長のシマです。この村の責任者だと思ってくれれば……まだ慣れないでしょうから、しばらくはゆっくり過ごして下さい。寝床、飯、酒についてはご安心を」


ハイマンと名乗ったワーレンの父が、帽子を取って丁寧に一礼する。

「や、これはご丁寧に。ハイマンです。それと、妻のカミラです。お世話になります」


続けて、柔らかな口調で「ご紹介にあずかりました、義父のゲルハルトです。いやぁ、ここは活気のある町ですなあ!」と陽気に笑う年配男性。


その隣では、義母のビアンカが感嘆の声をあげる。

「ほんとねぇ、最初は不安だったけど……素敵な町ね!」


「まだまだ発展途上です」と控えめに微笑むシマ。

「……みんなで力を合わせてここまで来ました。ご両親方も、力を貸してくれると助かります」


「勿論ですとも!大した力にはなりませんが、協力は惜しみませんぞ!」

ハイマンが頼もしく笑う。


そのとき、ハイドが目を輝かせて言う。

「シマさん!ビリーは僕と同い年なんです!」


シマがビリーに目を向けると、少年は少し緊張しながらも会釈する。

「もう、仲良くなったか?ここにも子供たちがたくさんいる。仲良くしてやってくれ、ビリー」



ロイドがワーレンたちを連れて、浴場の方へと歩き出すと、その後ろ姿を見送ったシマの横には、しっとりと落ち着いた雰囲気のカミラと、陽気な微笑みを浮かべるビアンカが残された。


一方で、村の中心ではなおも女性陣たちの賑やかな声が響き渡っていた。

再会の喜びに包まれた笑い声、甲高い歓声、互いの無事を確かめ合う言葉の応酬――広場の一角は、ちょっとした市場のような騒がしさである。


そんな様子を見ながら、シマは腕を組み、難しい顔で眉をひそめていた。

(さて……どうやってこの嵐の中に声をかけたもんか……)


すると、その隣からふっと柔らかな声がかかる。


「団長さん、こういう時は年の功がものをいうのよ。私たちに任せて」

カミラがにこやかに言い


「ふふっ、心配しないで。ああいうのは女同士の方が手早いの」

ビアンカも軽やかに微笑んだ。


シマが驚いて口を開く前に、二人はスッと軽やかに前に出ていき、女性陣の騒ぎの中心へと踏み込んでいく。


「はいはい、みなさん!」

パンパンッ!カミラが両手を軽く打ち鳴らすと、その澄んだ音が意外なほどの効果を発揮した。

騒ぎの中に一瞬の静寂が生まれる。


「さあさあ、おしゃべりもこれくらいにして――団長さん、あれじゃあ困っちゃうわよ?」

ビアンカが小首を傾げて、茶目っ気たっぷりに笑う。


その場にいた女性陣は、はっと我に返ったように顔を見合わせ

「あっ!そうだった!」とサーシャが声を上げ

「早くお風呂に案内しないと!すごいのよ、驚くわよ!」とエリカが続く。


そのタイミングを見計らうように、シマが歩み寄ってきた。


「話は、また後でな」

短く、穏やかな口調で言うと、その声に女性たちも自然と頷く。


するとノエルが、一歩前に出てキョウカの肩を軽く抱きながら紹介するように言った。

「シマ、彼女はキョウカさん。あなたが望んでた、待望の鍛冶師よ。後でちゃんと紹介するわね」


シマはキョウカに目を向け、力強く頷いた。

「分かった。ノエル、リズ、マリア――おかえり。お疲れだったな。ゆっくり湯に浸かってくれ」


「ふふっ、ありがとう。今日は湯船で寝ちゃいそう」とマリアが笑い

「はやく入りたいわ」

リズが湯屋の方を振り返った。


そのやりとりを少し離れたところから見ていたクララが、興味津々といった調子で声をかけてきた。

「へえ、あなたが団長なの?サーシャと同い年なんでしょ?団長であり、それでいてこの町をまとめてるなんて、すごいわねぇ~」


どこか茶目っ気を込めたその言葉に、カミラがピシャリと娘を窘める。

「こら、クララ、話はまた後にしなさい!」


「は~い」と返事は軽いが、どこか嬉しそうに口元を綻ばせるクララ。


和やかな空気が辺りを包み、再会の宴はまた次の段階へと進もうとしていた。

村に新たな日常の一頁が刻まれていくのだった。


活気に満ちたシャイン傭兵団の拠点では、到着直後の慌ただしさと喜びが渦巻いていた。

シマは腰に手を当て、周囲をぐるりと見渡すと、やれやれと小さく息をつき

「さて、さっさと片付けちまうか」と呟いた。


既にフレッドやトーマスたちはひと足先に浴場へと向かっており、その姿はもう見えない。


「シマ!」

力強い声が荷馬車のほうから響く。

見るとクリフが片手を振りながら近づいてきていた。

「こっちは降ろし終わったぞ! ブラウンクラウンもある!」


「ブルーベリー、ラズベリーの苗木、それに香草、薬草類もあるぜ!」

ジトーが木箱を持ち上げながら声を上げる。


その瞬間、どこからともなく飛び出してきたのはエリカだった。

「えっ?! ブラウンクラウン?! 見せて!見せてっ!!」


興奮気味に駆け寄るエリカに続いて、ヤコブも目を輝かせながら

「ほう? どれどれ、ワシにも見せてくれぬか」

好奇心丸出しで近づいていく。


その後ろから、グーリスたち――子供や村の者たちまでもが、珍しい茸に目を輝かせて集まってくる。

ブラウンクラウンの甕はたちまち人だかりになった。


「……ったく、しょうがねえなあ」

シマは肩をすくめつつも、微笑を浮かべながら周囲のシャイン隊に合図を送った。

ザックやクリフ、サーシャ、ミーナたちが動き出し、それぞれ馬を厩舎に連れて行ったり、荷馬車を停留所に運んだりして、手際よく後処理を始める。


「オスカー、馬車に大きな損傷はねえか?」とシマ。


「停留所に着いたら点検するよ。問題なさそうだけど、一応確認しとく」

オスカーが軽くうなずいた。


「この仔たちも、暫く休ませてあげないとね」

エイラはやさしく馬の首筋を撫でながら語りかけるように言った。

馬はリラックスした様子で、鼻を鳴らして応えた。


「……また騒がしい日常が戻ってきたわね」

ミーナは馬の手綱を引きながら、柔らかく目を細めて呟いた。


「私たち家族が勢揃いよ。にぎやかになるわ」

隣のサーシャがにっこりと笑った。


「静かな俺たちなんて、考えられねえな」

ザックが肩をすくめて笑うと


「特にお前はな」

クリフがすかさずツッコミを入れ、一同がどっと笑い声をあげた。


その笑いが尾を引くなか、ケイトが小さくウインクをしながら言った。

「今日は宴ね! ノエルたち、ショウチュー、気に入るかしら?」


「好みがはっきり別れるからなあ」

ジトーが肩を揺らして笑いながら言うと


「俺のザックスペシャルなら間違いねえだろ?」

ザックが胸を張って言い放つ。


だがすぐさま、「それだけは飲ませちゃダメよ!」とメグが鋭く声を上げる。


「アレはさすがにないなあ~」

オスカーが苦笑いを浮かべ、頭を軽く振る。


「でも一定数の人には受け入れられているのよね…不思議だわ」

エイラがふわっと微笑む。


「ホントの酒の美味さを知ってるやつだ」

ザックが真顔で反論する。


「何気にクリフも好んで飲んでるわよね?」

サーシャがふいに水を差す。


「そうなのよ。味覚がおかしくなっちゃったと思って心配したわ」

ケイトがすかさず被せると、またしても笑いが巻き起こる。


「味の好みはそれぞれよ。本人が美味しいと思ってるんなら、それでいいじゃない」

ミーナがやさしく締めくくった。


「だな」

ジトーがしみじみと呟くと、皆がそれぞれに頷いた。


そんな中、そわそわと隣で様子を窺っていたメグが、そっとシマの袖を引く。

「お兄ちゃん、今日、飲んでいい?」


シマは一拍置いて、じっとメグの目を見ると、小さく笑って、「……ほどほどにしとけよ」


「やったー!!」


嬉しそうに飛び跳ねるメグの背中を見送りながら、シマはそっとオスカーに近づき、声をひそめた。

「オスカー、あいつを頼むな」


「うん、任せて」

オスカーは小さく微笑みながらうなずき、軽く拳をシマに突き合わせる。


かくして――陽が落ちる前、村の空に笑い声が満ち、懐かしくも騒がしい「家族の日常」がまた、確かに戻ってきたのだった。



夕暮れが迫る中、男湯の浴場には湯気が立ち込め、柔らかな灯りが湿った木造の壁を照らしていた。


扉をくぐったトーマスが、湯けむりの向こうに広がる光景を見て思わず声を上げた。

「おおっ?! 新しい湯船が二つもあるじゃねえか!」


続いて入ってきたフレッドが、奥に据えられた巨大な湯船に目を奪われ

「おい、トーマス、見ろよ! こっちの湯船、でかくね?!」

興奮を隠せない様子で叫ぶ。


すっと現れたユキヒョウは、両腕を組みながら湯船を一瞥し

「これはまた……わずか二ヶ月いなかった間に、随分立派になったね」と静かに驚く。


その隣では、ロッベンがタオルを肩にかけながら笑い

「驚いてたんじゃ始まらねえ!」と背中を押すように言う。


「今更だしな」と、つぶやくように言うシオン。


ぞろぞろと後に続いて団員たちが入ってくると、浴場の一角で雑巾を絞っていたマーク隊の面々が立ち上がり、元気よく声を揃える。

「お帰りなさい!」


その中心にいたマークがにこやかにフレッドたちの前に進み出る。

「フレッドさん、皆さん、お疲れ様です。ご覧の通り、湯船は三つになりました」

と説明を始める。


「旧来の湯船はそのまま残してあります。一度に12〜13人が入れます。こっちの大きな湯船は、新しく作ったもので、20人は余裕で入れますよ。深さも少し増しました。で、こちらが薬湯です。10人ほどがゆったり入れるようになってます。今夜はヨモギとドクダミ、それにラベンダーを少し混ぜてます」


フレッドたちが「おお〜!」と歓声を上げる中、マークは脇にある木桶を指して続けた。

「この浴槽は、お湯をためておくものでして、ここからかけ流しにしたり、洗い流しに使ってください」


さらに薪の話になり

「今は木炭ではなく、タドンを使用してるんです。火力は控えめですが、長時間じわじわと温めてくれるんですよ」


その時、浴場の入り口が再び開き、ロイドがハイド、ベガ、ワーレン、ハイマン、ゲルハルト、ビリーを伴って姿を現す。


「ロイド団長補佐、お帰りなさい!」

マークが背筋を正して敬礼するように挨拶する。


「やあ、ただいまマーク。マーク隊のみんなご苦労様だね」

ロイドが穏やかに笑って応えた。


「フレッドさんたちには一通り説明しました」


「うん、問題ないよ」

ユキヒョウがうなずき、浴場の空気はやさしい和やかさに包まれた。


「では、ごゆっくりどうぞ」

そう言ってマーク隊の面々は雑巾や木桶を片付けながら浴場を後にした。

湯気の向こうに消えていく彼らを見送りながら、団員たちは脱衣所に向かい、これから始まるくつろぎの時間に自然と顔をほころばせていくのだった。

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