節約?
翌朝、シマたちは昨夜決めたとおり、再び街に繰り出した。
朝食を終えた頃にライアンが訪ねてきてスカウトの話をされたが、彼らの目的は変わらない。
まずは必要な物資を調達することだ。
前回と同じ道具屋、武器屋、古着屋に加えて、あえて別の店でも買い物をするつもりだった。
大量に同じ店で購入すれば目立ってしまうため、行動を分散させる必要があった。
最初に訪れたのは前回と同じ道具屋。
店主の初老の男性はシマたちを覚えていたようで、にこやかに迎えてくれた。
「おや、また来てくれたのかい。ありがたいねえ。」
塩9kg、小麦粉10kg、胡椒500g、砂糖1㎏ 鋸2本、 鍬2本、スコップ2本、 包丁2本、裁縫道具類(丈夫な針5本、丈夫な糸10m)、針金5束(1束10本入り、長さ20㎝)
合計で17金貨と8銀貨。
店主は「またいらしてください」と見送ってくれたが、思いのほか大金を使ったことにシマたちは顔を見合わせる。
「ついつい買いすぎたな…。」
「昨晩、必要最低限にするって言ってたのにな。」
「次は気を付けよう。」
次に訪れたのは古着屋だ。目的は服と余分な布だった。
マント11着、布地数反、衣服数着。
合計10金貨。店主が2銀貨をおまけしてくれたが、それでも予算を超えている。
「こりゃ、マジで次は節約しねえとな…。」
「でも必要なものだから仕方ねえよ。」
武器屋に向かう。
店主はシマたちの顔を見るなり口角を上げた。
「お、前にも来た若ぇのじゃねえか。」
まずは仲間たちのための武器を選ぶ。
ザック用「皆朱槍」
- 柄が朱色の漆で塗られた美しい槍。
- 2金貨と5銀貨。
- 刺突性能に優れ、遠近戦で威力を発揮する。
クリフ用「アーミングソード」
- 両刃の直剣。鞘には薔薇の装飾が施されている。
- 2金貨と3銀貨。
- 鍔の部分に滑り止め加工を追加依頼。
フレッド用「グラディウス」
- 肉厚で幅広なやや短い剣を二刀流で。
- 1本2金貨、2本で4金貨。
- 刃先の鋭利化を希望。
オスカー用「ファルシオン」
- 射手である彼には軽量で取り回しやすい刀剣。
- 2金貨と5銀貨で新たに打ち直してもらう。無骨だが洗練されたデザインで依頼。
- 柄に獅子の紋を彫り込むよう依頼。
女性陣たちの分も見繕う。
女性陣は全員が射手である為、ショートソードがいいだろうということになった。
品定めをして7本のショートソードを選んだがどうにも華やかさがない。
鞘に装飾を頼む。花をモチーフにしたもの。
- 射手が近接戦闘で使いやすいショートソード。
- 鞘には花の装飾を施す。
- 1本1金貨+装飾代4銀貨。計9金貨と8銀貨。
- 軽量だが刃こぼれしにくい加工を依頼。
その他、予備の武器として以下を購入。
- 斧3本(伐採・戦闘兼用)
- 槍3本(木製の柄に鉄製の穂先)
最後にシマはオスカーが作った弓を店主に見せた。
店主は目を細めて弓を吟味し、低く唸る。
「こりゃあ…いい弓だ。強弓ってやつだな。2金貨で買うぞ。」
その言葉にシマは衝撃を受ける。
(やられた!…違うな俺が間抜けだっただけだ…)
肩を落とすシマ。
その姿を見て、なぜかニヤニヤと笑いをこらえているジトー、トーマス、ロイドの三人。
「ん?何が可笑しいんだ?」
眉をひそめて問いかけるシマに、トーマスが肩をすくめて笑いをこぼす。
「いやあ、お前でも失敗することがあるんだなってさ。」
「そんなに肩を落とすなよシマ、もう売ってしまったんだ、しょうがねえだろ?」
ジトーが笑いながら背中を軽く叩くと、ロイドも口元を手で押さえながら笑いを堪えている。
「ちょっと調子に乗りすぎたかもね…プッ。」
「…グゥ…面目ねえ…。」
仲間たちが笑う。
シマは頭をかきながらため息をついた。
しかし、その顔に悔しさは残っていても、絶望や後悔といった色はなかった。
「さて、次はどこへ行く?」
トーマスが問いかけると、シマはすぐに顔を上げる。
「防具屋に行こうぜ。」
「…お前、さっきまでへこんでたのに、立ち直り早えなあ…。」
「もう済んだことだろ?引きずっても何も変わんねえさ。」
あっけらかんとしたシマの言葉に、ジトーとトーマスは顔を見合わせて苦笑する。
「オヤジさん、この辺に防具屋は?」
シマが武器屋の店主に声をかけると、店主はあごを指でさす。
「左に行った方に100メートルくらいの所にあるぞ。武器は5日後に取りに来いよ。」
「了解。ありがとうよ!」
こうしてシマたちは次の目的地、防具屋へと向かった。
石畳を踏みしめながら進む一行の表情はすでに次の目的に向かっていた。
店の前にたどり着くと、木製の看板に「アイアンハート防具店」と書かれている。
店頭には鉄製の兜や胸当てが無造作に並べられており、鍛冶場から響く金属音が心地よいリズムで響いていた。
「いらっしゃいませ!」
奥から姿を現したのは、筋骨隆々の中年男性。
髪を後ろで束ね、エプロンの上から腕を拭っている。
「防具を見せてくれないか。俺たち、山の中を移動することが多いんで、軽くて扱いやすいものを探してるんだが。」
「なるほど、軽装備がいいわけだな。ほら、こっちに来な。」
店主が案内した棚には、革製の胸当てや金属製の小型盾が並んでいた。
その中で、シマが目を引かれたのは丸い小型の盾だった。
「お、このバックラーなんかいいな。」
シマが取り上げたのは、直径30センチほどの金属製バックラー。
中央には突起がついており、革製のストラップがしっかりと固定されている。
「どれどれ、腕に装着するものか…。」
シマは左腕に装着してみた。
思った以上に軽く、腕の動きも妨げられない。
「弓を撃つときに…どうなんだろう。」
サーシャがこのバックラーを使ったらどうかと想像しながら、シマは仲間たちの顔を見た。
「試しに2、3個、買っていくか?」
「そうだな。」
ジトーが頷き、トーマスも同意する。
「3個で9銀貨だ。初めての客だし、手入れ用のオイルもつけてやるよ。」
「おお、ありがとう!」
シマたちは店主に金貨を渡し、包まれたバックラーを受け取ると、次の買い物について話し合いながら店を出た。
「しかし、使った金額もう48金貨か…。」
「節約って、俺たちの辞書にはねえな。」
ジトーが笑い、トーマスが肩をすくめる。
「必要なものだからしょうがねえだろ?」
一旦宿に戻って荷物を置くことにした。
「よし、宿まで戻るか。」
「その前に腹ごしらえしようぜ。」
トーマスの提案に全員が賛成する。
街を歩いていると、香ばしい匂いが漂ってきた。角を曲がると、屋台が軒を連ねている。
「お、串焼き屋があるな。」
炭火で焼かれた肉が香ばしく弾ける音と、滴る脂が炎に落ちて立ち上る香りが食欲を刺激する。
「いらっしゃい!特製スパイスの串焼き、1本2銅貨だよ!」
「5本くれ!」
シマが1銀貨を渡すと、焼きたての串を受け取る。
1本を口に運んだ瞬間、肉汁が口いっぱいに広がり、胡椒の辛みが舌を刺激した。
「うまっ!」
「ホントだ、これヤバいな!」ジトーも頬張って目を丸くする。
次に見つけたのは揚げ菓子の屋台だ。
油でカリッと揚げられた生地に砂糖がまぶされている。
「こんなの初めて見た。」
(これ、ドーナツじゃね?)
4つ買って皆で分ける。
外はサクサク、中はふんわり。甘さがじんわりと疲れた体に染みわたる。
食べ歩きを楽しみながら、シマは屋台の料理に油が多く使われていることに気づく。
「油って高級品じゃなかったっけ?」
「さあ?」「知らね。」「わからん。」
つい最近まで深淵の森で生活し、その前はスラムで飢えていた彼らが知っているわけがない。
そこで、シマは串焼き屋の主人に尋ねる。
「おやじさん、油ってどれくらいするんだ?」
「油かい?1リットルで1銀貨ってとこだな。」
「え、10リットルで1金貨!?」
思わず声を上げる。
「どうした?」
「いや、何でもない。もう1本くれ」
(安い。これならフライドポテトやポテトチップスが作れる!)
「毎度!」
「おやじさん、その油、どこで売ってる?」
「街のはずれさ。南門を出て左に行けばすぐ分かる。」
「ありがとうよ!」
興奮した様子で仲間たちを振り返る。
シマは弾む足取りで宿へと向かった。




