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光を求めて  作者: kotupon


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234/452

違い?!

夜も更け、バンガロー内には、蒸気が上がる湯呑みと、炭火のわずかな熱が漂っていた。


10日後に発表される新たな戦力再編成を前に、今夜の議題は「隊の方向性と人員配置」について。

焚き火の奥、静かに座していたシマが、低く落ち着いた声で口を開く。


「編成の発表は10日後に行う。それまでに隊の方向性と構成を固めておく必要がある」

そう言って、シマは目を閉じ、言葉を選ぶように一拍置いた。


「灰の爪隊、氷の刃隊には鍛え上げられた精鋭を揃えるにしても――スリーマンセルのようにバランスよく分けるか、一点集中、攻撃特化、防御特化型にするかは、隊長たちの性格や好みにもよる」


焚き火がパチリと音を立てる。


「……それに、どうしても馬が合わねえ奴らもいるだろうしな。実力があっても戦いたくねえ奴ってのもいるかもしれねえ。そういうのを無理に隊にねじ込んでも、いい結果にはならねえだろう」


場が一瞬静まり返った後、サーシャがふっと息を吐き、柔らかい口調で続ける。


「無理に戦わせる必要はないわね。この村の中でやるべきことは、戦うことだけじゃないもの」


「そうよ」

隣に座っていたケイトが頷く。

「炊事、工芸、物資管理、子供たちの世話、掃除、修繕。戦えなくても、いや、戦わない人がいるからこそ村が回るのよ」


「…誰をどこの隊に入れるか」

エイラが指で湯呑みのふちをなぞりながら言った。

「仲の悪い人たちを無理に組ませても、軋轢を生むだけよ。それに隊の空気って、案外脆いものなの。ちょっとした違和感で、壊れる」


その言葉に、ジトーが腕を組み、低く呟く。

「…隊ごとに特徴を持たせるにしても、全部が突撃部隊じゃ意味ねえぞ。陽動も、支援も、後方警戒も必要だ」


その言葉に、各隊長たちの視線がジトーに向く。

ドナルドが口の端を吊り上げて応じた。

「そりゃあ俺たちだって分かってるさ。突っ込みゃいいってわけじゃないのは、もう身に染みてる」


「この辺の話は、ちゃんと各隊で詰めていくさ」

ユキヒョウが軽く笑みを浮かべる。

「構成、相性、特性――すべて話し合って決めよう。押し付けではなく、納得の上で。それが、僕たちが“シャイン傭兵団”に加わった理由でもある」


「ありがとう」

シマが軽く頷いた。

「…編成案は3案以上出してもらう。編成理由も添えてな。こっちで最終調整はするが、基本は尊重する。全員が使いやすく、納得できる隊に仕上げよう」


その言葉に、隊長たちは真剣な顔つきで頷いた。

この村、この傭兵団の未来を形作るための大仕事――誰もが、少し背筋を伸ばした瞬間だった。


次の課題は生活の根幹に関わる「食」と「物資」の話だった。


「編成が終わったら……今年最後の買い出しだな」

シマが天井の梁を見上げるようにして呟いた。

「まだ大丈夫だよな?」


「雪なあ……ギリギリってとこだな」

ダグが腕を組み、鼻を鳴らすようにして応えた。

「もう北の尾根は真っ白だ。遅れたら馬車が通れねえ」


「そういえば前にシンセの街に行かなかった3家族の団員たち――奥方にせっつかれてるそうだぜ」

デシンスが笑いをこらえるようにして言うと、場がやや和んだ。


「プリン、もっと作れないかって相談もあるのよねぇ」

リズが肩をすくめながら笑った。

「奥方連中だけじゃなく、炊事班からも要望が来てるのよ」


「子供たちにも大人気だものね」

ノエルが頬を緩ませて言うと、場に優しい空気が流れた。


「子供たちだけじゃないよ。僕たちだってもっと食べたいさ」

ユキヒョウが、少年のように笑う。


「だよなあ…」

ギャラガが同調しながら、すっかり馴染んだ団内の甘味談義に身を乗り出す。


「あんな美味しいものが世の中にあるなんて…衝撃的だったわよ」

マリアが、目を見開いて真剣な表情で言い、皆の笑いを誘った。


「毎日80から100個は作ってるけど、すぐになくなっちゃうものね」

ミーナが小さくため息をついた。


「卵もミルクも、いろんな料理に使えるしね」

隣で聞いていたメグが相槌を打つ。


「ホットミルク?だっけ…あれも美味しいよね」

オスカーが思い出したように言うと、


「だよなあ、砂糖やハチミツを入れるとこれがまた美味ぇんだよ」

ギャラガが目を細めて嬉しそうにうなずいた。


そして、ユキヒョウがふと口を開く。

「肉、魚、スープ、パン、野菜、果物、茸、デザート、甘味、酒…どれも捨てがたいけど、僕の一押しは、やっぱりスープかな…僕たちも……いつの間にか贅沢になってきたねえ」

と、言ったあと、自嘲気味に笑う。


「仕方ないわよ、あのスープは本当に美味しいもの」

マリアがため息をつくように呟いた。


そこにいた全員がうなずいた。

一つの鍋から生まれる温もり。冷える夜の中、口にする一杯の幸せ。

命を懸ける戦場の傍らに、そんなささやかな贅沢があってもいい。

この場所で、共に生きる者たちにとって、それは決して「余計なこと」などではなかった。


この冬を越える準備は、物資の調達だけではなく、

皆の「気持ち」にも火を灯す――そんな時間となっていた。



スープやプリンの話題に花が咲き、ほんのり暖かな空気に包まれていたその場に、フレッドの指先が小さく振られる音が冷や水のように差し込む。


「お前ら、まだ甘いぜ…」

フレッドがどこか得意げに、口角を片方だけ上げる。

「極上のスープは、まだこんなもんじゃねえんだよ」


「ククッ……そうだぜ」

今度はザックが笑う。背を椅子にもたせかけ、腕を組みながら、声に含みを持たせた。

「これで満足してるようじゃ、まだまだだな!」


ザックとフレッドの態度に、周囲がざわつき始める。


「……極上のスープ?」

オズワルドが首を傾げ、眉をひそめて問うた。

「それはいったい…?」


答えたのは、意外にもエイラだった。

彼女は静かに頷きながら、まるで遠い昔を懐かしむように言う。

「ブラウンクラウンのことね」


――その名が出た瞬間だった。


「「……!!!」」

ギャラガの表情が凍りつき、ユキヒョウも目を見開く。

「ま、幻のキノコ!?」


騒然とする空気の中、ジトーがあっけらかんと口を開いた。

「俺たちは、深淵の森じゃ毎日のようにアレを食っててな」


「そうそう、あれは……六年間くらいか?」

クリフが軽く数えるように指を折った。


「煮ても焼いてもスープにしても美味しかったね」

ロイドがのどかな笑みを浮かべる。


「……こ、効能とか、効果のことは……し、知ってるのか?」

キーファーが言葉を選ぶように口にした。


「身体能力向上……風邪をひかない、成長促進…だったか?」

トーマスが何でもない風に、杯片手に口にする。


沈黙。


ギャラガが、ザックたちの顔を一人一人ゆっくりと見回す。

その目には明確な驚愕と納得の色があった。

「……6年間、毎日のようにアレを……」

彼はため息混じりに呟いた。

「どうりで、コイツら普通じゃねぇわけだ」

重い事実に、誰もが息をのむ。


「それに加えて、深淵の森っていう特殊な環境で生き抜いてきた結果が――」

デシンスがそこで言葉を切り、じっとシマたちを見る。

しばしの沈黙ののち、少しだけ口元を歪めて呟いた。


「お前たちか」


その声には、感嘆と、そして少しだけ羨望が滲んでいた。

目の前にいる“シャイン傭兵団”の異質な強さ――

それは、偶然ではなく、積み重ねられた日常と、過酷な環境、そして得難いものとの出会いが生んだ必然だったのだ。


それを知った者たちの胸に、言葉のない畏敬が流れた。


「そうそう、それでよ……」

話の流れが落ち着いたところで、トーマスがふと思い出したように口を開いた。

「ちと疑問に思ったことがあるんだよ……ここいら、だけじゃなくてさ、フレッドの村の周りにもいたろ? 狼とか熊とか……あれ、ちっさくね?」


静かに酒を口にしていた面々が、ぽつぽつと顔を上げる。


「生息地によって違うのか?」

ジトーが目を細め、シマに尋ねる。

手のひらを狼の形にしながら。


だが、聞かれたシマは少し首をかしげて笑った。

「いや、俺に聞かれてもなあ…… 獣に詳しいわけじゃねえし」


「どれくらい違うのじゃ?それと他に何か特徴はあるかの?」

ヤコブがぐっと前に身を乗り出してくる。

目を輝かせながら、ノートを取り出す手つきは真剣そのもの。


「あっ!」

ミーナが軽く手を叩いた。

「そういえば私、前に仕留めた狼を二頭担いだ時、そんなに重いって感じなかったわ」


「僕もだね。熊を一頭運んだけど、普通に走れたよ」

ロイドが隣でうんうんと頷く。


「……そういやあ俺もそうだな」

シマも記憶をたどるように目を細める。

「いつも通りの感じだったけど……あれ?そうか、軽い……のか?」


「……お前ら、それはそれで異常なんだぞ。自覚しろよ」

ダグが肩をすくめて、呆れたように言う。

「熊って普通は……ひとりじゃ担げねえだろ、普通は」


「まあ、そうかもしれねえけどよ……」

クリフが酒を一口飲み呟いた。

「深淵の森だとさ、ジトーやトーマスかザックの二人がかりで熊は運んでたろ」


「そうね……大きくても一回り、二回りって感じかしら?」

ケイトが静かに言葉を添える。


「そんな感じじゃない?」

メグがケイトに視線を送りながら頷いた。


ふと、オスカーが口を開く。声には迷いと確信が半々に混じっていた。

「……僕もちょっと思うことがあるんだ。なんか、こっちの狼とか熊だけじゃなくてさ……猪とか鹿も――妙に警戒心が薄いような気がするんだ」


「それは確かにあるわねえ……」

サーシャが頷きながら頬杖をつく。

「あんまり逃げないのよ。簡単に仕留められちゃうもの」


「狼たちの連携も、悪くない?」

メグが目を細めながら言う。


「そうね……役割が曖昧なのよ。斥候も、囮も、群れ全体のために命を投げ出す犠牲心も見られない」

「凶暴さも……どこか足りないのよね」

ノエルが、少し冷静な声で言葉を並べた。


しばし、皆が沈思黙考するように黙った。


やがてリズが口を開いた。まるでまとめるように、静かに。

「改めて意見をまとめると――」

「この辺りの獣たち、深淵の森とは大分違うわね」


その言葉に、皆が小さく頷いた。


一見平穏な自然。だが、その“穏やかさ”こそがどこか不気味に映る――

彼らは今、深淵の森という過酷な場所で身に着けた“勘”によって、この土地の異質さに、ほんのりと気づき始めていた。

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