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光を求めて  作者: kotupon


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宴が始まる2

焚き火の炎が夜風に揺らぎ、空には無数の星がまたたく。

肉と酒の匂いが立ち込める村の広場は、笑い声と歌声が交錯し、まさに「飲めや、食べろや、騒げや、歌えや、笑えや」の世界と化していた。


――その喧騒の中、シマはサーシャとエイラを伴いながら、仲間たちの輪を一つ一つ巡っていた。


向かった先、焚き火のそばにはダグ、ギャラガ、そしてスレイニ族軍の責任者スタインウェイの姿がある。

三人とも粗い切り株の椅子に腰を下ろし、酒杯を片手に語らっていた。

焚き火の赤い明かりが彼らの横顔を染める中、シマが声をかける。


「スタインウェイさん、楽しんでいますか?」


それに対し、スタインウェイは豪快に笑った。手にした杯を掲げる。

「おう、十分に楽しんでおるぞ! 飯も酒もうまいし、何より皆の顔が明るい――この場におれてワシは満足じゃ!」


と、そこでふと、彼は杯を下げて真顔になる。

「……ただ一つ、不満がある」


「……?」

シマが小さく首を傾げた瞬間、スタインウェイがダグをぐっと指さした。

「こいつ、まだ嫁さんがおらんというじゃないか! ワシは孫の顔が見たいぞ、シマ団長よ、こやつに嫁さんをあてがってくれぬか!」


場が一瞬、静まり――すぐに笑いがはじけた。


「な、何を言い出すんだよこのオヤジは!」

赤くなったダグが憤慨する。


シマも目を細めて笑いながら、

「ふふ……それを言ったら、ヒルだって同じでしょう?」


「うむ! 全くあ奴もいつまでも独り身でおってからに……」

スタインウェイは酒をあおってから、また愚痴をこぼす。

「ワシを早く安心させてもいいだろうに……親不孝の倅どもを持つと苦労するわい」


それを聞いて、隣でにやりと笑ったのはギャラガだ。

「まあ、周りの手助けも必要だが――一番は本人が努力しねえとな」


言葉に重みがあり、スタインウェイも一拍おいてから「む……それもそうじゃな」とうなずいた。


そこでふと思い出したように、ギャラガがカップを置いて、シマに向き直る。

「ああ、それとよ――シンセの街では楽しませてもらったぜ。アンジュも、子供たちもな。」

彼の目元はどこか柔らかい光を宿していた。


「感謝してる、ありがとな。」

静かに礼を言い、ぐっと酒を煽る。


それを受けて、シマは静かにうなずいた。

サーシャも、エイラもにこやかにギャラガを見つめていた。


「それぞれの家族が笑っていられるようにするのが、俺たちの役目だな。」


火の粉がぱちんと弾け、再び酒杯が交わされる。誰もが静かに、深くうなずいた。


――その輪の中心では、ダグが顔を赤らめながら口をとがらせている。

「……ホント、余計なことばっか言いやがってこのオヤジは……」


だがその口ぶりにもどこか嬉しそうな響きがあり、笑いの混じった雰囲気の中、夜はますます更けていく。

宴は続く。焚き火の光が、絆を照らし出すかのように――。



焚き火の光が揺れる広場の一角――そこには元・「氷の刃傭兵団」の面々が、肩を並べて座っていた。


ユキヒョウを中心に、デシンス、ティア、メッシと、どこか落ち着いた空気を纏っているが、その表情には確かな安心と満足感がにじんでいる。

皿には香ばしい肉や魚、カップには熱いスープ。

どれも、今この宴を支える味だ。


そんな彼らの輪に、シマが現れる。

「よう、どうだ飲んでるか? さっきはありがとうな、メッシ。」


顔を上げたメッシが、すこし照れたように頭をかいた。

「いえいえ、そんな大したことじゃないですよ。」


「いや、迅速に動いてくれて助かった。」

シマの言葉に、他の面々も静かにうなずく。


すると、ユキヒョウが湯気を立てるスープをすする音と共に、

「シマ、やっぱり僕はこのスープが一番だね。身体に染み渡るというか、味が深いというか……ティアにどんな風に作ってるのか聞いたけど、出汁?ってやつ? 煮込んでるだけなんだよね。」


ティアが微笑みながら首を振る。

「ユキヒョウさん、それだけじゃありませんよ。灰汁を丁寧に取らないと、雑味が出てしまいます。最初の火加減と水の分量も、すごく大事なんです。」


「だが、それだけでこれだけ洗練された味になるとはな……」

デシンスが感嘆したように呟く。


「いやあ、ホント驚きだよ。」

ユキヒョウも改めてティアの腕を称える。


「ああ、シマ。この、なんて言ったっけ、マツバヅエ? あれがあるおかげでティアも助かってる。」

デシンスが言いながら、そばに立てかけてある軽量な松葉杖を指差した。


ティアは小さく礼をして、シマに深く頭を下げる。

「シマ団長、本当にありがとうございます。おかげで兄の介助がなくても、自分の足で動けるようになりました。」


真剣な表情で尋ねるメッシ。

「どれくらいで治るんですか?」


すると、すかさずシマが苦笑して「……治る前提かよ。」


周囲がクスクスと笑う中、ユキヒョウがにやりと笑って肩をすくめる。

「君のことだからねぇ。」


「シマ団長だし。」

メッシも言って、全員で軽く笑いあう。


だがその後、シマは真面目な口調で静かに言った。

「……今はまだ無理するな。アキレス腱ってのは一度切れるとクセになることもある。それに、筋肉が衰えてる。ティアの左足、右足と比べると……かなり細いだろ。だから長い期間、リハビリ――訓練が必要だ。焦らず、じっくり戻していけ。」


ティアはその言葉にしっかりとうなずく。その目には、涙ではなく、意志の光があった。


その言葉を聞いて、すぐそばにいたサーシャとエイラも輪に加わってくる。

「私たちも支えるわ。」


「何でも相談に乗るわ、ティアさん。」


二人のやさしい声が、ティアの心にまっすぐ届いたようで、彼女は小さく微笑んで、

「……ありがとうございます。」


その光景を見守る元「氷の刃」の仲間たち――

焚き火の揺れる灯りの中に浮かぶ彼らの顔は、以前よりも柔らかく、どこか温もりに満ちていた。



夜の宴もたけなわ。

広場の奥、焚き火の灯りに照らされた一角では、移住してきた家族の女性陣――

つまりは子どもを持つ「お母さんたち」が集まり、談笑という名の情報戦を繰り広げていた。


その中にシマが近づいた瞬間、鋭くも華やかな視線が一斉に彼へ向く。


「あっ、団長!」

「今度は、私たちもシンセの街に行くわよ!」

「そうそう、アンジュたちったら、自慢ばかり言うのよ!『楽しかった』だの『羽をのばせただの』ってね!」


「『どこそこのお店がよかった』とか、」

「『あそこの料理が絶品だった』とか! もう、聞いてるだけで羨ましくて――!」


そうまくし立てるのは、チョウコ村に残った三家族の奥方たち。

明らかにご立腹……いや、完全に嫉妬混じりのご機嫌ナナメだ。


(いや、お前ら……自分の意志で残るって言っただろ……!?)

と思っても、口が裂けても言えないシマ。

下手な返しをしようものなら、この場の空気は一気に嵐へと変わりかねない。


仕方なく苦笑いを浮かべながら視線をそっと横に向けると――

そこには、該当奥方の旦那たち=シャイン傭兵団の団員たちが遠巻きに見ており(団長……すまねぇ……!)

とでも言いたげに、両手を合わせてペコペコしているではないか。


内心、(いやお前らの家庭の問題だろ)とツッコみたいシマだが、グッと堪える。


その場の空気をさらに煽るように、アンジュが声を上げる。

「だってねぇ~ホント楽しかったのよねぇ、シンセの街って。」

「ほんとほんと! 子どもたちも喜んでたし、美味しいものいっぱい食べられて!」


(おいおい!アンジュさん、煽るんじゃねえよ……!)

シマは内心で頭を抱える。


不穏な空気がじわじわと包み込み始めたその時――


「団長! お菓子ちょーだい!」 「ちょーだいっ!」


無垢で元気な声が響いた。

振り返ると、ギャラガの息子ジーグと、娘のシンジュが、満面の笑みで両手を広げて駆け寄ってくる。


(ナイスだ……ッ!)

神の救いに見えた。

「おう、よく来たな二人とも! 確か……菓子はあっちの方にあったな。案内してやるよ。」

そう言いながら、ジーグとシンジュの手を両手で握り、スルリとその場を離れていく団長シマ。


その後ろで、サーシャが肩をすくめて言った。

「アンジュさんたち、からかいすぎですよ。」


アンジュはニコリと笑い、「あら? 団長が逃げ足だけは速いって、つい確かめたくなったのよ。」


その言葉に、サーシャも思わず吹き出す。

焚き火の明かりの中、笑い声がまた一つ、夜空へと舞い上がった。



広場の片隅、焚き火の火が柔らかく揺れ、笑い声と酒の香りが漂うなか、シャイン傭兵団の団員たちが小さな円陣を囲むように座っていた。


そこへ、団長シマがふらりとやって来る。

傍らにはサーシャとエイラの姿。

だが、いつもの余裕ある団長の面影はどこへやら――

肩を落とし、口元を引きつらせてぼそっと漏らす。


「……えらい目に合った……」


酒を手にしていた一人の団員が、バツの悪そうな顔をして立ち上がる。

「団長、……ウチの母ちゃんが……すまねえ……!」


「わかってるよ。下手に言い返せねえからな……」

シマがそう言った瞬間、周囲の団員たちが一斉に頷く。


まるで同じ戦場――いや、家庭内の地雷原を踏み抜いた戦友同士の共感が、そこにはあった。


「そう!」

「言い返したら倍――それ以上になって帰ってくるからな!」


誰からともなく飛び出したその言葉に、他の団員たちが「それな!」と拍手しそうな勢いで同意する。


そこへ、杯を片手に肩をすくめたドナルドが皮肉っぽく笑いながら言う。

「団長でも、奥方連中には敵わねえってか?」


すると今度は、やや斜に構えた調子でキーファーが静かに呟く。

「何も言い返さなかったのは……正解だな」


一口エールをあおって、オズワルドが一言。

「退散するに限る」


まるで修羅場から生還したベテラン兵士たちの会話。

シマも苦笑いを浮かべて頷く。


そのやり取りに割って入るように、焚き火の向こう側から現れたのは――

腰に手を当てて立つ、勝ち気なマリア。


「あらあら? 口なら私でも、あんたに勝てそうね?」

唇の端にニヤリと笑みを浮かべて挑発する。


シマはやや間を置いて、少しだけ目を細めて静かに言った。

「……それは……どうかな」


その返しにマリアの眉がピクリと跳ねる。

「どーいう意味よ?」


ジリッと距離を詰め、目を細めて詰め寄ってくるマリアに、シマはわずかに肩をすくめて、そっけなく答える。


「だってお前……ポンコツじゃねえか」


――その瞬間、場の空気が一瞬凍りついた後、


「ポンコツ言うなー!!」

マリアの怒号が宴のざわめきの中に響き渡った。


「お、怒った怒った!」

「シマ団長、命知らずか!」

「マリア、拳が鳴ってるぞー!逃げろー!」


団員たちが茶化す中、逃げるシマ、マリアは拳を握りしめて追いかける。

焚き火の周りに爆笑が巻き起こる。

笑いとからかい、軽口と本音が交錯するその場は、まるで戦場ではなく、本当の家族のような温もりに包まれていた。



星空の下、篝火がいくつも灯された広場には、スレイニ族軍の兵士たちとシャイン傭兵団の面々が集まり、熱気と笑いに包まれていた。

香ばしく焼けた肉の香りと強い地酒の香りが混じり合い、まさに宴の真っ只中。


その中心、ジトー、トーマス、ザック、フレッド、クリフ、オスカー、ロイド、ヤコブ、マーク、アーベ、ズリッグらが、スレイニ族軍の兵士たちと打ち解け、大いに酒盛りを楽しんでいた。


木製の大杯を交互に掲げ、どちらがより多く、速く、潰れずに飲めるか――ザックとフレッドは、スレイニ族の屈強な兵士3人と並んで競っていた。


「っかー! きくねぇ……!」

顔を真っ赤にして笑うザック。


「へへっ……どっちが先に潰れるか……見ものだな……」

すでに足元が怪しいフレッド。


スレイニ族の兵士もまた顔を赤くして、「いい飲みっぷりだ、ザック! フレッド!」と叫ぶ。

その様子に、周囲の者たちから歓声と笑いが上がっていた。


一方では、豪快な食の勝負が繰り広げられていた。

ジトーとトーマスが木皿山盛りの肉、香草の煮込み、塩漬けの魚などを次々に平らげていく。


「まだまだいけるっ!」

トーマスは余裕綽々で食いまくっている。


「おい。手を抜くな」

ジトーはいつもの無表情で黙々と骨つき肉を噛み砕いていた。


スレイニ族軍の大男たちも負けじと食らいつくが、次第に苦しげな顔が浮かび始める。

「な、なんだあの二人……どこに入ってるんだ……!?」

スレイニ族の兵士たちは、口に布を当てながら驚嘆するばかりだった。


その騒ぎを横目に、クリフ、ロイド、オスカーは落ち着いた様子で酒を片手に、スレイニ族軍の数名と語らっていた。

焚き火の炎がゆらゆらと揺れ、酒器を交わす音と笑い声が心地よく響いている。


「この肉、香辛料が効いてるな……どこで取れるんだ?」


「おぉ、それは“山の花根”という香草と一緒に漬けてあるんだ。保存も効く」


「なるほど……いい風味だ」


互いに酒を注ぎ合いながら、静かに、だが確実に友情を深めていく光景がそこにはあった。


やや離れた輪の中では、ヤコブがスレイニ族軍の老兵や薬師たちに囲まれ、まるで小さな学会のような空気を醸し出していた。


「ふむふむ、では“ルシカ草”は止血と鎮痛に使えると?」


「そうだ。だが煎じては駄目だ、生で噛むのが肝心じゃ」


「面白い……ここでは乾燥して粉末にしてから軟膏にするのが一般的なのですが……この民間療法、記録に値します」


ヤコブの語り口に、スレイニ族の兵士たちは感心した表情で頷く。

時折、誰かが「こんな風に使うんだ」と実演しようとして、周囲が笑いながら止めに入る。

「おいおい、それは火傷薬だっての!飲むな!」


その一角では、マーク、アーベ、ズリッグが自慢げに新しいコートを披露していた。

厚手の熊の毛皮を仕立ててもらったようで、寒冷地仕様の重厚な作り。


「おお……熊の毛皮か!」

一人の若いスレイニ族兵士が目を丸くして感嘆する。

「俺らの部族でも滅多に取れねえ代物だぞ、それ」


「えへへ……リズに頼んで、特別にやってもらったんだ」

ズリッグが誇らしげに言う。


「しかもこの内ポケット、酒瓶がちょうど入るサイズなんだぜ」

アーベが笑いながら見せると、スレイニ兵が「それは最高だな!」と声を上げた。


マークも一言、「動きやすくて、温かい。まさに旅にうってつけだな」とうなずくと、兵士たちが「俺も一着欲しいなぁ」と目を輝かせていた。


焚き火の炎が夜空に照らす中、文化も言葉も違う者たちが、同じ酒、同じ食事、同じ時間を分かち合い、少しずつ、確かに心を通わせていた。


ここは戦場ではない。剣を交える場所ではない。

それぞれが背負った歴史と誇りを、互いに称え合う――平和の宴そのものであった。

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