表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光を求めて  作者: kotupon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

194/453

街道整備

静まり返る会議の席に、シマの声が再び響いた。

その響きには明確な区切りと、新たな出発を告げる力強さが宿っていた。


「これより――灰の爪傭兵団は“シャイン傭兵団・灰の爪隊”。

“氷の刃傭兵団”は“シャイン傭兵団・氷の刃隊”として、正式に統合される。**」


数十名が座す広い食堂に、一瞬、凛とした緊張が走る。

だがそれは、誰もが心のどこかで覚悟していた流れだった。


「誇りと歴史は残しつつ、“一つの傘の下で生きる”。それが俺の提案であり――皆の決断だ。」


ギャラガは腕を組みながら静かにうなずき、ユキヒョウはふっと小さく笑ってみせた。


続いて、ミーナが帳面を手に立ち上がり、柔らかな声で淡々と告げていく。

「今後、シャイン傭兵団は給金制度を導入します。月初めに、家庭を持つ団員には【1金貨と5銀貨】を支給。独身者には【1金貨】を支給します。これは戦闘員・非戦闘員を問わず、全員に適用されます**。」


ざわつきかけた空気に、すかさずエイラが言葉を添える。

「当然、適正や貢献によって、今後は追加報酬や役職手当の導入も検討しますわ。ですがまずは“全員が等しく生きられる”ことを第一に考えました。」


「それでは、預かり資金についてご報告します」

ミーナが帳面をめくる音が響いた。

「灰の爪隊から預かった資金は――400金貨。氷の刃隊から預かった資金は――280金貨。そしてシャイン傭兵団の本隊資金――640金貨。合計で1320金貨が、これよりシャイン商会にて一括管理・運用されます。」


「おいおい…」と、誰かが低く唸る。


エイラはわずかに口元を緩めた。

「皆さまの資金、一滴たりとも無駄にはいたしません。」


さらにケイトが用紙を広げて報告する。

「馬車の台数、馬の数が――馬車が26台。馬が35頭になるわ。」


「すげえな……ちょっとした“軍”じゃねえか。」

キーファーがぽつりと呟き、周囲が頷きあう。


そしてシマが最後に一歩前へ出て言った。

「俺たちは、ただの寄り合い世帯じゃない。“生きる場所を作る”ことが俺たちの戦いだ。金も、馬も、命も、無駄にしない。――未来を切り開くために。」


新たな旗のもとに、一つにまとまった三つの集団。

その始まりの朝が、静かに、しかし確かに幕を開けていた。



朝もやのかかる出発の広場。

陽はまだ高く昇りきっておらず、かすかな冷気が野の空気を引き締めていた。


荷を積み終えた馬車10台が並ぶその様は、まるで一つの移動する街のようだった。

馬は15頭。団員およそ120名。

その顔ぶれは多彩で、それぞれの戦いや生活の色がにじんでいた。


先頭に立つのはシマ。

重みのある視線で隊列全体を見渡し、黙して出発の合図を待つ。


だがこの隊列に異彩を放つ男がひとり。

見るからに異なる立ち位置、異なる気迫――鉄の掟傭兵団団長・グーリスである。

逞しい体躯に風化した鎧、そして豪快な笑い。


「おいおい、なんであんたが来るんだよ」とクリフが聞くと

「半年後には俺たちもシャイン傭兵団の傘下に入るんだぜ?どうやって村を起こすのか、ちゃんと見て団員どもに伝えなきゃならん。」と返すグーリス。


「鉄の掟の運営は大丈夫なのか」

少し不安げなトーマスが尋ねると、グーリスはあっけらかんと笑い飛ばす。


「ライアンに任せときゃ問題ねえ!差配、交渉、事務仕事、何でもそつなくこなすからな。俺はそーいうの、からっきし駄目だしな!」


「お前、それが嫌でこっちに来たんじゃねえのかよ」

ジトーが呆れる。


「俺は戦うことしかできねぇからな!!」

胸を張るグーリスに、周囲がどっと笑い声を上げる。


「……言い切りやがった」

クリフがぼそり。


ロイドも「そこは否定しないんですね…」

苦笑を漏らした。


列はすでに準備万端。周囲の住民たちや後発隊の者たちが手を振り、見送りの声を上げる。


先発隊、主なメンバー、シマ、ジトー、クリフ、ロイド、トーマス、ザック、オスカー、サーシャ、ケイト、ミーナ、ノエル、リズ、メグ、ヤコブ、ギャラガ、ユキヒョウ…鉄の掟傭兵団団長のグーリス。


そして、シマの右手がゆっくりと振り下ろされる。

「進め――チョウコ村へ!」


馬車が一斉に動き出す音が、力強く鳴り響いた。

それはただの旅ではない、

未来をつくるための、大きな、大きな第一歩だった。



陽がやわらかく傾きはじめた三日目の昼過ぎ、シャイン傭兵団先発隊は予定通り、シンセの街へと到着した。

この辺りでは中規模の商業都市として知られるシンセは、突然現れた十台の馬車と百二十名超の大集団に、一時騒然となった。

街道の見張り小屋にいた衛兵たちは目を見開き、広場に近い商店の者たちは

「何事か?軍か?遠征隊か?」

店先から顔を出し、客の出入りを中断して通りに出る者までいた。


しかし先頭を行くシマが「シャイン傭兵団である!」と宣言すると、次第に空気は落ち着きを取り戻していく。


――とはいえ、それは一瞬の静寂。

すぐに別のざわめきが街に広がる。


「シャイン傭兵団…?最近名を聞くようになった傭兵団か…」

「中堅隊があとから来るって言ってるぞ…」

「商会もあるらしい、つまり…金を落とすってことか!?」


そして騒然は、やがて期待と興奮の喧騒へと変わっていった。


宿泊施設には目もくれず、一行は街の公会堂前の大広場にテントを設営。

シマ、ジトー、ミーナ、クリフらが手早く設営地を選び、

ザック、トーマス、ロイド、オスカーらが力仕事で次々と天幕を張り上げていく。


メグとケイト、リズ、ノエル、サーシャは周囲との調和を考え、広場の隅々まで目配りを怠らない。

「子供が近寄るかもしれないから、焚き火の周りには柵を」とメグ。

「女子の着替え用に一張り、遮蔽を追加して」とケイトがオスカーに指示を出す。


午後の市の中心通りでは、突如現れた買い物の猛者たちが一気に街の経済を動かし始める。


「肉50キロ、酒樽8つ、パンと干し肉と麦粉に油と香草も全部!」

叫ぶのはジトーとクリフ。

「甘味用の果物!あと大量の塩と砂糖!あとこの芋、良い芋だわ!」とリズとミーナ。


各商店、八百屋、精肉店、酒屋、雑貨屋まで軒並みてんやわんや。

シャイン傭兵団、合計100金貨を惜しみなく投入。

市場は一気に活気に包まれた。


「これが…金の匂いってやつだな…!」

「うちの倉庫じゃ足りん!親方、すぐに仕入れ先に走るぞ!」

「中堅隊が五日後にまた来るだと?マジか!?なら…今すぐ手配せねば!」


街の商人たちはまるで火がついたかのように、仕入れ先、輸送、在庫管理に走り出す。

裏通りまで駆け回る姿は、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。


夕刻。広場に戻った一行が作り上げたキャンプ地はまるで野外宴会場のようだった。


中心に据えられた大きな焚き火の周囲に、丸太や荷箱を並べた即席の席。

酒樽は開かれ、香ばしく焼けた肉の匂いと、煮込み鍋の湯気が空気を満たす。


「今日だけだぞ、飲み過ぎには注意しろ!明朝出立だ!」

クリフが声を上げると、「へーい!」と応じて木のカップを掲げるザックとトーマス。


「けど、美味しいわねえこれ…」サーシャがうっとり顔で果実酒を味わい、「おかわりいかが?」とメグが注ぎに回る。


一方、ヤコブは火のそばで一人「文明の拠点形成観察録」と題されたノートに熱心に書き込み、

「都市社会への干渉第一段階…うむ、実に面白い」と独りごちていた。


周囲では談笑、歌、踊りも起こり、しかし空の星が見え始める頃にはシマが再び前に立つ。


「明朝、夜明けとともにチョウコ村へ出立する。休める者は早めに休み、見張りは交代で――」


その言葉に静かに頷く団員たち。

祭りのようだった広場の一角には、やがて次第に夜の静けさが戻ってくる。


そのキャンプの焚き火の灯りの先に、北東10キロ先、まだ誰も住んでいない村・チョウコ村が、静かにその時を待っていた。



四日目の朝――

シンセの街から北東に延びる山間部の入口、チョウコ村まで残すところわずか3キロの地点。


ここから先は人の手がほとんど入っていない自然地帯であり、街道の名残こそあれ、道幅は馬車二台がようやく通れるほど。

両脇にはうっそうとした木々が立ち並び、枝葉が空を覆い、湿った風と鳥のさえずりが交錯していた。


その道の前に立ちふさがるように、斧を構えた十一人の者たちが一列に並ぶ。

シマ、ザック、ロイド、クリフ、オスカー、サーシャ、ケイト、ミーナ、ノエル、リズ、メグ――。


シマが静かに前に出ると、全員に目配せしてから、一言。

「……行くぞ」


その言葉と同時に、斧が一斉に振り下ろされた。

ゴウンッ、ゴウンッ、バシュ、ザクン――

木の幹が切断される音が辺りに響き、細かく枝葉が飛び散る。

力強くも無駄のない一撃が、太さもまちまちの木々を次々と倒していく。


まるで**障害を取り除くための“開拓斬線隊”**のような姿に、

後方に待機していた一〇〇名超の団員たちは、目を見開き、しばし呆然と立ち尽くす。


その時、クリフが振り返りざま、斧を肩にかけて怒鳴った。

「おーい!何突っ立ってんだよ!切り倒した木の枝を払ってくれ!!」


ピクリと動き出したのはギャラガ、グーリス、ユキヒョウ、そして彼らに続く団員たち。

「……お、おお……!」


やっと現実に引き戻されたように、一同が動き始める。


一方、道脇にはすでにジトーとトーマスが大槌を肩に担いで待機中。

彼らのそばには数本の杭が立てかけられている。


「枝を払ったら、長さ2メートル50センチくらいにして、街道脇に杭として立ててくれ!」

ジトーが叫ぶ。


「それを俺たちが打ち込んでいく!」

トーマスも続ける。


「間隔は……10センチくらい開ければいいだろう」

ジトーが補足すると、団員たちは「…わ、わかった!」と一斉に動き出す。


ただし――


「おいおい!御者は残れ!」

ジトーが怒鳴ると、「ったく、誰が馬車を動かすんだよ」トーマスがため息交じりに呟く。


御者たちは「す、すみません…」と慌てて馬車の手綱に戻っていく。


さて、切り倒された木を鋸で2.5メートルに整えようとする団員たちだったが……。


「こんなことやってたら日が暮れちまう!」

叫んだのはトーマス。


そして即座に大声で叫ぶ。

「おーい!!メグ!!」


呼ばれたメグが颯爽と現れると、トーマスが木材を指して言った。

「2メートル50センチの長さに切っていってくれ!」


「わかったわ!」

メグは即座に立ち位置を定め、両手に持った斧を一閃――

スパッ、スパッ、スパスパッ!

まるで刃物がバターを切るかのような音と共に、太い幹があっという間に均等な長さに整えられていく。


「これを運んでください!」

明るく言って木を指し示すと、周囲にいた団員たちは一瞬きょとんとしたあと、顔を見合わせて――


「…あ、ああ!」「わ、わかった…!」

頷きながら、両手で丸太を持ち上げ、杭の材料として運び始める。


その後ろで、ギャラガが呆れたように言った。

「…なんなんだこの連中は」


「……い、一撃で切り倒すなんて…!」

隣のユキヒョウが啞然とする。


「…ハハッ…俺たちも見習わねぇとな」

グーリスが苦笑交じりに言いながら、斧を持って木の枝を払い始めた。


 山間部の緩やかな登り道、霧の名残が白くたなびく街道の入り口に、一本、また一本と、長い木杭が打ち込まれていく。

2メートル50センチはあろうかというその杭を、トーマスとジトーが交互に、大槌を振るって地面に叩き込んでいた。


 街道の右手には、トーマスが立ち、左手にはジトー。

二人とも無言で構え、互いの打撃の響きだけが、山間にこだまする。


「50センチくらい打ち込めばいいか?」

トーマスが額の汗をぬぐいながら言う。


「ああ、それくらいで安定するはずだ」

ジトーが短く返す。


 ドンッ! ドゴンッ! ドガンッ!


 乾いた衝撃音が、木の葉を揺らし、鳥たちを驚かせて飛び立たせる。

その音に合わせて、団員たちが木杭を持ち、支える。

だが、慣れぬ作業に、やや角度が傾いている杭もちらほらと見える。


「おい、ちゃんと真っ直ぐ立ててくれよ。傾いてたら意味がねぇ」

ジトーが渋い声で注意する。


「す、すまん!」

若い団員があわてて杭の角度を直す。


 最初のうちはぎこちなかった。

トーマスの打ち込みに合わせて支える者が遅れたり、ジトーの振りが強すぎて杭がわずかにずれたりもした。

だが、時間が経つにつれ、動きは洗練され、無駄が消えていく。


 「はい、次!」


 「いける、いける、もう一丁!」


 段取りを把握した団員たちは、杭を運ぶ者、支える者、確認する者に分かれ、円滑に作業を回し始めた。

トーマスとジトーの大槌が交互に振り下ろされるたび、杭が地に沈み、街道が次第に形づくられていく。


 街道の両端に並ぶ木杭は、まるで人の意志を帯びたかのように、整然と並び始める。


 その様子を後方から眺めていたヤコブは、肩から提げた手帳を開きかけて、しかし閉じた。

言葉にならない思いを胸に、ふうと一息つく。

 「いやはや……分かってはおったが、目の前で見せられると……」 


 呆れるやら、感心するやら、苦笑するような顔で、何度も頷く。

「なんとも、実に……物理的な説得力だ」


 こうして、山間部の入口からチョウコ村まで、およそ三キロ。

道は山の斜面を縫うようにして続いている。

斜面に沿って、丁寧に、そして力強く杭が打たれ、街道が拓かれていく。


 朝の冷たい空気は、次第に昼の陽光へと変わり、日が高くなるころには、彼らの隊列は木杭を打ち終えた状態で、チョウコ村の手前へとたどり着いていた。


 汗だくのトーマスが最後の杭を打ち込むと、ジトーが「よし」と短く頷き、団員たちに声をかける。

 「今日の分は上出来だ。よくやったな」


 団員たちは腰を伸ばし、互いの手を叩き合いながら、爽やかな風の中、村の輪郭が見えてくる道を進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ