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光を求めて  作者: kotupon


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パン

 狩りを終えて戻ってきたサーシャたちは興奮冷めやらぬ様子で、家の周りに集まっていた。


彼女たちが仕留めた獲物はなんと鹿二頭、さらに兎二羽、鳥五羽。

想像を超える収穫に、皆の顔は驚きと喜びで輝いていた。


 「血抜きも内臓処理も、仕留めた場所で済ませてきたわ。しばらくはあのエリアには近寄らない方がいいかもしれないけどね」


 サーシャが言うと、ザックも頷いた。

「あのあたりは血の匂いで獣が寄ってくるだろうしな。しばらく警戒した方がよさそうだ」


 すぐさま皆で川へ向かい、狩ってきた獲物を解体し始めた。

鹿はブロックごとに肉を切り分け、皮を丁寧にはぎ取っていく。

角や骨も捨てずに活用するために確保する。

オスカーは角を見て、「これならナイフの柄や釣り針なんかにも使えるかも」と目を輝かせた。


 「それにしても……あの太い矢、すごいわね」

 ミーナが感嘆の声を上げた。

「まさか一発で仕留められるなんて思わなかったわ」


 サーシャがうなずく。

「そうよね。私とメグで放った矢が、鹿の首筋を貫いたのよ。今までにない手応えだったわ」


 その話を聞いたシマはメグに声をかけた。

「メグ、ちょっとこっちに来てくれ。お前の弓の腕を確かめたい」


 「私の実力を見せてあげるわ。よーく見ててね、お兄ちゃん!」


 メグは自信満々に笑いながら、オスカーが作った太い矢を弓に番えた。

シマが指さしたのは少し離れた場所にある大木。

「あの大木に向かって撃ってみてくれ」


 メグは深呼吸をして、矢を引き絞る。次の瞬間——ビュンッ!


 矢は目にも止まらぬ速さで飛び、大木に「ドンッ!」と大きな音を立てて深々と突き刺さった。


 「……ハア? 何だよ今の音……」


 シマは目を疑った。

普通、矢が木に刺さるといっても「ドスッ」とか「グサッ」といった音がするはずだ。

しかし今のはまるで槍が突き刺さったかのような重い音だった。


 「いや……実際に目の前で見せられたわけだけど……ありえねえだろ……」


 サーシャや他の仲間も自信に満ちた笑顔をしていた。

「これが私たちの力よ……と、言ってもブラウンクラウン、弓の性能、太い矢のおかげね」


 メグは得意げに胸を張って「フフン!」とドヤ顔を見せる。

「どう? 私、すごいでしょ?」


 シマは心の中で驚きを抑えきれなかった。

ブラウンクラウンの効能は、これほどまでに身体能力、弓の威力を高めるのか。

これなら大型の獣も一撃で仕留められるはずだ——そう確信した。


 シマは一つの決意を固める。彼らの力をさらに引き出し、この世界で生き抜くために、自分にできることを全力でやる——



夕食時は女性陣の家に集まり、焚き火のはぜる音と笑い声で賑わっていた。

香ばしいシチューの匂いが漂い、全員の空腹を刺激する。


ケイトが満面の笑みでオスカーを見て言った。

「オスカー、本当にありがとう!この弓と太い矢のおかげで、今日の狩りは大成功だったわ!」


サーシャやミーナ、メグ、ノエル、エイラも次々と感謝の言葉を述べる。


オスカーは頬を赤らめながらも。

「えへへ、もし使いにくいところがあれば言って。すぐに改良するから」と頼もしく応じる。


そのやり取りを聞きながら、クリフが椅子から身を乗り出し。

「なあ、シマ。ブラウンクラウンやジャガイモの栽培の調子はどうだ?」と尋ねた。


シマは少し考え込み。

「まだ観察が必要だな……実は今、パン作りにも挑戦してるんだ」とぽつりと言った。


「パン作り!?」


仲間たちは一斉に驚きの声を上げ、興味津々の目を向ける。


シマは苦笑いしながら。

「今は試行錯誤中で、まだ成功とは言えないんだけどな」と正直に打ち明けた。


リズは「でも、できそうなの?」

と真剣な眼差しで問い、シマは「あと数日あれば何とか形になるはず」と力強く頷いた。


フレッドも「じゃあ、期待してていいんだな?」

と念押しし、シマは「材料は限られてるが、できることは全部やる」と力を込める。


「小麦粉も無限にあるわけじゃないしね」とミーナが現実的な声を上げる。


サーシャが「できたら儲けものくらいに考えましょ」と笑顔で場を和ませ、皆も同意した。


そのとき、トーマスが少し真剣な表情で言った。

「そろそろ次の取引の準備を始めないと……」


シマは眉を寄せて「ジャムやブラウンクラウンの確保は問題ないが……実は金がなあ」とつぶやく。

あの時、俺たちは浮かれてて後のことを考えてなかったもんなとロイドとジトー、トーマスは顔を見合わせる。

「金貨も銀貨も使い切ったしね……」とロイドが深刻な表情でつぶやく。


現状では白金貨二枚は残っているが、使うには躊躇いがあった。


「街に入るだけで一人一銀貨必要だし」

「道中で商人と取引して稼ぐしかない」

「オスカーの弓を売ればいい金になるけどな」

「白金貨を持っていって、ダミアンに両替してもらう手もある」


次の取引をどう乗り切るか、皆は真剣に話し合いを始めた——。


 夕食の席で次回の取引の話し合いが進む中、道中で売る品目が次々と決まっていく。

オスカー自作の弓は目玉商品として期待され、さらにチャノキ(お茶)、甘草カンゾウ、ドクダミといった薬草類、止血や消毒作用を持つ草、解熱効果のある薬草、さらには肉や魚の臭み消しに使える森ミントもリストに加わった。

どれも街の商人や薬師たちに需要がありそうなものばかりだった。


 「エイラ、白金貨を両替するなら手数料はどれくらい取られる?」

シマの問いにエイラは考え込むことなく答えた。

「8%から10%なら良心的。11%から15%なら普通。それ以上、16%を超えるなら高すぎるわ。それ以上は話にならないわね」


 シマはうなずきながら頭の中で計算を巡らせ、必要な資金と利益のバランスを考え始めた。


 「街に行くメンバーはどうするの?」ノエルの問いかけに。


シマは「前回と同じでいこう。こっちの内情を知られたくないからな」と断言する。

エイラも「それが賢明ね」と同意した。


 「現状、不足しているものは?」

シマが尋ねる。


「丈夫な針と糸が欲しいわ。毛皮を縫い合わせるのに必要なの。今あるものでも、できなくはないけど、もっと良いものなら作業がはかどるし仕上がりも良くなるわ」とリズが答えた。


 オスカーは「ノミやカンナがあれば、もっと精度の高い加工ができるんだけど……」とつぶやく。


シマは(この時代に釘ってあるのか?)とふと疑問を抱くと、すぐに「釘って知ってるか?」とエイラに聞いた。


 「もちろん。そんなの知ってて当然でしょ?」と笑うエイラ。


シマは「なら釘も買っておくか」とつぶやき、「頼むよ、シマ!」とオスカーも期待を込めた声をかけた。


 「でもあなた、たまに不思議なことを言うのよね」とエイラは笑いながら付け加えた。


 さらに布や服、調味料、小麦粉、塩、砂糖、胡椒、予備の武器、茶器類と次々に必要なものがリストに挙がる。

 夕食の席で次の取引に向けた話し合いが続く中、出発の日程も議論された。


シマは「取引の3日前には街に入っておきたい」と提案する。


「なんでそんなに早く?」とノエルが尋ねると。


シマは真剣な表情で答えた。

「ダミアン、奴が仲間を引き連れてくる可能性も考慮してだ。」


「…俺たちを捕らえて情報を引き出すためか」

「…あるいは物資を奪うため」

「……待ち構えている可能性があるってことね」


「ああ、そうだ」


 「それなら弓の制作を急いだほうがいいわね」

エイラが言うと、「ああ、悪いが頼む、オスカー。5張ばかり作ってくれ。弦は少しゆるめでな」

シマが依頼した。

「任せて!」とオスカーはすぐに作業に取り掛かる。


 持っていく薬草や調味料、備品はエイラとノエルがしっかりと管理しており、弓以外の準備は滞りなく進んだ。


出発までの時間は普段とあまり変わらないが、オスカーだけは忙しそうに工具を手に弓を仕上げていった。


 シマは少し早い収穫だと思いながらもジャガイモを掘り出した。

「ダミアンに使い方を教えると約束したからな」とつぶやき、丁寧に土を払う。


数日後、パン作りにも進展があった。

自然発酵で仕込んだ生地がちょうど良い具合に膨らみ、シマは「これ、いけるんじゃね?」と手応えを感じる。

仲間たちに大きな石や岩を集めさせ、簡素な窯を作る。


 パンが焼き上がる瞬間、仲間たちは固唾を飲んで見守っていた。

窯から取り出されたふっくらとしたパンに、最初に反応したのはメグだった。

「やったぁ!お兄ちゃん、すごいよ!」と飛び跳ねて喜ぶ。


サーシャは目を輝かせながら「こんなにふんわりしてるなんて…!」と感動し、ノエルとエイラは顔を見合わせて歓声を上げた。


クリフは「うおぉ、これで俺たち、パンが食えるんだな!」と拳を握りしめ、ケイトは「シマ、天才じゃない!?」と無邪気に笑った。


 オスカーはパンを手に取り、「僕の弓づくりより難しそうだよ…すごいよ、シマ!」と感嘆し、トーマスは「これ、取引でも絶対人気になる!」と興奮を隠せない。


リズは一口食べて「ふわふわで、ほんのり甘い…夢みたい」と目を潤ませる。


シマは照れながら「なんとかできたな。これで、食事のレパートリーが増えたな」と呟く。


 すでにシマはパン作りの工程をエイラとノエルに伝えており、自分がいなくても問題ない状態だった。

仲間たちは口々に「次は私も手伝う!」「パンが焼けるの楽しみだな!」と笑い合い、温かな希望に包まれた。

その笑顔を見て、シマは胸の中に小さな達成感を感じた。

こうして、取引に向けた準備は着実に進んでいった。




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