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光を求めて  作者: kotupon


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182/448

ロイド怒る?!

ラドウの街、ヒルズ宿の朝――

一階の食堂には焼きたての平たいパンと、スパイスの効いた豆のスープ、そして果物の盛り合わせが並んでいた。

異国情緒たっぷりのメニューに、ロイドとクリフはやや戸惑いつつも慣れた手つきで朝食を口に運んでいた。


「……あいつら、夜中に帰って来たみてえだな」

窓の外を見ながら、クリフが言う。


「そうだね。気配は感じたよ。静かにしてたけど、酔ってたのは間違いないね」

ロイドは匙でスープをすくいながら、苦笑した。


「このぶんじゃ、昼まで寝てんだろうな」


「……うん。僕たちだけでも情報収集しようか…?」


「だな。のんびりしてられねぇしな」


ふたりは食後、手早く支度を済ませると、ラドウの市場、酒場、行政関係の建物の周辺へと足を運んだ。シャイン傭兵団の名前を出すことはせず、あくまで一般の旅商人のふりをしながら、さりげなく聞き込みを進めていった。


やがて、得られたのは次のような情報だった――


■ ワイルジ・モコノ(自治区区長)

年齢:50代前半


性格/評判:金に汚いと市民の間でも噂されている。

金で動く、金で解決するを信条にしており、あらゆる事案に裏金が絡んでいるという話が絶えない。


趣味・嗜好:賄賂が大好きで、女遊びも盛ん。

お気に入りの女性を娼館ごと買い上げて囲っているという説も。

裏の顔:黒い噂が絶えず、裏社会と深く繋がっているとも。


影響力:区内最大の商会と結託し、強大な経済的支配力を持つ。

実質的には“自治区の王”。


■ コイタチモ(議員)

性格/評判:ワイルジの腰巾着。

何を言われても「おっしゃる通りで」と頷くタイプ。


特徴:ねちっこく嫌味な物言いが多く、話すとどっと疲れると有名。


発言権:独自の意見は皆無に等しいが、ワイルジの側にいるため地味に影響力は強い。


■ クシツアー(議員)

性格/評判:短気で癇癪持ち。

思い通りにならないとすぐ怒鳴り散らす。


特徴:言葉遣いが荒く、交渉時には一番扱いにくい相手とされている。


立場:ワイルジの取り巻きではあるが、信頼されているというより「手懐けられている」状態。


■ チャフク(議員)

性格/評判:金がすべて。極端な拝金主義者。


趣味:人が困っている顔を見るのが好きという悪趣味さを持ち、闇金業に手を出しているとの情報も。


実際の活動:市民の借金を盾に土地を奪うなど、陰でかなり悪辣な行為を行っている。


影響力:金を媒介にした力は強く、ある意味ワイルジ以上に“支配者”と見る者も。


※ワイルジ、コイタチモ、クシツアー、チャクフはそれぞれ自分の傭兵団を抱えており、場合によっては「議場を力で押し通す」ことすら可能な状態にある。


■ トウフン(議員)

性格/評判:ごく真面目で、民のために尽力している数少ない良識派。


姿勢:清廉潔白、賄賂は一切受け取らない。


支持層:街の労働者層や下町の人々から厚く支持されており、今の議会に一縷の希望を感じる者の拠り所。


課題:影響力は弱く、他の議員から疎まれている。


■ コンガ(議員)

性格/評判:誠実で堅実。ただし、非常に頑固な性格で融通が利かない。


事業:ラドウの街に本店を持つ地元商会の当主。

真面目な経営で信頼されており、シンセの街に支店あり。


政治姿勢:地元の経済の健全化に力を注いでおり、不正を嫌う。

ワイルジ派とは距離を置いているが、敵に回すと厄介。


情報をまとめながら、ロイドがぼそりと呟いた。

「……これは一筋縄じゃいかないね……」


クリフも眉をひそめる。

「……とにかく、昼にはザックたちを叩き起こすか」


「……うん。」


そう言って、ふたりは宿に戻っていった。

昼時のヒルズ宿一階。通りに面した窓からやわらかな日差しが差し込み、厨房からは香ばしいパンの匂いと、煮込み料理の湯気が漂ってくる。

丸テーブルに腰掛けたロイドとクリフは、すでに一皿目を終えて湯のみを手にしていた。


「……来ないな、あいつら」


「だね。もう昼だよ」


クリフが腕組みをし、ロイドは静かに首を傾げる。


そこへ――

「……ふああ~~っ、くっそ……寝たわ……」

階段をのっそりと降りてくるザック。

伸びをしながら大あくびをかまし、目をこすりつつ、ボサボサの髪のまま現れる。


「……腹減った~……」

続いて、フレッドが頭を掻きながらヨロヨロと現れる。

服の合わせが微妙にずれているのは気のせいではない。


後ろからはダルソンも無言でついてきた。

目の下にわずかにクマができ、昨晩の疲れを物語っている。


三人が席についた途端、ロイドとクリフの視線が鋭く突き刺さる。


「……で? 情報を聞かせてもらおうか?」

クリフが眉をつり上げて切り出す。


「有意義な情報だといいんだけどね」

ロイドもにこやかに微笑みながら、冷たい目を向けた。


そんな二人に対して、フレッドは満面の笑みを浮かべ、胸を張って語り出す。

「おう! スダレ――あの姉ちゃんはな、スレンダーなくせにおパイがでけぇんだよ! しかもよ、右のおパイにほくろがあったんだぜ! ほくろだぞ!? セクシーポイントだろ、間違いなく!」


「ははっ、俺の方はぽっちゃり系だったがよ、抱き心地がふっかふかでな。沈み込む感じっていうか? ……アレはアレで、悪くねぇなって」

ザックも得意げに顎をさすりながら語る。


その横で、ダルソンがぽつりと――

「……気持ちよかったぜ……」

遠い目で呟く。


三人はどこか誇らしげに、揃ってロイドとクリフを見る。

「……どうだ?」という顔だ。


「なかなかの情報だろ?」

フレッドが勝ち誇ったように言えば、ザックも「これで戦略はバッチリだな!」と親指を立てる。


――沈黙。


ロイドとクリフは顔を見合わせ、

何か言いたげに口を開けるが、言葉が出ない。


その代わりにロイドがぽつり。

「……君たちがどれだけ全力で遊んできたかは、よくわかったよ」


「情報の“種類”が違ぇんだよ!」

クリフが椅子を引いて立ち上がる。

「つーか、ほくろとか抱き心地とか、なにが“有意義”だってんだ!」


「えっ……ほら、店の内装とか雰囲気とか……料金体系とか……」


「フレッド、それは“行ったやつにしか得られない知見”だけど、そうじゃないんだよ……!」

がっくりと肩を落とすロイドとクリフ。


一方、ザックたちはどこ吹く風で、

「今日の夜は“あわわ姫”だな!」

「だな!」

と拳を突き合わせている。


……昼のヒルズ宿、情報収集班の“温度差”が浮き彫りになるのだった。

明るい陽光の差し込む食堂のテーブルを挟んで、場に不穏な空気が流れていた。

理由は一つ――目の前に座るロイドの、怒りを押し殺した表情である。


普段は誰にでも丁寧で、優しく、温厚そのものの青年。

そんな彼が、今、静かに、しかし明確に言い放った。

「君たち……いい加減にしようか」


ザックとフレッドの顔から、一気に笑顔が消えた。


ザックが肩をすくめ、思わず椅子を引きかける。

「な、なんだよ……? いきなり……」


フレッドも慌てたように両手を振りながら、

「お、落ち着けって!な!? 話なら聞く! なんだよ、何がいけなかったんだ?!」


クリフが無言で懐から一通の書状を取り出した。

それを、目の前にいるフレッドの胸元へ、軽く叩きつけるように渡す。

「……フレッド。お前はその書状を持って、区長ワイルジから承認を得てこい」


「……へ?」


そして、今度はロイドがザックに向き直る。

その眼差しは、まるで慈悲のない審判。

「ザック、君はクシツアー議員から承認を得てくるんだ。いいね?」

ロイドが一歩、ぐっと前に乗り出した。


ザックはその勢いに仰け反り、ガタッと椅子を鳴らす。

「……わ、分かった分かった! やるよ!やるってば!」


「よろしくね」

にっこりと、しかし目が笑っていないロイド。


ダルソンが横でそっと小声で呟く。

「……ロイド、怒らせると怖ぇな」


ザックとフレッドはまるで用事に前向きであるかのように、いそいそと外へ出ていった。

扉がバタンと閉まる。


その音に合わせるように、ロイドとクリフが同時に――

「「はぁ……」」

深い、長いため息を吐いた。


隣にいたダルソンが、肩をすくめながら呟く。

「……俺が言うのもなんだが……大変だな、お前らも」


クリフが苦笑いしつつ、ぼやくように。

「自由人であり、問題児であり……」


ロイドも、疲れたような微笑みを浮かべながら続けた。

「……だけど頼りになるんだよね、結局……」


ロイドがふと顔を上げて、ダルソンに向き直る。

「……ダルソンさんは、今日は宿にいてください。念のためです」


「念のため……ね。ま、大人しくしてるよ」

ダルソンは頷くと、椅子に寄りかかりながら腕を組み、どこか楽しげな様子で二人を見送った。


そして――

ロイドとクリフは宿を出て、それぞれの役割へと足を踏み出す。


「じゃあ俺はコイタチモだな」


「うん。僕はチャフクの方へ行ってみる。慎重にやろう」


ロイドは軽く頷くと、二人は別々の方向へと歩いていった。


一方その頃。ラドウの街、喧騒の中。

ザックとフレッドは軽口を叩きながら街を歩いていた。


「やっべぇ~、マジでロイドの奴、怒ってたぜ~」

フレッドが両手を頭の後ろで組みながら、少し後ろを振り返る。


「なんであんなに怒ってたんだ……? 別に女の話くらいでよ……」

ザックが不思議そうに首を傾げながら、路地の方に目をやる。


「さあな。ってか、まずは……ワイルジってやつ、どこにいるんだ?」


「それだよ問題は。こっちはクシツアーってのを探さなきゃいけねえ。地図もねえしな」


「じゃあ聞くか」


「そうだな。あ、そこのおばちゃん! ちょいと聞きてえんだけどよ!」

フレッドが軒下で野菜を並べていた中年女性に声をかける。

「ワイルジって区長、どこに行けば会えるんだ?」


「……ワイルジ様に? あんたたち何者?」


「えーっと……旅の商人見習いってとこで……」


「金があるなら中央区役所へ行きな。門番に賄賂渡せば通してくれるわよ」


「賄賂が前提かよ!」


続いてザックは、近くの若い男に声をかける。

「クシツアーって議員、どこにいるか知らねえか?」


「クシツアーさん? ああ、機嫌悪いと家から出ないからね。今日はたぶん自宅じゃないかな。あの丘の上の三階建て、でっかい屋敷」


「おっけー、サンキュー!」


「ただし……ノックの音が気に入らねえと怒鳴り返されるから、静か~に行った方がいいぜ」


「めんどくせぇ……!」


そんな調子で、ザックとフレッドは顔をしかめながら、情報を集めていく。

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