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光を求めて  作者: kotupon


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178/447

いつの間に?!

夕飯を終えた後、ほっと息をつく間もなく、シマはダミアンに、ひと言断りを入れた。

「すまねえ、少し団の連中と話をさせてもらう。商談室、借りるぜ」


「ああ、構わねえ。明かりはつけといた。鍵もかかってねえから自由に使え」

ダミアンは面倒くさそうに手を振ったが、その声にはどこか理解と信頼が込められていた。


シャイン傭兵団の面々がそこに静かに集う。


テーブルの両端にシマとジトーが腰を下ろすと、自然と席が埋まっていった。


シマがゆっくりと口を開く。

「じゃあ、はっきりさせよう。これからの『体制』をよ」


言葉を区切って、シマが面々を見渡す。

「団長は俺が続ける。副団長はジトー。異論ねえな?」


ジトーは目を閉じて、無言で頷いた。

他の面々も誰ひとり異論を挟まない。


「団長補佐として、サーシャ、クリフ、ロイド――お前らを立てる。」

サーシャがこくりと頷く。

クリフとロイドもそれぞれ真剣な眼差しで答えた。


「そして、“シャイン商会”会頭にエイラ、副会頭はミーナ。数字と人の流れを見る目はお前に任せる」


「うん、やってみる。必要な帳簿や人員リストも作るから、任せて」

ミーナがにこやかに答えるも、その口調には芯が通っていた。


「それ以外の連中も、役目を決めていくが……とりあえず、これが俺たちの新しい『骨組み』だ」


部屋が静まり返る。

それは新たな時代の“夜明け前”の静寂。

誰もが言葉を持たず、しかし明らかに――心の中では同じものを見つめていた。


シマが小さく息を吐いた。

「……これが、シャイン傭兵団の新たな始まりだ。誰ひとり、置いてかねえ……が」


彼の鋭い視線が脇にいた二人に向けられる。

「……なんでお前らが当たり前のようにいるんだ?」


椅子に腰かけるマリアと、静かに座るオズワルドの姿があった。

戦地からの帰路、休憩のたびに自然と輪の中にいた彼ら。


「何でって?」

マリアは肩をすくめて、からりと笑う。

「私も、シャイン傭兵団の一員だからよ」


「俺もだな」オズワルドも、穏やかにうなずく。

傷はふさがり、歩けるまでには回復していたが、右手は包帯に巻かれたままだ。


「……許可を出した覚えはねえんだが」

シマが低くつぶやくと、マリアは胸を張って即答した。

「私が決めた! それに、今さら一人二人増えたところで変わらないだろ?」


「確かにそうだな」

フレッドが頷いた。


「だろ? フレッドはわかってるじゃないか」

マリアがにっこりと笑う。


道中、マリアはあっという間に傭兵団の中に溶け込んでいた。

休憩中にはリズやノエルと一緒に火を囲み、裁縫を手伝ったり、時に料理をするミーナ、メグを手伝っていた。

失敗ばかりではあったが


サーシャやエイラとは夜営の見張りを一緒に行いながら、女性同士の静かな会話を交わし、ザックとフレッド、クリフ、ケイトとは武器談義に花を咲かせた。

特に、剣の使い方について語るときの彼女の熱意には、オスカーやロイドも一目置くようになっていた。


オズワルドはというと、負傷の身ではあったが、動ける範囲で団の手伝いを申し出ていた。

荷物の見張り、簡単な見取り図の作成など、静かに黙々とこなすその姿勢は、ジトーやトーマスに好印象を与えていた。


ヤコブとは何度か夜に焚き火を囲んで語らい、戦争と学問の違いについて意見を交わしたこともある。

「右手が動かない今だからこそ、考える時間が持てているのだ」と言うオズワルド。


ふと、シマがマリアに問いかける。

「……お前、社交的な性格の割にはさ。大嵐傭兵団って、なんかギスギスしてなかったか?」


火の明かりに照らされたマリアの表情が、かすかに曇った。

「……あいつらは、私を“女”だってだけで見下してたんだよ」

口調は軽いが、内側には熱い感情があった。


「実力は認められてたと思う。でも、それ以上に……身体目当てもあったんだろうね。視線で分かるよ、そういうの。フンッ」

鼻で笑いながらも、指先は無意識に拳を握っている。

その苦さを、皆は黙って聞いていた。


「女団長なんて珍しいものね」

サーシャがぽつりと漏らす。


マリアはその言葉に少し顔を上げ、にやっと笑って見せた。

「まあな。でも、ここは違う。サーシャたちもいるし、すっごく居心地がいいのよ!」

それは心の底から出た声だった。彼女の瞳は、炎の明かりに揺れて輝いていた。


「ミーナとメグは優しいし、ノエルは理屈っぽいけど誠実。リズは真面目で気遣い上手で、エイラは冷静なくせに時々おかしなこと言うし、ケイトはクリフの話ばっかりするし、サーシャは……うん、ちょっと怖いけど頼りになる!」


「……ちょっと怖い、って何よ」

サーシャが肩をすくめたが、表情はどこか柔らかかった。


「でもさ、本当に嬉しかったんだよ。戦いの中で“女だから”なんて見方されないことが。ここじゃ、誰も私を飾りみたいに扱わないし、無理に気を遣ってこない。むしろ、放っといてくれる。そういう空気って、私にとってはすごく楽」


焚き火が、ぱちん、とまた弾けた。マリアの視線は空へ向き、ほっと息をついた。

「ようやく、帰る場所が見つかったって感じ」


「……悪くねぇな、それ」

シマがそう呟いたのは、マリアに向けてだったのか、傭兵団全体に向けてだったのかは分からなかった。

だがその声には、確かな共鳴があった。


そして何より、彼らは傭兵団の誰かとではなく、「みんなと」話していた。

誰か一人に取り入るのではなく、自然と場にいる。

そこに不思議な拒絶は生まれなかった。


「……ほんと、気づいたら当然のように馴染んでるんだよな、お前ら……ま、今さら蹴り出すのも骨だしな」

シマは頭をかきながら、うっすらと笑った。


こうして、マリアとオズワルドは正式な宣言もないまま、自然にシャイン傭兵団の一員として、その場に在った。


「……で、次の話に入る。ハドラマウト自治区にある、チョウコ村。そこをとりあえずの拠点にする」


「チョウコ……村?」

ヤコブが目を細める。


「ああ。放棄された村で今は誰も住んじゃいねぇと言う。もともと盆地にある村で、周囲を山、丘に囲まれてて、天候の変化が急。雨が降れば霧、晴れたと思えば突風、雷も落ちる。獣害も多いらしいぞ」


「……うわあ」

マリアが素直に眉をしかめた。

「畑なんてとてもじゃないけど、作れたもんじゃないでしょ。日照時間もバラバラだし」


「実際、畑の面積も少ねえみてえだな。作物を育てるには最悪の条件だろう」


「……そんな所、手に入れてどうするんだ?」

オズワルドも困惑したように眉をひそめる。


「水資源は豊富だ。すぐ近くにルナイ川が通っている。清流で、飲用にも使える」


「うーん……」

ヤコブが顎に手を当てて唸った。

「水があるのは重要だが、それ以外の条件が壊滅的に見える」


「……でも、どこか似てるわね」

ぽつりとメグが口を開く。

「深淵の森に」


ザックが口元を歪めてにやりと笑う。

「肉、食い放題だな!」


「いい情報ね」

ケイトが薄く笑いながらうなずいた。

「水源さえ確保できてれば、生活基盤は築ける。森を知ってる者がいれば、だけど」


「そうだな。俺たちなら、わけねえな」

クリフが静かに答える。彼の目が鋭く光った。


そのやり取りを聞いていたヤコブ、マリア、オズワルドが同時に顔を見合わせた。


「……!」

ヤコブが軽く口を開き、呟くように言った。

「そうじゃった……シマたちは“深淵の森”育ちだったのう」


マリアも目を見開く。

「なるほど。そういうことか。どんな辺境でも生き抜いてきた、ってことね……」


「人が見放した土地を、居場所に変えてしまう力があるということか」とオズワルド。


シマはそれを聞いて、かすかに笑った。

そして仲間たちの顔を順に見てから、続けた。

「居場所ってのは、自分で決めるもんだ。過酷だろうが何だろうが、俺たちが居る場所が“拠点”になる。……それが、シャイン傭兵団だ」


その場にいた者たちの誰もが、その言葉に異を唱えることはなかった。


シマが話を終えると、ジトーがすかさず補足を入れた。

「……で、そのチョウコ村を正式に手に入れるには、ハドラマウト自治区を治めてる区長――名前はワイルジ・モコノ――そいつか、もしくは自治区内の議員5人。計6人のうち、4人の承認を得られれば、認められる仕組みになってる」


「つまり、根回しがいるってことか」

クリフが腕を組む。


「そういうことだ。だが、エイラにはダミアンたちとの交渉がまだある。動かせねえだろ。俺もやることがある」


「オスカーには新しい弓を作ってもらわないと」

エイラが淡々と告げる。


「宿の手配もしなきゃなんねえ」

ジトーが言う。


「そうね……灰の爪傭兵団120名、氷の刃傭兵団40名、それに家族たちも加えると……200名以上になるわね」とミーナが計算しながら頷いた。


「2週間後よね? 集合予定」

ケイトが念押しするように言うと、場の空気は次第に緊張へと傾いていった。


――そこへ、朗々と響く声が空気を弾いた。


「ちょっと待ったあーッ!!」

その声の主、フレッドが両手を広げて一歩前に出る。

「交渉事が得意な人間を忘れちゃいねえか?」


「エイラにシマ…他に誰がいるんだい?」

他に誰かいたっけ?と首を傾げるロイド。


「……ヤダなあ〜ロイド君、目の前にいるじゃねえか!」

ロイドが無言で眉をひそめる横で、フレッドは自信満々に胸を叩いた。


「いや、お前のは交渉って言わねえだろ……」

ザックが静かにツッコミを入れる。


シマが呟いた。

「……いきさつは知らねえが、一応“結果”は出してんだよなぁ」


「そう、それ! 結果が! 大事なんだよ!」

フレッドが指を天に突き上げるように叫ぶ。


ジトーが真面目な顔で問いかける。

「……で、区長と議員から“承認”を得られるか?」


「誰に言ってんだよ、俺に任せとけって! エイラ直伝の交渉術を見せてやるよ!」


その瞬間、家族たちの視線が一斉にエイラに向いた。

淡々と、エイラが首を横に振る。

「教えた覚えは、ないわ」


間髪入れず、ザックがやれやれと肩をすくめた。

「こいつ、ただエイラが交渉してるのを聞いてただけだぞ」


「はっ、それでも! ちゃんと“吸収”するのができる男ってなもんさ!」

フレッドがにやりと笑いながら指を鳴らす。

堂々とした態度とは裏腹に、どこか憎めない軽さがあった。


「……まあ、フレッドのことだ。なんだかんだ言っても、やる時はやるからな」

クリフがぼそりと呟く。


「だろっ! クリフ、分かってるねぇ!」

フレッドが勢いよく指を差す。


シマは小さく笑って肩をすくめた。

「……よし。任せたぞ、フレッド。手段は選ばねえ、使えるもんは何でも使え」


その言葉に、フレッドが眩しいほどの笑顔で親指を立てた。

「シマ、最高の指令だぜ!」


――と、そのとき。背後から、またもや元気な声が飛ぶ。


「ちょっと待ったあ〜!」

振り返れば、ザックが立ち上がっていた。

口角を吊り上げ、面白そうにフレッドを指差す。

「フレッドにできて、俺にできねえはずがねぇ。手段は何でもいいんだよな?」


「ザック、それはお前……暴力一択だろ」

トーマスが肩をすくめて呟く。


「ザック、あくまで“最終的に”ってことだから」

オスカーがやんわりとたしなめる。


「それぐらい、わかってるって。口も動かすよ、まずはな」

ザックはニッと笑って返す。


シマはそのやりとりを無言で見守ったあと、小さく頷いた。

「――よし、フレッド、ザック、それと……ロイド、クリフ。お前ら4人で行ってこい」


名を呼ばれたロイドとクリフは、冷静に頷いた。

「了解」

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