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光を求めて  作者: kotupon


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協力関係を!

戦の終結から数日――。

シマたちシャイン傭兵団は、ギザ自治区へ向かっていた。

負傷者も多く、無理な行軍は避け、馬車の速度も控えめに、ゆったりとした足取りだった。


一方、ギャラガ率いる灰の爪傭兵団は、すぐにシャイン傭兵団に合流するわけではなかった。

団員の中には、妻や子を持つ者が少なくなかったからだ。


「一端、首都ゼルヴァリアに戻らせてもらう。家族を放っておくわけにはいかねぇ」

ギャラガはシマに申し出た。

彼自身も、家庭を持つ身だった。

無骨な外見からは想像しがたいが、愛妻家だという噂もある。


また、ユキヒョウたち氷の刃傭兵団も同様だった。

こちらは若い団員が中心で、妻帯者こそいないものの、兄弟姉妹を抱える者たちが少なからずいた。


「兄弟を迎えに行きたい」

申し出る団員たちの声に、ユキヒョウは静かに頷き、同じく首都ゼルヴァリアへ戻ることを選んだ。


「再合流は、二週間後だ」

ギザ自治区にある鉄の掟傭兵団本部――そこが集合場所と決まった。

シマはその約束を交わすと、少しだけ肩の荷が下りたような気がした。

だが同時に、これから本格的に始まる新しい傭兵団の運営を思い、内心で大きなため息をついていた。


これから待ち受ける未来に、シマたちはゆっくりと、それでも確かな歩みで向かっていった。



ギザ自治区、エイト商会本部――。

その二階にある重厚な扉を抜けた先、陽光を遮る厚手のカーテンと、磨き込まれた木製の机が並ぶ商談室。

その一室に、今、久方ぶりの再会を果たした者たちが静かに集まっていた。


ダミアン、エイト商会会頭は、目の前のアレンの無事な姿を見て、心底ほっとしたように深く息をついた。

だが次の瞬間、苦しげに眉を寄せ、

「……済まねえ、俺の調査不足だ」

と、低く呟いた。


行き道の段階では、ダミアンの調査に一切の漏れはなかった。

安全だと判断して当然の状況だった。

誰にも、あんな大規模な軍事衝突が起こるなど予想できるはずもない。


「いいさ、ダミアン。無事に戻ってこれた。それで十分だろう?」

アレンは優しく微笑んだが、まだ左肩にはしっかりと包帯が巻かれていた。

無理に明るく振る舞うその声には、かすかに痛みが滲んでいる。


「……無事、とは言いきれねえけどな」

と、横で腕を組んでいたディープがぽつりと呟く。

誰も彼に反論しなかった。あまりに当然すぎたからだ。


商談室には、静かな緊張と安堵が入り混じった空気が流れていた。

椅子に腰かけるのはエイト商会のダミアン、アレン、ディープ。

対する側には、鉄の掟傭兵団から団長グーリス、副団長ライアン、

そしてシャイン傭兵団からは団長シマ、副団長ジトー、シャイン商会会頭エイラが並ぶ。


誰もが、それぞれの想いを胸に抱えながら、次の言葉を待っていた。

商談室に重い沈黙が流れる中、シマが静かに口を開いた。

場にいる全員の視線が自然と彼に集まる。


「……まずは、口頭での報告をさせてもらうぞ」

シマの声は静かだったが、確かな重みがあった。


「――今回の件、途中で軍事衝突に巻き込まれた。これからは最前線は都市ヴァンになる。俺たちが運んだ支援物資については、無事、現地に届けることができた」

シマは端的に、しかし一つひとつ確実に言葉を選びながら伝えていく。


「その点に関しては問題ない。後に、ゼルヴァリア軍閥国から金も支払われるはずだ。……多少、遅れるかもしれないがな」と言うライアン。


冗談めかすでもなく、乾いた現実感だけが漂う。

ゼルヴァリア軍閥国の混乱を考えれば、それも致し方ないと、誰もが思った。


一呼吸置き、シマは、わずかに表情を引き締めた。

「……これは、俺個人の私見だが――」


その声音には、これまでとは違う鋭さがあった。

「このままじゃ、ゼルヴァリア軍閥国は……危うい」


商談室に、重苦しい空気が落ちる。

ダミアンも、アレンも、グーリスも、誰ひとり軽々しく口を開こうとはしなかった。

ただシマの言葉の続きに耳を澄ませ、真剣な眼差しを向けていた。


沈黙を破るように、シマがぽつりと続けた。

「今のゼルヴァリアの戦い方じゃ、いずれ飲み込まれる」


低く、しかし確信に満ちたその声に、商談室の空気がまた一段と重くなる。

グーリス、ライアン、ジトー、エイラも、静かに、しかし力強く頷いた。


「個人の武勇だけじゃ、もうどうしようもなくなるってことだ」

ライアンが言葉を継ぎ、壁にもたれて腕を組む。

彼の視線は、遠く、これから訪れる混沌を見据えているようだった。


ダミアンが椅子に深く背を預け、ため息混じりに口を開いた。


「……俺たちは商人だ」

肩をすくめ、乾いた笑みを浮かべる。

「相手がダグザ連合国であれ、ゼルヴァリア軍閥国であれ、儲けさせてくれりゃあどっちでも構わねぇ」


その言葉に、アレンもディープも無言で頷く。

彼らにとっては、国の看板など取引の対象にすぎない。


グーリスたちも特に否定はしなかった。

現実を知る者たち同士、わざわざ言葉にする必要もない。


ふと、ダミアンが少し声を落として続けた。

「……お前らが戦った相手はスレイニ族だ」


シマたちの顔を順に見やりながら、重々しく言葉を紡ぐ。


「俺が集めた情報だとあいつら――荒れ地を治め、交易を安定させ、民が餓えねえように分配制度まで整えてるってな……」

ダミアンは唇の端をわずかに上げた。

「商人としてはよ、そっちのほうがありがてえ」


その本音を隠そうともせず言い放つと、シマも苦笑しながらうなずいた。

「――そうだな。商機があった方がいい」


「そういうこった」

ダミアンも、軽く笑って返した。


現実主義者たちの言葉が交わされる中、商談室には妙な一体感が満ちていた。

国家の看板でも、誇りでもない――生き延びるため、利益を得るため、現実を見据えた者たちの、静かな共感がそこにはあった。


「っと、忘れねえうちに渡しとくぜ」

ダミアンが立ち上がり、腰の袋からずしりと重みのある布袋を取り出して、机の上にドンと置いた。

袋の口はしっかり縛られているが、かすかに金属の触れ合う音が漏れる。


シマは無言でそれを受け取ると、隣に座るエイラに手渡した。


エイラは受け取った袋を軽やかに手の中で転がし、器用な指先で素早く紐を解く。

中身をざっと確認し、取り出すことなく金貨の重さと数を確かめると、にっこりと微笑みながら言った。

「……確かに、100金貨、受け取りましたわ」


その手際の良さに、ダミアンが感心したように眉を上げる。


「……随分と手慣れた手つきだな」

からかうような口調だったが、その目は少しだけ驚いていた。


エイラはそんな視線を涼やかに受け止めると、礼儀正しく頭を下げた。

「ご紹介が遅れて申し訳ございません。シャイン傭兵団の一員にして、シャイン商会の会頭、エイラと申します」


堂々たる名乗りに、商談室にいた者たちもわずかに空気が変わる。

ダミアンは短く鼻を鳴らし、口の端を歪めて笑った。

「……商売敵になるってわけか」


「ええ」

エイラは涼やかな笑みを絶やさず、まるで当然のように答えた。


その堂々とした態度に、商談室の空気がピリリと引き締まる。

シマとジトーは顔を見合わせ、肩をすくめながらもどこか楽しそうに苦笑いを浮かべていた。


そんな中で、鉄の掟傭兵団団長グーリスが、少しだけ気まずそうに口を開いた。

「……それはそれとして、契約のことなんだがなあ……」


ダミアンが視線を向けると、グーリスは真剣な顔で続ける。

「半年後、契約が切れたら、再度の延長はしねえ。理由は――俺たち鉄の掟傭兵団は、シャイン傭兵団に加入するからだ」


室内に一瞬、沈黙が落ちた。


「……? お前らが?!」

ダミアンが眉をひそめ、信じられないものを見るような目をする。


続けざまに、訝しむように問いかけた。

「逆じゃねえのか? いやいや……」


戸惑いながら、ダミアンはちらりとシマに視線を送り、深く苦い顔をした。

「確かに、シマは……生意気で、可愛げもなく、隙を見せたら足元をすくわれるし、嫌な奴で……」

言葉を並べるうちに、ダミアンの顔つきはますます渋くなる。


それを横で聞いていたジトーが、呆れたように苦笑しながら小声でつぶやいた。

「お前、何気にディスられてるな」


ぽそりとしたその一言に、エイラがくすっと笑いを漏らし、グーリスとライアンも肩を震わせる。

室内に漂っていた重苦しい空気が、わずかに和らいだ。


シマはというと、腕を組みながら面倒くさそうに目を細め、「わかって言ってるからタチが悪い」とでも言いたげな顔でダミアンを見やった。


ダミアンは気にする様子もなく、さらに言葉を継ぐ。

その姿は、あまりにも自然体で、むしろ憎めない男にすら見えた。


「……けど、有能な奴ってのは、俺だって知ってるさ。でもよ……」

ダミアンは、半ば呆れたような表情で、シマたちを見た。

「お前ら……そんなに強えのか?」


その問いに、グーリスもライアンも、力強い目でダミアンを見返した。

言葉にせずとも、それが何よりの答えだった。


「それだけじゃない」

静かに、しかしはっきりとした声でアレンが言った。

「灰の爪傭兵団120名、氷の刃傭兵団40名も加わる」


その一言に、ダミアンもディープも、まるで時間が止まったかのように口をあんぐりと開けたまま固まった。

商談室に、一瞬の静寂が満ちる。誰もが言葉を失い、重い沈黙だけが支配した。


ようやくダミアンが、低く呟いた。

「……お前、灰の爪傭兵団、氷の刃傭兵団って言ったらゼルヴァリアでも名の通った傭兵団じゃねえか」

信じがたいものを見るような目でダミアンがアレンを見る。

だがアレンは真剣な顔のまま。


「そこへさらに……ノルダラン連邦共和国でも屈指の傭兵団、鉄の掟傭兵団が加わる…?」

ディープが声を漏らし、椅子の背もたれに力なくもたれかかった。


ダミアンはぼうっとした目で、目の前の面々を見つめながら、頭の中で必死にそろばんを弾いていた。

(……時代の転換点……? いや、時代が動く……!)

商機を考えるなら、絶対に繋がっておかなくてはならない。


すでにアレンはそれを見越して考えていたのだろう。

「君たちとは末永くお付き合い願いたいと思ってる。護衛の依頼や商売での協力関係を、正式に契約しないか」


その言葉に、ダミアンは力強く頷いた。

ダミアンは心の中で拳を握りしめた。

(ナイスだ、アレン……!)


何が何でも――シマたちとの関係を、絶対に維持しなければならないと、固く心に誓いながら。

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