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光を求めて  作者: kotupon


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どうしてこうなった?!

大広場の一角、テント群の中。

夜気に冷やされた空気を割って、重い足音が響いた。


揃いのマントを翻しながら、灰の爪傭兵団からは団長ギャラガと副団長ダグ。

そして氷の刃傭兵団からは団長ユキヒョウと副団長デシンスが姿を現した。


ギャラガは、相変わらずのブラウンの長髪を乱暴にかき上げ、豪放磊落な笑みを浮かべている。

隣のダグは寡黙だが、しっかりとギャラガの歩調に合わせていた。


ユキヒョウは白銀の髪を風に揺らし、どこか掴みどころのない微笑を湛えていた。

デシンスはその後ろで、まるで影のように付き従っている。


焚き火の周りにいた一同が振り返る。


鉄の掟傭兵団団長グーリスが、手を振って声をあげた。

「おう、久しぶりじゃねえか!」


「はははっ!」

ギャラガが豪快に笑いながら、グーリスを見て指差す。

「なんだお前、ボロボロじゃねえか!」


鎧の下に巻いた包帯、裂けた袖口。

見るからに疲弊した姿のグーリスに、からかうように言う。


グーリスはふてくされたように鼻を鳴らし

「ぬかせ。お前らの国のために戦ってやったんだ、ありがたく思え」と返した。


ギャラガは腹を抱えて笑った。

「ハハハ! そいつぁ、ありがとよ!」


豪放な笑い声が夜空に響く。


そのやり取りを見ていたライアンが、眉をひそめて尋ねる。

「で、何しに来たんだ?」


すると、前に出たのは氷の刃傭兵団団長――ユキヒョウだった。

白銀の髪を軽く揺らし、どこか子供のような、無邪気な笑みを浮かべて。


「僕たち――」

ユキヒョウはわざとらしく声を伸ばして、言った。

「シャイン傭兵団に入れてもらおうと思ってね」


一瞬、場が静まり返った。


マリアは思わず目を見張った。

ユキヒョウ――異端、その名を聞くだけで誰もが背筋を凍らせる存在。

人間の枠を超え、人外の領域に片足を突っ込んでいるとさえ言われる男だ。


そして、何より――三年前、ゼルヴァリア国内で最も格式高いとされる“闘技会”において、舞台に立った五人のうちの一人。

名実ともに、選ばれた戦士だった。


隣に立つギャラガもまた、知らぬ者はいない槍の名手だ。

その長身から繰り出される一撃は、鋼をも易々と貫くと噂される。

二人とも、ただの傭兵ではない。


ゼルヴァリア国内でも指折りの猛者たちだ――その彼らが、いまシャイン傭兵団に加わろうとしている。

マリアは胸の奥でぞくりと震えを感じた。


火の粉が、ひとつ、ふたつ、夜空に弾ける。

シマたちが無言でユキヒョウを見た。

ギャラガは腕を組んで、悪びれる様子もなくニヤリと笑っている。

ダグも、デシンスも、無言だが、どこか当然のような顔をしていた。


静かな夜気を切ってユキヒョウが声を発した。

その表情は、やはりどこか子供のような無邪気さをたたえている。

「ちゃんと話し合ったよ? 団員たちも納得してる。もちろん、僕もデシンスも」

傍らのデシンスも無言でうなずく。


その様子に、シャイン傭兵団の面々は静かに眉をひそめた。


続けてギャラガが口を開いた。

重々しく、しかし笑みを絶やさず。

「俺たちもだ……今日の戦いで、いやというほどわかったさ。これからの時代は――個じゃなく集だってな」


横で腕組みをしていたダグが、ぽつりと言った。

「あのスリーマンセル?あれはいいな」


「おう。おかげで――」

ギャラガは火を見つめ、言葉を継いだ。

「うちの団から、死んだ奴はいねえ。団創設以来、初めてのことだ」


ダグが静かにうなずく。

小さなことではない。彼ら灰の爪傭兵団にとっては、誇るべき成果だった。


しかしザックが、不思議そうに眉をひそめて尋ねた。

「……それが何で、俺たちのところに入りてえんだ?」


それに対し、ギャラガはニヤリと笑い、歯を見せて即答した。

「そんなの決まってんだろ。お前たちのとこに入れば、グッと死ぬ確率は減るからさ!」


あまりにあけすけな物言いに、鉄の掟傭兵団の連中すら、ぽかんと口を開けた。


続けざまに、ユキヒョウがさらりと付け加える。

「僕たちのところも、同じようなものだね」


そして、やや声を落とし、まるで秘密を打ち明けるように囁く。

「それに――ゼルヴァリアでは、肩身が狭いというか、居心地が悪いって理由もあるね」

ユキヒョウは肩をすくめ、寂しげな笑みを浮かべた。


マリアが小さくつぶやく。

「……お前たちは異端と呼ばれているしな」

焚き火の灯りに照らされたマリアの顔は、どこか遠い過去を思い出しているようだった。


言葉を交わし終えたところで、場に沈黙が落ちた。

皆の視線が自然とシマへと向かう。団長として、最後の決断を求めているのだ。


「ん? 要らなくね?」


その一言に、ギャラガとユキヒョウが声を揃えて噴き上がる。

「なんでだよ!」

「この僕が! 氷の刃傭兵団が入るって言ってるんだよ!」


だが、シマは肩をすくめるだけで取り合わない。

「だって……なあ?」

と周囲を振り返る。シャイン傭兵団の面々は、皆、薄く笑っている。


「コイツら、俺たちについてこれねえしな」とフレッド。

「足手まといだよな」とザック。

「お前ら、はっきり言うなよ……」

トーマスが苦笑交じりに突っ込むが、否定はしない。


ユキヒョウとギャラガは言葉を失った。

ぐっ……と喉を詰まらせ、唇を噛みしめる。

悔しい。だが、今日一日で痛感したのだ。

シャイン傭兵団の、次元の違う戦闘力を。


「お前らが普通じゃねえんだよ!」

ギャラガが叫ぶように言い放つと、それを聞いた鉄の掟傭兵団の面々も、「それな」「うんうん」と、何度もうなずいていた。


圧倒的な力を前に、誰も反論などできなかった。


「え? え……?」

一人、マリアだけが困惑していた。

ユキヒョウといえば異端、ギャラガといえば槍の名手。


そのふたりが「ついて行けない」と言われ、何も言い返せない姿に、目をぱちくりさせる。

彼らが、彼らほどの者たちが、だ。


理解が追いつかず、ただ呆然とシャイン傭兵団の面々を見つめるマリア。

(いったい……サーシャたち、どれだけ普通じゃないの?)


ふう、と一息ついたシマが皆を見回しながら言った。

「お前ら、結構な人数だよな」


問いかけに、ギャラガが応じた。

「灰の爪傭兵団、百二十名」


続いてユキヒョウが微笑みながら続けた。

「氷の刃傭兵団、四十名だよ」


「金はあるか?」

シマが問うと、ギャラガが胸を叩く。

「その辺はしっかり管理してる。抜かりはねえさ」


「普通はそうだよなぁ~」

シマの言葉に、シャイン傭兵団の面々が一斉にマリアにジト目を向ける。

「な、何で私を見るんだ!」

顔を赤くしてマリアが叫んだ。


そんな空気を和らげるように、ヤコブがゆったりと笑いながら言った。

「のう、シマ。これも何かの縁じゃろう。苦労もあろうが、その分できることも増えるのではないかの」


その言葉に、ユキヒョウ、デシンス、ギャラガ、ダグの四人は「爺さんいいこと言った!」という顔でうんうんと頷いた。


シマは少し考え、そして肩をすくめる。

「…わかったよ。その代わり、指示にはなるべく従ってくれよ」


「おう!ちゃんと言い聞かせるぜ!」

ギャラガが快活に答えた。


ユキヒョウもにっこりと微笑み、

「フフッ。これで僕たちは仲間だね」

と柔らかく言った。


「俺たちも加わろうじゃねえか」

不意に口を開いたのは、鉄の掟傭兵団の団長グーリスだった。


「団長?!」

驚きの声をあげたのは、一人の団員だ。


ライアンはにやりと笑い言う。

「俺は大賛成だぜ。……考えてもみろ。傭兵ってのは依頼次第で、いつ敵に回るか分からねえ。こんな連中相手にまともに戦えると思うか?」


その言葉に、場の空気が一変した。

鉄の掟傭兵団の団員たちの背筋に、寒気が走る。

「……無理無理!」

「串刺しにされちまう!」

「身体中が穴だらけになるわ!」


次々と飛び出す弱音に、エイラが肩をすくめた。

「……酷い言われようね、私たち」


だがフレッドが当然だと言わんばかりに言い放った。

「事実だからしゃーねえだろ」


グーリスも苦笑しながら、しかし真剣な眼差しで言葉を続けた。

「ただし――」

彼は隣に立つライアンを見た。


ライアンもふっと肩を竦め、「まだエイト商会との契約が、半年ぐれえ残ってる」と答えた。

その視線の先、アレンも無言で頷き、契約の存在を肯定した。


これにより、鉄の掟傭兵団もまた、いずれはシマたちと共に歩む未来を見据え始めたのだった。

ヴァンの大広場に、新たな結束の気配が静かに広がっていった。



どうしてこうなった?

シマは心の底からそう思っていた。


元々の目的は、アレンと鉄の掟傭兵団の安否確認だった。

生存していれば連れ帰る、それだけのはずだった。

それがなぜか――成り行きで戦争に巻き込まれ、手伝う羽目になり、気づけば最前線に立っていた。

終わってみれば、マリアとオズワルドという、見捨てるわけにもいかない"お荷物"の面倒まで見ることに。


さらにだ。

灰の爪傭兵団120名、氷の刃傭兵団40名――合わせて160名が、シャイン傭兵団に加わると言い出した。

しかも半年後には、鉄の掟傭兵団100名も合流する予定だという。

その数、合計で260名。

かつて十数人で家族のようにまとまっていた自分たちが、今や一大勢力に膨れ上がろうとしていた。


(本当に……どうしてこうなった!?)


シマは静かに天を仰ぎ、頭を抱えるしかなかった。

周囲では無邪気に笑い合う仲間たちの声が聞こえる。

だが、シマの胸には、重すぎる現実だけがずっしりとのしかかっていた。



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