表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光を求めて  作者: kotupon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

135/448

バラす?!

夕刻のアパパ宿。

一階の酒場は、今日も地元の客や旅人たちで賑わい、喧騒と笑い声が溢れていた。

その一角、暖かいランプの光の下、ひときわ目立つ大所帯――シャイン傭兵団が大きなテーブルを囲んで食事をとっていた。

豪快な肉料理、焼きたてのパン、香草のきいた煮込み、木製のジョッキには泡立つビールや果実酒。

家族たちの笑い声が絶えず、誰もが肩の力を抜いてリラックスしているのがわかる。


「……何とか問題を起こさずに済んだな」

ジョッキを傾けながら、トーマスがぽつりと呟いた。


「ブランゲル侯爵が話の分かる人でよかったわ。」

ホッとした表情で言うミーナ。


「乗りきった……と言っていいのかしら?」

ノエルが小首をかしげ、遠くを見つめるようにして言う。


「終わらんじゃろ」

そう断言するのはヤコブだ。

赤ワインの入ったグラスを指先でくるくると回しながら、神妙な顔つき。


「そうね、味方に引き込むようにするでしょうね。間違いなく」

エイラがさらりと言うと、リズもその意見に頷いた。

「最低でも、何らかの形で繋がりを持っておきたいはずよ。」


「……地位、権力、金か女じゃな」

ヤコブが呟くように言うと――


「女?! いいじゃねえか!」

「最高だな!」

ザックとフレッドが同時に声をあげた。乾杯のようにジョッキを合わせて、ぐいっと酒をあおる。


「……すぐに引っかかるわね」

ケイトが呆れたように眉を寄せる。


「間違いなくね」

メグがくすくす笑う。


「地位や権力ってのも、魅力的には見えるが……」

ジトーが片肘をテーブルにつきながら低く言った。

「……そうなると、結局は“下につく”って話になるだろ?」


「それじゃ俺たちらしくねぇよな」

クリフが口元をゆるめながら続ける。

「やりたいように――」


「自由に生きる!」

サーシャが言葉を被せて、笑顔で両手を広げた。


「シマもはっきり言ったしね。ブランゲル侯爵の下にはつかないって」

ロイドが穏やかに言うと、みんなが自然と頷いた。


「……となるとやっぱり、お金か女性をあてがってくるってことだね」

冷静にオスカーが分析する。


「貰えるもんは貰っときゃいいじゃねえか」

ザックが笑いながら言った。


「あって困るもんでもねえだろ」

フレッドも続ける。


「そんな簡単に割り切れるものでもないでしょう」

サーシャが真面目な顔をして言う。


「“只より高い物はない”ともいうしね」

エイラが皮肉めいた笑みを浮かべる。


「女が足枷になる場合もあるじゃろう」

ヤコブの言葉に、一瞬、静寂が落ちた。


「……足枷になるか?」

フレッドが真顔で聞き返す。


「ならねえだろ」

ザックが即答。


皆の視線が一斉にふたりに集まる。


「ど、どういうこと?」

ノエルが不思議そうに首をかしげる。


フレッドは肩をすくめ、あっけらかんと笑った。

「俺はよ、いろんな女とヤリてぇしな」


「俺もモテてぇけど、一人の女に縛られるのはごめんだな」

ザックも同意するように笑いながら言った。


「……あんたたちってば最低ね」

サーシャが呆れながらも、どこか苦笑い混じりにそう言うと、テーブル全体が一気に爆笑に包まれた。


「おまえらが一番自由に生きてんじゃねえか…?」

ジトーがしみじみと漏らす。


「…それでいいのかもね。それが私たちらしいんだから」

リズがワインを飲み干しながら優しく微笑む。


その言葉に、全員の笑顔がふと落ち着きを見せ、誰からともなくジョッキが上がった。

「また笑えるように――」

「――乾杯!」


グラスが鳴り、夜のアパパ宿にまた一つ、大きな笑い声が響いた。


酒場の賑わいが一段落し、料理の皿が減ってきた頃、トーマスがふと苦笑しながら尋ねた。

「で、お前ら……今夜も娼館通いか?」


「ああ、当然よ!」

「今日もハッスルしちゃうぜ!」

ザックとフレッドが即答し、声高らかにジョッキを掲げた。


「……お金は出さないわよ。昨日は特別だからね。いいわね?」

ぴしゃりと言い放ったのはエイラ。ビシッとシマを指さしながら。


「そうそう。シマはなんだかんだで甘いんだから」

サーシャが頷きつつ呆れ顔を見せる。


「ほんと、ねえ」

ミーナも肩をすくめながら同調した。


そんな視線を浴びながらも、フレッドはどこ吹く風。

懐から布の巾着袋を取り出し、テーブルに「チャリン」と音を立てて10枚の金貨を取り出した。


「シマ、とっとけ」

上から目線の口調で金貨を差し出すフレッド。


その場に微妙な空気が流れ、一瞬、家族たちの動きが止まる。


「……お前ら、その金、どうした?」

シマが低い声で問いかける。

口調は静かだが、その奥にある鋭さに誰もが察した。


「おう、実はよ……おっと、やべえやべえ!」

フレッドが慌てたように手を振る。

「その手には引っかからねえぞ!」


「…さすがシマだぜ。口がうめえ」

ザックが横から感心したように言う。


「いやいや、お前ら何を言ってんだ?」

クリフが首をひねる。


「地下格闘技での賭け試合じゃよ」

ヤコブがさらりとバラす。


「おい、じいさん!!」

ザックが目をむいた。


「それは言うなって言ったじゃねえか!……あれ? 言ってねえか?」

フレッドがぽかんとした顔で首を傾げる。


「別にやましいことはしとらんじゃろう。己の力で稼いだ金じゃ」

ヤコブがワインを一口飲みながら続けた。

「……多少、後ろ暗いところはあるかもしれんがの」


「それもそうだな」

ザックが納得顔で頷く。


「そういうわけだ。ありがたくとっとけ」

フレッドが再度、金貨を差し出す。


シマはため息をひとつついた。


「……誰かから無理やり奪ってきたのかと思ったよ」

ロイドがぽつりと言う。


「僕は……強盗でもしてきたのかと」

オスカーが真顔で口を挟む。


「この二人じゃ、やりかねないわよね」

メグが眉をひそめる。


「うんうん」

周囲の仲間たちも口々に同意し、頷いた。


「……俺たちって……」

ザックが呆然とした顔で周囲を見る。


「気のせいだろ」

フレッドがケロッとした顔で言い放ち、仲間たちはどっと笑いに包まれた。


「ま、稼ぎ方はともかく……自分たちで稼いだ金で行くなら、好きにしなよ」

サーシャが呆れたように言いつつ、少し笑ってグラスを傾ける。


「でもね、トラブル起こしたらその場でシャイン傭兵団から追放だから。覚悟しといて?」

リズがニコニコと笑顔のまま、なぜかナイフを磨きながら告げた。


「ひぃっ、冗談じゃねえぞ……」

ザックとフレッドが同時に引きつった笑いを浮かべた。


「でもよ、あの場所は最高だよなぁ!」

「あんな雑魚、相手にして金がもらえるんだからよ!」

またもや誇らしげに自慢話が始まり、周囲はふたたび賑やかな空気に包まれていく。


「……まあ、無事で帰ってきてくれるなら、それでいいさ」

シマが苦笑いを浮かべながら呟いたその言葉に、仲間たちは一瞬、笑顔を交わす。


夜はまだ深まらず。

笑いとざわめきに包まれていたアパパ宿の一階。

いつものように賑やかで自由な空気が漂っていたその場で、ふと空気が変わった。


「……この後、このおいぼれに、少し時間をくれんじゃろうか」

ふだんは飄々としているヤコブが、珍しく真剣な面持ちで口を開いた。


「……え?」

ザックが飲みかけた酒を思わず止め、目を丸くする。

「な、なんだよ、じいさん……」


「さすがに今夜は、娼館には……行けそうもねぇな」

フレッドも眉をひそめ、椅子に深く座り直した。


「重要な話なんですね」

ロイドが静かに言う。


「ああ……おぬしらに関することじゃ」

ヤコブの声は低く、けれどはっきりと響いた。


その空気に、傭兵団の面々が次第に表情を引き締めていく。

ふざけるのをやめ、食器の音も自然と消えていった。


シマが立ち上がり、軽くうなずく。

「……じゃあ、上で聞こう。ここじゃ落ち着かない」


こうして一同は二階へと移動した。

アパパ宿の二階奥にある、シャイン傭兵団が滞在中に使っている共用の談話スペース。

粗末な木造のテーブルと椅子が並ぶだけの簡素な空間だが、傭兵団の家族たちにとっては、誰にも邪魔されない大切な場だった。


床を軋ませながら全員が席に着き、ざわめきのない静けさのなか、ヤコブが立ったまま一同を見渡す。


蝋燭の炎がゆらめき、古びた天井に影を作っている。


「さっきまでの喧騒が嘘みてぇだな」

クリフがぽつりと呟いた。


「それだけ、空気が変わったってことよ」

ノエルが低く応える。


「ヤコブさん、何があったの?」

エイラが口火を切る。


ヤコブは一呼吸おいて口を開いた。

「……今日、ブランゲル侯爵の前で見せた、力。その一端じゃが……」


その声に、全員の表情が引き締まった。

誰もが口を閉ざし、続きを待った。

ヤコブの目は、どこか遠くを見ているようで、それでいて確かに、目の前の“家族たち”を捉えていた。


風が、窓の隙間をすり抜けて鳴った。

シャイン傭兵団の夜が、静かに、しかし確実に新たな局面を迎えようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ