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光を求めて  作者: kotupon


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城塞都市カシウムへ向けて

朝焼けの中、四台の馬車が連なり、ゆっくりと城塞都市カシウムへ向かっていた。


最前列の一台目の馬車には、シマ、サーシャ、エイラが乗っていた。

馬の手綱を握るのはシマ。

隣にサーシャとエイラが座り、時折揺れる馬車の中で静かに話をしていた。


「……どうすっかなあ……。」


シマがぼそりと呟くと、サーシャとエイラが同時に小さく息をついた。


「……悩みどころね。」


「……困ったものね。」

二人の声には、明らかに同じ憂鬱さが滲んでいた。


何のことかというと、ザックとフレッドのこと である。


城塞都市カシウムに着いたら、彼らはイーサン・デル・ブランゲル侯爵に会うことになっている。

その侯爵は、都市を治める高貴な人物でもある。


問題は、ザックとフレッドの存在だった。

あの二人は、何かをしでかす可能性がある――いや、非常に高い。

侯爵の前で、軽口を叩くかもしれない。

いや、それどころか、変な勝負を挑んだり、余計なことを言って雰囲気を悪くしたりする可能性もある。


「相手は侯爵だぞ……かといって、あいつらだけ除け者にするってわけにもいかねえし……。」

シマはため息をつきながら、手綱を少し引いた。


「そうよねえ……。」

サーシャも遠い目をしている。

「連れて行かないって言ったら拗ねる、ごねる、いじける、文句を言う……うん、もう目に浮かぶわ。」


「ほっといたら何をしでかすかわからないわ。」

エイラも腕を組みながら、真剣な表情で続ける。


「そうなのよねえ……。」

サーシャとエイラがそろって嘆息する。


そして、シマは観念したように、静かに言った。

「……どの道、連れていくしかねえか。」


問題児ではあるが、彼らも家族だった。


「問題児ではあるけど、家族だしね。」

サーシャが笑いながら言う。


「一蓮托生よ。」

エイラも肩をすくめながら、そう言った。


三人とも、すでに気が重くなっていたが、避けられないことだった。


四台の馬車は、それぞれの役割を持って進んでいた。

一台目(先頭):シマ、サーシャ、エイラ

二台目:ジトー、ミーナ、オスカー、メグ

三台目:ロイド、リズ、トーマス、ノエル

四台目(最後尾):クリフ、ケイト、ザック、フレッド



窓の外を眺めながら、ジトーがふと思ったことを口にした。

「……だけどよ、お前の頭の中身はどうなってんだ?」


いきなりの言葉に、オスカーは軽く瞬きをする。

「家のこと?」


「そう、それだ。」


「私も興味があるわ。」

メグが身を乗り出してオスカーの顔を覗き込む。


「本当、不思議よね。」

ミーナも頷く。


オスカーは周囲から『物作りの才能がある』と言われているが、彼自身はそれを当たり前のことだと思っているふしがあった。


「うーん……なんて言えばいいんだろう……。」

オスカーは少し考え込むと、指先をくるくると回しながら言葉を探した。

「頭の中に、浮かび上がってくる感じ?」


「浮かび上がってくる?」

メグが不思議そうに首を傾げる。


「そう。例えば家を作る時、まずどんな形にするかが頭に浮かぶんだ。それを考えているうちに、必要な材料とか、大まかな寸法とかも見えてくる。」


「すぐにわかるの?」


「うん。まあ、なんとなくだけどね。」


「すごいわね……。」

ミーナが感心したように言う。

「じゃあ、弓を作る時はどうなの?」


オスカーは少し考え込むような顔をしたが、すぐに言葉を続けた。

「材質を見て、手に取ってみれば大体わかるかな。どれくらいの耐久性があって、しなりがあるのか、それに扱う人の体格や腕力を考慮して作っていくんだ。」


「技量もわかるのか?」

ジトーが興味深そうに尋ねた。


「構えればある程度はね。」


「じゃあ、シマや俺たちは……向いてねえか?」


ジトーが少し不安そうに尋ねると、オスカーはしばらく沈黙した。


そして、少し口の端を上げて、くすっと笑った。

「……フフッ……はっきり言うけど……弓の才能はないね。」


「ぐっ……。」

ジトーが苦い顔をする。


ミーナとメグもその言葉に思わず吹き出した。


「まあ、予想はしてたけど……。」

ミーナが肩をすくめる。


「お兄ちゃんたち、そんなにダメかしら?」


メグが笑いながら尋ねると、オスカーは少しだけ考え込んだ後、真剣な顔で答えた。


「弓って、ただ引いて撃つだけじゃなくて、力の加減や、狙う時の体のバランスが大事なんだ。ジトーやシマは、どっちかというと剣や斧の方が向いてる。弓のコツを教えたところで、多分、あまり上達しないと思う。」


「ちぇっ……。」

ジトーが悔しそうに舌打ちする。

「まあ、今さら弓を習う気はねえけどな。」


「ジトーが弓使いになったら、それこそ驚きよね。」

メグが笑いながら言う。


「想像できないわ。」

ミーナも頷いた。


ジトーは腕を組み、ふてくされたようにそっぽを向く。

「まあ、俺にはポールアックスがあるからな。」


「そうそう、ジトーにはその方が似合ってるわ。」

ミーナが励ますように言うと、ジトーは少し機嫌を直したようだった。


「オスカーって、弓だけじゃなくて色んな物を作れるのよね?」

メグが改めて尋ねる。


「うん。道具とか、簡単な家具ならすぐに作れるよ。」


「じゃあ、そのうち馬車も改良するのかしら?」

ミーナが興味深そうに言った。


「それはまだ考えてないけど……でも、いずれはやるかもね。」

オスカーはそう言って、馬車の前方を見つめた。

「とりあえず、今は目の前のことをこなすだけさ。」



三台目の御者席にはロイドとトーマスが座り、馬の手綱を握っている。

陽の光を浴びた彼らの横顔は真剣そのもので、道の状態を見極めながら、慎重に進んでいた。


馬車の中では、リズとノエルが向かい合って座っていた。


リズはノエルをじっと見つめると、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「ねえ、最初は痛くなかった?」


不意打ちの質問に、ノエルは一瞬驚いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

「あら、やっぱりわかる?」


「そりゃあわかるわよ。みんな気がついてるわよ…ザック以外は。」

リズは軽く肩をすくめた。

「で、どうだったの?」


ノエルは少しだけ頬を赤らめながら、小さく微笑む。

「ちょっとだけ痛かったわ。でも最初だけね。」


リズは腕を組み、満足げに頷いた。

「ふ~ん、怖くはなかった?」


「不安はあったけど、怖くはなかったわ。」

ノエルの表情は穏やかで、どこか幸せそうだった。


「そうよね。愛しい人と結ばれるんですもの。」

リズはにっこりと微笑んだ。


そのやり取りを聞いていたロイドは、手綱を握る手に余計な力が入っていた。

「……」


そして、トーマスはというと――

彼の顔は見事に赤く染まっていた。


ノエルとリズの会話にどう反応していいのかわからず、ただひたすら前を向いていた。


ノエルはそんなトーマスの様子を見て、くすっと笑った。

「ふふっ……いち早く大人になったわけね。」


「そ、そうだな……。」

トーマスはぎこちなく相槌を打つ。


「あなたたちも近いうちに大人の仲間入りよ。」

ノエルは優しく言った。

「私たちは今回、たまたまタイミングが良かっただけ。」


「……」

リズは少しだけ目を細めると、チラリとロイドを見た。

「私も別に焦っているわけじゃないのよ……。ただ、なかなか二人きりになることがねえ~……。」


そこで、リズは意地悪そうにロイドの名前を呼んだ。

「ロイド?」


「は、はい!?」

突然の指名に、ロイドは驚いて手綱を少し強く引いてしまった。馬が一瞬反応したが、すぐに落ち着く。


リズはその反応を見て、満足そうに笑った。

「フフフ……成り行きに任せましょうか。」


「そ、そうだね!」

ロイドは必死に平静を装うが、その声は少し裏返っていた。



最後尾にはクリフ、ケイト、ザック、フレッドが乗る四台目の馬車が控えていた。


しかし――

「……また、離されてるわよ。」

ケイトは呆れたように言いながら、前方を見た。すでに三台目の馬車が遠ざかりつつある。


手綱を握るクリフは首を傾げる。

「何でだろうなあ……?」


フレッドもザックも不思議そうに考え込んでいた。

特に乱暴に手綱を引いたわけでもないのに、いつの間にか遅れをとってしまう。

追いついたと思えば、またすぐに離されるのを繰り返しているのだ。


「愛情が足りないのよ。」

ケイトは腕を組みながら、ため息混じりに言った。


「愛情つってもなあ……馬に通じるのか?」

フレッドが馬をちらりと見ながら呟く。


「馬にわかるのか?」

ザックも疑問を投げかける。


「必要か?」

クリフは少し考え込むが、馬に愛情を注ぐという考え自体がピンとこないらしい。


ケイトは苛立ったように「もういいわ!」と言いながら手綱を奪うと、御者席へと座った。

「フウジン、ラベンダー、前に追いついて。」


すると、彼女の言葉に反応するように、馬たちはすぐさま速度を上げ、あっという間に三台目の馬車へ追いついた。

さらに、一定の間隔を保ちつつ、安定した走りを続ける。


「ほらね?この仔たち、ちゃんと言うことを聞くでしょう?」

ケイトは満足げに言いながら、手綱を握る手を優しく馬の首元に向けた。


フウジンもラベンダーも、彼女の声に安心するかのように、落ち着いて走り続けている。


その様子を見たザックが、少しばかり悔しそうに口を開いた。

「よし、今度こそ!」


そう言って手綱をケイトから受け取り、再び御者席へと座る。


しかし――「……止まった!?」


馬たちはピタリと足を止め、その場でじっとしてしまった。


「おいおい、止まるんじゃねえよ!」

ザックは焦って手綱を動かしてみるが、馬たちはびくともせず、まるで「お前の言うことは聞かない」と言わんばかりの態度を取っていた。

「くそっ、何で言うことを聞かねえんだよ!」


ザックが悪戦苦闘していると、フレッドが自信満々に声を上げた。

「ここは俺の出番だな!」


ザックと交代し、フレッドが手綱を握る。

「行くぞ、フウジン、ラベンダー!」


馬たちは動き出した……が――「……おい、そっちじゃねえ!!」

馬車は街道を外れ、草原へと突っ込んでいく。


「おい、馬鹿、そっちじゃねえって!」

フレッドが慌てて手綱を引くが、馬たちはまるで言うことを聞かず、自由気ままに草原を駆け出していた。


馬車が大きく揺れ、ザックとクリフ、ケイトが必死に荷台にしがみつく。

「キャア!」


「ぎゃあああ!揺れる揺れる揺れる!」


「くそっ、跳ねるな!俺は荷物じゃねえぞ!」


「フレッド!止めろ、馬鹿!」


「止めたいのはこっちだよ!」


しかし、馬たちはまるで楽しんでいるかのように、草原を駆け続ける。


「もう、見てられない!」

ケイトが叫び、フレッドの背後から腕を伸ばして、手綱を取り戻した。

「フウジン、ラベンダー、戻って!」


彼女の声が響いた瞬間、馬たちはピタリと進路を変え、街道へと戻っていく。

先ほどまでの暴走が嘘のように、落ち着いた走りを見せる。


ようやく安定した走りに戻ると、フレッド、ザック、クリフはぐったりと肩を落とした。


「……なんでケイトの言うことだけ聞くんだよ……。」


「納得いかねえ……。」


「やっぱ愛情か……?」


彼らは馬たちをちらりと見たが、フウジンもラベンダーも、まるで「当然でしょ?」と言わんばかりに誇らしげな表情をしていた。

こうして、四台目の馬車の御者は、ケイトが担当することとなったのだった。

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