家造り
時刻は夕飯時。リュカ村、トーマスの実家。
二度目の酒盛りともなれば、昨夜よりもさらに打ち解けた雰囲気になっていた。
シャイン傭兵団の面々と、トーマスの父親であるカウラス、そして兄のガンザスとダンドスたちが、大皿に盛られた肉料理やパンをつまみながら、エールを酌み交わしている。
「お前たちは……すごいな。」
エールを片手にガンザスがしみじみと呟く。
「まるで夢でも見ているようだ。」
「まったくだ。」
ダンドスも同意し、酒をあおった。
当然の反応だった。彼らが驚くのも無理はない。
シマたちはたった二日間で、大量の木材を伐採し、運搬し、家の裏庭に山のように積み上げたのだから。
飯時に帰るたびに、どんどんと増えていく木材を見て、カウラスたちはただただ口をあんぐりと開け、呆然としていたものだった。
昨夜の夕飯時には、カウラスたちとシャイン傭兵団の間にはまだ多少の遠慮があった。
しかし、そんなことを全く気にしない男が一人いた。
「よし、飲むぞ!食うぞ!」
ザックだった。
「トーマスの親父たちも飲むだろ!」
そして、さらに言葉を続ける。
「なんか言いづれえなあ……めんどくせえから親父でいいか!」
この発言には、一同が一瞬沈黙したものの――
「……ハハハ!」
カウラスが笑い、他の家族たちもつられて笑い出した。
こうして場の空気は一気に和らぎ、食事を共にし、杯を重ねていくうちに、自然と会話も弾んでいった。
「……あいつは、俺たちのことを恨んでいるだろうな。」
ふと、ダンドスが呟く。
「恨んでたな。」
ザックが、にべもなく即答した。
ダンドスは苦笑いし、ガンザスとカウラスも苦い表情を浮かべる。
「けど、それはもう終わったことだ。」
「いつまでも過去にとらわれるような男じゃねえ」
「あいつはそんな小っせえ男じゃねえしな」
ジトー、クリフ、フレッドが言う。
「真相も分かったし、事件も解決したしね。」
今度はロイドが、静かに言った。
「事件?」
カウラスが訝しげに尋ねる。
「そこは、トーマスが帰ってきたら本人から聞いてくれ。」
話を遮るようにフレッドが言う。
トーマスがこの場にいない以上、彼の口から語られるべき話だということを、皆も察したのだろう。
カウラスたちも、それ以上は詮索せず、静かにエールを飲み込んだ。
「……それより!」
沈みかけた空気を変えるように、フレッドがフライドポテトを手に取った。
「やっぱ、ウメエなあ!これとエールの組み合わせは最高だな!」
「ああ、まったくだ!」
ザックが豪快に頷く。
「おい、親父たちも食ってみろよ。」
カウラス、ガンザス、ダンドスが興味深げに手を伸ばし、揚げたてのフライドポテトを口に運ぶ。
「……なんだこれ、うまいな!」
「こんなうまい食い物があったのか?」
「ポテトチップスも食ってみろ!」
促されるまま、彼らはポテトチップスも口にした。
「……止まらねえ!」
「これは、酒のつまみにも最高だな!」
たちまち、カウラスたちはフライドポテトとポテトチップスの虜になった。
しかし、次の瞬間――「え?これ、元はジャガイモ……?」
ガンザスがポツリと呟く。
「そうだが?」
「いや、ジャガイモって……」
彼の言葉にカウラスとダンドスもギョッとする。
「確か、悪魔の実って言われてなかったか?」
「お前ら、よくそんなもん食ったな!?」
「俺たちも最初はそう思ってたんだけどな。」
笑ったのち説明するはエイラ。
「実は、ジャガイモは調理方法を間違えると毒があるんです。けれど、適切に処理すればとても栄養価が高く、美味しい食材になるんですよ。」
「な、なんだと……?」
「実際、こうして美味しく食べられるでしょう?」
カウラスたちは半信半疑のまま、もう一度ポテトチップスを手に取る。
カリッ――「……たしかに、美味い……!」
「これが悪魔の実だなんて……信じられねえ……。」
「お前ら、本当にすげえな……。」
ジャガイモに対する常識がひっくり返り、カウラスたちはただただ驚くばかりだった。
こうして、酒盛りはますます盛り上がっていった。
カウラスたちとシャイン傭兵団の間にあったわずかな距離感は、今やすっかり消え去っていた。
そして、明日――
彼らは本格的に家造りへと取り掛かることになるのだった。
翌朝、シャイン傭兵団の面々はトーマスの実家の裏庭の一角に集まっていた。
トーマスの実家はそのまま残し、新たに大きな家を建てる――これが今日の仕事だ。
カウラスたちは畑仕事に向かい、家造りはシャイン傭兵団が中心となって進める。
「さて、始めるよ。」
オスカーが地面に膝をつき、地面に指で図を描き始めた。
「この家は実家の約三倍の広さにするから。部屋数は八つ。入口は二つ、中央に広間を作って、そこから各部屋へ繋がる作りにするよ。」
皆が興味深そうに覗き込む。
オスカーたちは何度も家を建てたことがあるため、作業は手際がいい。
彼の頭の中には、すでに完成図ができあがっていた。
「図面はこんな感じだね。」
地面に描かれた線が、次第に家の形を成していく。
「ふむ……入口が二つか。」
ロイドが図面を見つめながら頷く。
「中央の広間は広めにとる。こうすれば、大人数でも問題なく集まれるし、通路としての機能も果たす。左右に四部屋ずつ配置し、奥には倉庫を作るよ。」
「へえ、考えられてるな。」
ジトーが腕を組む。
「水回りは?」
「井戸が近くにあるから、そこを利用する形にするつもりだよ。必要なら雨水を溜める仕組みも作る。」
「なるほど。」
オスカーの説明に皆が納得する。
「まずは整地から始めよう。」
シマが鍬を持ち、地面を均し始める。
「おう、手早くやるぞ!」
ジトー、クリフ、ザック、ロイドがスコップを手に取り、不要な石や根を取り除いていく。
「でっけえ石があるな。」
ザックが埋まっている石を見つけ、ジトーと二人がかりで引き抜く。
「どけるぞ、せーの……っ!」
ゴロッと石が転がり、穴ができる。
「埋め戻すぞ。」
シマが土を流し込み、鍬で均していく。
フレッドとクリフは、地面を踏み固めながら均していった。
「端の方、まだ少し高いな。」
「了解。」
メグとミーナが鍬を持ち、細かい調整を始める。
こうして、約2時間かけて整地作業を完了させた。
「次は土台だね。」
オスカーが指示を出し、切り出した木材を運び始める。
「木材をこの順で並べる。梁を組んで、枠組みを作る。」
「ほう、こんな感じかな?」
ロイドが木材を並べ、オスカーが微調整する。
「少しずらして。…そう、そこだね。」
「なるほど、ピッタリ合うな。」
フレッドが関心したように言う。
「何度もやってるからね。」
オスカーは笑いながら、木材の位置を微調整していく。
「じゃあ、釘を打つぞ。」
ジトーが大きな金槌を手に取り、木材をしっかり固定していく。
ドンッ!ドンッ!
大きな音が響き、梁がしっかりと組まれていく。
「お、いい感じじゃねえか。」
「この調子でいくよ。」
土台が完成すると、次は柱を立てる作業に入る。
「柱を立てるよ。」
オスカーが柱の位置を示し、ジトーとロイドが柱を運ぶ。
「こいつをしっかり固定するのが大事だよ。少しでも傾くと、家全体が歪むから。」
クリフが補助に入り、柱を支える。
「いくぞ!」
ジトーが掛け声をかける。
「せーのっ!」
ロイドとジトーが柱を立て、シマとフレッドが根元を固める。
「少し右に傾いてる!」
「了解、修正する!」
調整しながら、柱がまっすぐになるように慎重に作業を進めた。
こうして、家の骨組みが少しずつ出来上がっていった。
「順調だな。」
シマが汗を拭いながら言う。
「まあね。でも、ここからが本番だよ。」
オスカーが微笑む。
「壁の組み上げ、屋根の設置……まだまだやることは山ほどあるからね。」
「昼飯の時間だ。休憩しよう。」
ロイドの言葉に皆が頷き、一旦休憩を取ることにした。
こうして、新しい家の建設は着々と進んでいった。




