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光を求めて  作者: kotupon


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揶揄われる

ノエルと母親のマーサが部屋に戻ると言って席を立った後、アンとイライザはトーマスに話があると言って引き止める。



トーマスがノエルと同じ部屋で寝ると知ったときの、あの慌てっぷり。

アンとイライザはトーマスの挙動不審な様子をじっと観察していた。


 何かおかしい。

 口では「わ、わかったよ」と言いつつも、 顔は赤いわ、目は泳ぐわ、やたらそわそわしているわで落ち着きがない。

 まるで 獲物を目の前にした猫のように、トーマスの挙動をじっくりと分析する二人。

 そして、ふと 視線を交わす。


 —— ピンときた。

 (あー、コイツ、間違いなく童貞だわ)

 (うん、間違いないわね)


 今まで、トーマスの話をノエルから聞かされて、 「すごい男になった」と感心していたのに、こんな可愛いところが残っていたとは。


 急に トーマスが身近に感じられる。

 そして からかいたくなるのが義姉の本能 というもの。


 —— 仕掛けるしかない!

「……ねえ、アン」


「なあに、イライザ?」

 わざとらしくヒソヒソ話をする二人。


 トーマスの耳には しっかりと聞こえている。

「なんかさ……トーマス、顔赤くない?」


「うん、真っ赤ね。まるで初めての夜を迎える新妻みたいな顔 してるわ」


「え、ちょっと待て!? なんの話だよ!」

 トーマスが 慌てて抗議するが、二人の攻撃は止まらない。


「ねえ、イライザ……もしかしてトーマスって、そういう経験がないんじゃない?」


「ええ、たぶんね。なんか昔と変わらず純情そうだし」


「ふ、ふざけんな! そんなこと——」


「え? ないの? あるの? どっち?」


「えっと……それは……」

 —— 黙るトーマス。


 そして確信を得たアンとイライザ。

 ここぞとばかりに 攻勢を強める。


「トーマス、まさかノエルと一緒の部屋になって どうしていいかわからないんじゃないの?」


「ええ〜、こんなにたくましくなったのに、そこはまだお子ちゃまなのね?」


「うっ……!」

 トーマスは 完全に押され気味。

 顔は さらに赤くなり、耳まで真っ赤。


 すると、追い打ちをかけるように アンが腕を組んで考えるふりをする。

「ねえイライザ、どうする? このままじゃ ノエルが困っちゃうかも しれないわよ?」


「そうねえ、じゃあ……私たちが特別にアドバイスしてあげようかしら?」


「アドバイス!? い、いらねえよ! なんでお前らにそんなこと教わらなきゃならねえんだ!」

 この場から逃げ出したいトーマス。


 だが アンとイライザは満面の笑みで追撃の準備をしている。

「いやあ、弟の初夜を応援するのも姉の役目ってもんよ!」


「そうよね〜、私たちが優しく教えてあげないと!」


「お前らいい加減にしろ!!」

 完全にからかわれたトーマスは、耳まで真っ赤にしながら席を立った。


 だが、逃げるように宿の奥へ向かうその姿を見て—— アンとイライザは大爆笑するのだった。



213号室の扉を閉める音が、静かに響いた。

部屋の中は、ほんのりと温かい空気に包まれている。

ノエルは窓辺に寄りかかり、柔らかな灯火に照らされながらトーマスを見つめていた。


「遅かったわね。お義姉さんたちと何を話してたの?」


「……あいつらにからかわれてた。」


正直にそう答えたトーマスに、ノエルはくすくすと笑う。


「ふふっ、そうなのね。」

彼女の笑顔が、やさしく夜を彩る。


「ねえ、トーマス……私のことを守ってくれるのよね?」

まるで確かめるように、彼女はそっと問いかける。


トーマスはノエルの瞳を真っ直ぐに見つめ、力強く言った。

「……ああ。何があろうとも、お前だけは守る。命に代えても。」

その言葉はまっすぐで、揺るぎなかった。まるで誓いのように、夜の静寂に溶けていく。


ノエルの頬が、そっと紅く染まる。

「トーマス……」

名前を呼ぶ声が震えていた。


トーマスは自然と彼女の肩に手を伸ばす。

ノエルもまた、そっと彼の胸に手を添えた。

二人の距離がゆっくりと縮まり、互いの息遣いを感じるほどに近づいていく。


静かに、唇が触れ合った。

最初はぎこちなく、それでもお互いを確かめるように、何度も優しく触れる。


ノエルの温もりを感じながら、トーマスはそっと彼女の身体を抱き上げた。

そのまま、月の光が差し込むベッドへとゆっくり歩く。


ベッドの上にそっと横たえられたノエルは、まるで繊細な硝子細工のように美しかった。


「……怖くないか?」


トーマスの問いかけに、ノエルは静かに首を振る。


「怖くなんてないわ……あなたが一緒なら。」

彼の手が、彼女の頬をなぞる。


「……大好きよ、トーマス。」


「俺も……ノエル。」


そっと指を絡め、もう一度唇を重ねる。

お互いを傷つけぬよう、壊れ物を扱うかのように慎重に、優しく。

温かな夜は、静かに更けていった。



翌朝、トーマスが食堂へ降りると、すでにアンとイライザが待っていた。

二人は朝の光を背に受けながら、ニヤニヤと笑っている。

その視線はどう考えても意味深だった。


「おはよう、トーマス。」

イライザが妙に含みのある声で挨拶をする。


「おう、おはようさん。」

トーマスは動じることなく、いつも通りの調子で返した。

その顔には何の感情も浮かんでいない。


「……ねえ、ちょっと反応薄すぎない?」


「ほんとよ、せっかくいろいろ揶揄ってやろうと思ってたのに。」

アンとイライザは顔を見合わせ、つまらなさそうに肩をすくめる。


「馬鹿なこと言ってねえで、今日は買い出しに行くぞ。」

トーマスは話を打ち切るように言い放つ。


二人はちょっと悔しそうな顔をしながらも、すぐに気を取り直した。

1階の酒場で朝食をとることにした。

テーブルにはパン、スープ、卵料理、簡単な肉料理が並ぶ。子供たちはすでに元気いっぱいで、昨日買ったおもちゃを大事そうに抱えていた。


「おじちゃん、見て!これ、すごいでしょ!」


ウエンスが布でできたぬいぐるみを掲げて見せる。

ミライも「私のも!」とばかりにカラフルなビーズのブレスレット を前に差し出した。


「おお、いいじゃねえか。」

トーマスは適当に相槌を打ちながら、パンをちぎって口に放り込む。


その横ではアンとイライザが「そんなに見せびらかしたら食べられないわよ」と笑っていた。


食事を終えると、皆で市場へ向かう。今日は必要なものをそろえるため、大量の買い物が必要だった。

最初に訪れたのは道具屋だった。ここでは、生活に必要な品々をそろえることになっていた。


「とりあえず、大きな袋を10枚。それから、調理器具、食器類……」

ノエルが買い物リストを手にしながら、店主に注文していく。


その横でトーマスは、すでにいくつかの袋を抱え込んでいた。

「なあ、こんなにいるのか?」


「いるのよ。」

ノエルの即答に、トーマスは肩をすくめるしかなかった。


子供たちは店の中を興味津々に見て回っていた。

エバンスが「この鍋、大きいね!」と驚いた声を上げると、マーサが「これなら、たくさん料理が作れるわね」と微笑んだ。


次に向かったのは古着屋だった。

ここで服や布を購入するのだが、買い物は予想以上に長引いた。


「これなんかどうかしら?」


「うーん、もう少し落ち着いた色の方がいいんじゃない?」


「あら、こっちは?」


マーサ、アン、イライザ、ノエルの四人は、次々と服を広げては吟味し、また戻し、試し、そしてまた選ぶ。


トーマスは荷物を抱えながら、ため息をついた。

(……なげえな。)

心の中でそう思いながらも、文句は言わない。

女性たちが楽しそうにしているのを見れば、邪魔をする気にはならなかった。


「ほら、エバンス、ちょっと来て。」


「え?なに?」


「これ、当ててみて。」


エバンスの肩に服をあてがうと、イライザが「まあ、似合うじゃない!」と嬉しそうに言った。


「ウエンスはこっちがいいんじゃない?」


「ほんと?かっこいい?」


「ええ、とてもね。」


そんな風にして、子供たちも巻き込まれながら、買い物は続いていく。


「おじちゃん、遊ぼう!」

買い物に飽きてきた子供たちは、次第にトーマスにまとわりつくようになった。

彼は両手がふさがっているため、どうすることもできない。


「お、おい……遊び相手は荷物持ちの仕事に入ってねえぞ。」


「でも、おじちゃん強いんでしょ?」


「えい!えい!」「やあ!とう!」

ウエンスとエバンスが小さな拳を振り上げて、トーマスの足をぽかぽか叩く。


「おっ、やるか?」


「えっ!?やらない!」

トーマスがにやりと笑うと、ウエンスとエバンスは慌てて後ずさった。

そんなことを何回も繰り返す。

結局、買い物が終わるまでの間、トーマスは子供たちの相手をしながら荷物を運び続けることになった。


「……長かったな。」

ようやく買い物を終え、すべての荷物を抱えながらトーマスはぽつりと呟く。


「何か言った?」

ノエルが振り返る。


「いや……なんでもねえ。」

トーマスは苦笑しながら、皆とともに帰路についた。


市場での長い買い物を終えたトーマスたちは、一旦宿の脇にある馬車停留所へ向かい、買った荷物を積み込んだ。


「まだ足りねえな。」

トーマスは荷台に詰め込まれた荷物を見ながら呟く。

鍋や食器、布、衣服などは揃ったが、食糧や建築用の道具がまだ不足している。


「昼飯は買い食いでもしながら、残りの買い物を済ませるか。」


「大広場の方でも何かやってるかもね。」

ノエルが付け加える。


確かに市場の向こう、大広場の方向からはにぎやかな音が聞こえてきていた。

「ついでに教会にも顔を出すか。」



再び市場を歩きながら、小麦粉、干し肉、塩、胡椒、砂糖その他の調味料を買いそろえた。


「釘も足りねえかもな。」

ふと、トーマスは思い出したように呟いた。

「母ちゃん、家に鋸ってあったか?」


トーマスの問いかけに、マーサは少し考え込んでから答えた。


「あることはあるけど……。」


「ボロボロか?」


「そうね。長いこと使ってなかったから。」


「なら、新しいのを買うか。」


鋸やノミ、小刀、針金、ハンマーなど、木工に必要な道具を一式揃えることにした。


「……トーマス、本気で家を造るつもり?」

不安げに聞くアン。


「どこから木材を調達するつもりよ?」

イライザも怪訝そうな表情を浮かべた。


「…そうね、普通は大きな商隊が運んでくるものよね。」

マーサの言葉には、それなりの経験に基づいた現実的な疑問が込められていた。


しかし、その会話を聞いていたエバンスが目を輝かせて声を上げた。

「おじちゃん、家を造ってくれるの!?」


「おっきいおうちがいい!」

アニーも嬉しそうに言う。

大人たちの不安をよそに、子供たちは純粋に喜んでいるようだった。


「問題ねえんじゃねえか?」

トーマスはノエルに視線を向ける。


彼女は穏やかに微笑み、頷いた。

「ええ、そうね。シマに……みんなに任せておけば大丈夫ですよ。」

ノエルの言葉には確信があった。シャイン傭兵団なら、木材の確保から運搬まで、何とかしてしまうだろう。


マーサ、アン、イライザは首を傾げたまま、まだ納得しきれていない様子だったが、トーマスの自信に押され、ひとまず話はそこで終わった。


買い物を終えた一行は、市場の屋台で買い食いをすることにした。


「ほら、これうまそうだぞ。」

トーマスは焼きたての串焼き肉を手に取った。

香ばしい匂いが食欲をそそる。

子供たちはそれぞれ果物の蜜漬けや焼き菓子を持ち、楽しそうに頬張っている。


「んー!おいしい!」


ミライが嬉しそうに笑うと、エバンスも元気よく頷いた。


「お、あっちで大道芸やってるぞ。」


人だかりの向こうでは、剣を使ったジャグリングや、火吹き芸などが披露されていた。


「ねえ、トーマス、音楽も聴いていきましょう?」

ノエルが指さした先では、楽団が軽やかな演奏を奏でていた。

バイオリンに似た弦楽器、フルートのような管楽器、そして打楽器が合わさり、にぎやかな旋律を生み出していた。


「おう、少し聴いていくか。」


皆でしばらく音楽を楽しみ、気が済んだところで教会へ向かうことにした。



町の教会に入ると、シスターが静かに迎えてくれた。

「先日ぶりですね。」


「少しばかりだが、寄付をさせてもらう。」


トーマスは持っていた2銀貨をそっと寄付箱に入れた。

大金ではないが、教会の孤児たちには少しでも助けになるはずだ。


「ありがとうございます。いつも助かります。」

シスターが深々と頭を下げる。


ふと周りを見渡すと、教会にいた子供たちが、じっとトーマスを見つめていた。

「お、おい。なんだよ?」


「おっきい……!」


「すごく強そう!」


「剣士なの?」


子供たちが次々に話しかけてくる。

どうやら彼らはトーマスの大きな体格にすっかり惹かれてしまったらしい。


「おいおい、俺はただの荷物持ちだぞ?」

苦笑しながら答えるが、子供たちは信じていない様子だった。

ノエルやマーサ、アン、イライザはそんな様子を見て、くすくすと笑っていた。


「ねえねえ、おじちゃん、剣の振り方教えて!」


「……ああ、今度な。」

子供たちに囲まれながら、トーマスは適当に約束を交わし、教会を後にした。



「明日にはリュカ村に向かうぞ。」

トーマスがそう言う。


マーサが再度、確認するように聞く。

「…本当に、家を造るつもりなの?」


「ああ。もう決めたことだ。」


「……トーマスらしいわね。」

マーサはため息混じりに笑い、頷いた。

アンとイライザも呆れたようにしながらも、どこか期待しているようだった。


「楽しみだね、おじちゃん!」


子供たちがはしゃぐ中、トーマスは静かに空を見上げた。

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