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光を求めて  作者: kotupon


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100/448

次期領主として

リーガム街の西門を出て500メートルほど進んだ街道脇。

そこには領軍の兵士たちが、左右の茂みに身を潜めながらじっと息を潜めていた。

総勢100名――左右に50名ずつ。


この包囲網の指揮を執っているのは、領軍副団長ギーヴ・コーエン。

朝早くからこの場に布陣していたため、兵たちの表情には疲労の色が見える。

通り過ぎる商隊のたびに緊張が走る。

大小様々な商隊がリーガム街を目指し進む中、誰もが息を詰めるような時間が続いた。


昼を過ぎた頃、じっと監視を続けていたシマとクリフの目が動く。


「……来た。」

シマが小さく呟く。


その言葉と同時に、クリフも同じ方向を指差した。

「あいつらだ。間違いねえ。」


シマはすぐに赤い旗を振り、領軍に知らせる。

潜んでいた兵たちがわずかに動き、包囲の網がじりじりと狭められていく。


シマの隣にいたマリウス、マニー・シモンズ、クリヤー・シャハリも目を凝らす。


「どこにいるんだ? 全く見えないぞ。」

マリウスが呟く。

「あれかな?」


「あれでしょうか?」


「いや、よくわからん……。」


マリウス、マニー、クリヤーは何度も瞬きをしながら、遠くに見える隊列を確認しようとするが、まだ豆粒のようにしか見えない。


対して、シャイン傭兵団の面々には、すでに護衛たちの一挙手一投足まではっきりと見えていた。


「なんだありゃあ……。」

ジトーが呆れたように呟く。


「確かにシマが言う通り、規律も何もあったもんじゃないわね。」

サーシャが眉をひそめる。


「ひどいわね……。」

リズが溜め息混じりに言う。


トウアク商隊は統率が取れておらず、護衛たちの動きもバラバラだ。

荷馬車の並びも乱れており、傭兵たちの警戒心のなさが目に見えてわかる。


そんな彼らを取り囲むように、領軍の包囲がじりじりと狭まっていく。

そして、商隊の後方を完全に遮断したところで――ギーヴ・コーエンが隊列の前に進み出る。


先頭の馬車の前に立ちはだかると、馬の足が止まった。

御者の横に座っていた豪奢な服を着た男が、何かをわめいている。

しかし、さすがに500メートルも離れていれば、シマたちにも何を言っているのかはわからない。

その男は懐から書類を取り出し、何かを主張している様子だ。


「おっ!あの副団長、ぶん殴ったぞ。」

クリフが目を見開く。


「……周りの兵士が一斉に動き始めたわ。」

ケイトが続く。


「あら? 後ろに逃げ出そうとした人がいるわね。」

サーシャが指差した。


「アホだね、すでに遮断されているのに。」

ロイドが冷静に言い放つ。


「剣を抜いたわ。」

エイラが言う。


「一人……二人、切ったわね。」

ノエルが鋭い目で戦況を観察する。


「あっ、降参してるわ。」

メグが呟く。


「あれでよく傭兵団を名乗ってられるな。」

呆れたように言うフレッド。


「あっけねえな。」

ザックが肩をすくめる。


「終わったみたいだね。」

オスカーが静かに結論を下した。


マニー・シモンズ、クリヤー・シャハリは、シマたちの冷静な観察に目を丸くする。


(……彼らは何者だ?!)


(この距離であっても、はっきりと細かい動きまで見えているのか?!)


マニー・シモンズがぎこちなく振り向き、シマに尋ねる。

「うち(軍)に……け、怪我人はいるか?」


シマは戦場を見渡すようにしてから答える。

「大きな怪我をした者はいないようだ。」


「そうか……。」

マニー・シモンズは胸をなでおろした。

空は澄み渡り、静けさが戻りつつあった。



トウアク商隊の捕縛が完了すると、次期領主マリウス・ホルダーはすぐさま指示を出した。

「これより簡易裁判を行う。街中に触れを出せ。」


領軍の伝令兵たちはすぐに駆け出し、街の各所で布告を始める。

「これより、西門広場にて違法奴隷売買に関する裁きを行う!

次期領主マリウス・ホルダー様、自ら判決を下す!」


通りを行き交う人々が足を止め、驚きの声を上げる。


「裁判を? しかも次期領主様が直々に?」


「違法奴隷売買の裁き……?」


街中に情報が広がり、すでに人々の関心は西門広場へと向かい始めていた。


伝令兵が駆け出したのを見届けたマリウスは、ギーヴ・コーエンを含む周囲の者たちを見渡し、はっきりとした口調で続けた。

「この裁きは、リーガム街の内外に示すためのものだ。私は次期領主として、違法奴隷売買を決して許さないし、これからもさせない。この街は、奴隷商たちの思うままにされる場所ではない。」


その言葉に、領軍の兵士たちは一斉に頷く。


「厳しい沙汰を下す。私は甘くない。舐められるわけにはいかない。判決は私が出す。」

静かに、しかし強い意志を持った宣言だった。


西門広場へと向かう人々の流れが、次第に大きくなっていく。

この日、リーガム街は大きな転換点を迎えようとしていた。


簡易裁判の準備が進む中、マリウス・ホルダーの元に商人組合代表のカレマル・イガナが近寄ってきた。白髪交じりの髪をなでつけながら、低い声で報告する。

「マリウス様、トウアクがこの街で雇う予定であった傭兵団の名前が判明しました。『強者つわもの傭兵団』というそうです。」


マリウスは眉をひそめた。

「強者傭兵団? 初めて聞く名だな。」


カレマルは頷きながら、人混みの向こうを指差した。

「あの一角におりますぞ。」


マリウスが視線を向けると、西門広場の外れに粗末なテントがいくつか並んでいるのが見えた。

そこに何人かの傭兵の姿があった。


「…怪我をしていないか?」

マリウスは疑問を口にする。


彼の視線の先にいた「強者」傭兵団の者たちは、痛々しい姿をしていた。

・足を引きずって歩く者

・腕に添え木をし、包帯を巻いている者

・額に青あざを作り、うずくまっている者


とても戦える状態とは思えない。


「…どういうことだ?」

マリウスが訝しむと、カレマルが苦笑しながら答えた。


「何でも二、三日前にここで乱闘騒ぎがあったらしいのです。」


「乱闘? 傭兵団同士の?」


「いえ、話によると二人組だったそうです。」


「二人? 傭兵団を相手に?」

マリウスの驚きに、カレマルは肩をすくめた。


「ええ、一人は大男で、もう一人は体格もそこそこよく…イケメンだったとのことです。」


その瞬間、マリウスは「ハッ」と思い当たる節があった。

「……僕、なんだか心当たりがあるんだけど。気のせいかな?」


カレマル・イガナも腕を組みながら頷いた。

「……私も見かけたことがあるような気がしますね。」


二人の間に沈黙が流れる。


しかし、隣で聞いていたシマが怪訝な顔をして言った。

「ん? 俺じゃねえぞ?」


「……じゃあ誰だい?」


シマは少し考えてから、はたと気づいたように笑いながら答えた。

「……あぁ、たぶんザックとフレッドじゃねえか。」


「……え?」


シマの言葉に、マリウスやアンソニーは目を丸くした。


「ザックとフレッド? あの二人が、傭兵団相手に乱闘を?」


「……あいつらなら、やりかねねえな。」

ジトーが呆れたように腕を組むと、サーシャやメグ、リズたちも「ああ……」と納得した表情を浮かべた。


「……おいおい、僕たちは君らに活躍されると面目が立たないと言ったばかりなのに……!」

マリウスは頭を抱えた。


結局、シマたちは何もしなくても、この街で存在感を発揮してしまうのだった。


「……あの二人、やりすぎじゃないか?」


「さあ、どうでしょうね。」

カレマルは苦笑いしながら言った。


マリウスは深いため息をつくと、再び傭兵団のほうに目を向けた。

(この状態じゃ、トウアクが雇う予定だった傭兵団は戦力にならないな…。ある意味、シマたちのおかげで、奴らの勢力が削がれたと言えるかもしれない。)


「さて……どうするか。」

次期領主として、この事実をどう扱うか考えながら、マリウスは西門広場へと歩を進めた。


リーガム街の西門広場には、多くの住民が詰めかけていた。

領軍によって囲まれた裁判の場は、ただならぬ緊張感に包まれている。


中央には、違法な奴隷売買に関与した商人トウアクと、その部下29名が並ばされていた。

彼らは縄で縛られ、周囲には鋭い眼光を光らせる領軍の兵士たちが控えている。


広場の正面には次期領主マリウス・ホルダーが立ち、その横には、側近の三人、領軍団長マニー・シモンズ、副団長ギーヴ・コーエン、領憲兵司令官クリヤー・シャハリ、カレマル・イガナ(商人組合代表)が並んでいた。


「では、これより簡易裁判を執り行う。」

マリウスの厳粛な声が響き渡ると、ざわついていた広場は静まり返った。


「トウアク、お前は違法な奴隷売買を行い、この街で商売をしていたことが判明した。」


「馬鹿な! そんな証拠がどこにある!?」

トウアクは声を荒げたが、すぐにカレマル・イガナが商人組合の記録を取り出し、明確な証拠を提示した。


「……これが、お前が売買を行った記録だ。」


「ぐ……!」

トウアクは顔を引きつらせた。


マリウスは冷徹な視線を向け、続ける。

「背後関係を詳しく調べる必要があるため、財産没収の上、お前の身柄はブランゲル侯爵家に預ける。」


「なに……!? ふざけるな! 私に何かあったら王家が、スニアス侯爵家が黙っていないぞ!」

トウアクが叫ぶと、観衆の中からどよめきが起こる。


しかし――「うるさい。」

ゴンッ!!

ギーヴ・コーエンが拳を振り抜いた。


トウアクの顔が横に跳ね、地面に崩れ落ちる。

口の中を切ったのか、トウアクは血を吐きながら震えていた。


「貴様の身の安全など知らん。裁きに従え。」

ギーヴの冷徹な言葉に、広場の群衆はどっと沸いた。


「さて、次は……」

マリウスは無表情のまま、トウアクの部下たちを見下ろした。


「お前たち29名も、違法な奴隷売買に関与した罪は重い。終身刑を科す。」


「なっ……!? そ、そんな!」


「異議は認めない。」


兵士たちが動き、29名は即座に連行された。

彼らはもがき叫んだが、誰も同情する者はいなかった。


次にマリウスは、改めてトウアクを見下ろし、冷たく問いかけた。

「お前はこの街で傭兵を雇う予定だったそうだな。その傭兵団の名は?」


トウアクは一瞬迷ったが、ギーヴがじろりと睨むと、慌てて答えた。

「……『強者』傭兵団だ。」


この言葉を合図に、兵士たちが動いた。

広場の外れにいた「強者」傭兵団が、縄で縛られて引きずり出される。


「さて……」

マリウスは腕を組み、彼らを見下ろした。

「お前たちは、違法な奴隷売買と関わる者に雇われようとしていた。その事実を知っていたか?」


「ひ、知らなひゃった!」

縛られた傭兵団の団長、ゲヒジャモが必死に訴えた。


彼の顔は包帯だらけで、口を開けば歯が何本も折れているのがわかる。

周囲の傭兵たちも、ほとんどが怪我を負っていた。


(…彼らの仕業だな)

マリウスは内心でため息をつく。


「知らなかった、か。」


「……ほんろうら、ひんじてくれ!」


「おいしい仕事があると言って、勧誘していたそうだな。おいしい仕事とは何のことだ。」


「ぐ……!」

ゲヒジャモは押し黙る。


「…答えられないか、『強者』傭兵団には3年間の強制労働を科す。その間、お前たちの身分は奴隷となる。」


「――なっ!!?」

傭兵たちは絶望した表情で地面に崩れ落ちる。


マリウスが兵士たちに合図を送ると、「強者」傭兵団もまた、縛られたまま連行されていった。


すべての判決が下されると、マリウスは群衆に向かって言い放った。

「このリーガム街において、違法な奴隷売買は決して許さない。今回の裁きは、我がホルダー男爵家がこの地を守るという意思の表れだ。二度と、このような犯罪が行われぬよう、皆も監視を怠らぬように。」


群衆は一瞬静まり――「マリウス様!」「次期領主様!」「万歳!」

歓声が上がった。

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