紀州のドンファン殺人事件を推理する、その6(2021年12月14日・記)
久々にドンファンニュースが茶の間に入った。遺言書の筆跡が異なるとしてプロの鑑定士が3通の鑑定書を出したと言う取材内容である。2021年12月14日のバイキングで見た。少しネットで確認して、作家の立場で所見を述べたい。
某弁護士のコメントでは、この鑑定書は裁判の申し立て側の私文書に過ぎない。私も同意します。しかし、事件を論評するものではない。全体としてテレビもネットニュースもドンファンの元妻犯人説のままであり、4人の遺族の味方である。つまり「全財産は田辺市に寄付する」遺言書は偽物である説に反対しない。結果的に遺言書は偽物説に同調せざるを得ない。こんな言い方をすれば私は敵を作る事になる。しかし、私の作家気質が動き出すのである。
私は筆跡鑑定は全くの素人であるが、私の経験からもサインは難しい。鑑定が難しいと言うより、同じサインが出来ないのだ。欧米と違って日本にはサイン文化はない。私は社会に出て貿易英語に接し、サインを始めたが毎回違うサインになってしまった。アメリカの大統領がサインするのを見ていつも見とれているのである。
それはともかく、鑑定書は違う字体を探して羅列している。これに対して似た字体を羅列して反論する者がいない。田辺市役所は15億円近くを受け取る立場であるが、争う責任者がいない。元妻は遺留分として半分受け取る権利を持っているが、殺人犯の汚名を着せられ拘置所にいる。勿論遺言書の作成者は死んでいる。全くの不在者裁判になっている。
遺族が遺言書は「偽物」であると主張する理由に筆跡が本人のものではないの他、愛犬イブちゃんへの言及がない事や、そもそも全額を田辺市に寄付する動機が見当たらないことを挙げている。なぜ、裁判の訴状の中に犬が登場するのだ?しかし、ここにこそ謎を解くカギがある。動機が見当たらないどころか、動機が見え見えなのである。
幸助はイブを溺愛していた。元妻の前妻が飼っていた犬だ。兄には「イブに相続する」と語っていた。それは兄達には遺産は渡さないと言う意思表示だったのだ。死期が来る前に妻を迎えたのも同じ理由だ。しかし妻に相続しても、未だ兄達に遺留分が渡る。幸助はそれが嫌で田辺市へ寄付する遺言を書いたのだ。親族の間でどんな対立が有ったのかは分からないが、怨念が増幅して行ったのは容易に想像できる。むしろ、他の考え方ではつじつまが合わないのだ。
再度、遺言書に戻ろう。遺言書は朱色で書かれている。怒りが頂点に達した時に書かれているのだ。キフするとカタカナを使っている。落ち着いて漢字を確認して書く心の余裕もなかったのだ。兄達には絶対に遺産を渡さないと言う強い意志が読み取れます。当然平静時のサインとか、いつもと同じサインをとか考える状態ではなかった。筆跡鑑定をするなら、同じ心境の下で書かれたものと比べる必要が有る。尚、社員が代筆をした説は不自然である。心乱して乱筆で、朱色で書くように依頼する代筆は有得ない。又、平静ならもっと丁寧に、キフは寄付と書くに違いない。
この稿の終わりに、幸助の気持ちを代弁する。
「早貴ちゃん、短い間だったが有難う。いろいろ世話になった。相続の内紛に付き合わせてごめんね。私も未だ判らないのが、犬が死んだ事だ。警察が早貴ちゃんを逮捕する事も予想外だった。許してくれ。出来れば遺産を相続してほしいと思っている」