5 お許し下さい、ご主人様
約束したその日、しのぶは現れなかった。指定した駅前の喫茶店で、30分待った。
(来てくれ)と祈った。何本目かの煙草を揉み消したあと席を立った。期待した自分が哀れだった。
(本物のマゾなんているわけないよな。まあ、少しの間でも夢を見られたんだから、良しとするか)
黄昏始めた街を、隆志は肩を窄めて歩き出した。
どうして来なかったのかと、何度もメールしようとしたが、隆志のプライドが許さなかった。忘れようと決めた。
こういうのを自棄酒というのか。酔っぱらって自宅に戻り、布団に潜り込んだ。真夜中に喉が渇いて目醒めた。冷たい水に心も冷えた。ふと、スマホにメールが来ているのに気づいた。
しのぶからだった。
「あの、今日は、ごめんなさい。どうしても怖くて、行けませんでした」
着信は何本も続いていた。
「あの、怒っていらっしゃいますか?」
「あの、許しては頂けませんか?」
「もう、お返事も頂けないのですね」
それが最後のメール、今から2時間も前だった。
慌てて返信した。
「怒ってるに決まってるじゃないか。勝手にすっぽかしておいて。30分も待ったんだぞ」
もう、深夜だ。返事は期待していなかった。が、すぐに返信が来た。
「ご主人様。ようやくお返事頂けたのですね。もう、メールもして頂けないかと思ってました。あの、勝手にすっぽかしてごめんなさい。喫茶店の前まで行ったんです。でも、急に怖くなってしまって」
「ずいぶん待たされたよ。で、今さらなんなの?」
しのぶが後悔していることは嫌というほど分かった。ここは強気に出たほうがいい、と思った。
「ああ、ごめんなさい。許してください。謝りますから、もう一度お会いして頂けませんか」
「ほんとに、会いたいの」
「はい、今日、あれからずっと考えてました。やっぱり、しのぶにはご主人様が必要だって……」
「そこまで言うんだったら考えてもいいけど、まずはすっぽかした罰だ。お仕置きされる覚悟はいいの?」
「はい、何でもお命じ下さい」
「じゃあ、今直ぐ全裸になって、乳首にクリップを挟め。10分我慢しろ。それからご主人様、お許し下さいと言いながら、クリトリス輪ゴム責めだ。10発だ、ちゃんとやってるかどうか、動画を撮ってすぐに送ってこい!」
「ああ、辛いです。でもやります、それでご主人様に許して頂けるなら」
ほんとにやるとは思わなかった。
「ご主人様、お許し下さい。ご主人様、お許し下さい……」
うわ言のように許しを乞いながら、しのぶは自分を責め続けた。
乳首のクリップ責めは、普段は1分と持たない。クリの輪ゴム責めもいつもは5回が限度だった。
無理を承知で命令したことを、しのぶは健気にもやり遂げたのだ。
「ウゥー……ヒイー……」
スマホから聞こえるしのぶの呻き声は本物だった。1回輪ゴムで打つごとにクリトリスを5回撫で回させた。
「いきそうです、いってもいいですか?」
お仕置きされながらしのぶは興奮していた。「絶対だめだ。かってにいったら、輪ゴム10回追加だ」
「ああ、ご主人様、辛いです……」
画面の向こうから、しのぶの啼声がいつまでも続いていた。